現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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第179話から第181話

第179話

 

 

 レコンキスタの乱……

 

 後に人々がそう呼んだ、ロマリア司教オリヴァー・クロムウェルを盟主とした武装集団は壊滅した。

 盟主オリヴァー・クロムウェルには、ロマリアからブリミル教の司教ゆえ、此方で処罰をすると言う虫の良い問い合わせが来た様だが、アルビオン王党派はキッパリと断った。

 オリヴァー・クロムウェルは、始祖の血を引く王家に刃向かった罪人として処理された……

 

 アルビオン大陸でのブリミル教は地に落ちたと同義語だ。

 

 数少ない良心的な聖職者を除き、不正腐敗の認められた連中は捕縛されていく。

 僕はプリンセス・イザベラ号の甲板で沈みゆく夕日を眺めている……やっと終わった。後はジョゼフ王と対面するだけだ。

 

 甲板に寝転び空を見上げる。周りを見ると高さを確認出来るから……僕のトラウマは高所だ。

 そして高度三千メートルに有るアルビオンから徐々に高度を下げて飛んでいるが、まだ二百メートルは有るだろうか?

 

「ツアイツ、そろそろ王都リュティスが見えてきた。ヴェルサルテイル宮殿には直接行けないから……此処からは竜籠だよ」

 

 見渡せば、大分人工的な建物が増えている。あの前方に見える城塞都市が王都リュティスか……

 

「イザベラ様が同行している事がバレない様に、途中から別行動ですか?」

 

 彼女はプチトロアに居る事になっている。僕と一緒はマズいかな。クルクルと自分の蒼い髪を弄びながら、彼女は僕を見ている。

 

「メイド達はさ、お父様から送られた人材なんだよ。王族専用の護衛を兼ねているんだ。

つまり私達の行動はお父様に筒抜けだったのさ。さっき彼女達が教えてくれたよ」

 

 彼女の後ろに控えているメイドさん達を見る、確かにそうだよね。

 

「では一緒に行きましょうか。それなら今更だ。別に隠す事もないですね」

 

 イザベラ様の手を取り立ち上がる。遂に此処まで来た。前方の白亜の王城を見詰めて……高さを確認してしまい、腰が引く。

 

「ちょツアイツ、何故立ち上がったのに又座るんだい?ほら行くよ」

 

 足腰に力を入れて再度立ち上がる。眼下に見下ろすヴェルサルテイル宮殿にジョゼフ王が居る。

 

 いよいよだ!

 

 

 

 イザベラ様に案内されながら、ヴェルサルテイル宮殿の廊下を歩く。後ろにはシェフィールドさんが、前にはメイドさん達が歩いている。

 しかし、無駄にデカい廊下だ……コレだけの大理石を積み上げるだけでも大変だ。

 

 そして前方に高さ6メートル幅4メートルの両開きの扉が!

 

 前には衛士隊の方々が並んでいますね。イザベラ様を認めると、六人掛かりで扉を開ける……暗い廊下に光が射してくる。

 

 目が慣れると、巨大なホールが!

 

 扉から30メートル以上離れた場所に王座が見える。遂にジョゼフ王と対面だ!

 

「ツアイツ、惚けてないで行くよ」

 

 彼女が背中を叩いてくれる。前に一歩、部屋の中に入ると一斉に近衛兵士やら侍従やらが此方を見る。

 ここはやせ我慢でも前を向いて真っ直ぐ歩く。不機嫌そうに王座に片方の肘を付いていたジョゼフ王だが、僕を見詰めるとニヤリと笑う。

 

「これはこれは、巷で噂の巨乳派の教祖殿ではないか?歓迎するぞ、ツアイツよ。

よくぞ我が試練を乗り越えたな!しかし、シェフィールドとイザベラを籠絡するとは、俺の味方が誰もいないではないか?」

 

