フェアリィ・ダンス最終回です。
やっとですね。
次回からタグが増えますよ(ネタバレ)
ではどうぞ
僕が
二年ぶりに目覚めた僕はリハビリと、移り変わった世間に追われることとなった。勉学の方は苦戦せずに追いつけたが、学校は政府指定の帰還者学校なるものに行くことになった。
表向きはSAOの生き残りの保護とあるが、大事件を終息させる体のいい監理事業と言うべきか。新しい施設として最新の技術を惜しみなく使ってる所からも、実地試験も兼ねられているようだ。
僕としては最新機器を配布してくれるのは助かる。学校への世間のイメージを背負うことにはなるが、メリットの方が大きかった。
──ズズズズ。
「もうリズ……里香さん。もうちょっと静かに飲んでくださいよ」
「だってさぁ……。あぁキリトのやつあんなにくっ付いて。けしからんな学校であんなん」
帰還者学校のカフェテリアで少年少女が賑やかに食後の会話を弾ませていた。
三人の視線は窓の外、校内でも有名なカップルスポットのベンチに座る二人に注がれてる。見せびらかすかのようにイチャつく二人――キリトこと和人とアスナこと明日奈を見る、僕除く二人は未練不満たらたらの顔をしている。
目をジトリとさせて紙パックの飲料を飲み干したのは、アインクラッド内で腕の立つ鍛冶屋として活躍していたリズベットこと
その隣で頬を膨らませているのはシリカこと
「いいじゃないか、仲睦まじくて」
僕としてはあの二人はとってもお似合いに見える。何時までも幸せで居て欲しいものだ。
しかしキリトに想いを寄せる二人にとっては面白くない光景らしく、先程からずっと口をへにさせている。
「あ~あ、こんなことなら一ヶ月の休戦協定なんて結ぶんじゃなかったな」
「リズさんが言い出したんじゃないですか。一ヶ月だけあの二人にラブラブさせてあげよ~って。甘いですよまったく」
「はぁ~」
自覚は無いだろうが、里香は持ち前の明るさとコミュニケーション能力、分け隔てなく話しかける性格によって男子達に大変人気なのだ。彼女のクラスメイトにはその想いを隠している生徒も少なくないと聞く。
珪子もアインクラッド内でドラゴンテイマーのアイドルとして持ち上げられていた位だ。ひっそりとしたファンクラブも有ると聞いた。可愛らしい容姿に性格、小動物を思わせる仕草に保護欲を掻き立てられた男子は数え切れないだろう。
そんな学内、また学外で人気を集める美少女二人、更には恋人の明日奈も混じえて和人はすんごい女誑しだ。前者二人に想いを寄せる男子生徒の殆どは彼女たちの彼への想いの強さを前にしてポックリ折れる。おお、なんとも罪深い。
……僕? 産まれてこの方恋人はおろか、告白されたことも無い。つまりはそういう人種なのだ、察して欲しい。星奈の言うお嫁さんなんて夢のまた夢だ。はは……泣ける。
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放課後になると、僕は悠長に敷地を出て目的地を目指した。
今日はSAO帰還者を集めたオフ会?なる催しをすると里香から誘われたので、ご機嫌に鼻唄を歌いながら歩いている。時間には余裕をもって逆算した為、聞いていた時間より五分前きっかりに着いた。
場所はエギルことアンドリューさんが経営するダイシーカフェというお店。外見は飾らず単色で、落ち着きのある店だ。
貸切の札が掛けられているドアを開けて中に入ると、既に始めていたのか賑やかな声が聞こえてきた。
「……遅刻したか?」
慌てて時間を確認したが、やはり言われた時間の五分前だ。
とりあえず主催であろう里香を探す。
「……あっ」
……目が合った瞬間何か忘れていたことを思い出したかのような顔になった。嘘だろ?
「……里香さん。あっ、てなんですか? あっ、て」
「い、いや~。その~」
「お? 来たか湊」
里香があたふたしていると、輪の中から和人が出てきた。
「僕は遅刻していないんだが……なんだか既に始まっているらしいじゃないか」
和人の服には紙切れが付いていた。室内の火薬の匂いからクラッカーでも使ったと推測する。
「もしかして……忘れてたなんて言わないよなぁ?」
「はいすみません忘れてましたぁ!」
里香渾身の謝罪。
別にさぁ、和人に夢中になるのはいいが、忘れるのは違うくないか?
