予選は全飛ばしです。
キンニクリムゾン! パワー!
重たくしていきます。
ではどうぞ
キリトと一緒に戦闘服に着替えたら、またロビーへと戻る。
緑と白の戦闘服を身にまとったシノンを見つけ、対面に座る。
「BoBについてはわかってるわよね?」
「……キリト?」
「お……お願いします」
キリトくんさぁ(クソデカため息)。
「はぁ、ソルは大丈夫なのよね?」
「僕としてはシノンみたいなベテランの説明を聞いてみたい。お願いできる?」
「わかったわ。ソルが言うなら説明してあげる」
本当に、本当にすまない。この大会が終わったら何でもするから、キリトをそんな目で見ないでやってくれ。
「まず、予選の時間になると参加者は全員フィールドに転送されるの。フィールドの地形や天候はランダムに設定されるわ。対戦者とは距離を置かれて転送されるから、開始直後に接敵することはまず無いわ。試合が終わるとこのロビーに帰ってきて、次の試合まで待機。本戦に出場できるのは各ブロックで決勝まで勝ち進んだ二人。こんなものでどうかしら?」
「わかったかキリト?」
VRゲーム中毒のキリトだが、これでも学校の成績は良い。その意欲をもっと他の所でも活用して欲しいが、キリトだから仕方ない。
「そうだ、最後に二人に教えてあげる」
「?」
「?」
シノンはそう言うと、僕とキリトを捉えて、
「敗北を告げる弾丸の味」
氷のように冷たい一言。その氷の中には、自信と殺意が氷結されている。
「それは楽しみだな。でも大丈夫なのか?」
「何が?」
「決勝までいけないとソルと対戦できないだろ?」
おいキリト、何挑発してんだ。その皺寄せは僕に来るんだぞ。
「予選落ちなんかしたら引退する。今度こそ」
シノンの雰囲気がガラリと変わる。
「……今度こそ、強い奴らを全員殺してやる」
彼女からは、
彼女の心意は獰猛な獣を型成して、まだ見ぬ敵への殺意が溢れている。
彼女の話が終わると、銀髪の男性プレイヤーが僕たちに近づいてきた。
「やあ、遅かったなシノン。遅刻するんじゃないかと思って心配したよ」
「シュピーゲル? あなたは出場しないんじゃなかったの?」
「迷惑かもと思ったんだけど、シノンを応援しに来たんだ。ここなら試合も大画面で中継されるしさ」
シュピーゲルと呼ばれたプレイヤーはシノンから僕とキリトに視線を移すと、
「そこの人達は?」
「ああ、遅刻しそうになった用事の原因よ」
「どうも、そこの人達です」
「……」
キリトの口調で全てを察する。相方の思考がわかるのは嬉しいが、同時に早くから気苦労する羽目になる。
「ど、どうも。シノンのお友達さんですか」
「そいつ男よ」
「ええ!?」
うーんデジャブ。
「そこの赤いのも男よ」
「ええええ!?」
「ちょっと待って?」
僕の方が衝撃的だったのは予想外だ。自分でも中性的な見た目だと自認してるが、キリトの方が女々しいだろう。
「いやー、シノンにはお世話になりました。それは色々と」
「ちょっと、変な言い方しないで!」
「つれないなぁ、武器選びにも付き合ってくれたのに」
「あんた一人だったら絶対案内してないからね!」
「はいはーい、キリトくんは黙りましょうねー」
「いだだだだ、痛い痛い痛い」
キリトにアイアンクローをぶち込む。両手で抵抗されるが、外れる気配は無い。
キリトにはこれくらいで丁度いい。
シュピーゲルといったプレイヤーの隠す気の無い悪意を感じながらも、シノンと話していると。
『大変長らくお待たせしました。これより、第三回BoB予選トーナメントを開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様はカウントダウン終了後に第一回戦のバトルフィールドに自動転送されます。幸運をお祈りいたします』
ロビーがお祭り騒ぎ、銃声と歓声が響き渡る。流石はGGO最強決定戦、熱気もゲーム内最大だ。
「ねえソル」
「うん?」
「決勝で会いましょう」
「ああ、次は決勝で」
差し出された拳に拳を当てる。
猟的な笑みに微笑みながら、僕は光に包まれて転送した。
~~~~~~~~~~
転送されて目を開くと、そこは廃墟となった神殿。造りは古代ギリシャを連想させる。時間帯は夕方、この世界の夕焼けも綺麗だなと眺める暇は無い。
「さぁて」
右手でS&W M500をホルスターから抜く。弾倉を回して装填を確認。
目を閉じ、アバターの枠を薄くさせる。フィールドを直接認識し、敵の位置を補足する。
「……方角のみか」
得られたのは敵の位置の三次元方角。距離がありすぎて武装までは解らなかったが、大差ないだろう。
銃を片手に走り出す。
「見敵即殺」
開始から一分。敵を目視。
正面から突っ込んだせいで、銃を構えられる。
「射程距離内だ」
──Boom!
