君ガ為ニ剣ヲ振ルフ   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

パパパーンと行きます。


《禁忌》

 

 

――人界歴380年 5月20日 上級修剣士寮。

 

 

「……で、何も無くて逆に不安だと」

「うん」

「むー……」

 

 腕組み考える。この話の発端は、ユージオが彼らの剣に込められたモノを知りたくなってつい剣を交えたこと。剣士としてユージオはキリトに迫る腕を持っている。結果は中断されて引き分け、貴族のウンベールがそれを受け入れることは屈辱だと感じ、何かしら仕返しにくるだろうといったことだ。

 

「禁忌目録も、学院規則もある訳だし、意地悪するのも中々難しいだろ。でもそれは裏を返せば、禁忌に触れない行為なら何を仕掛けてきてもおかしくないってことでもある」

 

 キリトが言う。確かに、禁忌に触れないこと……例えば、貴族特有の裁決権の濫用あたりか。

 

「警戒するに越したことはないな。一応、ルーナたちにも伝えとくか」

「平常心を忘れないように、ステイクールでいこうぜ」

「なんだって? ステイ……?」

「落ち着いて、とかまた会おうとかの意味だよ」

 

 何故か口からスラスラと出てきた言葉に自分でも驚く。

 

「へぇー。わかった、覚えておくよ」

「ソル……?」

 

 キリトは目を瞠る。その違和感に気付きつつも、僕は何処かでそれに蓋をした。

「ん? ああ、明日はルーナ達と親睦会するからちゃんと支度しとけよ」

「はぁーい。八時に起こしてくれ」

「八時じゃ遅いよ七時半!」

「ソルも起きれねえだろ!」

「うるせえ僕は支度五分で済むからいいんだよ!」

 

