なかなか進捗遅くてすみません
書きたい時しか書けないから許してホント。
ではどうぞ
GGOから戻って、病室のベッドで目覚める。過去最悪の目覚めに、吐き気もある。
感覚の戻りきらない足でトイレに駆け込む。体に付いた電極パッドは無理矢理に離れ、アミュスフィアはコードが外れる。
「ぅっ……」
腹の中身を全てぶちまける。吐き出す物が無くなろうとも、僕は吐き続けた。
「湊……!」
僕の後に戻った和人が背中を摩ってくれる。吐き気が唸りを潜める。
「ありがとう和人」
「……何があった?」
眉を落として覗き込む和人。此処で彼に縋ってしまいたい。でも、彼は今、幸せなのだ。素敵な恋人、仲の良い兄弟、未来ある学生なのだ。此処で、僕の死を彼に背負わせることは出来ない。
「何も……」
「何も無いなんてことは無いだろう!」
「……」
「答えろ、何があった? それとも、親友である俺に言えないことなのか? そんなに俺は頼りないか?」
その言葉を使うのは卑怯だ。
「君のことは信頼してるし、親友だと思ってる。でも、これは僕が背負うべきものだ。君を巻き込む訳にはいかない」
~~~~~~~~~~
和人side
俺はBoB予選Gブロック決勝を勝ち、GGOからログアウトした。ソル――湊とは予選中一緒に居れなかったが、湊もFブロックを優勝しているようだった。
「ちょ、ちょっと湊くん!」
現実で目が覚めた時、安岐さんの慌てる声に頭が急速に冴える。
見れば、湊が口を抑えながら部屋を出ていく。アミュスフィアも着けたまま、彼にちぎられたコードが置いてかれる。
「湊?」
何故だか、湊にSAO時代の姿を幻視した。それも《蜃気楼》として《笑う棺桶》と戦っていた頃の姿だ。
俺はアミュスフィアを投げ捨て湊を追いかけた。
「ぅっ……」
吐いた。VR酔いでもしたのだろうと思ったが、あの湊だ、それは有り得ない。
「……何があった?」
GGOでは順調に勝っていったと思っていたが、今の様子を見るに多大な負荷のかかるような戦いだったのか。
「何も……」
嘘だった。湊の顔は窶れている。何も無いはずは無い。
「何も無いなんてことは無いだろう!」
カッとなって怒鳴ってしまう。
「答えろ、何があった? それとも、親友である俺に言えないことなのか? そんなに俺は頼りないか?」
顔を覗くと湊はあの目をしていた。PoHにトドメを刺そうとした、あの目を……。
「君のことは信頼してるし、親友だと思ってる。でも、これは僕が背負うべきものだ。君を巻き込む訳にはいかない」
まただ、また
「お前だけで背負うな! それは本当にお前がやるべきことなのか!」
「ああ、これは流石に和人には頼れない」
嘘だ。彼の瞳は助けを求めている。この苦しみから解放されたいと訴えている。
「いいや、頼ってもらう。今のお前をそのままにしておくことは出来ない」
「……」
湊の手をとる。SAOでは頼り強かった手、ALOでは最近まで共に冒険していた手、……そして、今助けを求めている手。
「教えて……くれないか?」
目を瞠り、俯いた。ポツリ、ポツリと湊は話し始める。
「《笑う棺桶》に……会った。あいつが《死銃》で間違いない」
「なっ!」
「
続き? 最後?
