引越しが終わってバタバタしてました。許してぇ。
サクサク行きたいんですけどね(願望)。
まあ思い通りのペースでは進まない訳で……
ではどうぞ
「中古のバイクで走り出す~♪」
「ったく、ご機嫌だな湊」
「まあね」
僕と和人はバイクで総合病院に向かっている。今日は菊岡側の準備が整ったので、用意された環境の中GGOにログインする日だ。最も、今日はGGO予選当日。ギリギリだ、大人なんだからもっと余裕を持って欲しい。
「結局のところさ、和人は準備したの?」
「…………」
病院の駐輪場にバイクを停めて、病院のエントランスに入った所で和人に聞く。黙り込んでしまう和人。からかってやろうと思い口を開こうとしたが、和人の緊張感を感じ取り、口調を真剣なものに変えた。
「和人、何処が気になる?」
「湊……」
「今回の依頼、菊岡が持ち込んだ事件性の高い非常に危険なものだ。しかし、安全性に関してはこうして最大限配慮されている。和人には何を感じてるんだ?」
ここまで来ると心配より疑問が勝った。和人の肩に両手を置き、目を見つめる。
「……なあ湊。本当に、ゲーム内から銃撃で人を殺すことは不可能なのか?」
「ああ、不可能だな」
「……なんでそんな自信満々なんだ」
「うーん、何と言ったらいいのだろう。カーディナルシステムと
「……そうか」
「ごめん和人。もっと核心的な言葉で言えたらいいけど、僕には上手く言葉に出来ないから……」
「いや……それでも十分だよ」
今ようやく解った。和人がこの一週間考えていたのはこの事件の不可解要素である殺人性の部分だ。殺人…………、いや、今考えることでないな。
「兎にも角にも、依頼は依頼だ。僕達に出来ることをしよう」
「……そうだな」
どうやら煮え切らない様子。何時まで経っても、僕は無力なんだと実感してしまう。……僕は学生。そう、
~~~~~
菊岡に指示された病室に入ると、ナースが一人、綺麗な笑顔でお出迎えしてくれた。
「いらっしゃい二人とも♪」
「お世話になります」
「よろしくお願いします」
彼女の名前は安岐さん。SAOから目覚めた和人のリハビリを担当したり、僕に点滴を付けたりと世話になっている人だ。そして、リムレスの眼鏡が良く似合う美人でもある。……立ち姿から、何かしらの訓練を受けたことが解るが何者かは置いておこう。ほら、ちょっと推察するだけで笑ってない笑顔を向けてくる。
「じゃあ脱いでね」
「えっ?!」
「ほら、電極とか貼るんだよ和人」
和人は何を考えてしまったのか、顔を赤くして慌てふためく。意外とむっつりスケベな所も、和人の魅力だ。あんなに女性にアプローチを受ける和人がむっつり、これがギャップ萌えか。最近、僕がノンケかどうか自分でも怪しくなってきた。僕にも出会いはあるのだろうか。
「湊くんめっちゃムキムキねー。お姉さんを誘惑してるのか~?」
「あの……早く貼ってもらえます?」
安岐さんが身体をめっちゃ触ってくる。滑らかなソフトタッチだ、くすぐったいので早く済ませるように言う。
「もぉー、釣れないわねー」
「安岐さんなら良い人が沢山寄ってくるでしょ?」
「あら? 口説いてるの?」
もう嫌だ。早くログインしたい。
安岐さんと話してると、和人が驚いた顔をしていた。
「湊……その身体……」
彼はどうやら僕の肉体に驚いてるようだ。
「これは……まあ、副作用ってやつだよ」
僕の悲鳴は彼も聞いたと思うが、生で見るのは初めてだったか。
「和人……痩せたか?」
「いや、お前よりか変わってないよ」
「そ、そうか」
「はい、準備完了。いつでもいけるわよ」
安岐さんの準備が終わって、僕はベッドのアミュスフィアを取る。
「和人、初期位置で留まっといてくれ。迎えに行く」
「わかった」
アミュスフィアを装着し、ベッドに横たわる。
「「リンク・スタート」」
こうして、僕達はこの事件に足を踏み込んだ。
~~~~~~~~~~
「キリトー!」
初期スポーン位置に着いたのでキリトを大声で呼ぶ。
「こっちだソル」
キリトの声がした方を向く。しかし、キリトらしき男性アバターは見当たらない。でも、一人こちらを見ているプレイヤーは居る。面影はあるにはあるがもしかして。
「キリト?」
「ここだよここ」
……まさか、この女性アバターが?