相手の銃口が僕を捉えることは無い。いや、言い方が悪いな。そもそも相手がいなかったな。
頭の無いアバターが倒れる。射程距離は相手の方が長かったが、撃たれる前に撃てば関係ない。
「シノン……」
今、初戦を終えて実感した。シノンはトップレベルのプレイヤーだったのだ。彼女の闘志は、清く飢えていた。
「御預けってやつね」
転送されながら、僕はそんなことを考えていた。
――まだ、つまらない。
~~~~~~~~~~
待機場に戻った僕は、最初にいた席に座り、モニターで他の人の試合を観戦している。
「……お前、本物、か?」
ボロボロのマントを身につけたプレイヤーが話しかけてきた。フードとガスマスクで素顔はわからないが、ゴーグルの赤いレンズが不気味に輝いている。
「さっきからジロジロ見ていたようだが、何が言いたい?」
先程から感じてた粘り着くような視線の主だと判断する。
「試合を、見たぞ。お前のその、身のこなし、見覚えが、ある。その強さ、……本物、なのか?」
目の前のプレイヤーの気配、何処か憶えがある。ALOではない……SAOの……誰だ?
「本物? 何を言っている?」
「質問の、意味が、解らないのか?」
「解らないね」
「これでも、か?」
「…………っ!」
ガスマスク男が腕の紋章を見せる。顔のついた棺桶、《
僕は目を瞠る。
「まあいい。名前を、驕った偽物、か……、本物、なら、……いつか、殺す」
男の殺気を直に受ける。それは、僕の”沈殿”を呼び起こすのには十分過ぎる質のものだった。
「お前は……」
僕が奴を問い詰めることは出来なかった。
転送の光が、僕を奴から遠ざけた。
~~~~~~~~~~
予選は勝ち進んでいるが、僕の心は後退していった。
あのラフコフの紋章、あれは本物だ。SAO時代嫌という程見たのだから間違いない。
「嫌だ……」
現在進行形で僕を蝕む”殺意”がふつふつと煮たえる。
「僕……は……」
幻覚の屍が纏わりついてくる。
〘 殺人者、大罪人、お前は何故生きている、何故俺たちが死んでお前が生きている、同類だ、お前は死人だ、何故生きる、お前は咎人だ〙
耳を塞いでも声は聞こえる。当然だ、これは僕の幻聴、誰も実際には口にしていない言葉たちだ。
「やだ……、やだ……」
「ソル……?」
彼女だ。僕はきっと、……あああ、本当に、救われない。
「ソル? 大丈夫?」
彼女は優しい。でも駄目なんだ。何で僕は生きている?
「もうすぐあなたの試合が始まるわ……って」
つい彼女の手を掴んでしまった。駄目だ、駄目だ、何故? 何故何故何故??
