君ガ為ニ剣ヲ振ルフ   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

やっとって感じですかね。


ではどうぞ


《共に》

 

 

 

 キリトが突然光剣を展開させたかと思うと、火花が散る。後方から放たれた大口径弾が迫っていた。煙越しにしては狙いが正確すぎる。つまり、死銃が追ってきているのだ。

 奴の能力構成(ビルド)はわからないが、人ひとりを抱えて振り切れるとは思えない。直に追いつかれる。

 

(最悪だ。本当に……無力さに吐き気がする)

 

 僕が感知したザザの位置に向かいながら、奴は一度混戦地帯に入った。その中で縦横無尽の立ち回りをされたせいで特定を妨げられ、戦闘していた五人のプレイヤーを倒した時にはシノンが狙われていた。

 何故か合流したキリトに説明を求め、責めることはできずにスモークグレネードを投下することだけ命じた。シノンは未だ撃たれていないが、撃たれていてもおかしくなかった。これで彼女も標的の一人だと確定してしまった。血の巡らない身体だが、血の気が引いていくのが解った。

 

 

 北のメインストリートに出る。半壊したネオンサインを見つけ、足を速める。【Rent—a–Buggy&Horse】、三輪バギーと金属ロボの馬が置かれている。迷っている暇は無い、まだ動きそうなバギーに駆け込む。

 

「キリトは?」

「俺も」

 

 SAOでもそうだったが、馬の操作技術は他のスキル習得なんかの比にならない。無事だったバギーは二台だけ、馬は数台残っているが全部潰してる時間は無い。

 

 シノンをリアステップに乗せ、エンジンを掛ける。後輪を鳴き回しながら左手でS&W M500を連射。射程ギリギリまで馬を壊すが、一台残ってしまう。

 

「シノン、あの馬を破壊できる?」

「え……」

 

 キリトが持っていたスナイパーライフルはシノンに返されており、現在あの馬を攻撃できるのはシノンのライフルだけだった。

 

「わ……解った、やってみる……」

 

 震える両手でへカートを抱えるシノン。

 

「え……なんで……」

 

 呟くシノン。銃声はいつまでも鳴り響かない。

 

「……引けない……なんでよ……トリガーが引けない……!」

「……飛ばすよ、しっかり掴まってて」

 

 恐怖の叫びだった。僕は彼女の過去は知らない、それは安易に触れてはいけないものだ。彼女の様子を見れば解る。

 彼女の腕を掴んで自身の腹に回してからシフトペダルを踏み、ギアを上げる。二台のバギーはトップギアに入る。

 

「チッ」

 

 つい舌打ちをしてしまう。馬に跨るザザがモータープールから飛び出してきた。見た所乗り慣れている、相手のミスは期待出来ない。

 

「なん……で……」

 

 シノンの震えた声が耳に入る。今のバギーは最高速度だ、しかし奴の馬はバギーと同速かそれ以上の速度で迫ってくる。馬が車より速いなんて、と思ったが機械馬だからこその性能だと呑み込む。

 

「追いつかれる……! もっと速く……逃げて……逃げて……!」

「…………」

 

 これ以上は加速できない。シノンの悲鳴に応えることができない。

 

「キリト! いけるか?」

「……任せろ!」

 

 後ろを走るキリトに頼む。キリトは速度を少し落とし、相対速度で奴に接近する。

 でも、後ろをとられたこの戦況、キリトが圧倒的に不利だ。

 

(!!!!!!!)

 

 咄嗟に左手でシノンを庇う。次の瞬間、鈍い感覚と衝撃が僕を襲った。

 

「ソルっ!」

「集中しろキリト!! ギリギリだ、ギリギリまで待て!」

 

「嫌ああぁっ!!」

 

 弾丸はシノンに届かなかったが、恐怖は彼女に届いてしまった。悲鳴を上げ、僕の背中に顔を押し付ける。

 二発目が来る、後ろ向きで運転していた僕は目視で掴み取るが、衝撃で運転が疎かになってしまう。車体が左右にブレる。

 

「やだよ……助けて……助けてよ……」

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 ザザは距離を詰めて確実に撃ち込む作戦なのか、銃をしまって乗馬に集中した。距離がじりじりと縮まる。キリトをぶつけても止まるとは考えにくい。

 

「シノン……、シノン、…………シノン!!!」

 

 声を鋭くして悲鳴を止める。彼女には苦しいことだが、実行できるのは彼女しかいない。

 

「シノン、このままだと追いつかれる。──奴を狙撃してくれないか?」

「む……無理だよ……」

 