「もしかしなくてもキリト?」
「さっきからそう言ってるじゃないか」
「コンバートってTSすることもあるんだな」
言うとキリトはウインドウを出して、可視化させて見せてくれた。
「いや男だぞ」
確かに男であると表示されている。しかし声が微妙に高くなってるし、髪はロングストレート。見事な美少女だ。
「俺からすればソルも女性アバターに見えるんだが」
「……否定はしないよ」
僕も最初は間違えたからな、自分だけど。
「こっち来て」
彼を建物のガラスの前に誘う。彼も自分の今の容姿を把握すべきだ。
「うぇっ!」
「な?」
「確かにこれは……」
確認が終わったところで移動を始める。キリトはこれから準備しなくてはいけない。エントリー受付時間終了までの猶予を考えると道草は食えない。
「……あ」
視界の端に水髪のプレイヤーが写る。身に覚えのある後ろ姿に、僕はつい声をかけた。
「あの!」
「ん?」
顔を確認すると、確かにあの時の彼女だった。
「この前道を教えて頂いた者です」
「あー、あの時の。用は済ませれた?」
「はい、お陰様で」
「そう、よかった」
彼女の記憶力に嬉しいと感じつつ。キリトの装備にアドバイスを貰えないかと思って提案をする。
「実はこっちの……」
「そっちの子は
「はい。BoBに出るのに、装備が出来てなくて」
「初心者でBoBに出るの!?」
「実力はあるんですけど……」
「あはははは……」
お前は笑えないよキリト。
「そこで、こいつの装備に関してアドバイス頂けたらなと」
「あー……いいわよ。まだ時間あるし」
「ありがとうございます!」
「それくらいいいわよ。それと、敬語使わなくていいわ。あなた達みたいなのは珍しいから、他にも色々教えてあげる」
有難い。一度ならず二度までも世話になるとは。
「僕はソル。よろしく」
「キリトです」
「私はシノン。ほら、こっちよ」
キリト? 何故口調が女子っぽいんだ?
~~~~~~~~~~
「さ、後はエントリーだけよ」
「間に合ってよかったな」
キリトの武器は銃の世界で使っている人が珍しい光剣、サブウェポンはシノンの勧めでFN Five-seveNとなった。装備は装甲付きの黒のコンバットスーツを選び、その後は試射場で試し撃ち、的に当たるまでは上達した。
「あ」
「どうしたのシノン?」
後は〈総督府〉でエントリーすれば完璧のはずなんだが、シノンが声を上げる。
シノンが目線を見る。彼女から見たら、そこには確か現在時刻が表記されて……
「「時間っ!」」
「え?」
こらキリトくん。何を驚いてるんだい? 僕達は絶賛ピンチだよ。
「やばいぞキリト。エントリー受付時間終了まで時間がない!」
「え、えぇっ!」
「急ぎましょう」
此処から総督府まで感測三キロ。残り時間は十分、ギリギリ……いや徒歩では無理な距離だ。
GGOにテレポートのような移動手段は無い。死んだ時に蘇生ポイントにリスポーンするだけである。街中でHPを減らすことは出来ない為、今は使えない。
ちなみに、僕もエントリーしていない。キリトと一緒にと思っていたのだからしょうがない。
シノンを先頭に総督府に走る。
「キリト! バギー乗れるか?」
「ああ、わかった」
この一言だけで僕の考えていることが伝わったようだ。これが相棒ってやつかな。キリトの相棒だなんて、照れる。
「では失礼して」
「きゃっ!」
加速してシノンを抱き上げる。速度だけで言えばこっちの方が速い。
「急ぐので掴まって!」
「え、ええ」
レンタルバギーに飛び乗り、後ろにシノンを乗せる。キリトも準備が完了したのを確認して、エンジンを吹かす。
「舌を噛まないように気をつけて」
「わわっ!」
アクセルを全開にさせて一気に加速する。高速に乗り、交通法を無視した運転で駆け抜ける。
「速いけど大丈夫?」
「……」
後ろのシノンがやけに静かだ。急ぐ為仕方ないが、かなりの速度を出している。女性ならば恐怖を感じてもおかしくない。
