原作シーンをバッサリカットしました。
こんなのSAOじゃねぇ!って方はそっとブラウザバックしてもろて。
ではどうぞ
あれから四ヶ月が経った。満を持して始まった攻略は順調に進み、最初の遅れを取り戻さんとする勢いで層が解放されていく。
『暫く別のパーティに入る』
迷宮区に潜っている時にキリトから送られてきたメッセージには驚きはしたが、すぐに納得した。
キリトは強くなった。肉体的――仮想世界だから鍛えようがないが、では無く精神的に。悪名全てを背負おうとした覚悟は本物で、今までの攻略では大活躍の連発だった。そんな彼だからこそ周りには人が集まってくるし、多くの人に慕われている。
『不安なことがあれば言えよ。少しでも不安を感じたらだからな!』
誰かに求められているキリトに少しの嫉妬と心配を込めて返信する。
キリトは誰かの為に命を賭けられる男だ。だから僕は彼の命を護る為に剣を振るう。例え、同じパーティに居なくとも。
僕とキリトが同じパーティにいるのは二十層までだった。そこまで進むとベータテスターの優位な情報は無いに等しく、全員が手探り状態での攻略となる。それが分かった僕達は基本別々で行動するようになった。
護ると言っておきながら一緒にいないのはひょうきんなことだが。彼は強い、この世界で一番隣に居た――付き合いで言うとクラインには負けるが僕からの客観的感想だ。危機管理能力もあり、洞察力と判断力に優れている。彼が死ぬ危険があることと言えばそれこそボス攻略ぐらいなものだ。
だから僕はこうして一人迷宮区に潜り、キリトが潜る時に合流してパーティを組むのが今の僕とキリトの関係だ。
でも、僕はまだ他人というものを理解しきれていなかった…………
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「スイッチ!」
「はぁ!」
キリトが別のパーティに入ると言われた三日後、僕はキリトとレベル上げをしていた。
パーティを組んだのならば僕ではなくパーティメンバーとすればいいのだが、何か理由があるのかと思いキリトに尋ねる。
「……なぁキリト、どんなギルドに入ったんだ?」
「え? 何でギルドって……あぁ、表示されてるな」
「キリトが気に入るくらいだ。さぞ居心地の良い場所だろうよ」
「あぁ、とても温かい場所だよ」
キリトは目を細めて呟く。その顔はとても安心しきっていて、柔らかい笑みだった。
「ソルも入るか?」
キリトが居るなら入るのもやぶさかでないが、どんなギルドかも知らずに入るのは気が滅入るというものだ。キリトの主観からでもどんなギルドか聞いておきたい。
「どんな感じのギルドなんだ?」
「ギルド名は《月夜の黒猫団》。メンバーは俺入れて六人、前衛二枚、後衛四枚だ」
キリトは前衛で間違いない。後衛の方が数が多いが、スイッチ等の入れ替わり連携をする分には丁度いい割合だろう。だが、何故キリトは今僕とレベル上げをしているのだろう。
「キリト、ギルドメンバーのレベルは?」
キリトが目を丸くすると、少し俯いた後僕を見てゆっくりと口を開いた。
嫌な予感はあった。キリトが温かいと感じたのなら最前線のように殺伐としていない、そして最前線でないならば攻略組のキリトとは当然レベル差が生じる。気がかりなのはレベル差の程度だが。
「平均が俺より20下だ……」
僕は絶句した。差が十程度なら上手く先導できるだろう、だが二十となると話は別だ。二十も差があると軽い一、二回の攻撃であしらえる敵のレベルだ。キリトがメンバーに合わせると危機感すら感じないだろう。
「キリト……。悪いけど僕は入らないよ」
「そうか……」
「変わりに忠告しておく。腑抜けるなよ?」
今僕にできるのはキリトが死地に帰ってきた時に護りきれるまで強くなることと、キリトが危機感を失わないように言い付けるだけだ。
僕にはキリトに温かさを与えることも、パーティ全体で戦った達成感や喜びを共感することもできない。見たことの無いギルドに嫉妬しながら、同時にとても羨ましく思えた。
「わかってるさ」
だからだろうか。キリトの顔に影ができていたのに気付くことが出来なかったのは……
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キリトが居たギルドが全滅したと聞いたのは、僕が丁度街で装備を整えていた時だった。
それからキリトは取り憑かれたように戦闘するようになった。更に十二月に入ってからは遠目から見ても無理なレベル上げを始めた。
「キリト! いい加減無理矢理なレベリングはやめろ!」
「五月蝿いぞソル」
「あの時の詳しいことはお前しか知らないが、僕はお前の今を想って言ってるんだ!」
「黙れよ!!」
キリトの冷たい目が僕を穿く。ドスの効いた声はキリトから発せられたにはあまりにも低く、彼が変わってしまった証明でもあった。
「お前に何が分かるんだよ。鬱陶しいぞ、もう着いてくるな!」
そう言うやいなやキリトは転移結晶を取り出して青い光に包まれて消えていった。
「……ハハ」
僕は何を勘違いしていたんだろう。どれほど強がっても、逃げ続けても僕が
……じゃあもう、こんな
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キリトに置いてかれた僕は、ひたすら狩りと掃除を行った。
誰よりも早く迷宮区を攻略し、誰にも知られずに吐き溜めを掃除する。ゲームの中だと思えば、こんなこと苦にも思わなかった。ただ剣を振り、槍で刺し、斧で叩き潰した。
「ソル坊、奴らは十層を拠点にしてるようダ」
「そうか、ありがとうアルゴ」
彼女はアルゴ。《鼠》の異名で知られる情報屋だ。キリト経由で知り合った彼女の情報は正確で、コルを積めば口を閉ざすことも出来る融通の効く奴だ。
