現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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第182話から第184話

第182話

 

 

 なし崩し的に新しい家族と食卓を共にする。流石に大国ガリアの料理は素晴らしい。

 何を食べても、素材・調理・器にいたるまで僕では判別出来ない匠の技です。

 特にこの牛のステーキに何か掛かっているソースとか……マルトーさんの料理も旨いけど、これは別格だ。

 少し落ち着いたので、色んな料理に手を付ける。

 

「ツアイツ……俺を前に本気食いだな。不思議だな。本来なら敵対している筈だが、家族になろうてしている……これもお前の策略か?」

 

 肉の塊が口に入っている時に質問された。

 

「にゃんでふか?んぐんぐ、失礼しました。何でしょうか?」

 

 イザベラ様がナプキンで口を拭いてくれる。

 

「…………いや、良い。馬に蹴られそうだ」

 

 甲斐甲斐しく世話をしてくれるのは嬉しいけど、メイドさんも両脇からナプキンで僕を拭こうとしてくれていた。

 それをかい潜ってイザベラ様が拭いてくれる。父親の前で……

 

「…………?はぁ、僕もイザベラ様がこんなに佳い女性とは思ってませんでした。惚れた弱みですかね?この勝負は僕の負けです」

 

 他の婚約者達も愛しているが、一番しっくりくるのは彼女だ。辺境伯や公爵・伯爵の愛娘達……彼女達も素晴らしいが、この難局に!

 ロマリアとブリミル教六千年の重みに立ち向かうのには最高のパートナーはイザベラ様だ。

 僕のハーレムに、またお気楽極楽転生ライフを満喫する為にも彼女の協力は嬉しかった。

 

「ジョゼフ様、先ずはオルレアン夫人の治療をしましょう。そしてシャルロット様と新たな身分と偽装を……宜しいですか?」

 

 彼が洗脳される前に出来うる事は全て終わらせたい。

 

 シェフィールドさんのシナリオ本「我が主との愛の記憶vol30」を見たが凄まじい甘さだ……洗脳後は政務は無理かも知れない。

 

 そして甘々な2人に仕事を押し付ける事が出来るとも思えない。

 

「ああ、構わんよ。旧シャルル派以外の没落貴族の爵位を適当に見繕っておくか。但し、フェイスチェンジは必要だ。

蒼い髪は王家の証……お前達の立場を危うくする芽だそ。しっかり抑えておけ。

アレは、シャルロットは残念ながらお前達程の有能さは無い。付け込まれる隙も有る。

情けだけでは国を纏めるのは難しい……まぁお前は性癖で纏め上げるか?

くっくっく……ガリアが生まれ変わるな。ツアイツよ。おっぱい教をガリアの国教にしてみるか?」

 

 また無茶振りをする……

 

「時間を掛けないと無理です。少なくとも10年位は掛けるつもりです。僕もまだ学生ですし、急激な変化は揺り返しが怖いですし……

じっくり時間を掛けて勝てると思うまでは行動はしない。今回は無茶を随分して学びました」

 

 レコンキスタはアルビオン王国が主流で、僕に対しては全力じゃなかった。しかし、ロマリアは……教皇ヴィットーリオは僕とイザベラ様を必ず潰しに来る。

 僕らの存在自体がブリミル教にとって正面から喧嘩を売っているし、彼の目的の妨げになるから……謀略系の腹黒い奴らだから搦め手で来るはず。

 慎重に時間を掛けていくしかないだろう。

 

「ふん。つまらんな、慎重過ぎるぞ?まぁ良いだろう。

これからの話だからな。それで、お前はどうするんだ?一度ゲルマニアに帰るのだろう?」

 

 もうこの話はお終いとばかりに話題を変える。ジョゼフ王は目線を料理に戻しモリモリと食べ出した。

 

「ツアイツは、一旦帰るんだね。寂しくなるね。暫くガリアに滞在しなよ?観光だってしてないし、見せたい場所も有るよ」

 

 確かに慌ただしかった、僕の夏休み……まだ半月位は残っている。

 

「有難う御座います。しかし、ゆっくりも出来ないですよ。先ずはオルレアン夫人とカトレア様の治療。

それからジョゼフ王の治療をする訳ですから……あー、でもトリステイン王国には暫く行きたくないかも」

 