的を得ない言葉に困惑する。でも、今ここで湊に寄り添えられるのは俺だけだ。
「どういうことだ?」
「……死ぬのが怖い」
「なら死ぬな!」
「駄目だよ、僕は
「俺では……
「君は僕の
俺では駄目なんだ。もう湊は遠くへ行ってしまう。言っていることはよく分からないが、彼が助けて欲しいのは分かる。
「そもそも、だ。そもそもお前が死ぬ必要が分からない」
「……罪には罰が伴う。僕はあまりにも罪深い。死の罪は死の罰が必要になる。この手は沢山の血で染まってしまった。
「湊……」
SAOで《蜃気楼》として行ったPKのことだろう。
……彼の今の姿は、もしかしたら有り得た俺の姿かもしれない。《笑う棺桶》掃討戦の時、俺もプレイヤーを……人を殺してしまうそうになった。その時俺たちの代わりに剣を振ったのは湊だ。湊は俺達の分まで罪を背負ったのだ。それを俺たちが見て見ぬふりをしていただけだ。
「お前がやっていなくても、誰かがやっていた。少なくとも、俺がやっていた」
「やめろ、和人」
「その罪はお前だけのものじゃない。だから罰もお前だけのものじゃない」
「やめろと言ってる!」
湊が俺の肩を掴む。
「そんなこと言わないでくれ。そんな……そうであったのなら、僕は……何の為に、誰の為に剣を振り、人を殺したか判らなくなる」
そうか、湊はわかっていないのか。君の行いが誰を救い、誰の命を助けたのか。
「お前は誰かの罪の為に剣を振った訳じゃない。誰かの命の為に剣を振った、そうだろ?」
「そんなの結局自己満足さ。僕はそんな英雄じゃない。例え助かった命があったとして、それは結果論だ。僕の行いはそんな奇麗なものじゃない」
「だが事実だ。お前は誰かの命を救った。俺だってその一人だ。その事実から目を逸らすな、罪を償いたいなら生きろ、生きて罪を償うんだ。俺たちと一緒に……」
「……わからない。わからないよ和人」
湊の背中に哀叫を感じて、もう何をすればいいのか分からなくなった。
~~~~~~~~~~
次の日、一人暮らしの部屋に一人、孤独を感じながら目を覚ます。
日曜日、学校の無い朝。
スマホを起動させて時間と天気予報を確認する。カーテンを開いて、曇い雲の朝日を浴びる。
「一緒に償う」
口が零したのは彼の言葉。
死では償えないのはわかっている。僕が誰かの命を助けた事実、それもわかっている。でも自身の中で噛み砕けない。
「助けたなんて……」
要らない子にそんな奢侈は勿体無い。約束の時間まですることも無い、又眠る為、布団を被った。
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和人と病室に入る。
「湊くん大丈夫?」
「無問題です」
「……」
「そんな顔するな和人。大丈夫だよ」
荒ぶる波は揺らぎを手放し、僕の心は少し落ち着いてきた。
「とりあえずBoBは優勝しておこう。いける? 和人?」
「……はっ、楽勝だぜ」
アミュスフィアを装着し、仰向けになる。
横の和人と顔を合わせ、頷く。
「「リンク・スタート」」
「行ってらっしゃい。二人の《英雄》さん」
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総督府の入口付近で、水髪の少女――シノンと会った。
彼女と行った予選決勝は、僕のせいで台無しにしてしまった。結果は僕の勝利だったが、彼女は納得しないだろう。オドオドながらに声をかけた。
「よ、シノン。今日はよろしく」
「こんにちはシノン」
キリトのゲーム内でのコミユニケーション能力が今は少し羨ましい。現実ではお察しな感じだが。
「あなた……大丈夫なの?」
どうやら彼女には試合内容よりボク自身のことを心配させてしまったらしい。
「……大丈夫。昨日のヘマは繰り返さない。思い切り撃ち抜いてくれ、当てれたらだけど」
「…………そ、言ってくれるわね。安心しなさい。必ずぶち抜いてあげるから」
引っかかりは拭えないが、本番になれば気にならなくなるだろう。
「それにしても、えらく早い時間からダイブしてるんだな。まだ大会まで三時間はあるぞ」
「昨日は誰かさんのおかげで危うくエントリーし損ねそうになったから」
