君ガ為ニ剣ヲ振ルフ   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

ようやく分岐点まで来ました。


《アリス》

 

 

 

「早く起きなさいソル修剣士。貴方の友人が待っていますよ」

 

 澄んだ声に起こされる。大罪人一人だけの独房の扉を開けたのはアズリカ先生だった。

 

「アズリカ先生……」

「ソル修剣士、私は貴方のことが何一つわかりませんでした。ですが、これだけは断言出来ます。()()()()()()()。貴方は一人で抱え込む癖があります、貴方自身の為にも、問題があれば誰かを頼りなさい」

「よく見てますね」

 

 餞別のつもりなのか、今までに無い優しい声色だった。見てくれていたことに嬉しくも淋しくもある。

 

「さあ、貴方を迎えの者に引き渡さなくてはいけません」

「……大丈夫です。僕は一人じゃありません」

「それが言えるなら安心です」

 

 淡白な受け答えだが、今はそんな調子が丁度いい。

 

「こちらです」

 

 後悔は後に悔やむ行為だ。僕に悔いは無い。あるのは心配だけだった。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「ようソル」

「おはようソル」

「おはよう。目は大丈夫かユージオ?」

「うん。アズリカ先生のお陰でね」

 

 またこの三人で一緒に居られることに安堵し、同時に前の気配に警戒する。

 僕らの連行するのはきっとあの金色の騎士様だろう。何処かに見覚えのある面影を感じながら。三人が近付くと騎士は此方に振り向いた。

 

「アリス? アリス!」

 

 衝動のまま彼女に近付くと、剣で殴られる。間一髪で躱すが、庇った手首がジンジンと痛む。

 

「危ないじゃないかアリス!」

「言動には気を付けなさい。私はお前達の天命を七割まで奪う権利があります。次に許可無く触れようとしたらその手を切り落とします」

「……アリス?」

 

 彼女は確かにアリスだ。数年会っていなくてもわかった。見間違う訳が無い。彼女はアリス・ツーベルクだ。

 

「あの騎士がお前達の探していたアリスなんだな?」

「ああ、間違いない」

「うん」

「この場は指示に従おう。罪人のとしてでも、セントラル・カセドラルに入れさえすれば少しは事情がわかる筈だ」

 

 キリトの言葉に僕とユージオは頷く。今はアリスが生きていたことを喜ぶことにする。

 

「ついて来なさい。上級修剣士ソル、上級修剣士キリト、上級修剣士ユージオ、そなたらを禁忌条項抵触の咎につき、捕縛、連行し、審問の後……処刑します」

 