「ぼくは……」
「?」
「ぼくって……」
「……ソル?」
彼女の瞳を見れない。せめて、せめて染まってしまうのなら、彼女の清い殺意でありたい。
「シノン……」
「なに……?」
身体が光で包まれる。
赦しですら、許されることすら、僕にはされないと云うのか。
……死にたくない。
~~~~~~~~~~
シノンside
私が試合に勝ち、待機場に戻った時だった。彼はこの前たまたま案内してあげたビギナー。コンバートだからって、ここまで勝ち進んでこれたことから高い実力を有していることがわかる。つまり、彼は
私はそう思っていた。
「やだ……、やだ……」
そんな
「ソル? 大丈夫?」
まだ彼のことをよく知らない私でも今の彼が異常であると分かった。声をかけても、彼は返してはくれない。
「もうすぐあなたの試合が始まるわ……って」
モニターを確認して、一歩、彼から離れるように足を出すと、彼に手を掴まれた。
「ぼくは……」
「?」
「ぼくって……」
「……ソル?」
おかしい、目の焦点は合っておらず、瞳孔も震えている。
「シノン……」
「なに……?」
泣きそうな顔で私を呼ぶ彼を見つめる。次の言葉を待つと、彼を光が包んだ。しまった、もう試合が始まってしまう。
「ソル……」
私には解らなかった。
「…………撃ち抜く」
彼のことは後回しだ。今は、決勝まで勝ち進むことに集中しなくてはいけない。
~~~~~~~~~~
僕はとうとう決勝まで駒を進めた。相手は勿論シノンだ。
「HAHAHA……」
自身の滑稽さに笑ってしまう。どうせなら死ぬ前に、彼女の殺意を受けてみたいと考えてしまった。死ぬのが嫌なくせに、仮想世界だからって死にたがるなんて、ナンセンスな結末だ。
決勝戦のフィールドは都市。時間帯は夕方。
僕はシノンの位置を感知して、橋の上を歩いていく。
──Boom!!!
銃声と共に僕の横の車が大破する。何故外したのだろうか。試合で見た彼女の狙撃を考えれば普通は外さない。
バスから出てきたシノンが近づいてくる。怒っているようだ。
「巫山戯んじゃないわよ!」
彼女に胸倉を掴まれる。
「何故外したの?」
「なっ……、あんた何考えてんのよ!!」
「僕は……君の殺意を受けたかっただけ……」
「なら! あんたが私と真剣に戦いなさいよ! 今のあんたを殺した所で、私はちっとも強くなれないじゃない! あんたの我儘で、私の戦いを侮辱するな!!」
「……わかった」
僕の事情を彼女に押し付けるのはいけない。そこまで堕ちてしまったなんて。せめて今からでも真剣にしなくてはならない。
「何mで確実に当てれる?」
「え?」
「そこから撃ってもらっていい」
「はぁ?」
僕は一先ず15m離れる。
「此処で当てれる?」
「……ば、馬鹿にしてんの!?」
「なら、合図はこれで」
S&W M500の弾を一つ取り出す。
弾丸を指でコイントスの要領で弾く。
シノンは銃を構える。彼女が持つのは対物ライフル。当たれば即死は免れないだろう。
弾丸がコンクリートの道に落ち、金属音を鳴らして跳ねた。
──Boom!!!
同時に右足を引いて左に避ける。次弾を装弾する隙に接近し、へカートのバレルを掴んで彼女を組み伏せた。S&W M500を突き付ける。
「……僕は女性を撃つ趣味は無い。出来れば君を撃ちたくない。降参してくれないか?」
「ちっ、……り、リザイン」
こうして、Dブロックの勝者は僕となった。
~~~~~~~~~~
詩乃side
やられた。完敗だった。
ソルの申し出、それは私を馬鹿にしたものだった。しかし彼は私の弾丸を避けた。間違いない、彼は私なんかよりも遥かに強い。
「…………」
自宅のアパートからほど近い、小さな児童公園の片隅。既に藍色の空に、街灯の明かりだけが私を照らしてる。
「朝田さん大丈夫?」
隣のブランコに腰掛ける
「ええ、大丈夫」
シノン――
彼女の様子に、恭二は不服そうに頬を膨らませる。
「珍しいね、朝田さんがそんなに思い悩むなんて」
「そう? 決勝では負けちゃったけど、彼の方が大変そうだと思って。他人の筈なんだけどなんだか放っておけなくて」
「……初めてじゃない? 朝田さんがそんなに他人のことを考えることなんて」
言われてみれば、そうかも知れない。普段は自分のことで手一杯で、他人のことを考えている余裕なんてない。だが、《彼》の震える姿が、どうしても頭から離れない。それは昨日から二十四時間が経過した今でも変わりない。