キリトくんのせいですね。
「だいたい、そっちだって今から潜ってるじゃないのよ。アンタに暇人みたく言われたくないわよ」
「昨日はうちのキリトがほんと、ほんとーにすみませんでした。今日はキリトくんが頑張ったから早くこれたんだよ。弁解はキリト?」
「……ないです。あ! な、ならお互い待ち時間を有効活用しませんか。本戦開始まで、そのへんでオチャ「キリトくぅん?」……じゃない、情報交換でも……」
厚かましいにも程がある。彼女もそこまでは流石に……
「いいわよ」
「え?」
何故かシノンが僕を見ている。話しているのはキリトだが、顔に何か付いてるのだろうか。
「何?」
「……何も。どうせ私からそっちに一方的にレクチャーすることになるんだろうけど」
「そんなつもりは……なくもないけど……」
総督府ホール一階でエントリー手続きを済ませ、タワー地下一階に移動する。酒場ゾーンとなった当階層には無数のプレイヤーが屯している。天井に設けられた大型パネルモニタの光彩だけが視認できる空間で、奥まったブース席に腰を下ろす。
シノンは金属板のドリンクメニューを眺め、アイスコーヒーの横のボタンを押した。するとテーブル中央が開いてグラスが出現する。その光景に続いたキリトはジンジャーエールを押した。僕はシノンと同じくアイスコーヒーにした。
「本戦のバトルロイヤルってのはつまり、同じマップに三十人がランダム配置されて、出くわすそばから撃ち合って、最後まで生き残った奴が優勝……ってことだよな?」
「お前……」
まずシノンに聞いたのはキリト。その内容も、送られたメールを見ればわかるものだ。気前よく話をさせてもらえるのに、前提知識すら無いのは機嫌を悪くされかねない。
「そもそもまず僕に聞け……」
「はぁ、大丈夫よソル。どうせこんなことだろうと思ってたし」
「いやでも」
「いいのよ。……基本的には今あんたが言った通り、参加者三十人による同マップでの遭遇戦。開始位置はランダムだけど、どのプレイヤーとも最低千メートル離れてるから、いきなり目のまえに敵が立ってるってことにはならないわ」
「せ、千メートル? ってことは、マップは相当広いのか……?」
「おま……」
口を挟もうとしたが、シノンに手で遮られた。
「マップは直径十キロの円形。山あり森あり砂漠ありの複合ステージだから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不利はなし」
「じゅ、十キロ!? でかいな……」
「これでそっちの話は終わりかしら?」
「え? いやっ……」
キリトと話し合いを設けたのに何故かキリトとの会話を切りたがるシノン。
「……それ、ちゃんと遭遇できるのか? ヘタすると、大会時間終了まで誰とも出くわさない可能性も……」
「はぁ……」
キリトの発言に頭を抑える。此処は銃の世界なんだ、射程を考えれば逆に手狭の広さだ。
「銃で撃ち合うゲームだもの、それくらいの広さは必要なのよ。スナイパーライフルの射程は一キロ近くあるし、アサルトライフルだって五百メートルくらいまで狙えるわ。狭いマップに三十人も押し込めたら、開始直後からバリバリ撃ち合いになって、あっという間に半分以上死んじゃうわよ」
「ははあ、なるほどなあ……」
「──でも、あんたの言う通り、遭遇できなきゃ何も始まらないしね。それを逆手にとって、最後の一人になるまで隠れてようって考えるヤツも出てくるだろうし。だから、参加者には、《サテライト・スキャン端末》っていうアイテムが自動配布されるの」
「サテライト……スパイ衛星か何か?」
「そ。十五分に一回、上空を監視衛星が通過するって設定。その時全員の端末にマップ内の全プレイヤーの存在位置が送信されるのよ。そのうえ、マップに表示されている輝点に触れれば名前まで表示されるおまけつき」
「ふむ……つまり、一箇所に潜伏し続けられるのは十五分が限度ってことか。マップに自分の居場所が表示されたあとは、いつ後ろから奇襲されてもおかしくないもんな」
「そういうこと。これでアンタとの話は終わり」