 アンリエッタ姫が何か言ってくるかも知れないし、学院が始まるまでは近付きたく無いし……

 

「トリステイン魔法学院か?ウィンドボナかリュティスの魔法学院に編入しろ。その方が都合が良い。

ロマリアと事を構えるなら自国かウチの方が有利だぞ。トリステインでは付け入る隙が多過ぎる。あの国は駄目だな」

 

 確かにその通りだ。他国、しかもトリステイン王国では後手に回る危険が有るか……

 

「ツアイツ、ウチに来なよ!婚約者達も連れてきて良いからさ。一緒の方が対応し易い」

 

 イザベラ様は、理にかなっているからリュティスの魔法学院に編入を勧める。

 

「少し考えさせて下さい……」

 

 来年から原作開始。つまり使い魔召喚の儀式が有る。そこで僕が居ないと……いや、そもそもサイトが召喚されるのか?

 ルイズは既に補完されている。彼女はサイトを求めるのか?使い魔は必然で選ばれる。

 主人の困難に立ち向かう力となる為に……そう僕は解釈しているんだが。

 

 仮にサイトが召喚されたとして、初期のイベントは既に無い。

 

 ギーシュと喧嘩?犬扱い、はされないだろうし僕の婚約者なんだ。近くに使い魔とは言え男を傍に置くとは考えられない。

 精々が学院で使用人扱いにするか、実家に送るか。レコンキスタは崩壊し、ジョゼフ王とは交渉出来る立場だ。

 ワルド子爵もマチルダさんも味方だし。デルフも既に彼の相棒にはならない。彼の成長の為の踏み台は既に誰も居ない。

 

 ヒロイン連中は?

 

 ルイズ、キュルケ、モンモランシー、シエスタ、アンリエッタ、テファ……これもサイトには無関心だろう。

 アンリエッタ姫以外は僕が抑えたし。ジェシカやケティ?

 絡むイベントも発生しないし、活躍しなければ見向きもされなくないかな?アイツ、もしかして僕が要らない子にした?

 

 突然黙り込んだ僕を心配そうに見詰めるイザベラ様……

 

「何だい?気になる事でも有るのかい?」

 

「いえ……この世界の歴史を変えてしまったのかな?と思いまして」

 

「「「十分変えた(ぞ・だろ・わよ)」」」

 

 三人に真顔で突っ込まれました!

 

 

 

第183話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 プチトロアの中庭に設えた東屋に座っています。四季の花々をあしらった花壇が素晴らしい。

 花に詳しくはないので、何が咲いているのか分かりませんが兎に角綺麗です。

 さて、これからシャルロット様の実家のオルレアン邸に行って夫人の治療を……

 行いたいのですが、軽く虚無った遍在を生み出すワルド殿(本体)を呼び寄せるのに時間が掛かりました。

 

 此処まで漕ぎ着けるのに4日のロス……その間はイザベラ様とガリア観光が出来たので良かったのかな?

 

 そして久し振りにワルド殿に会ってみれば……

 

「ツアイツ殿、私はタバサ殿にどの面下げて会えば良いのでしょうか?

ジョゼットとは両想いになれました。しかし、彼女は実の母と姉に会う気は無いと。その気持ちは尊重したい、しかし……」

 

 相当悩んだのか、目の下に隈を作って向かいに座って俯いている。

 真の漢と書いて変態紳士ワルド殿だが、振られた彼女でも秘密を持つのは辛いのか……妹と良い仲になったのが気まずいのか?

 それとも、実の母と姉に会わせた方が良いのか悩んでいるのか?彼は意外と優しすぎる面が有る。

 

「これはミス・ジョゼットの気持ちを優先すべきですよ。

言葉は悪いが、会う会わないは捨てられた方に決定権が有ると思います。ワルド殿は堂々とシャルロット様に会えば良い。

なんたって、ハルケギニア広しと言えども、オルレアン夫人を治せるのはシェフィールドさんとワルド殿しか居ないんですよ」

 

 そう言って彼の肩を叩く!バンバン恩を売って下さい。

 

「ではお姉ちゃん指輪渡してあげて……」

 

 ゆらりと僕の後ろに現れるシェフィールドさん。僕の首に両手を絡めてきますが……もう驚きません。

 移転出来るマジックアイテムが本気で欲しいです。

 

「ほら、大切に扱いなさいな」

 

 そう言ってアンドバリの指輪と水の指輪をワルド殿に渡す。最初よりも彼に対する態度が軟化しているかな?