 胸がキュゥと苦しくなる。

 

「当てなくていい。牽制として一発撃てばいい」

「……無理……あいつ……あいつは……」

 

 息が詰まるが、言葉は止めてはいけない。

 

「じゃあ運転を一時頼む、へカートを貸してくれ」

 

 こんなことは言いたくない。彼女がライフルを相棒のように大切にしているのは解っている。

 プライドが刺激されたのか、のろのろとだが構えるシノン。

 

「……撃てない。撃てないの。指が動かない。私……もう、戦えない」

「……撃てるよ」

 

 目の前に突っ伏したスポーツカーを見据え、後ろ向きでの運転に切り替える。

 

「君は撃てる。戦える。一人で撃てないなら、僕も一緒に撃つ、一緒に戦う」

 

 右手を伸ばしてギリギリライフルのトリガーにシノンの手の上から指をかける。

 震えていた指が収まるのを感じて、視界の着弾予測円に集中する。

 

「だ、だめ……こんなに揺れてたら、照準が……」

「揺れは止まる。五……四……三……二……一、今!」

 

 バギーがスポーツカーをジャンプ台にして飛び上がる。予測円は拡縮を止めているが、右往左往と動いている。

 引き金を引いた。マズルフラッシュと轟音が放たれる。弾丸は路上に横転する大型トラックのガソリンタンクの位置を貫く。

 

 弾かれるシノンをしっかりと抱き締め、着地に備える。着地の瞬間、後方に爆発が起きる。燃え盛る炎は死銃を包み込んだ。

 

「キリト!」

「おう!」

 

 ここはキリトに任せ、バギーを加速させて避難を急ぐ。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「…………」

「…………」

 

 砂漠の洞窟に避難した僕らの空気はどんよりしたものだった。この洞窟はスキャンをやり過ごせるが、スキャン結果を受信することができないので、キリトの位置は分からないままだ。

 

「勘頼りにグレネードを投げ込まれないのを祈っておくか」

「……そうね」

 

 僕まで暗くなってしまえば地獄だ。何とか話題を捻り出す。

 

「奴の消える能力、心当たりはある?」

「……たぶん、《メタマテリアル光歪曲迷彩》っていう|能力。ボス専用って言われてたけど……その効果の装備が存在しても、不思議じゃないわ」

「なるほど、この洞窟は閉鎖空間としてスキャン範囲から除外されてるけど、その能力で隠れててもスキャン結果を確認できたりすると思う?」

「……わかんないわよ」

「そ、そうか」

 

 絶望的状況は変わらない。

 

「……ここなら大丈夫、だと思う。下が荒い砂だから。透明になっても足音は消せないし、足跡も見える、さっきみたいに、いきなり近くに現れるのは無理」

「任せてくれ、感知には自信がある」

 

 少しでも安心させる為にシノンの横に少し距離をとって座る。配布された治療キットを打ち込む。

 

「…………ねぇ。あいつ……《死銃》は、もう死んだかな?」

「……わからない。正直、奴はパラメータで言えば僕やキリトより強い。キリトとの相性も考えると、難しいかもしれない」

「そう」

 

 もうキリトに全て任せしまおう、と考えてしまうが、心配の方が勝ってしまった。シノンを落ち着かせて、加勢に行くべきだ。

 

「……ごめん」

「……なにが?」

「僕の軽率な行動で君を危険に晒してしまった。もっと慎重に行動すべきだった。君を置き去りにして、あの銃口が君を狙い澄ました時、此処に無いはずの心臓が跳ねたんだ」

 

 自身の胸倉を強く掴む。もう思い出したくない、だけど実感しなくてはいけない。また()を重ねてしまった。

 

「……行ってくる」

「……え?」

「さっき逃げれたのは奇跡に近い。追われる前に仕留めきる。そうしたら、本当に安全だ」

「……なんで?」

「え?」

 

 立ち上がろうとて服を引かれ、尻をまた下ろした。

 

「なんで……、戦うの? 怖く……ないの?」

「怖いよ」

 

 少しだけ、彼女の中が見えた気がした。

 

「怖くても、戦うの?」

「ああ、戦い(これ)は償いじゃあない。()()()()()()()()()()を護る為の行動だよ」

「死にたくない理由?」

 

 ……本当、彼女には全て話してしまう。

 

「キリトが僕の生命線だ。彼が居なかったら僕は既に死んでたよ」

「……死ぬ?」

「自殺さ。どんな方法か、きっと誰にも迷惑をかけないよう念入りに準備して死んでいたよ」

「…………何が、あなたをそんなに死に追いやるの?」

「僕は、小さい頃から感受性が他の人と違ってたんだ。家族が皆死んだ時、僕のそれは壊れた。誰かの殺意、悪意を受け取る度に、自分が自分じゃなくなっていくんだ。気付けば包丁を首に当ててて、よく止められたっけ」

