これまでの後書きとこれからの後書きの最後にらしいことを加えます。
結構自信作です。
ではどうぞ
つい最近、キリトとアスナが結婚した。システム上のことだから式は挙げないと言われたが、祝儀はタップリと渡した。アスナが自由に行動できるようになって、キリトと一緒にいる時間が増えたからだろう。読み通り、あっという間だった。
二十二層の森のテラスで暮らす二人は、とても幸せそうだ。
穏やかに暮らす二人に呼ばれて、僕は二人の家に来ていた。
「キリトー、アスナー、来たぞ」
扉をノックして、家主を呼ぶ。結婚直後は色々物入りで手伝いに来たが、此処に来るのは久方ぶりとなる。
「ソル、いらっしゃい」
キリトが扉を開けて出迎えてくれた。キリトの後に続いてリビングに入ると、見慣れない小さな少女がアスナの隣に座っている。
「彼女は?」
「ユイ、記憶がないようなんだ」
「……お兄ちゃん!!」
目と目が逢った時、少女は笑顔で言った。刹那、頭に流れるのは存在しない記憶。
『ソルお兄ちゃん!』
『これ美味しいよお兄ちゃん!』
『ねえ、次はあそこ行きたいお兄ちゃん!』
自分のもう一人の妹。兄妹仲睦まじい光景は、あまりにも鮮明だった。
「……ユイ、何かして欲しいことはあるか?」
「そ、ソル?」
「ソルお兄ちゃんが何でもしてあげよう」
「ソルお兄ちゃん?」
「なんだいユイ?」
順応力の高さに驚く二人を他所に会話が弾むソルとユイ。
「ソルお兄ちゃんはパパとママの知り合い?」
「そうだよ。なぁキリトパパ?」
「お前にパパ呼びされるのはちょっと……」
ソルの変わり様に困惑するキリトとアスナ。今の彼は立派なお兄ちゃんだ。
ソルの状態は置いといて、ユイのことを知る人がいないかはじまりの街に行くこととなった。
~~~~~
(《Yui-MHCP001》。左手で開くメニューウインドウ。……記憶欠陥?)
道すがらキリトから聞いた情報を反芻する。お兄ちゃんになっていたため気が回らなかったが、ユイの存在はこの世界においてプレイヤーの常識とは大きくかけ離れている。キリトとアスナはバグと考えているが、これはバグと云うより……。
「ソルお兄ちゃん?」
「どうしたんだいユイ?」
「考えごと?」
コレはいけない。妹を存外に扱う兄がいてたまるか。
「ごめんなユイ」
僕はユイを肩車して、キリトとアスナとはじまりの街を歩いている。
「何か憶えていることはある?」
「うー……」
「あちこち歩いてればそのうち何か思い出すかもしれないさ。とりあえず、中央市場に行ってみようぜ」
「そうだね」
キリトに頷き合い、三人で大通りに向かって歩き始める。はじまりの街は《軍》の独裁で活気は無い。どの世にもいるものだな、弱者から搾り取るのが趣味の間抜けは。
たまたま通りで見かけた人に教会のことを聞き、教会を目指す。眠ってしまったユイを抱っこに変えて歩くこと十数分、やっとの思いで教会を見つけることができた。
「ち、ちょっと待って」
教会に向おうとした時、アスナが声を上げた。
「……もし、教会でユイちゃんの保護者が見つかったら、ユイちゃんを……置いてくるんだよね……?」
アスナは辛く、泣きそうにしている。
「別れたくないのは俺も一緒さ。……ユイがいることで、あの家がほんとの家になったみたいな……そんな気がしたもんな」
「……会おうと思えば何時でも会えるだろ? そう悲観するなよ」
「ん……。そうだね」
キリトがアスナを抱き締める。夫婦仲よろしくて結構けっこう。
「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー?」
教会の二枚扉の前まで到着したアスナは扉を押し開ける。返事は無く残響する声だけが聞こえる。開けられた扉の間からは人の姿は見えない。
「誰もいないのかな……?」
「いや、右の部屋に三人、左に四人……。二階にも数人いる」
「おいおい、街中で索敵スキルとは、デリカシーに欠けるんじゃないか?」
「仕方ないだろ」
キリトにスキル使用のことを注意してると、アスナは今一度大きな声で呼び掛けた。
「すみませーん、人を探してるんですが!」
教会内で反響した声が消えると、右手のドアから細い女性の声が聴こえた。