シノンが半ば強引に会話を切り上げる。アイスコーヒーを一口飲み、僕と向き合った。
「あなたからは何かある?」
「……じゃあ聞くけど」
僕は出場選手の名前が列挙されたページを可視化してシノンに見せる。
「この中に知らない名前は幾つある?」
「え? えっと、もうBoBも三回目だから、ほとんど顔見知りかな。まったく初めてってのは準備不足の光剣使いとあなたを除くと、三人だけ」
「三人か……。名前は?」
「《銃士X》と《ペイルライダー》、それに《スティーブン》かな」
「ん? 《スティーブン》? ……ああ、《ステルベン》か。ありがとう」
「これ《ステルベン》っていうのね」
「独語で死亡することの意味らしい」
「へぇー、物知りね。でもなんでこんなこと訊くの?」
聞かれてしまった。全てを彼女に説明することは出来ない、さてどうするか。
「……もしかして、昨日、あなたの様子がおかしかったことと何か関係あるの?」
彼女の鋭い視線が僕を貫く。その藍色の瞳に吸い込まれ、自然と僕は頷いてしまった。
「……ああ。昨日、昔同じVRMMOにいた奴に話しかけられた。彼奴も本戦に出てくる。さっきの三名のどれかが奴だ」
「友達だったの?」
「…………そんなものじゃないさ。言うなら敵、かな」
僕が昨日会ったのは恐らく《赤目のザザ》。《笑う棺桶》の幹部だ。
「それはただの敵?」
何故彼女はこんな鋭いのか。ああ駄目、そんな目で見ないでくれ。君には、何故か隠し事なんて出来はしない。
「……僕は、奴と殺し合った。忘れもしない、あの殺気、あの気配、嫌な腐れ縁だよ」
「……殺し合った……敵……。それは、プレイスタイルが馴染まないとか、パーティー中にトラブって仲違いしたとか、そういうゲーム上での話? それとも……」
鋭すぎるのも困りものだな。
「そんな生温くない、本当の殺し合い。奴が所属していた殺人集団と僕は単身で殺し合った」
僕は奴らの殆どを処分出来たが、逆に数人取り逃した。そのツケが、今巡り巡って僕を蝕んだだけ。いや、あの時全員処分したらそれこそ
「
「死、……なんで?」
いつの間にか隣にまで近付いていたシノンが覗いてくる。
「なんであなたが死ぬの? そんなに強いのに、なんで?」
「言葉は難しい。少なくとも、僕が僕であることは無くなる。自身が死ぬ、っていうのはそういうこと。肉体は……」
「ソル?」
シノンには意味のわからないものだ。シノンは無言で瞳を伏せる。
「もし、目の前で誰かが殺されそうになったとして、手元に銃があれば、迷わず撃ち抜ける?」
「…………!」
なんでだろう。言葉がスラスラと出てくる。まるで膨れ上がった膿を排出しているみたいだ。
「ソル、あなたはもしかして、
彼女の問いは酒場の喧騒に溶け消えた。藍色の眼が揺れ、伏せ、顔が左右に振られる。
「…………ごめん。訊いちゃいけないことだったね」
「…………いいんだ。何故か、君には多くを話してしまう。訊いて欲しかったのかもしれない。迷惑だったよね、ごめん」
沈黙が訪れる。彼女に僕のほぼ全てを知られた。忌避と嫌悪の色を浮かばれても仕方ない。
しかし、彼女は僕と眼を合わせて、逸らすことはしない。身を乗り出し、僕を食い入るように見つめた。サファイアのような瞳の奥に、助けを求める光を見た。
次の瞬間、シノンは両眼をぎゅっとつぶった。唇が震え、きつく噛み締められた。
「……そろそろ待機ドームに行こう」
「…………そうね、装備の点検やウォーミングアップの時間がなくなっちゃう」
「あ、待てよ!」
居たのかキリト、そういえば居たなキリト。
時間が経つのは早いもので、本大会まで一時間をきっている。
エレベーターに入る、落下感覚を味わっている時、背中に指を押し当てられた。
「……あなたのことはわかった。でも、いや、だからあなたを本戦で撃つ」
「……そうしてくれ」
小さく頷く。これは仕事だが、もうそれ以上の意味を持つ。
彼女と戦うのは、必然になるだろう。思うに、彼女も僕と近しい者なのだろう。だからと云う訳では無いが、彼女との
「せめて君に会うまでは生き残るよ」
「そう、ありがとう」
目的の階に到着し、エレベーターが乱暴に停止する。戦場が、僕を包み込んだ。