なんか、凄い凄くあれです。あれ。
早くエンハンスアーマメントしてぇ!
「はぁーあ……」
大きい欠伸をしながら、視線の先の黒い剣士を見る。大修練場にてこれから行われようとしているちょいとした試合に、少なくは無い修剣士が観客席にてザワザワと落ち着きのない虫のように騒音を鳴らす。
「…………これ、もしや僕のせい? 不味った?」
これから始まるのはウォロ先輩とキリトの立ち合いだ。
「ソル! キリトは?!」
「まだ始まってないよユージオ」
焦った様子で僕に迫るユージオを何とか宥めて、下のキリトを見る。あちらにはリーナ先輩が行ったようだ。
「僕がウォロ先輩に色々話ちゃったからかぁ?」
「……ちなみに何て言ったの?」
「僕より強い剣士がいますよって。それで興味持っちゃったかも? 多分ね」
「はあ。あのキリトが一年間何も問題を起こさなかったのが奇跡なんだ」
「その通りだな。もしやこの状況通常運転では?」
「そんなことないよ!」
ユージオを揶揄いながらも、そろそろ始まりそうだ。しかし、相手はあのウォロ先輩、首席であり、そして……
「あの人は実剣の一本決め打ちだからなぁ」
「ソルはキリトが勝つと思う?」
「勝つよ」
僕はウォロ先輩と幾度も剣を合わせて、あの人の強さが本物であることを知っている。それでも、この立ち合いはキリトが勝つ。
「《黒の剣士》が負ける訳無いもんな……」
「……ソル? もしかして記憶が……」
「お、始まるぞユージオ」
両者剣を抜く。
ウォロ先輩は、ゆっくりと構えを取る。
「あれは、ハイノルキア流天山裂破……!」
「キリトは〈バーチカル・スクエア〉か……」
両者の距離が詰まり、互いの剣が交わる。ウォロ先輩の渾身の一撃を、キリトは三連撃で止める。
(キリトには四撃目があるが……)
ウォロ先輩の剣は重い。積み重ねられた意が彼に力を与えている。
「キリト……」
ユージオが不安そうな顔で見守る。脚と腕を組みながら、僕は呟く。
「こんな所で負けるなよ。……キリト」
その瞬間、不可思議なことが起きた。キリトに集いし黄金が、剣を成し、その剣身を伸ばした。
(あれは、《ギガスシダー》の記憶?)
キリトの背後にはかつてユージオが切り倒した、今彼が手に持つ剣の荘厳な姿があった。
「はああああぁぁぁぁ!!!」
「うおおおおおお!」
「そこまで!」
四撃目がウォロ先輩の服を切り、超近距離の斬り合いが起こる時、凛とした声が響いた。
「アズリカ先生?」
「流石は七年前の四帝国統一大会の第一代表剣士だな」
突然の終了ではあったが、最後は正直斬られていてもおかしくなかった。安堵の溜め息をユージオと二人で吐く。
「キリト練士の懲罰は、これにて終了とする。今後は、誰かに泥を跳ね飛ばすことの無いように気を付けることだ」
ウォロ先輩が退室すると、会場を大歓声が包み込んだ。キリトの戦いぶりはそれだけ素晴らしい剣技であったのは、誰の目からも明らかだった。
「じゃ、ウォロ先輩に挨拶してくるよ」
「キリトにはいいのかい?」
「どうせ祝会でもするんだろ? 僕はウォロ先輩の傍付きだ。なに、少し話すだけさ」
~~~~~
大修練場の控え室で、ウォロ先輩は座り瞑想していた。
「ソル初等練士、失礼します」
挨拶をしてから入室すると、瞼を上げてウォロ先輩がこちらを伺って来た。
「なんだ、ソルか」
「なんだとは何ですか」
「ふ、……お前の言う通りだったな」
「まさかあんなことするとは、先輩も中々血気盛んですね」
「よく言う。まだ俺に斬られたことの無いお前が言っても皮肉にもならんぞ」
先輩とは長い付き合いだった。小言を言い合えるくらいには仲良くも慣れた。なんなら裸の付き合いもした。
「恐らく修剣士検定試験ではリーナ先輩が上がってきます。頑張って下さいね」
「なんだ? この俺に忠告か?」