「な、なぁソル坊」
「ん?」
「お前最後に寝たのいつダ?」
「……寝た?」
「ナッ!? 飯は食ってんのカ?!」
「飯……?」
彼女は何を言ってるのだろう。ここはゲームだ。
「ソル坊、そのやり方じゃ確実に死ぬぞ。考え直せ」
いつもの喋り方じゃない。普段の飄々とした雰囲気はなく、少し殺気だっている。
「ふむ……。休息はとってるし、常に万全の状態にしている。体調管理はしっかりしてるよ。キリトじゃあるまいし」
「……」
実際、今の僕に疲労は無い。アルゴは僕の何を見て疲れてると思ったのだろう。
それに、キリトの名前を出した途端静まってしまった。
「……そのキリトだがナ。クリスマスボス、《背教者ニコラス》にソロで挑むつもりダ」
「そうか」
「そうかって……お前はキー坊の……」
「幾らだ」
「え?」
「関連の情報全てで幾らだと聞いてるんだ」
キリトは無茶ばかりする。どうして自分を大切にできないのか。彼を死なせることだけは僕が許さない。
アルゴは呆けた顔で固まっていたが、ようやっと口を開く。
「……キー坊を頼んだゾ」
その言葉に僕は頷くことが出来なかった。キリトがああなってしまったのは、僕が彼や他人を理解できてなかったから。僕は本当に誰かの命を救うことが出来なかったから。
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情報を買った僕は候補の木を全て周った。しかし、モミの木は一つも無く、あるのはスギ類の木のみだった。
「他にある印象的な木は……あれか」
三十五層の《迷いの森》の一角で見た巨木。確かあれはモミの木であったはずだ。
情報を確定させることは出来たが、クリスマスまでは後八時間。相手はイベントボス、生半可な装備では瞬きする間もなく死ぬだけだ。僕は
僕は急いで街に戻り、準備を整えた。
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僕の予想は当たった。森の中から出てきたキリトを見ると、目は虚ろで表情は凍りついていた。彼は恐らく自責の念を抱いてる。人一倍他人に優しい彼は、失った仲間の責を全て自身のものとしている。その姿はまるで、一層でベータテスターへの憎悪を背負おうとした姿のようだ。
「よぉ、キリト」
「……ソルか」
彼の目に迷いが混じる。どうせ、僕を斬り捨てるかどうかでも考えてるんだろう。
「僕は止めるつもりはない」
「……パーティは組まないぞ」
「パーティを組むつもりも無い」
「なら何の用だよ」
僕はキリトの目を真っ直ぐ見つめ、自傷気味に笑った。
「君の監視さ。君が頑固なのはよく知ってる。存分に死にかけてくれ。あ、勿論ボスには手を出さないよ」
「……」
僕ではキリトを止めることはできない。でも彼の命だけは失わないようにできる。
僕の言葉で止まってくれたらどれだけ良いか。自分の情けなさに吐き気がする。
キリトが足を踏み出そうとしたその時、キリトの後ろのワープポイントから十人余りのプレイヤーが出現した。野武士のような面に軽鎧、長刀を腰に差したバンダナ男――クラインを先頭にキリトに近づく。クラインがリーダーのギルド《風林火山》だ。
「尾けられてたみたいだなキリト。先に行ってろ」
キリトの肩をポンと叩き、キリトとクラインの間に立つ。キリトは僕の目を見た後、振り返らずワープポイントへと入った。クラインは眉間に皺を寄せて怒鳴る。
「てめぇソル! なんで止めねぇんだ!」
「止められたら苦労しないさ。無駄足するのが嫌なら後ろの連中の相手でもしといてくれ」
「あん?」
その瞬間、別の団体が姿を現した。ざっと三十はいるだろう団体は恐らく《聖竜連合》、攻略組中最大のギルドだ。
「撒くのを怠ったようだな」
「……そうみてぇだな」
《風林火山》が抜刀する。徹底抗戦の構えだ。
「行け、ソル! キリトを頼んだぞ!」
意外だった。この状況になってもまだキリトのことを考えていられるなんて。クラインは僕が思ってた以上に優秀で、頼れる奴だった。
「借りにしといてやんよ」
「無駄口してねぇで早く行きやがれ」
僕は頼れる野武士に背中を任せ、ワープポイントへと入った。
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僕の目の前でキリトは呆然と立ち尽くしている。HPは赤く危険域であることを示し、無機的に窓を確認している。指を震わして実体化させたのは卵ほどの七色に輝く宝石だった。
「サチ……サチ……」
……《月夜の黒猫団》のメンバーだろう。みんな、ではなく特定の一人を求めている。……キリトの大切な人だったんだ。
「うああ……あああああ……」
「キリト?」
「あああ……ああああああ!!」
突然叫びだしたかと思えば、さっき実体化させた宝石を踏み付けた。何度も、何度も。彼の感情が伝わってくる。見ているだけで胸が張り裂けそうだ。
彼の痛々しい癇癪を止めることなんて、出来なかった……。
しばらくすると、落ち着いたのか、ゆっくりと起き上がった。
「やるよ」
僕の足下に放られた宝石を手に取り、キリトを見る。
「過去に死んだ奴には使えない。お前の目の前で死んだ奴に使ってやれ」
キリトの目は影に染まり気力は失せている。諦念。彼の複雑な感情を簡単に言葉にするならそれだろう。
「キリトが死んだ時に使ってやるよ」
聞こえてないのか、はたまた聞きたくないのか、キリトは何も言わずエリアを出ていった。
凄くどうでもいいんですけど、サチは原作でキリトのことを星と例えたそうですね?
いやどうでもいいんでけど。
ではまた!
死者ノ蘇生
駄目だったか。
彼はよくやったよ。
愛が有ったのだろう。
本当に、救われない。