アインクラッド終わりです。
フェアリーダンス編ではソル、いや■■ ■の過去について深堀していきます。
ではどうぞ
攻略チームは七十五層、コリニア市のゲート広場に集結していた。今日行われるのはボス攻略。偵察隊が全滅、更には転移結晶無効空間――アイテムによる帰還不能――の話がプレイヤー間の空気を緊迫させている。
僕は端で柱に背中を預けて時間まで待つ。
「元気かソル」
「こんにちは」
仲良し夫婦――キリトとアスナの到着だ。閉じていた瞼を開ける。
「調子はどうだ?」
「バッチリだぜ」
「大丈夫よ」
軽い挨拶を交わしていると、クラインがキリトの肩を叩く。クラインの横にはエギルも居る。
「よう!」
「なんだ……お前らも参加するのか」
「なんだってことはないだろう!」
野郎三人も仲良しな様子でご苦労だ。僕は微笑んで見守る。キリトは絶対として、関わりの有る者だけは護ってみせる。
時間表記が午後一時となると、転移ゲートから数名のプレイヤーが出現した。ヒースクリフ率いる血盟騎士団の面々だ。紅白の軍団の出現は、プレイヤーたちに再びの緊張を走らせた。
流石のカリスマと言ったところだろう。彼が纏めあげた紅白の迫力と結束感は他の面子とは一線を画している。
「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。──解放の日のために!」
ヒースクリフの叫びに呼応し、プレイヤーたちは鬨をあげる。なんともまぁ素晴らしい指揮官だろうか。
「キリト君、ソル君、今日は頼りにしているよ。《二刀流》と《舞闘術》、存分に
緊張していないのか、余裕の声色だ。キリトと僕は無言で頷く。ヒースクリフは集団を振り返り、軽く手を上げた。
「では、出発しよう。目標のボスモンスタールーム直前の場所までコリドーを開く」
腰のパックから濃紺色の結晶アイテムを取り出す。《
(あれ便利だよな……)
記録した地点に行ける点は街からでも使え、狩場に行くのに一役買ってくれてる。
「では皆、ついてきてくれたまえ」
今から踏み込むのは戦場だ。何時、誰が死ぬか分からない。隣の彼奴も、此奴もあっさり死ぬ場所だ。
「キリト」
「なんだ?」
……キリトだって、死ぬかもしれない。
「死ぬなよ」
「ああ、お前もな」
嫌な予感がする。……今日はいつもより気を張らせておこう。
~~~~~
転移後、視界に入るのは黒い石畳。空気に含まれる冷気が肌を包む。スキルで両刃剣《バトル・アトンメント》を顕現する。両刃槍よりは柄の短い、刀身は長い片刃の両剣だ。
「皆、準備はいいかな。今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報がない。基本的にはKoBが前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限りパターンを見切り、柔軟に反撃してほしい。では──行こうか」
ヒースクリフが大扉に右手をかける。この場にいる全員の緊張を感じる。
──今日も、君ガ為ニ剣ヲ振ロウ。
「──戦闘、開始!」
扉の中へと走り出す。内部はドーム状の部屋だった。黒い壁、床の僅かな発光だけの空間。ボスの姿は無い。
数秒の沈黙が続く。感覚を拡張して認識領域を拡げる。
「上だ!! 備えろ!」
僕の叫びに全員が上を向く。皆が目にしたのは骨の巨大百足。体を構成している骨は人のそれに似ている、頭蓋骨は歪み、異形のものだ。
《The Skullreaper》――骸骨の刈り手。
「固まるな! 距離を取れ!!」
ヒースクリフの鋭い声が空気を切り裂く。我に返った全員が動き出し、スカルリーパーの落下予測地点から慌てて飛び去る。
だが、三人遅れた。
「こっちだ!!」
キリトが叫んでから走り出す三人。落下したスカルリーパーが鎌状の腕を横薙ぐ。
宙を飛ぶ三人、HPは急速に減少し、止まることなく全て消え去った。ポリゴンとして破砕された。
呆気なく三人死んだ。一撃で死んだ。全員がこの光景恐怖するのを感じる。
「こんなの……無茶苦茶だわ……」
アスナが呟く。
スカルリーパーは次の獲物へと狙いを定めて突進する。また鎌を振り、誰かが死ぬ……ことはなかった。
ヒースクリフの盾が鎌を防ぐ。しかし鎌は二本、左の鎌はヒースクリフ、右の鎌はプレイヤーの一団に突立つ。
「くそっ……!」
「キリト?!」
キリトが飛び出す。プレイヤーたちの前に躍り出、鎌を受ける。だが鎌は止まらない。
「キリト!」
キリトを助けようと走り出す。その時、目の前を純白が横切った。
純白に散りばめられた赤、輝く細剣が鎌に命中する。勢いが弱まった鎌をキリトが押し返すことに成功した。
「二人同時に受ければ──いける! わたしたちならできるよ!」
「──よし、頼む!」
戦場だというのに、彼と彼女は並び立っているのがやけに絵になる。僕はキリトを守りたいけど、彼のことを信じていない訳ではない。彼は強い、一人でも戦い抜くことが出来る強さがある。でも独りは辛い、僕も独りの辛さは知っている。だからこそ彼の隣には誰か居ないといけなかった。元は僕が代わりに居た場所、今はアスナの場所だ。
(大丈夫そうだな)
二人の背中を見てそう判断する。《黒の剣士》と《閃光》の名は伊達ではない。
キリトたちが前線に出たので僕も前線で両刃剣を振るう。