 そう言って豪快に笑う。まだ礼もとってないのに型破りなのは本当なんだな。ジョゼフ王の前に跪いて礼節に則った貴族的挨拶をする。

 

「お初にお目にかかります。

ゲルマニア貴族、サムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです。お見知りおきを……それと恐れながら、彼女達のジョゼフ王を思う気持ちは本物かと存じます」

 

 そう言って顔を上げる。

 

「そうかそうか!レコンキスタの討伐ご苦労だったな。謀略だけの男かと思えば、最終決戦では自らが一万の敵を倒すとはな。恐るべき使い手よの」

 

 無言で頭を下げる。

 

「さて、俺はお前と2人きりで話がしたい。ここは周りが五月蠅くて堪らん。見栄を張らねばならぬ王族ゆえ仕方ないがな。我が執務室に招待しよう」

 

 そう言うとマントを翻してさっさと歩き出す。しかし僕は見た。あのマント……

 僕が蒼髭のジェイさんに贈った、花咲き乱れるシェフィールドさんのウェディングドレスバージョンだ。

 

 愛用しているのか?イザベラ様が心配そうに此方を見ている。安心させる様に頷いてから、ジョゼフ王の後を追う。

 王座の後ろに有る扉を潜り抜け、彼の後を小走りに追いかける。

 

 意外と足が速い。流石は虚無の加速使いか?

 

 開け広げられた扉を潜ると、こじんまり……はしてないが、10メートル四方の豪奢な執務室だ。

 窓が無いのは暗殺防止か盗聴防止か……しかし魔法の灯りが煌々と点いている。

 

「まぁ座れ」

 

 此方も豪華なソファーを勧められる。座ると体が沈み込み座り心地は最高だ……しかし、咄嗟の行動は出来ないかな。

 などと考えていると、シェフィールドさんが現れ紅茶を淹れてくれた。

 

「ここは周りの五月蝿い奴らは居ない。さて、これでゆっくりと話せるな」

 

 目の前の美丈夫を見詰める。

 

「そう睨むな。俺はお前を認めているぞ。誰よりもな。このハルケギニアで異端な漢、ツアイツ。お前は本当に何者だ?」

 

 手元のカップに目を落とし、何気ない様に聞いてくる。

 

「普通より、スケベで欲張りで自分の欲望に忠実な男ですよ」

 

「ふん、正直だな。確かにその通りだから、良く自分を理解しているとしか言えんわ」

 

 がはははっと豪快に笑う。そんなジョゼフ王を舐める様に見詰めるシェフィールドさん……想い人の前で、ヤンデレ化が徐々に始まっているのかな?

 

「ジョゼフ様、僕は与えられた試練を乗り越えて此処まで来ました。先ずは言いたい事が有ります」

 

 ふと何かを考える様に視線をさ迷わせたジョゼフ王が、僕と視線を合わせる。

 

「何だ?一介の貴族でしかないお前が、俺の挑戦に勝ったんだ。望みが有るなら言ってみろ?出来る限りの事なら聞いてやる」

 

 僕は深呼吸をして落ち着いてから、ジョゼフ王に言い放った……

 

「有難う御座います!この試練を与えてくれて……」

 

「はぁ?」

 

 ああ、この顔が見たかったんだ。何を言われたか解らない、何を言っているんだコイツは?みたいな顔が……

 

 大国ガリアのジョゼフ王にこんな顔をさせたのは、僕が初めてだろう!