 僕はワルド殿の漢力を増幅する為に男の浪漫本の新刊を渡す。2つの指輪を握り締めて本を開く。

 

 フンフンと鼻息を荒くしていくワルド殿……目に見えて、何か分からないオーラが彼を包む。

 

 端から見れば、エロ本をみて興奮している人だ!

 

「きっキタキタキター!内なる力を発現するのだー!ユビキタス・デル・ウィンデ、風は変態する」

 

 アレ?何かスペルが違う様な……そして遍在が現れる。

 

「本体、最後のスペルは良かったぞ。我は性癖に特化した遍在となった」

 

「ふっ……褒めるな分身よ。我らは全て紳士たれ、だ」

 

 僕はテーブルに突っ伏した。何故か新しい遍在殿は……武装錬金のチョーな人の様な全身タイツに仮面を付けている。

 

「ワルド殿、彼の格好は……その随分とアレな感じが……」

 

 ワルド殿と遍在殿を見つめ合って頷く。

 

「確かに我等ながら素晴らしい衣装だ!しかし、その格好でジョゼット殿を襲ったんだった……それは封印だ」

 

 不穏な台詞を聞いたよ?襲撃って報告で知っていたが、あの格好でロマリアに罪を押し付けたのか?それはジョゼット殿がロマリアを嫌うのが分かる。

 アレに襲われたなんてトラウマになってない?僕の周りはトラウマ持ちが多くないか?ワルド殿がもう一度スペルを唱えると、普通の衣装に戻った。

 

「では指輪はお渡しする。私は此処で待機ですな。ジョゼット殿の件も有るし同じ顔が2人も居るとオルレアン夫人を刺激してしまうだろう……」

 

 遍在とは言え、双子を連想させてしまうからか。

 

「ではオルレアン邸に行きましょう」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 イザベラ様から通達の有った奥様を治療して下さる方々がいらっしゃいました。

 初めてお会いしましたが、シャルロット様が奥様に読ませていたアノ本の著者……また随分と若い御仁で御座いますな。

 

 多分十代半ばかと……

 

 しかし、あの黒衣の魔女と隣国の魔法衛士隊隊長まで従えています。

 心なしかシャルロット様も普段の無表情でなく、僅かですが微笑まれている気がします。もしかして好意を抱かれているのでしょうか?

 考えれば、あの様な艶本を譲る程の仲なのですから。かなり進んだ仲に?

 

 などと考えていましたが、ちゃんとお客様を応接室にお通しして紅茶を煎れています。

 

「ミスタ・ツアイツ。お母様をお願い」

 

 ソファーに座ると直ぐにシャルロット様が懇願していますが……それは縋る様に抱き付いています。やはりお二人は?

 

「シャルロット様、落ち着いて下さい。今回の治療に関して僕は殆ど何も出来ません。ワルド殿とシェフィールドさんの力を借りなければ不可能でしたから……」

 

「ワルド様?……ありがとう。私、貴方に……」

 

「良いんだ、その事は……オルレアン夫人の治療には全身全霊協力する」

 

 何やらこちらも怪しい雰囲気で御座いますな。シャルロット様の友好関係は一体?

 

「先ずはオルレアン夫人を呼ぶ前にお話が有ります。

ジョセフ王にも了解を貰ってますが、治療法は彼女の精神を……心を蝕んでいる原因の記憶を書き換える事です。原因の記憶は教えられません。

それは……お互いに真実を知ってしまうと取り返しがつかない事になるから。しかし治る事は保証します。

そしてお二人には、新しい身分と環境で暮らして頂きます。旧オルレアン派は完全には復権を諦めてはいないでしょう。

だから偽装死をして彼らの反乱の口実を無くします。これが治療の条件です」

 

 ツアイツ様は、とてもお辛そうな顔をされています。

 奥様は正気を失っていた為に、旧オルレアン派から御輿としての利用を逃れてきました。

 しかし快癒し、シャルロット様とお暮らしになれば利用しようと動き出す。

 

「構わない。お母様が治るなら……その条件を受け入れる」

 

 シャルロット様!お仕えする姫様が覚悟を決めているなら、私は従うまでで御座います。

 

「分かった。では治療を始めましょう。オルレアン夫人の元に案内して下さい」

 

 直ぐにでも治療をして欲しいシャルロット様がツアイツ様の手をお取りになって……ちょーっと待ったー!