攻撃していると、槍状の尾に側面に立っていた数人持ってかれる。邪魔に思ったので先端が鋭い足を避けつつ節を斬る。骨だけの体、それを素早く滑らかに動くことが出来るのは柔らかい関節のお陰だろう。事実、ソードスキルで斬られた節は切断面となり、尾はポリゴンとなって消えた。
~~~~~
半刻ほどだろうか、戦場の有った時は終わる。
耳澄ましても歓声の一つも聴こえない。
「何人──やられた……?」
クラインがおどろおどろにキリトに聞く。
マップで確認した後、口を開いた。
「──十四人、死んだ」
(……今回は多いな)
攻略しているのは常に歴戦のプレイヤーだ。このところの死者が少ないのも有ったが、皆信じられないように頭を垂れた。
「……うそだろ……」
あのエギルでさえ元気がない。
あと二十五層、その数を今いる攻略組の数で足りるだうか。足りない場合、誰かが無理をする必要が出てくる。…………キリトを帰す、その為なら……。
「……キリト?」
キリトを見ると、何かを執拗に見ていた。その目は、何か確信めいていて、覚悟を決めた目だった。
──一瞬の出来事。
キリトが突き立てた剣がヒースクリフの胸元を穿つ……。いや、穿つことが出来るはずだった。
紫のシステムメッセージ、これを僕は見たことがある。目を瞠るとそこには【Immortal Object】の文字が表示されていた。《Yui》と同じ不死属性。プレイヤーには決して得ることの出来ないものだ。……これは言い逃れできない。つまりはそういうことだったのだ。
「システム的不死…? …って…どういうことですか…団長…?」
戸惑うアスナの声には答えず、ヒースクリフは厳しい表情でキリトを見据えている。
キリトが口を開いた。
「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうあろうと
キリトに注目が集まる中、僕はゆっくりと移動する。隠密系のスキルも全て発動して誰にも気付かれないように、勘づかれないように。
「……この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった……。あいつは今、どこから俺たちを観察し、世界を調整してるんだろう、ってな。でも俺は単純な真理を忘れていたよ。どんな子供でも知ってることさ」
キリトの名推理が続く、まだ誰にも気付かれていない。
「《他人のやってるRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない》。……そうだろう、茅場晶彦」
キリトの推理、それはヒースクリフが茅場晶彦であるというトンデモな物だ。場が凍りつく。
「団長……本当……なんですか……?」
アスナは問う。信じていた団長が実は黒幕だった。僕がアスナだったら信じられないだろう。
ヒースクリフは答えない。目線はキリトに向けられたまま。
「……なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな……?」
「……最初におかしいと思ったのは例のデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速過ぎたよ」
「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」
そろそろ位置に着く。装備も全て外して忍び足で進む。
「予定では攻略が九十五層に達するまでは明かさないつもりだったのだがな」
手中に短剣を顕現する。
「──確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれ」
最速の一歩。針のように鋭く尖らせた殺気を込めて、ヒースクリフを背後から短剣で首を狙う。
「チッ!!」
「……まだ話の途中なんだがね」
不死属性を貫通出来ない短剣ではヒースクリフを殺せない。キリトと同じように紫の障壁に阻まれてしまう。
「……はァ!」
ソードスキルも、手持ちの武具全てを使って茅場を攻撃する。しかしその悉くは無意味に終わる。
茅場が左手を振り、ウインドウを操作すると、急に身体が動かなくなった。
HPバーの上を見ると麻痺状態と表示されている。
「ソル!」
「すまんキリト……」
周囲を見渡すと、キリトだけは麻痺になっていない。……嫌な予感が強まっていく。
「……どうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か……?」
「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ。こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つことにするよ。九十層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっと辿り着けるさ。だが……その前に……」
茅場は剣を抜いて、床に突き立てる。高く澄んだ金属音が空気を切り裂く。
「キリト君、君には私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私と一対一で戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。……どうかな?」
「だめよキリト君……! あなたを排除する気だわ……。今は……今は引きましょう……!」
アスナが思い止めるよう叫ぶ。彼は受ける気だ、キリトが……死ぬ?