 

 

 

第180話

 

 

 ガリア王ジョゼフが、何を言っているんだお前?的な顔をして、向かい合ったソファーに座っている。

 その後ろには、少し驚いた顔のシェフィールドさん……窓の無い、淡い魔法の光の中で不思議な雰囲気になる。

 

「ツアイツ、俺に礼を言ってるのか?何故だ!俺はお前に大変な試練を課した。そして、これからもう一つの問題を解決させようとしている……」

 

 クッションの効いたソファーに埋まり過ぎたので、大勢を整える。両足に力を入れて、少し前傾姿勢で座り直す。

 

「ええ、ジョゼフ王にお礼を言いました。今回の試練が無ければ、出会えなかった人達が沢山居ましたから……

シェフィールドさん、イザベラ様にファンクラブの皆にカステルモール殿……竜騎士団員に両用艦隊の連中。

数え上げれば切りがない、大切な人達との関わり合いを持てたのは全てジョゼフ王のお陰です。有難う御座いました」

 

 そう言って、もう一度頭を下げる。

 

「ふっ…くっくっく、あーっはっは……そうか、俺のお陰か?しかしその面子はお前がガリアを乗っ取る布石にも思えるぞ!」

 

 確かに国を構成する要職を兼ねる連中だ……でも面倒臭いから、国の運営は遠慮したい。謀略は苦手ではないけど、陰湿なのは嫌だし。

 

「大変申し訳有りませんが、要りませんよ国なんて!自由な趣味の時間が削られるじゃないですか。

今回の件が落ち着いたら、僕は隠居……は、立場上無理ですがノンビリしたいんです。生き急ぎましたから……この数ヶ月は」

 

 そう言ってニッコリと笑いかける。

 

「くっくっく……俺を前にその台詞か?良いのか?我が娘を娶るなら、この国が付いて来るんだぞ。大国故に問題も多い。お前に平穏は無い」

 

 ジョゼフ王はニヤリと返す。暫く2人で見つめ合う。シェフィールドさんが、ワインやらおつまみセットやらを用意し始めた。

 

 グラスは4つ……はて?残りは誰だ?手際良くテーブルにセットしていくシェフィールドさんに尋ねる。

 

「4人分ですね……後1人は誰ですか?」

 

 フォークとナイフを並べている手を止めずに応えてくれる。

 

「イザベラ様の分ですよ。ツアイツ、4人でロマリアを潰す計画を練らないと……アレは要らないわ。

だって私達には都合が悪いし、向こうにとって私達は邪魔者よ。だから六千年だか何だか知らないけど、澱んだ宗教を潰すんでしょ?」

 

 微笑みながら、ハルケギニアの成り立ちに必要だった宗教の根絶を示唆した。これには、僕もジョゼフ王も苦笑いだ。

 

「我が娘を呼ぶ前に、お前に頼みたい事が有る。俺はな……」

 

 ジョゼフ王が、初めて辛らそうな表情をする。

 

「ええ……聞いていますよ、シェフィールドさんから」

 

 思わずジョゼフ王はシェフィールドさんを睨む……余り先には知られたくない話だったんだろう。

 

「最初に聞いておいて正解でした。僕はこの試練にて幾つかの出会いをしています。

薄幸なハーフエルフと、変な水の精霊……彼女達?から2つの指輪を借り入れています。

水の指輪とアンドバリの指輪……この2つと神の頭脳ミョズニトニルンの力が有って初めて成し得る治療方法を思いつきました」

 

 一瞬でジョゼフ王の雰囲気が変わる。

 

「お前、何故ミョズニトニルンを知っている?それは俺が……」

 

「虚無の使い手ですね」

 

 ジョゼフ王の言葉を被せて結果を言う。お互い睨み合う……

 

「ハルケギニアにあって、ブリミル教と虚無神話は絶大だ!

特に魔法が苦手と言われる俺が伝説の虚無……蔑んでいた対象が彼らの信仰の原初の力。失われた神の力だとよ。笑わせるわ」

 

 苛立ちからか、体を小刻みに揺らしている……

 

「別にかびの生えた伝説など書き換えてしまえば良いだけです。

ガリアの虚無はジョゼフ王……ロマリアは教皇。では、アルビオンとトリステインは?王族では居ませんね、残り2つの国には……」

 

 ここが最後の原作知識の使い所だ。出し惜しみは無しで行く。

 