「だったら尚更、戦場(こんな場所)に来たら駄目なんじゃない?」

「さっきも言ったけど、彼を護る為だよ。本当の、最期の最期に止めてくれた、僕の()()だからね」

 

 軽く笑う。僕はこの話を誰かに、彼女に聞いて欲しかったのかもしれない。言葉はとめどなく連なる。

 

「だから、これが()()。この一戦で全てを終わらせる」

「どういうこと?」

「この遺恨を消して、僕も消える」

 

 彼女に言うべきでは無いことも口から止まらない。

 

「じゃ、そろそろ行くよ」

 

 立ち上がり、歩き出す。洞窟を出る直前、腕を掴まれた。

 

「正直、あなたの言ってることはよくわからない。でも、逃げていないことはわかる。私も……逃げない」

「……」

「ここに隠れない。私も、あの男と戦う」

 

 眉を寄せ、シノンに向き直って肩を掴む。

 

「死ぬんだぞ? 考え直せ」

「死んでも構わない」

「…………は?」

 

 意味が解らない。先程の彼女とは何か違う。

 

「…………私、さっき、すごく怖かった。死ぬのが恐ろしかった。五年前の私よりも弱くなって……情けなく、悲鳴上げて……。そんなんじゃ、だめなの。そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだほうがいい」

「それが普通だ。怖くていい、恐ろしくていい。僕は奴に殺されることは無いけど君は違う。君の現実の肉体が殺されるんだ」

「嫌なの、怖いのは。もう怯えて生きるのは……疲れた。──別に、あなたに付き合ってくれなんて言わない。一人でも戦えるから」

 

 僕を横切ろうとしたシノンを止める。彼女の目を見れば、自暴自棄になっているのが解る。

 

「独りで死ぬ気か?」

「……そう。たぶん、それが私の運命だったんだ……。……離して。私……行かないと」

 

 彼女を見ていると、過去の自分を見ているようで、行かせてしまった末路が容易に想像できてしまう。

 

「……それで行くのは止めろ。独りで死ぬっていうのは、君の思うものより何倍も……苦しいし、悲しい」

「わかったように言わないで! 一人で死ぬなんて言うあなたが、私に止めろって言うの?」

「それでもだ……」

「なら…………」

 

 

「──なら、あなたが私を一生守ってよ!! あなたも生きて、私を一生、死ぬまで守ってみせてよ!!」

 

 頭をガンと打ち付けられた衝撃だった。胸の底で、僕の生存本能が顔を覗いてくる。

 

「何も知らないくせに……何もできないくせに、勝手なこと言わないで! こ……これは、私の、私だけの戦いなのよ! たとえ負けて、死んでも、誰にも私を責める権利なんかない!! それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!? この……」

 

 握り締めた右手を目の前に突き出す。

 

「この、ひ……人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!?」

 

 ……やっぱりそうだった。彼女は僕と似たものを背負っていた。なら…………

 

「う……うっ…………」

 

 胸に額をぶつけられ、泣き出した。

 僕は彼女の右手を――――握る。

 

「…………え?」

「例え、他の誰も彼もがこの手を突き放そうと、僕は、僕だけでも、この手を握る。握り続けるよ」

 

 ()()()()。彼女の為に、()()()()()()()思えた。彼女が、僕の()()()()()()になるのかもしれない。

 僕の中の死誘感は、うねりを潜めた。もう、死にたいとも、生きたくないとも思えなかった。僕にはこんなにも、素敵な理由に出会えたのだから。

 