「茅場ぁ! 僕が代行する! 麻痺を解け!」
僕は叫ぶ、首をなんとか動かして茅場を睨む。
「これは報奨だよソル君。……ふむ、君には不安定要素が多い。君だけは此処で…」
「いいだろう。決着をつけよう」
「……ほう」
キリトが茅場との戦いに頷いた。
「キリト君!」
「ごめんな。ここで逃げるわけには…………いかないんだ……」
「死ぬつもりじゃ……ないんだよね……?」
「ああ……。必ず勝つ。勝ってこの世界を終わらせる」
「解った。信じてる」
(やめろ)
キリトとアスナは最後の戦いかのように語る。
剣を抜いてゆっくり歩み寄る。
「キリト! やめろ……っ!」
「キリトーッ!」
エギルとクラインも体を起こそうとしながら叫んでいる。
キリトはエギルと視線を合わせる。
「エギル。今まで、剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンのプレイヤーの育成につぎ込んでたこと」
(やめろよ)
エギルは目を見開く、口は言葉を失い、動かなくなった。
次にクラインを見る。
「クライン。……あの時、お前を……置いていって、悪かった。ずっと、後悔していた」
「て……てめえ! キリト! 謝ってんじゃねえ! 今謝んじゃねえよ!! 許さねえぞ! ちゃんと向こうで、メシのひとつも奢ってからじゃねえと、絶対許さねえからな!!」
「解った。約束するよ。次は、向こうでな」
(やめてくれよ)
クラインは喚く、涙を溢れさせながら喉が張り裂けんばかりに。
最後に、僕を見た。
「ソル。最初から最後まで、隣に居てくれたこと、とっても嬉しかったぜ。途中に色々あったけど、お前は俺の唯一の親友で……相棒だ」
「………………」
(なんで、なんでそんなこと!)
口が動かない、キリトとの距離が遠く感じる。
「……悪いが、一つだけ頼みがある」
「何かな?」
「簡単に負けるつもりはないが、もし俺が死んだら──しばらくでいい、アスナが自殺できないように計らってほしい」
(……え?)
「良かろう。彼女はセルムブルグから出られないように設定する」
「キリト君、だめだよーっ!! そんなの、そんなのないよーっ!!」
目の前の茅場の頭上に【changed into mortal object】――不死属性の解除メッセージが表示される。
(始まる。始まってしまう!!!)
僕は意識をこの仮初の肉体に集中する。僕なら出来るはず、理論上の最善手。
「殺す……っ!!」
急ぐ、急ぐ急ぐ急ぐ。
集中、集中集中集中集中集中集中集中。
この瞬間にもキリトが死ぬかもしれない。激しい頭痛が僕を襲う、構うもんか。熱も出てきた、構うもんか。気持ち悪い、吐き気もする。いや、死んでも今の自分を殺せ!