「教皇が虚無か……あやつなら狂喜乱舞だろうな。キチガイ教皇は、エルフへの侵攻を騒ぐだろう。自分はブリミルの生まれ変わりか後継者気取りでな」

 

 確かに望みうる理想は、ブリミルの再来。そして奴には、その力が有るからな。

 

「3対1で勝てるかな?それに民衆の意識を此方に持ってくれば大した問題でもないでしょう……

ここから先はイザベラ様を含めて相談ですね。さて、ジョゼフ王の悩みの解決方法ですが……」

 

 まだ話足りないみたいだが、ソファーに深くかけ直し手で先を促された。

 

「どうするんだ?ミューズを抱き込んだのもこの為か?」

 

 いや、ヤンデレさんはジョゼフ王に全て押し付けますから……

 

「トラウマ……僕も高所がどうしても怖いから分かります。

しかし、ジョゼフ王のトラウマは異常な性癖を持つ弟に襲われかけた事。この体験を打ち消すのは、普通ならそれを受け入れる事ですが……それは出来ない。

ならば、その記憶を書き換えるのです。例えば、王族の宿痾としての政権戦争……これなら受け入れられると思いませんか?」

 

「つまりは、忌まわしき記憶を……変態の記憶を普通の勢力闘争にするのか?

確かに、それなら仕方ないと思うな。それが可能なのか?人の記憶を壊すでなく書き換えるなど」

 

 ヨシ!食い付いたなジョゼフよ……実際はストロベリル記憶なんだよ。お姉ちゃんと甘々な砂糖漬けになるが良い!

 

「可能です。心配なら何件か先に実証しましょうか?

オルレアン夫人の心を治してみせましょう!又は、不治の病といわれるヴァリエール公爵の次女の治療を……」

 

 ジョゼフ王が僕の言葉を手で遮る!

 

「記憶を書き直す……そんな事が出来るのか?しかし、俺の記憶を治すと言うが信じられるのか?都合の良い記憶を植え付けないと何故言える?」

 

 流石に用心深いな。

 

「虚無の使い魔、神の頭脳ミョズニトニルンを信じられないのですか?」

 

 何時の間にか僕の後ろに回り込んだお姉ちゃんが、僕の両肩に手を置いて……多分、ジョゼフ王を見詰めているのだろう。

 

「彼女はジョゼフ王を裏切らない。それはルーンの強制力の他に貴方への愛故に……純粋な気持ちを裏切るとでも?」

 

 ジョゼフ王は黙ったままだ……

 

「ミューズを信じよう……しかし勢力闘争で負けたオルレアン夫人やシャルロットを俺はどう思うんだ?

普通なら危険の芽を摘むだろう。王家とはドロドロだそ!その思考に辿り着かないとは思えんな」

 

 記憶操作の後か……確かに書き換えられた記憶を元に考えればそうだな。序でにジョゼットの件も片付けよう。

 

「では、こうしましょう。ジョゼフ王の治療をする前にオルレアン夫人を治す。そして偽装しましょう。

粛正した事に……彼女達には、新しい名前と立場で暮らして貰う。しかし記憶では確かに処理をした事として。

なんなら念の為に、彼女達の記憶も偽りの身分を本当の事にしましょうか?」

 

 これは意地の悪い提案だ!実際はオルレアン夫人を治療したんだ、この人は……だからこの話には乗らないと思うんだけど……

 

「分かった。記憶操作を受け入れよう」

 

 やった!ヤンデレエンドは回避したぞ。僕はニンマリとジョゼフ王を見詰めた。

 

 この勝負、僕とお姉ちゃんの勝ちだ!

 

 

 

第181話

 

 

 ジョゼフ王執務室。

 

 此処で未来の家族達のささやかな宴が催されようとしていた。

 未来の王妃(予定)シェフィールドさんが、甲斐甲斐しく料理を並べていくのを神妙な顔で見ている手持ち無沙汰な男2人……

 

「俺のミューズが積極的になっているのは、お前の影響か?」

 

 取り敢えず邪魔にならない様に席を立ち部屋の隅に移動する。応接セットとはいえ、無駄にデカい。此処での食事は食べ難いのでは?