 

~~~~~~~~~~

――次の日。

 

 

「いー天気だねえ」

「そうですね先輩」

 

 草むらに二人で寝転がる。ルーナは言わば大和撫子の美少女だ。腰まである黒髪は美しく艶やかで、指先まで美の彫刻のようだ。

 

「ねえ先輩」

「どうしたルーナ」

「何で私を傍付きに選んだんですか?」

「……勘?」

「えぇー」

 

 凛とした見た目とは裏腹に彼女はふわふわした性格だ。僕の勘は何かと当たる。

 

「あ」

「ん?」

「一応私、貴族出身ですけど生活は貴族らしくないんですよ」

「へぇ」

「こうして学院に来てますけど、剣の腕が無かったらもう許嫁を決められてるんですよ」

「そーなんだ」

「つまり、私は今フリーなんですよ」

「ふーん」

「……?」

「……?」

 

 彼女が何か伝えたいのはわかる。でも何を伝えたいのか、これがわからない。

 

「そういえば……」

「ふむふむ」

「同室のフレニーカって子が、傍付きをしている人に泣かされています」

「……ほぅ?」

「詳しい内容は乙女である私からは口に出来ませんが、ウンベールという上級修剣士にやられているそうです」

「なるほどぉ?」

「最近では毎晩泣いていて……」

「よーしわかった。先輩に任せろ」

 

 どうやらあっちでも同じ話をしていたのか、キリトとユージオが覚悟を決めた顔をしていた。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「それで、我が友ユージオ修剣士におかれては、休息日の夕刻に一体何の御用かな?」

 

 僕達がライオスとウンベールの部屋を訪れると、未熟と言える肉体をはだけさせたローブ姿の二人が居た。貴族では無いとはいえ僕は首席の修剣士、学内では一番の立ち位置であるが、どうやらそれすらわからないライオスは寝転がったまま話す。

 

「そちらのジーゼック修剣士に関して、少々好ましからざる噂を耳にしましたので、学友がその芳名を汚す前にと、僭越ながら忠言に参りました」

「な、んだと!」

 

 おつむの弱いウンベールはこれだけでもキレる。気付かれないように鼻で笑う。

 

「ほほう。これは意外であり、望外のことでもあるなあ。ユージオ殿に、我が朋友の名を案じて頂けるとは。しかし、惜しむらくはその噂とやら、まるで思い当たらない。ユージオ殿は一体何処からそのような噂を聞きつけたのかな?」

「ジーゼック殿の傍付きと同室の初等練士から、直接話を聞いたのです。ウンベール殿がフレニーカという傍付き練士に、逸脱した行いを命じておられることを」

 

 頭は多少回るのか、ライオスはのらりくらりと会話の芯を躱す。

 

「ふーむ。逸脱……何とも奇妙な言葉だなユージオ殿。もっとわかりやすく学院則違反と言ったらどうかね?」

 

 ユージオが温まったのを感じる。口を挟むなら今だ。

 

「この学院の現首席たる僕が発言するが、我らは貴殿らの噂話を耳にしたに過ぎん。それが学院則違反だろうと無かろうと、我らにとっては些事のようなもの。我らは貴殿らの学友として、そのような噂が広がることを恐れているのだ。まずはそこを御理解願いたい」

「ではどうしろと言うのだソル殿?」

「我々はウンベール殿に忠言に来た故、貴殿と語ることなどありはしないが、言わば火種の消化でありましょうか。この学院には剣士が数多く在籍しております。その成績優秀な上級修剣士がそのような非常識な行いをするのは大変な恥であり、剣士の風上にすら置けません。幸い、火は燃え広がっておりません故、安心してくだされ。では、我々はこれにて失礼します」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「くっ!」

「落ち着けよユージオ」

「剣があったら危なかったな」

 

 自室に戻ると、ユージオは悔しさのあまり壁を殴りつける。ここまで熱くなるユージオは珍しい。逆に、何も発言しなかったキリトもだ。

 

「キリトはよくキレなかったな?」

「何か裏があるんじゃないかと様子を見てたんだ」

「裏?」

「もしかしたらこれは、ユージオを狙った罠なんじゃないかってさ」

「……なるほどな。もしあの場で言い過ぎたら、ってことか」

「とかな」

 

 ユージオは険しい顔をするが、過ぎたことだ。キリトと見合わせ、ユージオの肩に手を置く。

 

「大丈夫だ。もし今後もウンベールがフレニーカを辱めたら、速攻で教官に調査を依頼する準備をしておくよ」

「俺たちが居ないとこで何か言われても、さっきみたいに熱くならないよう気をつけろよ」

「わ、わかってるよ。ステイクール……だろ?」

 

 僕らは顔を見合わせると、頷く。

 

「ステイ……クール、ね……」

 

 まだ残り続ける違和感と嫌な予感を感じながらも、僕は二人を守る為覚悟を決める。……守りきってみせる。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 この日は、雷の鳴り響く荒れた天気だった。暴風に大雨、この中ではとても外で修練なんて出来ない為、僕らは自室で過ごしていた。

 

─ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 

「今の四時半の鐘じゃないか?」

「ほんとだ、もうそんな時間か」

「…………」

 

 自分の剣の手入れをしていたキリトとユージオは、鳴る鐘の音で目線を剣から移す。

 彼女らが掃除の時間に遅れたことは一度も無かった。この天気だ、来るのに苦戦している可能性も無くはないが……。

 

「嫌な予感がする。おいキリト、ちょっと見て来いよ」

「はいよ」

 

 キリトが窓から行きやがったせいで雨が室内に入ってくる。それに文句を言う余裕もない僕は黙って窓を閉めた。

 

「ソル?」

「…………」

 

─コンコン。

 

 手を顎に当てて考え込んでいると、扉を叩く音が響く。やや焦り気味に僕が扉を開けると、そこにはルーナや他の傍付きでは無く、一人の少女が立っていた。

 

「……もしかしなくても君がフレニーカか?」

「は……はい。ご面会の約束も無しにお尋ねして申し訳ありません……でも」

「ルーナは何処だ?」

 

 気迫が漏れる。今の僕はこの状況で落ち着いてられるほど冷静では無かった。

 

「実は…………」

 

 

~~~~~

 

 

「入るぞ」

 

