アベマで無料が始まったからアリシゼーション開始です。
「…………ハア」
一人の青年が森の中を進む。その手に持つバケットからはまだ熱が伝わって、中にある昼飯が完成から間も無いことがわかる。
天気は見事な快晴で、ソルスの光がさんさんと降り注ぐ。暑くは無いが、何処か息苦しさを感じる。片手で太陽の陽射しを防ぎつつ空を見上げる青年。
溜息を漏らしながらも森を抜けると、黒い大樹が聳える開けた場所に出る。そこには、《天職》を頑張る亜麻髪の青年――ユージオが居る。休憩しているのか、樹にもたれかかっているユージオ。
「あ、やっと来た!」
「腹ペコさんめ……」
「……和人?」
「え……」
「ソル? 知り合いなのかい?」
「…………いや、彼のことは知らない」
確かにソルには黒髪の青年が何処の誰かなんて知らなかった。ソルはすぐに否定したが、黒髪の青年は何か不信な顔をする。
「湊、俺を覚えていないのか?」
黒髪の青年は不思議なことを言う。赤茶髪の青年の名前はソル、
「ソウ? 僕の名前はソルだ。ソウなんて人は村にも居ないよ。人違いじゃないか?」
「……そうか」
「……?」
黒髪の青年は悲しそうな顔をし、ユージオは心配そうにその顔を覗き込んだ。流石にソルもその様子に申し訳なく思ったのか、先程より明るい声を上げた。
「そ、そういえば、君の名前は?」
「俺は……キリトだ」
「キリトか、さっきも言ったけど僕はソル、よろしく」
何処か痛いのか、辛そうな顔で言うキリトにソルは少し頭痛を覚える。だが今日は体調が悪いのだと判断し、バケットの中身を敷布に並べ始める。
「二人分だけど量は十分だろ」
「いただきます!」
「い、いただきます」
ソルがヨシと言うと、真っ先にパイに手を伸ばすユージオ。一口噛み付くと、ジューシーで旨味の詰まったパイに舌鼓を打つ。キリトもそれに続いて一切れ口に入れると、目を瞠る。
「美味い!」
「そうだろ? ソルのパイは絶品だよ」
「こらこら、口に入れながら喋るな。零れるぞ」
慈母のような笑みでがっつく二人を見守って、ソルもパイを一口食べる。食事も落ち着いた所で、ソルが話を切り出した。
「それで、キリトはどうして此処に?」
「それが《ベクタの迷子》らしいんだ」
「なるほどな、僕と同じってことか」
《ベクタの迷子》とは、ある日突然いなくなったり、森なんかに突然現れる人を指す。人々はそれを《暗黒神ベクタ》の悪戯だと言い伝えられてるが、真相は定かではない。
「ソルもベクタの迷子なのか?」
「うん。僕も幼い頃この村に突然現れたらしいんだ。もう大分昔の話だけどね。今はシスター・アザリアに教会に住まわせてもらってる。キリトのこともシスターに話を通しておくよ」
「じゃあ僕は仕事をしてるから、ソルに任せてもいい?」
最後の一口を食べ終えたユージオは、食後だというのに斧を持ち、《ギガスシダー》の切り口で斧を構える。
「なあソル、ユージオの仕事って……」
「ユージオの天職はこの木を切り倒すこと。何代もかけてこの進捗だ。ユージオの代じゃ終わりそうにないかもな」
「なっ!?」
「キリトも手伝ってくか?」
ソルも食べ終え、立ち上がるとユージオに歩み寄る。
─カコーン!
ユージオの振った斧は切り口に命中し、綺麗な振動音が鳴り響いた。
「今の良かったな」
「キリトを村に案内するんじゃないの?」
「どうやらユージオの仕事に興味津々らしい」
そう言いつつ、ソルは慣れた動きでユージオから斧を受け取ると、ユージオとはまた違う構えをとる。
「あれは!?」
─カン!!!