意識が朦朧としながらも、耳は戦闘音は拾う。
「さらばだ──キリト君」
「ぅぅぅぁぁああああああああああああ!!!!!」
「……ソル?」
「良かった」
「なん……で」
「君ガ為ニ剣ヲ振ルフ。……そう、誓ったから」
僕のHPが亡くなる。せめてもの抵抗として、茅場の盾を吹き飛ばす。
「盾、貰ってくよ」
「ソル君、君は……」
茅場も予想外だったようだ。かなり驚いてる。
でも、まだ出来ることは有る。
「キリト、これを」
キリトの左手の剣は折れてしまっているようだ。スキルを使い、剣を顕現させる。片手直剣《ウィッシュ オープン ア スター》。穢れの無い純白の剣。剣先は角の無く滑らかに尖り、柄には黒い星が彫られている。
剣をキリトの前に突き刺す。
「頑張って、キリト」
僕の意識は、涙を流すキリトを見ながら途絶えた。
~~~~~~~~~~
キリトside
「驚いたな。まさか完全に適応してしまうとは。にしても、スタンドアロンRPGのシナリオみたいじゃないか?」
茅場が何やら言っているが聞こえない。
「……ソル、君?」
「嘘だろ?」
「まじかよ……」
ソルの身体はポリゴンとなって、散り散りに消えてしまった。俺の目の前の剣を遺して。
俺は半分無意識で剣を手に取る。
『頑張って、キリト』
声が聞こえた。ソルの声だ。
剣を取った左手に、白い光の粒子が纏わりついている。
『ほら、僕が頑張ったんだから。最後まで──』
聞こえる、彼の声だ。
『終わらせようよ。このデスゲームを』
(ああ、そうだな)
俺は剣を構えて、茅場に再度仕掛ける。
「うおおおおおおお!」
「くっ!」
盾を失った茅場の防御を崩すのは容易で、純白の剣が茅場の胸を貫いた。
「──見事」
ゲームはクリアされました──
ゲームはクリアされました──
ゲームはクリアされました──
ゲームは……
~~~~~~~~~~
目が覚めると、僕は夕焼けの中に居た。
透明な水晶の板の上に立っている。下は雲の海、空は綺麗な朱。果てなき景色の美しさに息を吐く。
(ここは……)
僕はあの時、キリトを庇って死んだ。大丈夫だ、記憶は確かにある。
「キリト……」
最後に見たキリトの顔、それが脳裏から離れない。彼にあんな顔をさせるのは心苦しい。でも、僕は後悔していない。
「…………キリト」
彼はやり遂げたのか、それすらもわからない。
遠くの空に浮かぶ城が見える。その城――アインクラッドはここが現実ではないことを教えてくれる。
「綺麗だろう?」
振り向くと、茅場晶彦がいた。ヒースクリフの姿ではなく、現実世界の姿だろう。白いシャツにネクタイを締め、長い白衣を羽織っている。
「僕は死んだのか?」
僕はポリゴンとなって消えた。そのはずだった。
「君は、この世界に完全に適応したのだ」
「どういうことだ?」
「君、詳しくは脳だが、仮想世界に完全適応し、カーディナルシステムと直接接続したのだ。君がこの世界で
心当たりはある。ユイの言葉、感じていた皆との感覚の違いも、この男の言うことが正しいと思わせる。
「それで、ゲームはクリアされたのか?」
「ああ、キリト君は私を倒したよ」
キリトは勝てたか、良かった。
「僕はどうなる?」
「気をつけたまえ。君が
「?……」
「おや? そろそろキリト君たちが来るようだ。何か伝言はあるかね?」
「いや……」
何処か会話が噛み合っていない。茅場は僕がまだ生きていると言っているように聞こえるのは気の所為だろうか。
急激に睡魔が僕を襲う。
「ゆっくり眠ってくれたまえ、ソル君」
「──世界初の、《仮想世界完全適応人類》」
僕の意識はまた途絶えた。
疲れましたアインクラッド。
アリシゼーションまでクソ時間かかりますね。
ボチボチいきます。
ではまた!
《バトル・アトンメント》:償いの闘戦
戦うことで償いきれるものではない。
罪に身を削り、血に魂を削られようとも。
この剣を振るっている間だけは、咎人を乖離したい。
《ウィッシュ オープン ア スター》:星に願いヲ
貴方のお陰で死を避けれました。
貴方のお陰で強くなれました。
願いを託します。どうか、貴方の行く先に幸あらんことヲ。