 上級修剣士に割り当てられる一室の扉をノックも無しに開ける。始めに、吐きそうな程甘ったるい香が鼻を刺激する。ユージオは青薔薇の剣を携え、僕はキリトの黒い剣を持っている。

 

「おやおや、首席修剣士様がここにどうした御用で?」

「今、私は無駄話をする気では無い。単刀直入に聞こう、ルーナ達は何処だ?」

 

 剣圧を強めて尋ねる。僕の片手はもうキリトの剣を握っている。

 

「ああ、あの三人か。上級修剣士たる我々に突然の面会を求めるとは実に勇敢な初等練士なものだな?」

「耳が効かないのなら始めから仰ってください。……何処だと聞いている」

「……ふむ」

 

 ライオスとウンベールは立ち上がると、奥の部屋に入っていく。僕とユージオも続いて入室すると。

 

「…………手前ぇら!」

「これはどういうことですライオス殿ぉ!?」

「これはやむを得ない処置なのだよ。この三人は我らに甚だしい非礼を働いたのだからな」

「非礼……?」

 

 手足を縄で縛られ、口には布を巻き付かれた少女三人の光景に頭に血が完全に回った。

 

「あの下級貴族の娘共は、こともあろうに四等爵士のこの私が自分の傍付きを理由無く虐げ、欲望を満たしていると侮辱してくれたのよ。上級修剣士として、フレニーカを正しく導こうとするこの私をだぞ」

「それがまかり通ると、本当に勘違いしているのか?」

「学院則にはこう付記されているのはお忘れかな? なお、全ての懲罰において上級法の規定を優先すると。上級法とは禁忌目録、そして帝国基本法のことだ。つまり、三等爵家の私は六等爵家出身のあの娘たちに修剣士懲罰権では無く、貴族裁決権を……行使できるということなのだよ!」

「話は終わりか?」

「ん?」

 

 キリトに借りた剣を抜剣する。こいつらは一線を超えたのだ。抑えようの無い怒りが沸き上がる。

 

「首席修剣士として、貴殿らの秩序を乱す行為は断じて看過できない。今すぐ彼女たちを解放しろ!」

 

 ライオスに剣を向ける。ユージオも抜剣しようとしとするが、

 

 

「勘違いしてるのは貴殿の方だろ? ソル首席修剣士殿?」

「グッ!」

「ユージオ?」

 

 動きが止まったユージオに気を取られ、一瞬だけ視線を離してしまった。

 

「貴殿はもう大罪人なのだ! やれ、」

「「「「「てやああああ」」」」」

 一体何処に隠れていたのか、数人の修剣士が実剣を振りかぶってきた。

 

「お前たち、何をしているのかわかっているのか!」

「うるさい! お前のせいで……俺たちの人生はおかしくなったんだ!」

「……!」

 

 突然として視界が歪む。僕の世界に()が戻る。黒い、淀んだ塊達が、僕を襲う。

 何とかいなすも、数の差、部屋の狭さで徐々に傷をつけられ始める。

 

「ちっ……」

「先輩!」

「お前のせいだ!」

「お前さえ居なければ!」

「死ね! 死ね! 死ね!」

 

「これは正当な貴族の裁決である。そして、裁決権の妨害もまた重大な違法行為。お前は既に大罪人なのだ!」

 

 彼らの剣は怨みの篭った剣だった。対して、此方から彼らを斬ることは許されない。迷いのある剣では到底捌ききれず、一人、また一人と剣が僕の体を抉る。()()()()()()()何かに必死に抗いながらも何とかいなすが。

 

「ぐぅ、が……」

 

 両手を剣で壁に刺され、両腿を刺され、剣を落とす。

 

「先輩! ソル先輩!」

「トドメだ!」

 

「う、うわああぁぁぁぁ!!!」

 

 ユージオは雄叫びを上げ剣を抜いた。その剣は、ウンベールの左腕を斬り飛ばす。見ると、右眼が潰れて血が出ている。

 