 あの忌まわしき旦那様の女装癖&近親相姦ホモ野郎の記憶が無くなり正気を取り戻しても、自分の娘が実の母親にエロ本を朗読させる記憶が……

 正気を取り戻しても、更なる悩みを生んでしまう。

 

「ちょ一寸お待ち下さい。ツアイツ様……少し私とお話をさせて頂けないでしょうか?出来れば、オルレアン家の機密に関わりますので2人きりで……」

 

「……ベルスラン?」

 

 シャルロット様には言えません。まさか父親だけでなく娘も変な性癖を持っている事を奥様から忘れさせて頂きたいのです、なんて……

 でなければ、また奥様は病んでしまわれます!父娘が共に変態道を歩んでいるなんて……

 

 この世に神は居ないのでしょうか?

 

 

 

第184話

 

 

 応接室にシャルロット様達を残して、老執事のベルスランさんとベランダに出た。外の景色は素晴らしい。

 手入れの行き届いた庭の先には、ラグドリアン湖が見えます。

 

 夏の日差しを浴びてキラキラと輝く湖面……不名誉印を刻まれ予算も少ないだろうに、良く手入れがなされています。

 彼の、ベルスランさんの苦労は大きいのでしょう……

 

「それで?僕にだけ話したい事とは?」

 

 ピシッとした姿勢を崩さず前に立っているベルスランさんに問う。

 

「ツアイツ様……奥様の心が病んだ本当の原因をご存知なのですね?」

 

 ああ、秘中の秘だろうオルレアン公の変態趣味の件か……

 

「知っています。知らなければ治療は出来ませんから……しかし他言はしません。この秘密は墓場まで持って行きますよ」

 

 シャルロット様が真実を知ってしまうと、彼女も病んでしまう可能性が有るからだね。

 ベルスランさんは、ベランダの手摺に両手を付いて外を見ている。何か思い詰めている感じだ。

 

 湖面からの涼しい風が2人の間を吹き抜ける……避暑地として、ここは良い環境だ。

 

「時にシャルロット様に……大量の艶本をお渡しになりましたね?何故でしょうか、理由を聞いても宜しいですか?」

 

 艶本?男の浪漫本の事か?

 

「シャルロット様が、北花壇騎士団の任務で……ジョゼフ王から僕の著者を集める様に依頼が有ったので、お渡ししましたが。それが何か?」

 

 何故、北花壇騎士団の任務内容を知っているんだ?そんな話をベラベラと教える娘じゃない筈だが……

 

「ツアイツ様……シャルロット様は、奥様に艶本を音読させて興奮される趣味が見受けられます。

正気を取り戻した奥様に、この記憶が残っていれば……その、また心が蝕まれる可能性が有ります」

 

 なっなんだってー!

 

 シャルロット様も我等と同じ変態?しかも実の母親に羞恥プレイを?

 

「そっそれは本当なんですか?あのシャルロット様が?その手の知識には疎い筈ですよ!まさか……そんな変態趣味が有るなんて……」

 

 オルレアンの血とは……この王国の血を受け継ぐ名家にもそんな宿痾が……

 

「分かりました。その記憶も消す様に頼んでみます……しかし、シャルロット様がその様な性癖だったなんて……彼女の旦那になる奴も大変だなぁ」

 

 アレ?ベルスランさんが変な顔で僕を見詰めているんだけど……

 

「おそれながら、ツアイツ様はシャルロット様とお付き合いなされているのではないのでしょうか?」

 

「いえ、違います。全くの誤解です……僕はイザベラ様の方ですから間違わないで下さい」

 

 全く何でそんな勘違いをするんだ?