「まあまあ、改めてゲームクリアおめでとう。湊」
「ん? クリアしたのは和人だろ?」
「お前のお陰だよ。今日のもう一人の主役はお前だぞ」
「……そう言われると照れるな」
和人に誘われ、二人肩を並べてカウンター席に座る。
「マスター、バーボンロック」
「……。マスター、自慢の一杯くれないか」
阿呆してる和人を横目にアンドリューさんに注文する。初見のお店はオススメ、又は人気の一品が安牌だ。外食で迷ったら試してみるといい、自分で選ぶより得した気分になる。不味かったらその店はその程度だと分かるしな。
「あいよ」
「なんだ烏龍茶か」
阿呆はほっといて出された珈琲を見る。カフェを名乗るくらいだ、期待させてもらおう。
カップを持って香りを嗅ぐ。芳ばしさを楽しんで息を一吹き。猫舌の僕でも飲めると感じたらゆっくりと傾けて一口飲む。
僕は小さい頃から好き嫌いが無かった。その分、味にはてんで煩く、その場で不味いとハッキリ言ってしまう程だ。
アインクラッドで食事をしなかったのは必要無かったのもあったが、不味かったからのも僕が食事をしなかった理由だ。
その点、この珈琲は美味しいと思う。薄くなく、苦すぎない塩梅。飽きを感じない後味の良さ。まさに絶品ならぬ絶杯とでも言おうか。兎に角気に入った。
「それで、アレの調子はどうなんだ?」
和人がアンドリューさんに聞いたのは《ザ・シード》のことだろう。和人に託され《ザ・シード》とは、《ソードアート・オンライン》のような仮想世界を誰でも異世界を創ることが出来るプログラムパッケージだった。
和人はその種をアンドリューさんに渡してネット上に展開、今では多くのタイトルが世に出回っている。
茅場晶彦の狙いは定かではないが、少なくともこれは悪いことではないだろう。天才の遺物、仮想世界は今や一般的になり、時代は次の形への変動を始めている。
(ま、学生の僕は流れに身を任すしかないけどね)
いくらゲーム内でトッププレイヤーだったからって現実では唯の学生だ。ここからは、所謂大人の世界ってやつだ。
それはそうと、ずっと気になっていたことがある。
「アンドリューさん、アルバイト募集してます?」
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和人side
ソル……いや、湊が目覚めたのは、俺がALOでログアウトさせてから三日後だった。
仮想世界に適応し、長い時を過ごした彼の肉体は現実での活動をするのに、それほどのタイムラグが生じたのだった。もし、アインクラッドにもう少し長くいたら、彼はこちら側に戻ってこなかったかもしれない。そう考えると、自分の選択に良かったと思えた。
初めて逢った時、彼は大変なことになっていた。
麻酔が効かなくなっていて、緻密な検査等による原因解明にやっけになっていた。
それに、肉体が急激な変化を起こして、彼の病室からは絶えず苦痛の叫びが聞こえてきた。
幸い、彼は無事退院して俺と同じ帰還者学校に通うこととなった。
運良く湊と同じクラスになって、彼の知らなかったことが次々分かった。
まず、湊は頭が良い。授業中はうたた寝をしている湊だが、指名されれば必ず正解。クラスメイトは皆、分からない所を湊に聞くようにしてる位には賢い。
次に、湊は人付き合いが上手い。誰とも壁を作らず、接しやすい雰囲気を持つ湊はあっという間にクラスに溶け込んだ。……俺とは違いコミュニケーション能力が高い。
そして湊はその見た目に反してかなりユーモアの有る奴だ。ジョークにはジョークで返してくれるし、大声ではないが笑ってもくれる。
(男の俺から見てもイケメンだし、彼女いるんだろうな)
気になった俺はさりげなく聞いてみたが。
「……モテる奴には分からん物があるのよ」
何故か遠い目をして答えていた。
実際、湊は内外イケメンだ、モテない筈が無い。明日奈に聞くと。
「あー、湊君ね。人気過ぎて水面下での争いが絶えないって聞くけど……彼女居ないんだね」
……本人はこのことを知っているのだろうか。もう湊に話しかける女子全てか湊を狙っているようにしか見えない。
「アンドリューさん、アルバイト募集してます?」
追加しておこう、湊は結構マイペースな奴だ。流されないというか、芯の通った自我がある。
こうした湊に関する発見も、俺の日常の楽しみになっていた。
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珈琲を飲み終えて店内を見渡すと、集団と離れた所に居る一人の少女を見かけた。
ショートヘアの少女だ。今日はSAO帰還者の集まりだと聞いているが、知り合いにソロの女性プレイヤーは居ない。寂しそうな瞳に居ても立ってもいられず、追加注文した紅茶を片手に話しかける。
「こんにちは、僕は湊。はじめまして……だよね?」
「あっ……はい」
話しかけられたことが意外だったのか驚く少女。
「今日は知り合いは居なかった?」
「いや……私、直葉っていいます。今日は……お兄ちゃんに誘われて……」
「お兄ちゃん?」
「あっ、キリト君のことです」
成程、和人の妹さんか。彼女の話は一度だけ聞いたことがある。確かシリカと会った時だ。
(にしては……)
一人寂しくしてる彼女の兄を見る。彼はどうやらアンドリューさんとクラインこと壺井遼太郎さんと盛り上がっている。
酷い兄も居たものだ。
「キリトから君の話は聞いたことがあるよ」
「お兄ちゃんが私の?」
「ああ、とても大切な妹だって」
和人のお兄ちゃん株を上げるために話す。僕としても彼女には寂しがって欲しくない。
「お兄ちゃんが……」
「これからは時間がたっぷり有る。沢山甘えなよ、兄っていうのは甘えられることが嬉しいもんだからな」
「ありがとうございます」
直葉は笑顔で言った。元気を取り戻したようで良かった。
そう…………君たちには幸せになって欲しい。僕と星奈よりもね……。
「君が良ければ彼の話をしようか」
「ありがたいですけど……」
彼女が感じているのは疎外感だろう。この場に居るのはデスゲームを生き抜いた仲間であり、自分はそうでは無い事実に溝を感じてしまっている。
でも、
「大丈夫、君は取り残されはしないさ」
「え?」
「まあそれは置いといて。そうだなぁ、あの話からしようか。あの時────」
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ALOにログインして夜空を飛ぶ。
実は今日初めてログインしたが、羽の操作は簡単で助かった。
約束の場所に向かっていると、月光の幕で踊る二人の妖精が居た。
一人は黒一色、一人は金と翠で輝いていた。
鐘の音が鳴り響く。宙から現れたるは忌まわしき鉄城〈アインクラッド〉。
デスゲームではない従来の姿で、僕達プレイヤーの元に戻ってきた。
直葉に言った思い出。それは過去の物だ。だけど、今から作る思い出も、きっと本物であるはずだから──────。