「ハァハァハアハア」

「俺の腕が、血が! 天命が減っていくぅ!! ライオス殿! 神聖術を……いや、もう普通の術じゃ間に合わない。天命を! 天命を分けて下さい!」

 

「素晴らしい。こんな、ここまでの禁忌を犯す人間を私は初めて見た。貴族裁決権の対象は原則として下級貴族と私領地民だけだが……禁忌を犯した大罪人とあらばその限りでは無い」

 

 そう言い、壁に掛けられていた剣を抜いたライオス。そしてゆっくりとユージオの前で構えた。

 

「クックック、私は剣で人の首を落とすのは初めてだ。これで私は更に強くなる。ユージオ修剣士……いや、大罪人ユージオ、そして大罪人ソル! 汝らを貴族裁決権により……処刑する!!」

「避けろユージオ!」

 

 間に合わない! 手足の動かない僕はただ見ているしか無かった。

 

(キリト……!)

 

 その時、()()()を見た。

 

「キリ……ト」

「剣を引けライオス! お前に二人を傷付けさせない!」

「ようやくのお出ましかキリト修剣士。しかし、少々遅すぎたぞ。そこの田舎者共は、禁忌目録に背いた大罪人だ。お前こそ下がってそこで見ていろ。何時ぞやの花のように……この罪人の首が落ちる様をなあ!」

「禁忌だの貴族の権利だの知ったことか。ユージオとソルは俺の親友だ。そしてお前は闇の国のゴブリンにも劣る屑野郎だ!」

 

 ライオスはキリトの言葉に一瞬ショックを受けるが、すぐに下卑た笑い声を上げる。

 

「これで私はお前たちを揃って処分できる訳だ」

 

 鍔迫り合いを止め、大上段に構えるライオス。キリトは剣に黄金を纏わせ、一回り大きくする。

 

「ぎあああああ!」

「うおおおおおおお!」

 

 二人の剣が激突する。

 

「この私が、平民如きに後れを取る訳無いのだぁ!」

 

 強力な心意によって強化されたライオスの剣がキリトを追いやる。キリトの剣も心意を纏っているが、ライオスのには及ばない。

 

「キリト!」

 

 ()()()()()()()()()()、僕は蝶の翅を生やし、黄金の蝶を噴き出す。

 

「な、なんだこれは!」

「ひ、ひぃ!」

 

 蝶は自分を突き刺す奴らの剣を吸い取る。剣を侵色されるのを見て僕から離れた。

 立ち上がってライオスの剣にも蝶を飛ばす。

 

「キリト!」

 

 蝶達がライオスの心意を吸い取ると、逆にキリトの優勢となる。押し切ったキリトは、ライオスの両腕を剣ごと斬った。

 

「うわああああ! 腕が、私の腕が! ウンベール、私の血を止めろ! その縄を解いて、私の傷口を縛れ!」

「い、嫌だ。この縄を解いたら俺の天命が減る。その命令は禁忌目録違反だ!」

「禁忌? しかし、天命が。禁忌、天命、禁忌、天命、禁忌…………」

 

 壊れたように叫ぶライオス、断末魔に機械音を叫ぶと、彼は事切れた。

 

「ひぃ! 人殺しぃ! 化け物ぉ!」

 

 ウンベールはキリトを見て、逃げるように部屋を出た。

 

 

 

 

 

「……ごめんなさいソル先輩。私……止められなくて」

「何も言うな。君が無事なら……それで…………」

「でも、こんなに傷付いて。私のせいで…………」

 

 ユージオはティーゼを、キリトはロニエを抱き締める。

 

(……?)

 

 空間に歪みを感じて見ると、釣られるようにキリトとユージオも同じ場所を向く。歪んだ空間に現れたのは人間の顔だった。

 

「ロニエ達に聞かせるな!」

 

 僕でも聞いたことの無い神聖術を唱えて、顔は空間の歪みに消えていった。

 

(僕はもう、戻れない…………)

 

 ルーナを抱き締めながら、部屋の惨状を見渡して。僕が()()()()()()()()()()()ことを実感する。

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