 

「いえ……(ヤンデレの)素養が有ったのでしょうか?情の深い女性ではないですか」

 

 何となく壁に2人して寄りかかり雑談する。

 

「そうか?ただ、たまに異様な雰囲気を醸し出すのだ……お前の言うヤンデレか?我が諜報によれば意味不明な単語だが、丁度あの様な状態の時に呟いたよな?」

 

 思わず、ジョゼフ王の情報収集能力に驚く!

 

「そんな驚いた顔をするな……お前の情報収集能力も大した物だろう?」

 

 僕のは原作知識だけど……目の前では、やはり食べ難いと思ったのか応接セットからメイドさんに持って来させたダイニングテーブルに料理を移動させている。

 あのメイド三人衆だ……

 

「東方の諺によれば、愛と情が深い女性の総称らしいですよ。一途な思いは、時に周りを苦しめる……

良かったですね?ジョゼフ王にしか向けられていない愛情で」

 

 最終的には、お姉ちゃんの気持ちをジョゼフ王に全てぶつけてもらい、僕は安全圏に……

 

「多分だが……お前と俺で4:6の比率だと思うぞ」

 

「何が?」

 

 思わず素で返してしまった!

 

「我がミューズの思いの矛先だ。俺もアイツは大切に思っているが、あの気持ちを全て受け止めるには、な。良かったよ。我が義弟にして婿殿よ」

 

 サラリと返された言葉は大変な物だった!

 

「あっあの……それは……」

 

 ジョゼフ王がニヤニヤと笑っている。

 

「知らないと思っていたのか?俺を甘く見たな?只ではやられんよ」

 

 ジョゼフ王はシェフィールドさんが、ヤンデレで危険な事を理解している?

 

「お父様、婿殿って私達はまだ……」

 

 振り返れば真っ赤になったイザベラ様が居た。何か手をワキワキとさせて驚いているが……

 

「ああ、イザベラよ。俺がお前達の事を知らないとでも思ったのか?

真面目で融通のきかないお前が男の事で右往左往するのは楽しかったぞ。

俺もコイツは気に入った。なら良いだろう?ガリアの王族に加えても……

俺は何もしないから、お前達で宮中を纏めろ。ただし、ロマリアの件は噛ませろ。あれは退屈しのぎに丁度良い」

 

 原作で退屈しのぎに国をチェス代わりに遊んでいたが、この世界では面白い物が多いのか……

 

「ジョゼフ王、ロマリアを潰したその先に……」

 

「ジョゼフ様、用意が出来ました」

 

 肝心な所で、お姉ちゃんから声が掛かった。ガリア王と王女と壁際で密談と言う不思議空間は終わった。各々が用意された椅子に座る。

 軽く飲む予定だが、キッチリとしたコース料理が用意されている。椅子を引いて座るのを待っているメイドさん達……

 

「まぁ良い、座れ。 話は食べながらでも良かろう」

 

 ジョゼフ王はシェフィールドさんが引いてくれた椅子に座る。

 ちょっと憮然としているが、狂王にしては大人しいと思われているのが嫌なのかな?目の前には肉料理を中心とし……いや肉料理しかない。

 精力をつけろって事かな?隣に座るイザベラ様を見れば、下を向いたままだ。

 

 シェフィールドさんは、ワインをジョゼフ王に注いでいる。

 

「イザベラ様、ワインをどうぞ。マナー違反ですが身内だけと言う事で」

 

 普通なら貴族が食卓で相手にお酒を注がない。メイドや侍従の仕事だから……

 

「いや私は良いよ。

ツアイツの傷が完治するまでは飲まないって決めてるし、最初はアレを用意してくれているんだろ?おい、果汁水を用意しておくれ」

 