「……《軍》の人じゃ、ないんですか?」
「違いますよ。上の層から来たんです」
《軍》のワードに眉を動かす。はじまりの街全体に言える空気の原因は、矢張りそこにあるようだ。
やがてドアからショートヘアの眼鏡をかけた女性プレイヤーが姿を現した。
「ほんとに……軍の徴税隊じゃないんですね……?」
「ええ、わたしたちは人を探していて、上の層から来たばかりで軍とは何の関係もないですよ」
「上から!? ってことは本物の剣士!?」
少年の甲高い声と共に、少年少女が数人部屋から飛び出してきた。どれも年若く、十二~十四といったところだろうか。滅多に人が訪れないからか、皆見慣れない強い剣士に興味津々の様子。
「こら、あんたたち、部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」
「なんだよ、剣の一本も持ってないじゃん。ねえあんた、上から来たんだろう? 武器くらい持ってないのかよ?」
確認してみれば、キリトもアスナも武器を装備していない。僕に至ってもしていない、このたるみは良いものなのだろうか。それはそうと、このままでは話が出来ないと思い、抱っこしていたユイをアスナに預ける。
「この子らは僕が相手するよ、話は二人がしてくれ」
「悪いなソル」
「いいってことよ」
はしゃぐ子供たちを連れてキリトたちと離れた机の前に移動する。ウインドウで武器をオブジェクト化していくと、囲むようにワラワラと群がった。
「かっこいい」
「すごーい」
「ねえ、これ持ってもいい?」
無邪気に喜ぶ子供たちを見るとついつい頬が柔いでしまう。
「いいよ、構えが知りたい人はこっちおいで」
「やったー!」
「ねえねえ、これは何?」
「ああ、それはね」
~~~~~
──バァン!
剣の舞を子供たちに披露していると、扉が勢いよく
開かれた。入ってきたのは赤毛の少年、切羽詰まった顔で一目散にキリトたちが話をしてる部屋に入っていった。
「ソル!」
部屋から出てきたキリトはまず僕を呼んだ。
「《軍》に捕まった子がいる。手伝ってくれ」
「なっ!?」
不覚だった。相手していた子はずっと見ていたが、外に遊びに行った子までは見きれていない。危険が多いのは外の方だ、これは僕の機転が効かなかったせいでもある。
「場所は?!」
~~~~~
教会にいた女性――サーシャさん――について行く。路地に駆け込んだ彼女が止まると、そこにいた軍のプレイヤーたちが振り向く。
「おっ、保母さんの登場だぜ」
「……子供たちを返してください」
「人聞きの悪いこと言うなって。すぐ返してやるよ、ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな」
「そうそう。市民には納税の義務があるからな」
わははは、と男どもは甲高く笑う。大人なのは見た目だけのようだ。下品極まりない。
「じゃあ僕も常識を教えてあげますよ」
「あん?」
この世界で初めてかもしれない。自分でもこんなに沸点が低いとは思ってなかった。
「自然淘汰、又は弱肉強食って云うんですけど……」
言いながら短剣《リボルヴィン・イクステンセス》を顕現させる。サーシャさんしか見てなかった間抜けどもはやっと気付いた僕に困惑している。
「なんだぁお前、《軍》の任務を妨害すんのか?」
「あんた見ない顔だが、解放軍に楯突く意味が解かってんのか? 何なら本部でじっくりお話してもいいんだぜ?」
軍の間抜けが何か言ってるうちに、キリトとアスナが追いついた。二人はサーシャさんと軍の間抜けを飛び越して、子供たちがいるであろう場所に降り立った。子供たちは二人に任せればいい。
「ちっ! 次から次になんだ?」
「余所見していいのか? 今のお前たちは唯の獲物だぞ?」
「あ?──」
此方を向いた間抜けの一人の顔面を体術スキルで殴りつける。街中は圏内なので、勿論ダメージはない。ダメージがないだけだ。
「へぶぅ」
間抜けに良く似合う間抜けらしい声を上げて吹っ飛ぶ。壁に激突して動くのを止めると、意識はあるのかゆっくりと僕の顔を見た。? その信じられないものを見た顔はなんだい?