「相変わらず凄いなあ」
短く、されど重い一撃が《ギガスシダー》を震わした。恐らく天命を20は削っただろう。
ソルとユージオには慣れた光景だが、キリトは有り得ないものを見たかのように口開いてあんぐりしている。
「お、お前それ……」
「ん? 不思議だろ? この斧、振る時に光るんだ」
「そんなのソルだけだよ。僕がやっても光らないし、本当に不思議だよ」
驚愕するキリトを隅に、ソルは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「《悪魔の樹》、テラリアの恵みを吸い尽くしただけはある。ほれキリト」
「お、おう」
斧を受け取るキリト。切り口を前に大きく斧を振り被り、振り降ろした。
「はあぁぁぁ!」
─ガン!
バットクリティカル、斧は切り口の下に命中し、重い反動がキリトの手を痺れさせた。
「いってぇ!」
「はははは!」
「……ふふ」
高笑いするユージオと口元を隠しながらも笑い声を漏らすソルにキリトは眉を寄せる。
「そんなに笑わなくても」
「ごめんごめん、肩にも腰にも力が入りすぎだよ。もっと全身の力を抜いて」
ユージオの助言を聞くと落とした斧を拾い上げて、キリトは再び構えた。
(…………?)
ソルだけがキリトの僅かな変化に勘づいたのか、目付きが鋭くなる。
「はああああ!」
─キン!
二回目の方も切り口の下に命中。キリトは斧を落としはしなかったものの、反動で一歩後退した。
「……今のは僕の真似か?」
「難しいか…………。ああ、俺でも光るかなって」
最初の方は声が小さく聞こえなかったが、ソルはそれよりも気がかりがあった。
(あの夢と重なる……)
~~~~~~~~~~
結局、キリトは最後までユージオの天職を手伝った。今日の分が終わった頃には陽は傾き、空は橙になっていた。
村の周りの麦畑の中、石造りの道を三人で歩く。村の入口が見えた時、一人の男が跳ねた声を上げた。
「おいユージオ、ソル、そいつは誰だ?」
「ジンク……」
「こいつはキリト、僕と同じベクタの迷子だ」
ソルが最前に立ってユージオを手で遮る。機嫌が悪いのか、ジンクと言われた男はキリトに詰め寄る。
「お前、本当に記憶が無いのか?」
「あ、ああ」
「天職も忘れちまったのか?」
「そうなんだ」
一通り聞くと、鼻音を鳴らしてジンクは馬鹿にするように言った。
「どうせ大した天職じゃなかったんだろ……、そこのユージオと同じで」
「あぁ?」
「な、なんだよ。事実だろ? お前だって、ちょっと神聖術が出来るからって調子乗ってんじゃねえぞ」
ソルはジンクと睨み合う。親友を傷付けられて黙っているほど、ソルは優しくは無かった。
「剣士」
睨み合いの沈黙を破ったのはキリトの一言。
「俺の天職は剣士かな」
「剣士? お前みたいな細くて弱そうなのに剣が扱えるのか? だったら、見せてもらおうか」
~~~~~
「はあああああ!」
難しいことは起きていない。ただキリトが剣を振り、丸太が両断された。ただそれだけだ。
(キリトもソルと同じ?!)
ユージオの見た剣の光は、ソルが斧を振る時の物と同じ物だった。
「《ベクタの迷子》……」
キリトは自身の天職を剣士と言った。ならば、同じベクタの迷子であるソルも剣士なのかもしれない。
そう考え、横のソルを見る。彼は僕の思惑とは違い、驚きより、何処か安心した顔をしていた気がした。
「流石だキリト。おいジンク、もういいだろ」
そう言って、ソルはキリトの手を引いて立ち去るように村の中に入っていった。
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「はいこれ、枕と毛布。朝のお祈りが六時で、食事が七時よ。一応見に来るけど、なるべく自分で起きてね。お祈りに寝坊すると……シスターアザリアは怖いわよ。消灯したら外出は禁止だから気をつけて。わからないことがあればそこのソルに聞いてね」
「大丈夫、色々ありがとう」
「そこのって酷いなセルカ……」
「はいはい。じゃあおやすみ」
「おやすみ、セルカ」
教会でシスターに事情を話し、キリトは僕と同室で泊めてもらえることになった。
「なあ、ソル」
「ん?」
「……いや、なんでもない。おやすみ」
「おやすみ、キリト」
キリトは喉に吊っかかかる言葉を吐き出せず、影を落とした。