 アイスワインをご所望ですね。このやり取りを面白そうに見ているジョゼフ王。彼は白ワインを飲んでいる。

 肉料理なら赤ワインかと思ったが、色々種類は有るらしい。現世はビール党だったからキンキンに冷えた生ビールが飲みたい。

 

 当然スーパード○イだ。

 

「お前ら、父親の前でイチャイチャするな……さて、話を戻すぞ。

ロマリアの対応だがどうする?俺は男の娘だか知らないがホ○国家など……攻め滅ぼしたい」

 

 割とマナーには五月蠅くないのかな?ジョゼフ王は肉を頬張りながら話し掛けてくる。

 お姉ちゃんは恍惚として、そんな彼を見詰めている。

 

 イザベラ様は……小口なのか、ナイフとフォークで肉を小さく切っている。なかなか様になっている。

 

 僕は緊張でワインばかり飲んでいる……流石に王族の食卓に饗されるワインは、味の分からない僕でも美味しいと思う。

 

「宗教には宗教を……アイドル、男の浪漫本ファンクラブ。

それに付随するフィギュアや本、演劇……売り買いだけでなく製造にも携わる人を広げていく。

産業と文化として組み込めば簡単には排除出来ないですよね。先ずは地力の強化でしょうか、表の情報戦は……」

 

 悪代官並みのニヤリ笑いを浮かべる。

 

「情報戦?おっぱい教祖のツアイツとトップアイドルのイザベラが居れば、ゆっくりと洗脳が広まるか……

お前の会報には、微妙にブリミル教排斥のニュアンスが組み込まれているな。

これが情報戦か……なる程、民意を煽るか。エゲツねーなお前?でもロマリアの威信失墜か……

くっくっく……いや、表は分かった。では裏の情報戦とは?それとも直接に武力介入か?」

 

 心底楽しそうなジョゼフ王が居る。しかもモリモリ肉を食べているが……謀略好きは根っからか?ワインばかり飲んでいたら顔が暑い……

 

「ツアイツ、病み上がりに飲み過ぎだよ?もうお止めな。おい、水を持ってきな」

 

 ワイングラスを取り上げられた……

 

「お気遣い有難う御座います……裏の情報戦はアレです。

教皇ヴィットーリオの威信を落とします。男の娘ですか……爛れてますよね?

人の事は言えた義理ではないのですが、あの性癖を禁忌な物へと誘導します。

ホモ教皇は、我等おっぱい教に……具体的に言うと、女好きな我々にホモを押し付けようとしている。

これは我が教義に忠実な者程、衝撃的でしょう?

そして民衆には非生産的な性癖を強制する教皇……子供が産まれなければ国は成り立たない。

女性は自分達を蔑ろにする教皇をどう思うか?移民、積極的に行いましょう。

人は石垣、人は城……人口とはそれだけで強力な武器で有り仕事は山ほど有ります。

別にブリミル教を拒絶はしませんよ。好きにすれば良い。安定した暮らし、良い仕事環境、娯楽も有ります。

さてどちら側に付きますかね?」

 

「しかし公然と移民は認めらんないだろう?奴らだって民は税金の元だぞ。腐れ坊主が黙っていまい?新教徒として弾圧が始まるか異端審問だぞ」

 

 かつてトリステインでも行われた新教徒狩り……タングルテールの再発はお断りだ。

 

「確かに平民達だけでは厳しいですよね。

でも手を貸せば?マトモなブリミル教の神官を抱き込めば?でも教皇の敵対勢力は要りません。

皆さん腐ってますから……マザリーニ枢機卿辺りを担ぎ上げますか?宗教なんて弾圧したら死兵となって抵抗するから面倒くさいです。

だからガス抜きと建て前をぶら下げれば良い。大国故に移民の受け入れ場所も豊富だし、そのまま国力強化だし」

 

 ね?って聞いてみる。

 

「お前、ロマリアの平民ごっそり奪う気か?」

 

 新しい家族の密談は続く……

 


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