「こ、この!」
何をされたのかやっと理解した間抜けどもが武器を抜く。これで立派な正当防衛だ。今更遅い? 知るか。
「バァホ」
「ゲェ」
「ボゲグォ」
情けない間抜け声を響かせながら、武器を持った間抜けを殴る、蹴る、斬る。立ち上がれば殴る、蹴る、斬る。顔を向けても殴る、蹴る、斬る。
汚い合唱だな、耳が腐っちまう。
数分後できたのが、気絶した間抜けの山。逃げようとした奴もいたが全員山の天辺に重ねてやった。
すごいすごいと子供たちに囲まれる。そこでふと、ユイの様子がおかしいことに気付いた。
「みんなのこころ……が……」
「ユイ! どうしたんだ、ユイ!!」
キリトが叫び、アスナも駆け寄る。
「……あたし……あたし……」
何故だ? ユイから嫌な予感がする。
「あたし、ここには……いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいところに……」
僕も走り寄ろうと、足を踏み出す。
「うあ……あ……あああ!!!」
ユイが仰け反り、悲鳴を迸らせた。悲鳴にはノイズが混じり、凡そ人のものとは思えない。ユイの体は崩壊するように所々崩れては戻るを繰り返している。
「ママ……こわい……ママ……!!!」
アスナに抱きしめると、悲鳴も止み、崩壊も止まった。ユイはどうやらこの世界の普通ではないようだ。
~~~~~~~~~~
ユイの発狂が落ち着いた後に、キリト達ははじまりの街でユイの容態を見るため教会に泊めてもらうことになった。僕もどうかと聞かれたが、部屋の関係で遠慮した。かと言ってユイのことを放置する訳にもいかないので、はじまりの街で起きていることを調査することにした。
「……なんともまあ」
簡単な聴き込みでも出るわ出るわ黒い話。《軍》のリーダーは我関せずで下の者のやりたい放題。数だけの間抜けが幅を利かせてる状態だ。見栄のために無理な攻略をするも惨敗、責任者は糾弾。瓦解するのも秒読みだ。こちらは放置でもいいかもしれない。
「およ?」
キリトからのメッセージに目を通すと、《軍》関係の厄介事に巻き込まれることになったらしい。助力を請われた。
(間抜けリーダーの救出か)
気付いた頃には朝になっていたようで、座っている路地にも光が射し込んでいる。立ち上がり腰を軽くはらう。
「剣の仕事、頑張りますか」
僕にキリトを手伝わないという選択肢はない。合流する為、教会に向かって歩く。
~~~~~
「待て待て待て」
「どうした?」
ユリエールと名乗った女性プレイヤーについて行って、ダンジョンの入口に目指している。しかし、僕には見過ごすことが出来ないことがあった。
「ユイを連れていくのか?」
「え?」
「ん?」
ユイは見た目幼き少女だ。そんな子を危険蔓延るダンジョンに連れていくのは僕でもはばかれる。この二人やっぱり腑抜けてやがる。
「ユイ、こわくないよ!」
「そうか、なら大丈夫だな」
「おい!」
キリトがツッコミを入れてくる。本人が大丈夫と言ってるんだ。なら大丈夫、万が一には僕もいるしなんとかなるだろう。
「……よろしいですか?」
「あ、すみません」
ユリエールさん含め三人にジト目で見られるが、しょうがないことだ。
「大丈夫だ。万が一には僕もいるし、最終的にはキリトが盾になってくれるだろ」
「おいソル」
「流石ソルお兄ちゃん!」
ユイは可愛い、異論は認めん。どけ! 僕はお兄ちゃんだぞ!!!
~~~~~
ダンジョンはキリトの頑張りで楽チンだった。《二刀流》の火力の前では一層のダンジョンなど紙切れ同然、スパスパと裂くは裂くはモンスター群。
「あっ、安全地帯よ!」
「奥にプレイヤーがいる。グリーンだ」
目的地に到着したらしい。ユリエールさんが走り出した。前方に十字路が見えると、奥には光に満ちた小部屋があった。僕はとてつもない悪寒に襲われ、ユリエールさんを止めようと速度を上げる。
「シンカー!」
「来ちゃだめだーっ! その通路は……っ!!」
「ユリエールさんっ! 止まれ!」
ユリエールさんの肩を捕まえようと手を伸ばす。
その時。
部屋の手前に、黄色のカーソルが出現した。表示されたのは《The Fatal-scythe》。命狩る鎌の意を持つボスモンスターだ。
なんとか肩を掴んでユリエールさんを止める。
「アレは……」
相手の情報を得るスキルを全て使用するが、分かるのは名前のみ。ちょっと所では無い格上の相手だ。死神を模した黒ローブに大鎌の人型のシルエット。血管の浮いた眼球がこちらを捉えている。
「どうするキリト?」
「俺が時間を稼ぐ! 二人は安全エリアの人を連れて五人で撤退しろ!」
キリトも格の違いに気付いたのか、恐怖に耐えながら叫ぶ。
「キリト君も一緒に……」
「キリトには僕も残る! アスナは早く撤退を!」
アスナはソルがいれば大丈夫と一瞬考えるが、相手は格上、安全の保証なんかない。
「ユリエールさん、ユイを頼みます! 三人で脱出してください!」
安全エリアにいたシンカーとユリエールにユイを預け、アスナも細剣をとった。
「っ! 来るぞキリト!」
キリト目掛けて叩き降ろす大鎌に、盾《スタックプリセット》を顕現させて構える。次の瞬間、何が起こったのかを一瞬理解できなかった。壁に軽く埋まり、視界が固定されて漸く盾ごと吹き飛ばされたことを理解した。
「ソル!」
「ソル君!」
盾を見るが破壊はされていない。耐久の減りは少ないのを感じる。盾などの防御貫通だと予測する。HPは三割を奪われている。
「……くっ!?」
フェイタルサイズがキリトたちを纏めて攻撃しようとするのを見て動こうとするが、指一本動かない。急いでHPバーの上を確認すると、〈スタン〉状態であることを示していた。
動けないうちに、二人は鎌を喰らう。三本の剣を合わせて防御していたのにも関わらず地面に天井に叩きつけられる二人を見ると、HPは半分まで減っていた。
(動け!! 動けよ!!!)