 

「何故、そう思ったのですか?僕達の接点は少ない筈ですし、その様な態度もとらなかった筈ですが」

 

 あらぬ誤解を生む行動はしてない。しかし彼は、僕達が付き合ってると思っている。

 

「誤解でしたら申し訳御座いませんでした。あの様な男女の艶本を贈る仲ならばてっきり……」

 

「お話はそれだけでしょうか?ならば早速オルレアン夫人の治療を始めたいのですが……」

 

 僕とシャルロット様との誤解が解けたなら、早く治療に移ろう。皆が待っているから……

 

 

 

 

 オルレアン夫人……

 

 

 ベルスランさんに案内されて彼女の私室に入る。精神が蝕まれているが、外見は普通のマダムだ。

 特にやせ細ったり、目が虚ろとか……その手の方々特有の雰囲気は無い。ただロッキングチェアーに腰掛け膝には人形を抱いている……

 

「奥様、お客様をお連れしました。治療の為にわざわざいらして下さいました」

 

 ベルスランさんが声を掛けても、此方を意識しない……ただただ人形を撫でている。僕は杖を取り出し夫人に魔法を掛ける。

 

「スリープクラウド……」

 

 僕の紡いだ魔法の霧が、彼女の顔を覆うとパタリと手を垂らして眠ってしまう。

 

「治療がし易い様に眠って頂きました。目が覚めた時には……本当の娘が誰か判別出来る筈です。シェフィールドさんお願い……」

 

 オルレアン夫人をレビテーションでベッドに寝かせると、お姉ちゃんに治療を任せる。

 

「ふふふ、任せて」

 

 彼女は、ラウラさんの時と同じ様に指輪を左右の指に一つずつ嵌めてオルレアン夫人の頬に添える。そして精神を集中し始めた……

 どれ位、時間が過ぎたのかお姉ちゃんの額に汗が浮かび上がる。オルレアン夫人の表情には変化は無い。

 

 しかし、シェフィールドさんは辛そうだ……

 

 精神力の高まりを感じた後に指輪が眩い光を発した後に砕け散った!よろけるお姉ちゃんを後ろから支える。

 

「大丈夫?ラウラさんの時と随分違うよ。オルレアン夫人に苦痛の表情は無かったけど、お姉ちゃんの方が辛そうだった……」

 

 荒い息をしているお姉ちゃんを気遣い、近くの椅子に座らせる。

 

「記憶の操作……コツは掴んだわ。これでジョゼフ王の主様の方も問題無いわ。有難う、ツアイツ。気遣ってくれて。もう大丈夫よ」

 

「お母様は本当に平気なの?病気は治ったの?」

 

 今まで無言で見守っていたシャルロット様が聞いてくる。ずっと握り締めていただろう、その細い両手が震えている……

 

「頼まれた記憶操作は2つ。両方とも問題無い。しかし、彼女はオルレアン公がジョゼフ様に普通に政権争いを挑んで粛正されたと思っている。

もしかしたら主様を恨んでいるかもしれない。それは新しい記憶を元に、どう考えているか……当人しか解らない」

 

 それでも旦那と娘の変態行為よりは心が痛まないだろう。

 

「目が覚めるまでに、あと二時間位は掛かるかな?安全の為に目が覚めるまで待機しましょう。

彼女の治療が完全であれば、その後の話をしなければならない。つまり偽装死と新たな生活について……」

 

 ここまでの処理をして初めてシャルロット様の幸せは補完される。落ち着いてからだ。

 

 ミス・ジョゼットの件は……言わない方が良いだろうし、僕が話せる事でもないから。

 

 ずっと無言で壁際に立っていたベルスランさんが「皆様、有難う御座いました。別室にお茶をご用意して有ります。少しお休みになられた方が宜しいかと」と誘ってくれたので、ベルスランさんのご好意に甘えよう。

 

 今は待つ事しか出来ないから……

 

「私はお母様の傍に居る。目が覚めた時に、一番に話をしたいから。その……あっ有難う、この恩は一生忘れない」

 

 オルレアン夫人の様子はシャルロット様に任せる事にして部屋を辞す。ここは母娘二人きりにしてあげるべきだ。

 

 感動の再会に余人は要らないのだから……

 


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