「応援です。こんな僕でも、先輩のことかなり尊敬してるんですよ? 首席の座、奪われないでくださいよ」
「無論だ」
思えば、こうした先輩を持つのは初めてな気がする。
先輩との間に、確かな絆を感じた一時だった。
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夜更けの、皆が寝静まった時間。不意に眠気が去り、起き上がる。
「……キリト?」
見るとキリトの姿が無い。
「あー、花か」
もうすぐ先輩方も卒業だ。最近はよく夜に様子を見ているらしい。
「ふわぁ……」
欠伸をしながらも、上着を軽く羽織って自室を出た。
~~~~~
「おいおいこりゃあ何だ……?」
花壇に行くと、花達が淡い緑の光を帯びていた。見ると、その光の中にキリトが居た。
「あ……」
無意識に手を伸ばすと、黄金の蝶が掌から飛び立った。蝶がキリトの花に吸い込まれると、緑の光を受け取って蕾を生やした花に宿った。
「ソル……」
「キリト……これは……」
この場にその答えは無かった。僕達はこの不思議な現象を噛み砕けないまま、自室に戻り布団にくるまった。
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先輩方の卒業の日。結果としてウォロ先輩はリーナ先輩に敗れ二位の成績だったが、最後の試合は今まで見た中で一番の激戦だった。
僕からの剣舞の贈り物も気に入ったのか、また見せてくれるかと言ってくださった。
そして、僕は修剣士検定試験を一位、キリトは五位、ユージオは六位ので終え。上級修剣士として進級した。
「ユージオ上級修剣士殿、御報告します。本日の掃除、完了致しました!」
「ソル上級修剣士殿、同じく掃除完了致しました」
ユージオの傍付きである赤髪の少女、ティーゼと、ソルの傍付きである黒髪の少女、ルーナが並んで業務の終了を報告する。その横にはもう一人、焦茶色の髪の少女。
「ご苦労様、ティーゼ。今日はもうこれで寮に帰っていいよ」
「お疲れ様ルーナ。今日はもう終わり……なんだけど。ごめんなロニエ、今阿呆がどっか行ってるらしいんだ。後で言っとくからもう行ってもいいよ」
「あいつに付いてると一年間苦労するよ。間違いなく」
「いやホント、マジで、後悔する前に誰かに変わってもらえ」
「と、とんでもありません!」
必死に首を横に振るロニエ。そして、何故か後ろの窓が開かれると、キリトが入ってきた。
「おいおい。人の留守に何を言ってるんだ」
「キリト上級修剣士殿、御報告します。本日の清掃、滞りなく完了致しました」
「こーらキリト、彼女らを待たせるんじゃあない。どーせ東三番通りから来たんだろ? ほれ、蜂蜜パイ寄越せや」
「ほれ」
ユージオと僕の分のパイを取って袋を受け取る。それを彼女たちの前に差し出すと、目を輝かせて袋を見つめる少女三人。
「はい。天命に気をつけて寮に戻ってね。ちなみに飲み物のオススメは紅茶だ」
「「「わぁ!」」」
「ありがとうございます上級修剣士殿!」
「頂いた物資の天命が減少しないよう全速で寮に戻ります!」
「紅茶は何がよろしいでしょう?」
「西の産地がいいぞ」
「ありがとうございます!」
打って変わってキビキビと動く三人少女に微笑みながら、紅茶を入れる。
「ほれ」
「サンキュ」
「ありがとうソル」
三人で蜂蜜パイを堪能していると、ユージオが何か言いたげに僕らを見つめる。
「どうしたユージオ?」
「いや? 二人とも何で僕らがここにいるのか忘れてないだろうかって」
「忘れる訳無いだろ」
カップを置き、夕暮の空を見上げる。
「……やっと、だな」
「ああ」
「もうすぐだね」
月日が流れるのは早い。目的を達する為の工程は着々と進んでいる。整合騎士まで、後一歩だ。