このままでは二人の命が危ない。せめて、せめてこの身を盾にしてでも二人は守らなくてはならない。
──その時。
「ばかっ!! はやく逃げろ!!」
……ユイ?
小さな足音に視線を向けると、恐怖なんて微塵も感じてない足取りで死神に近づくユイがいた。キリトが叫ぶが、ユイは死神に近づくのをやめない。
「だいじょうぶだよ、パパ、ママ、お兄ちゃん」
ユイの体は宙に浮き上がり。二メートル程の高さでで静止した。小さな手をそっと掲げて。
死神の鎌がユイに振り降ろされる。しかし、紫の障壁がそれを拒んだ。浮かんだシステムタグ【Immortal Object】に驚愕する。意味は不滅物。システム上重要、街の建物などに付与される属性だ。
死神もこれには驚いたようで、戸惑い眼球を動かしている。
ユイは業火の巨剣を生み出し、軽く振るう。それだけ、たったそれだけで先程まで僕らを追い詰めた死神は消滅した。
「パパ……ママ……。ぜんぶ、思い出しました。」
あまりの出来事に、暫く頭が働かなかった。
~~~~~
ユイは思い出したことを一つ一つ掻い摘んで教えてくれた。
《ソードアート・オンライン》制御システム《カーディナル》のこと。ユイが《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、コードネーム《Yui》のAIであること。予定外の命令によってエラーを蓄積した結果、壊れてしまったこと。この石のオブジェクト、コンソールに触れたことで権限を呼び出せたこと。
「そうか」
「でも……、ずっと一緒だよ、ユイちゃん」
「ああ……。ユイは俺たちの子供だ。家に帰ろう。みんなで暮らそう……いつまでも……」
アスナとキリトは気にしない。ユイはもう自分たちの大切な娘なのだ。だが、ユイは首を横に振る
「もう……遅いんです……」
カーディナルに気づかれたユイは異物として排除されると言う。
「そんな……そんなの……」
「なんとかならないのかよ!」
「……チッ!」
ユイの体が光になって消えていく。
「パパ、ママ、お兄ちゃん、ありがとう。これでお別れです」
光がユイを包む。
「ソルお兄ちゃん……」
「……なんだいユイ?」
「気をつけてくださいね。貴方はカーディナルに───────」
「……え?」
ユイの言葉、それは寝耳に水だった。それが本当なら……、そうだとしたら……。
「っ! キリトぉ!」
「ソル?」
「お前コンピュータに強かったよな? ユイを切り離せ!」
「!? ああ!」
キリトはコンソールのホロキーボードに打ち込みを始め、僕はユイの手をとる。
「ソルお兄ちゃん?」
「大丈夫だユイ……一人にはさせない」
片手でユイをもう片方の手でコンソールに触れる。暗示するのは彼女の存在をシステムに組み込まれたAIではなく、システムから外された独立AI。すると、ユイが消えるのが遅くなった気がした。
キリトの打ち込みが終わり、ユイの光が一際強くなる。光は凝縮され、涙のクリスタルとなってアスナの手中に零れた。
「こ、これは……?」
「ユイの心、プログラム内から取り出したユイそのものだよ」
キリトは疲れ果てて床にころがる。アスナは涙を流し、大事にユイを胸に抱いた。
ユイは一人にはならない、消えもしない、ずっとこの二人の子供でいられるのだ。
(にしても、僕は…………)
ユイから明け渡されたことを考えて、僕も床に寝転がった。
アインクラッドも終わりが見えてきました。
正直もうヘトヘトです。
頑張ります。
ではまた!
《リボルヴィン・イクステンセス》:廻る生命
廻る、廻れよ、生命よ。
さしたる傷すら柄にもかけずに。
この臓をあげたとて、廻るはずもなく。
《スタックプリセット》:附帯した戒め
躱すな、逸らすな、逃げ出すな。
全て主のモノだ、受け入れよ。
歪んだ盃は誅罰を漏らさない。