今回から過去編です。
かーなり短いです。
アッサリいっちゃって下さい。
ではどうぞ
《父さん》
──ジリリリリ!
けたたましく鳴り響く音に起こされ、目を開く。カーテンの隙間から入り込む陽光が部屋に明暗を創る。
「…………」
部屋を出て階段を下りる。リビングのドアを開けると、甘い香りが漂ってきた。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう!」
台所でコーヒーを入れる母さん。食卓で空になった食器を前にタブレットをいじる父さん。僕の方に振り向いた朝早くから元気いっぱいな妹。
「おはよう」
イスに座って、朝食の食パンを噛じる。表面を茶色に焦がしていて食感はサクサク、焼きたての熱に溶かされたバターの香りとハチミツの甘さがよく合う。
「どうぞ」
「ありがとう」
父さんは出されたコーヒーに息を吹きかけて冷ましてから口に運ぶ。母さんは父さんの隣に座って自分の朝食を食べ始める。
我が家の食卓に会話は少ない。でも、不思議と落ち着くこの空間が僕は大好きだった。
朝食を食べた僕は歯みがきをしてから着替える。昨夜に必要な教材を入れたランドセルを背負って、玄関で妹の準備を待つ。
階段から足音が聞こえると、妹がランドセルを背負って下りてきた。
「行くよ星奈」
「は~い」
靴を履く妹を横目にドアを開ける。
「いってきます」
「あ、待ってよ。いってきまーす!」
特別なことはない朝の光景。
僕が憶えている、幸せの一ページ。
僕は物心ついた時から世界が”色”に見えた。視力が悪いからではなく、物の輪郭を認識する前に”色”を認識してしまうから僕は何物も”色”で判断してた。
特に、人に関しては感情という”色”が強く見えて、僕は人の顔じゃなくて”色”を見て話していた。
学校では僕は異質だった。会話は何処か成り立っておらず、思っていることだけは見通される僕は気味悪がられ、独りだった。
でも、学内で独りになっても気にしてはいなかった。まだ幼い同級生たちの心情は常に不安定で複雑なものだ、その蠢く”色”を見るだけでも僕の退屈は失せ、学校が嫌いであったことは無い。
友達が欲しいとか、アレが欲しいとか、欲望は無かった。家族が居れば、僕には何も要らなかった。あの子が自慢していたゲーム機、あの子が見せびらかしていた靴、そんな物より家族との時間が欲しかった。
家族だけは、僕を気味悪がらず、僕が見た”色”の話を嬉しそうに聞いてくれた。一度、他の人との違いで悩んでいた時期があったが、「■は感性が豊かなんだね」、そう言って僕の異質を個性にしてくれた。
だから僕は家族が大好きで、この幸せはずっと続くものだと思っていた。
父さんが死んだ。
交通事故だった。
電話を受けた母さんは崩れ落ちた。
妹は父さんの死を1週間受け入れられなかった。
僕が最後に見た父さんの顔は原型をとどめていなかった。冷たい棺に静かに仕舞われた父さん。
涙は出なかった。
父さんは警察官だった。自身の仕事に誇りを持ち、他人を助けるのが得意な人だった。
「なんで他人にも優しくしなきゃいけないの?」
幼い自分は聞いた。
「いいかい、誰かに優しくすることは誇ることだ。自分の誇りを守ることが生きる意味だ。一度きりの人生、最期に誇れるような人生を送りなさい」
「へぇー」
父さんは教えてくれた、誰かに優しくすることは誇ることだと。
父さんの”色”は何処までも透き通っていて綺麗だった。
第一目
誰ガ為ニ優シク在レ