現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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新章第10話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第10話

 

 

 トリステイン王国。

 

 漢の浪漫本思想が蔓延するハルケギニアにおいて、ロマリア皇国の次に普及していない国だ。

 ヴァリエール領やド・モンモランシ領など僕との縁が強い所なら良いが、先の不正貴族の粛正で王家の直轄領になった場所では……

 アンリエッタ姫と疎遠となった今では影響力が弱い。

 しかし領地経営の観点から見れば、前の極悪な税率を下げたアンリエッタ姫は領民からの支持は高い。

 故に不仲説が飛び交っている今は、漢の浪漫本ファンクラブへの活動も消極的だ。

 まぁハルケギニア全土にファンを広めているツアイツにとっては、小国の地方の領地など大した脅威ではないのだが……

 憂国の士であるマザリーニ枢機卿は、トリステイン王国の先行きに悩んでいた。

 

 腐敗貴族は一層され、国が一つに纏まった……様に見えたが、実際は王家とヴァリエール公爵の派閥に割れただけだ。

 

 王領は国全体の三割強。大してヴァリエール公爵派閥は二割弱。

 しかもヴァリエール、ド・モンモランシ、グラモンと複数の貴族からなる連盟だ。

 単純な戦力比でも兵力の投入率でも、頭が1つの此方が有利。近衛兵も常備軍も、正当な指揮権は此方だ……

 

 しかし、しかしだ。

 

 ゲルマニアの一貴族の嫡子の為に、戦力バランスは大きく傾いた。当初は良かったのだ。

 彼も協力的で、腐敗貴族の粛正の証拠集めもしていけれ。

 アンリエッタ姫も国政に興味を持ち出し、自身も活発に動き始めたのに……何か、彼らとの溝を深めたのか?

 しかも評判の宜しく無い、現教皇ヴィットーリオからの脅迫に近い親書……

 

「私は……どちらの手を握れば良いのだ?」

 

 信仰を取るなら教皇の筈だ。悩む必要も無い。しかし……それはトリステイン王国の破滅でも有る。

 あの男と敵対する……次代のガリア王で有り、アルビオン・ゲルマニアと強いパイプを持つ男と。

 最近ではクルデンホルフ大公国も、トリステイン王国と距離を取りだした。

 極論から言えば前王との友誼と約束の為に、この国に残っているのだ。

 

 彼が愛した、このトリステイン王国の存続の為に……

 

 しかし、打つ手を間違えればヴァリエール王朝かガリア王国の属国化も有り得る。

 だから、あの男の真意を確かめる為に会見を望んだ。そして今、あの男はヴァリエール公爵領に居る。

 

 既にガリアの王族なのだし、今一番有名な男。あの男の行動は、各国が諜報を駆使して掴んでいるだろう。

 

 それは当然、我が国のトップの耳にも入る訳で……

 

「マザリーニ枢機卿!

我が国に、ツアイツ様が来られているとの情報が……ルイズの実家に滞在とか。何とか話が出来ないでしょうか?」

 

 アンリエッタ姫に気に入られようと、有象無象の生き残り貴族が纏わり付いている……そんな連中の誰かから、聞いたのだろう。

 

 アンリエッタ姫……

 

 貴女はアルビオンで、ガリアのイザベラ姫に喧嘩を売ったのですぞ!それをまた、あの男にチョッカイを出すのは危険なのが何故分からないのですか?

 

「アンリエッタ姫。

ミスタ・ツアイツがヴァリエール公爵に来るのは婚姻関係を三女殿と結ばれたのですから良いでしょう。しかし、彼はガリアの次期王。

そしてアンリエッタ姫は、ガリアのイザベラ姫に喧嘩をお売りになった。ミスタ・ツアイツとの接触は控えた方が良いですな」

 

 いい加減、貴女が嫌われている事を自覚して下さい。

 

「アレは……私は喧嘩を売ってませんわ!

あの時は、あのガサツな姫がツアイツ様と結ばれるなんて考えられないでしたし……それにツアイツ様は、私に会えなくて寂しい思いを……」

 

「かの人物には、イザベラ姫の他に何人もの側室の話が有ります。寂しくはないですな」

 

 いい加減、事実を認めてくれ!貴女にも早く相手を見つけないと駄目だろう……

 

「兎に角、今ミスタ・ツアイツとの接触は問題が多すぎる。良いですな」

 

「しっ、しかし……」

 

「でもも、しかしも、有りません。ミスタ・ツアイツに会うのは禁止します。勿論、手紙もですぞ」

 

 渋々顔で部屋を出ていかれたか……

 

「全く、早く結婚相手を……それもトリステイン王国が強化される相手を探さねばならぬ、か……」

 

 しかし、そんな都合の良い相手等、このトリステイン王国に居るのか?

 アルビオン王国のウェールズ皇太子は、惜しい相手だったが……ゲルマニアから嫁を貰う話が進展してるらしい。

 これも、あの男繋がりか。全く、いっそ我が姫も貰ってくれれば良いのに……

 

 マザリーニ枢機卿の愚痴は続く。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、指定されたヴァリエール公爵派閥の貴族邸宅に向かう。そこそこ広い領地に、街が4つ。後は田園風景が続く。

 典型的なトリステイン王国の男爵領だ。

 しかし街道は整備され、街は活気に満ちている。それに私設の兵士だろうか?所々で見受けられる……

 この街には、トリステイン王国内では数少ない、あの男の関連商品が買える店が有る。

 わざわざ遠方から来て、大量に買い付けていくそうだ……故に領主の見入りは良い。

 だから領地経営も余裕を持って行えるのだ。治安も良いのだろう。その為の兵士でも有るのだな。

 

 盗賊みたいな連中からすれば、欲しい物が集まっている街だから……馬車から見る街の様子で分かる。

 

 子供達が元気に遊び、女性達に笑顔が溢れている。店には商品が溢れ、活気が有る。

 本来、これがブリミル教の聖職者として望む形ではないのか?広く領民の為に、宗教とは信徒の安全や幸せを齎すものでは無いのか?

 祈るだけで、お布施や寄付を強請るのが聖職者では無い筈だ。

 

 これを見たら、光の国とか言っているロマリアは……地獄だろう。

 

 街には孤児が溢れ、人々に活気は無い。重税に喘ぎ、商店に商品は少ない。

 見目の良い娘や子供は、直ぐに奉公にと声が掛かる……連れていかれたら、二度と帰ってこないと聞く。

 

 どちらが、正しい在り方なのだ?

 

 マザリーニ枢機卿は頭を振って、弱気な考えを弾き出す。今は、ハルケギニア最大宗派・貧巨乳教祖ツアイツ・フォン・ハーナウとの直接対話なのだから。

 ここで、トリステイン王国について良い条件を引き出さねばならない。活気ある街を抜け、ようやく貴族邸宅が見えて来た。

 門番が気付き、出迎えの準備を初めている。

 

「いよいよだな。ツアイツ・フォン・ハーナウ!貴殿の真意を教えて貰うぞ」

 

 


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