怖がらせてしまったのなら、申し訳なくていたたまれなくなる。
「あははは! もっと、もっと翔ばして!」
どうやら杞憂であったようだ。
「しっかり掴まってて」
アクセルをより回し、更に加速する。
「あははは!」
「はははは!」
時間が迫っていることも忘れて、僕らは笑って総督府に向かった。
~~~~~~~~~~
締切五分前に総督府に着いた僕らは急いで滑り込んだ。
「これで大会のエントリーをするの。よくあるタッチパネル式端末だけど、操作のやり方は大丈夫?」
「わからなかったら聞くよ」
「隣でやってるから、いつでも聞いて」
何処までも世話を焼いてくれる人だ。……ギリギリまでエントリーしていないお茶目な一面もあるようだが。
(……個人情報か)
素早い操作で必要項目を埋めていく。入力しなくても参加は出来るが、入れなければ賞品を受け取れないと書いてある。
(空欄でいいな)
あくまでこれは
「ソル、住所とかは……」
「空欄にした」
シノンと逆隣のキリトが小声で聞いてきた。
「そうか」
「……怪しいか?」
「ただの勘だよ」
僕は周りに勘とか感覚がおかしいと言われるが、キリトも大概だと思う。
「二人とも終わった?」
「ああ、色々ありがとう」
「私もあんな経験出来たし、おあいこってことね」
そういえば、周りの女性は全員キリトの方ばかり気にして僕はよく無視されるが、彼女は僕のことを確り見てくれてる気がする。バギーに乗っていた時もそうだったが、彼女とは波長というか相性が良いのかもしれない。
「二人の予選はどのブロック?」
「僕はFだったよ」
「Gでした」
キリト、お前まだそんな話し方してるのか。本当何考えてんだ。
「私はF。ねぇソル、番号は?」
「3番」
「そう。良かったわね」
「?」
「私は32番。決勝で会いましょう」
「そうか、楽しみだよ」
シノンの瞳に闘志が宿る。この首に今にも噛みつかんばかりの飢えを感じ、自然と口角が上がってしまう。
~~~~~
三人でエレベーターで地下の待機場に向かう。中には大人数のプレイヤーが既に大会開始を今か今かと待ち構えていた。
キリトはプレイヤー達が持つ銃と厳つい顔面アバターに気後れしている。
「気にすんなキリト。唯の馬鹿共だ」
「え?」
「ソルの言う通り、あんなに銃をひけらかして、対策して下さいって言ってるようなものよ」
やはりシノンは相当な腕のプレイヤーだと確信する。
シノンは僕の腕を掴むと、奥の扉に僕を引っ張っていく。
「何処に向かってるの?」
「更衣室よ。そこで戦闘服に着替えるの」
なるほど、仮想世界内でも更衣室なるものがあるのか。まあ、試着室があるから当然といえば当然だが。
「ちなみに一緒に着替えるの?」
「え? 嫌だった?」
「え? 何で?」
何かおかしい。彼女は一体何を考えているんだ?
「僕は男だけど」
「え?」
ウインドウを可視状態にしてシノンに見せる。
「ほら、男って書いてある」
「……本当。じゃあ、そっちのキリトは……」
「……わた、いや、俺も男です」
キリトもウインドウを見せると、シノンはパニックになって、視線は僕とキリトの顔を何度も往復する。
「キリトはわざとだから騙されるのは分かるけど、どこで僕を女だと?」
「いや、その見た目で男は無いでしょ」
「いや一人称僕だったでしょ? 声も女性ほど高くないでしょ?」
「そういう人だっているじゃない」
……いやはや仰る通り。ぐうの音も出ない。
「すみませんでした」
「まあいいわ。実害は何も無かった訳だし」
「うちのキリトがすみません。ほんと」
後ろで笑いを堪えているキリトの足の指を思い切り踏む。
「これはお前のせいだ。うん、そうしとこう」
「くく……、素で間違えられてる……」
「ほらぁ! 行くぞキリトぉ!」
「ぐぇ」
キリトの首をラリアットしながら男子更衣室まで引きづる。ホントこの悪ガキが、お前は何も関係なかったけどお前せいだこの野郎。
「仲良しね、ホント」