「悔しかったからかしら?」
原因は自覚出来ていない。しかし何も思い当たる事柄が無い訳では無い。
彼とは一日足らずの付き合いしかないが、彼のことは少なからず気になってる。それがどんな感情なのかは言い表すことができない。
「ふうん……。じゃあさ、どっかのフィールドで待ち伏せ狩る? 狙撃がよければ僕が囮やるし……でも、やっぱり仕返しするなら正面戦闘がいいよね。腕のいいマシンガンナー、二、三人くらいならすぐに集められるよ。それとも、ビームスタナー使ってMPKするのもいいかも」
新川君がすらすらもPKプランを立てるのを右手で遮る。
「えっと……、そういうのじゃないの。何て言うか……、ごめん、私にもよく分からないけど、とにかくそういうのじゃないの」
スカートのポケットから携帯端末を取り出して時刻を確認する。
「あと三時間半でBoBだわ。その大舞台で、今度は彼に勝つ。勝って……」
――
私は彼より強くなって……いつかは……。
「それ……大丈夫なの?」
「え?」
新川君の視線が右手に落ちる。見れば、人差し指と親指が伸び、拳銃を模した形を無意識に作っていた。
「あ……」
慌てて手を開く。いつもなら、《銃》を意識した途端に動悸を起こす。だが今はその気配は無い。
「う、うん。なんか大丈夫だった。……なんでだろう?」
「…………」
新川君が私の右手を両手で包み込んできた。思わず手を引いてしまう。
「ど、どうしたの新川君?」
「なんだか……心配で……。朝田さんが、いつもの朝田さんらしくないから……。その……ぼ、僕にできることがあったら、何でもしてあげたいんだ。本大会はモニタ越しの応援しかできないけど……その他にも、できること、あったら……って……」
「い……いつもの私、って言われても……」
新川君から見た私は一体どのようなものか、想起できずにいる。新川君は急込むように言葉を並べた。
「朝田さんて、いつもクールで……超然としててさ、何にも動じないで……僕と同じ目に遭ってるのに、僕みたいに学校から逃げだしたりしないしさ……強いんだよ。すっごく。朝田さんのそういうとこ、ずっと、憧れてたんだ。僕の……理想なんだ、朝田さんは」
新川君の熱気に気圧され、体を引こうとしたが、ブランコの鉄柱に防がれてしまう。
「で、でも……強くなんかないよ、私。君も知ってるでしょう……銃とか、見ただけで、発作が……」
「シノンは違うじゃない」
半歩踏み出してくる。
「シノンは、あんな凄い銃を自在に操ってさ……GGOでももう、最強プレイヤーの一人じゃない。僕、あれが朝田さんの本当の姿だと思うな。きっと、いつか、現実の朝田さんもああなれるよ。だから……心配なんだ。あんな男のことで、考え込んだり、悩んだりしてる朝田さんを見ると。僕が……僕が、力になるから……」
――違うよ、新川君。
視線を逸らして、心の中で呟く。
――私だって、ずーっと昔には普通に泣いたり笑ったりしてたんだよ。なりたくて《今の私》になったわけじゃないんだよ。
確かに現実でもシノンのように強くなりたい。でも、心の底では、普通に友達と笑い合ったり、騒いだりしたいと思っているのかもしれなかった。それ故に、グロッケンで出会った初心者二人を見かけた時、あれこれ世話を焼いたし、男だと知ってショックを受けたりもした。
新川君の気持ちは素直に嬉しいが、何処か気持ちの標準がずれているように思える。
――私が……欲しいのは……。
「朝田さん……」
不意に囁かれ、眼を見開く。いつの間にか、背後の鉄柱ごと新川君の両手に包まれていた。
私は、半ば反射的に両手で新川君の体を押し返していた。
「ご、ごめんね。そう言ってくれるのは、すごく嬉しいし……君のことは、この街でたった一人、心が通じ合える人だと思ってる。でもね……今はまだ、そういう気になれないんだ。私の問題は、私が戦わないと解決しない、って思うから……」
「……そう……」
寂しそうに俯く新川君を見て、罪悪感が胸に満ちる。
今はただ、心を覆い包む恐怖の記憶、その硬く黒い殻を打ち破って自由になりたい。望むのはそれだけだ。その為に、黄昏の荒野で戦い、勝利する。
「だから……それまで、待ってくれる?」
かすかな声で囁くと、新川君は無言のまま凝視し、やがてこくりと頷き、微笑んだ。
公園から出たところで新川君と別れ、私は自宅へと急いだ。