 

~~~~~

 

 

 どれくらいそのままでいたのだろう。

 涙も枯れたのか、シノンが体を委ねてきた。

 

「少し……寄りかからせて」

「うん」

 

 僕の脚の上に頭を乗せ、横たえる。

 

「私ね……、人を、殺したの」

 

 彼女の語りを止めようとは思わない。彼女もまた、誰かに聞いて欲しいと思ったから。

 

「ゲームの中じゃないよ。……現実世界で、ほんとうに、人を殺したんだ。五年前、東北の小さな街で起きた郵便局の強盗事件で……。報道では、犯人は局員をひとり拳銃で撃って、自分は銃の爆発で死んだ、ってことになってたんだけど、実際はそうじゃないの。その場にいた私が、強盗の拳銃を奪って、撃ち殺した」

「五年前……」

「うん。私は十一歳だった。……もしかしたら、子供だからそんなことが出来たのかもね。歯を二本折って、両手首を捻挫して、あと背中の打撲と右肩を脱臼したけど、それ以外に怪我は無かった。体の傷はすぐ治ったけど……治らないものもあった」

 

 強烈な外傷体験。彼女は、五年もそれと戦い続けていた。

 

「私、それからずっと、銃を見ると吐いたり倒れたりしちゃうんだ。テレビや、漫画とかでも……手で、ピストルの真似をされるだけでも駄目。銃を見ると……目の前に、殺したときのあの男の顔が浮かんできて……怖いの。すごく、怖い」

「……」

「でも、この世界でなら大丈夫だった。発作が起きないだけじゃなく……いくつかの銃は……」

 

 シノンはライフルをなぞる。

 

「……好きにすらなれた。だから、思ったんだ。この世界でいちばん強くなれたら、きっと現実の私も強くなれる。あの記憶を、忘れることができる……って。なのに……さっき、死銃に襲われたとき、発作が起きそうになって……すごく、怖くて……いつの間にか《シノン》じゃなくなって、現実の私に戻ってた……。だから、私、あいつと戦わないとだめなの。あいつと戦って、勝たないと……シノンがいなくなっちゃう」

 

 両手でぎゅっと縮こまる。

 

「死ぬのは、そりゃ怖いよ。でも……でもね、それと同じくらい、怯えたまま生きるのも、辛いんだ。死銃と……あの記憶と、戦わないで逃げちゃったら、私かっと前より弱くなっちゃう。もう、普通に暮らせなくなっちゃう。だから……だから」

 

 優しく、シノンの頭を撫でる。綺麗な水色の髪がサラサラと揺れる。

 

「……僕も、人を殺したんだよ」

「え……」

「少し話したけど……、《ソードアート・オンライン》。聞いたことくらいあるでしょ。その中で、僕は大勢の犯罪者プレイヤーを殺した。奴らと同じく、HPの全損が本当の死を与えることを解ってて剣を振り抜いた」

「やっぱり……あなたは……」

「俗に言う《SAO生還者》って奴だよ。あの《死銃》も同じ生還者だ。SAOのキャラネームは《赤目のザザ》、人殺しを楽しむイカれたギルド《笑う棺桶》のメンバー。奴とは何度も対峙した。奴だけじゃない、《レッド》と言われる人殺しプレイヤーの大半に僕は剣を向けた。全員の名前、姿、装備、全て覚えている。忘れようとも思えない。これは呪いだね」

「……ねえ、ソル」

 

 シノンは体を起こして、両肩を掴まれる。

 

「……私、あなたのやったことには、何も言えない。言う資格もない。こんなこと訊く権利もないけど……お願い、一つだけ教えて。あなたは、その記憶を……どうやって乗り越えたの? どうやって、過去を受け入れられたの? なんで今、そんなに強くいられるの?」

 

 口角が上がる。肩に添えられた手を取り、手の甲に触れる。

 

「……乗り越えてなんていない、受け入れきれてもいない、強くなんてない……よ」

「嘘、あなたは強い。私なんかより……ずっと、ずっと」

「臆病なだけだよ。それに、君は自分が思うより強いよ。過去に向き合い、更には乗り越えようと進み続けているんだから」

「で……でも、……どうすればいいの……。私……」

 

 右手で彼女の頬に触れる。顔を無理矢理上げ、目線を合わせる。

 

「僕らのしたことは、きっと消えない。忘れようとしたって、願ったって、消えはしないと思う。だから、僕は忘れないし、消さない。後悔が無いとは言わないさ。でも、僕は誰かを救えていた。それだけは、罪から生まれた僕の誇りで、忘れてはいけない事実なんだ。君も、きっと誰かを助けていた、誇っていい。その手に付いた血を消せとは言えない。でも、救えたことは誇ってもいいんじゃないかな」

 

 キリトに言われた言葉、今なら少し理解出来る気がする。()()()()()()()()、僕は彼女の背負ってしまったものを共に背負おうと思う。

 

「誇る……私には、そんなこと……」

「ゆっくりでいいさ。()()()、ゆっくり進めばいい。いつの日か、ほんの少しでも前を向けたなら、進んでいた証明になるから」

 

 シノンの手から力が抜け、滑り落ちるように再び僕の脚の上に横たわった。

 迷いが取れた顔を見て微笑み、優しく、髪を撫でた。




償い、誇る

罪を罰では赦されぬ。
命を死では救われぬ。
救命、星を目指し胸を張る。
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