 

~~~~~

 

 

 僕らを連行するのは飛竜らしい。キリトは右脚、ユージオは左脚、僕は首にとそれぞれ鎖で繋がれる。特に僕の場合、あの日のアリスを思い出してしまう。

 

「ティーゼ!」

「ロニエ!」

 

 どうやら傍付き達が来たらしい。

 

「き、騎士様! お願いがございます!」

「先輩方に剣をお返しする許可をどうか!」

「……いいでしょう。しかし罪人に剣を帯させる訳にはいきません。これは私が預かります。…………会話をするなら一分間に限って許可します」

(優しい所は変わらないな)

 

 アリスはあの頃もそうだった。懐かしい記憶に感慨深くなっていると、ふと目の前が暗くなった。

 

「先輩……」

「ルーナか……」

「……迎えに行きますから、待ってて下さい」

 

 僕に自前の剣は無いから来ていないと思っていたが、彼女も来ていた。

 彼女は何時でもそうだった。マイペースというか、ほのぼのというか、そんな所に安心していた自分が居た。

 

「なら、待ってるよ。早くしないと処刑されちゃうから、早く来てね」

「……ええ、必ず行きます。……………………私の、先輩」

 

 

「時間です。離れなさい」

 

 アリスが飛竜の縄を操ると、飛竜は羽を大きく羽ばたかせる。向かうはセントラル・カセドラル。罪人の処刑台だ。

 

「絶対! 絶対待ってて下さいねー!」

 

 彼女らしくない、必死な叫び声に微笑みながら、僕らは空へと連行された。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「お前は私と来なさい」

「僕だけ?」

 

 セントラル・カセドラルの内部に入ると、アリスは僕だけを上に、二人を下に連れていくよう指示した。

 アリスは僕の両手の枷に繋がる鎖を握る。

 

「キリト、ユージオ…………先に行ってるぞ」

「ソル……」

「ユージオ、そんな不安になるなよ。ソルなら大丈夫さ」

 

 気は進まないが、従う他ないだろう。二人なら大丈夫だ。地下牢だとか監獄だとか、そんなもので彼らは止まらない。

 

「行きますよ」

「……わかったよアリス」

 

 

 

 

 アリスに引かれて回廊を歩く。アリスと二人きり、彼女と話すなら今しかない。

 

「なあアリス、覚えてるか? 僕らがルーリッド村で過ごしたこと。ユージオのこと……僕のこと」

「……何故お前は私の名前を知っているのです? 私は天界より召喚されし整合騎士。私とお前は初対面のはずです」

「っ! 忘れたのか!? 僕はソル、ソルだよ! ルーリッド村で()()で過ごした日々を、幼馴染を忘れたのか!?」

「幼馴染……? ソル……?」

 

 アリスの額に紫の光が逆三角の形になる。その光を見た途端、背筋に悪寒が走る。あれは良くない物だと本能が告げる。

 

「君の名前はアリス・ツーベルク。ルーリッド村の村長の娘、妹の名前はセルカ。得意な料理は果物のパイ。嘘をつく時に目線を左に泳がす癖がある」

「ソル…………。セルカ…………」

「一緒にユージオをからかったり、キリトと森を探検したりしただろ! 思い出せアリス!」

 

 アリスの額から紫結晶の三角柱が出てくる。三角柱が数センチ伸びてきた所で、僕はそれを掴んだ。

 

「アリス! 僕だ……ソルだ! 思い出せ、全部!」

「ソル……?」

「ああ、ソルだ。何故、何故忘れてしまったんだ…………アリス!」

「毎日、夢に見た……。ソル…………私の…………大切な……人」

 

 虚ろな瞳のアリスは呟く。再びアリスの中に入ろうとする三角柱を引っ張るが、ビクともしない。

 

(やばい……こいつは何かがやばい)

 

 これが力ずくでは取り除けないことを悟る。歯噛みしていると、頭の中に文字の羅列が思い浮かんだ。

 

「システム・コール、コネクト・トゥ・メモリアル!」

 

 短い詠唱、だが、その神聖術は僕の望む効果を発動させた。

 

「これは……」

「あ…………」

 

 この時、僕とアリスの記憶は()()した。僕の頭の中にはアリスの整合騎士としての記憶が、アリスには僕のルーリッド村から今までの記憶が。まるで互いにダウンロードするかのように次々と入り込む。

 

「っ痛!」

 

 急激な負荷に頭痛がすると、弾かれるように火花が散り、僕は吹き飛ばされる。

 その弾みで三角柱もバラバラに砕ける。砕けた破片は天命が尽きて消え去った。

 

「……アリス?」

 

 アリスを見れば仰向けに倒れている。傍に近寄ると、ゆっくりと目覚めた。

 

「……ソル?」

「おはようアリス。調子はどう?」

 

 今のアリスから敵意は感じられない。砕けた口調で話すと、アリスは困惑した表情をする。

 

「あなた、私に一体何をしたのですか? この記憶は……」

「僕らはルーリッド村で過ごし育った幼馴染。君はアリス・ツーベルク。果ての山脈で禁忌を犯し、離れ離れとなった僕の…………大切な人」

「幻惑の術にしてはあまりにも現実的過ぎます。……正直、信じられません」

「信じなくてもいい。ゆっくりでいいさ、君には時間がある」

 

 僕は手の鎖を鳴らすと、アリスはハッとする。今の僕は大罪人で、アリスは連行任務の途中。今この事実を変えることは出来ない。それに…………

 

「君はまだアリスであってアリスじゃない。いつか()()()だろうが、慌てることじゃないよ。急に混じると気持ち悪いからね」

「…………」

 

 記憶は人格を形成するが、人格を型どるのは記憶だけじゃない。元の記憶と別の記憶が混じると、その人の人格は元の人格に戻る訳じゃ無い。人格の形成は積み重ねだ。記憶の()()()をしたとして、その下にある人格を塗り替えることは出来ない。

 

「早く行こうよアリス」

「……あなたはこれから処刑されるのですよ? 何故そんな顔をしていられるのですか?」

「二人を、君を信じているからさ」

 

 階段を登り終え、昇降盤を降り、厳重な扉の前に着いた。

 

「オッホッホ! これはこれは……お手柄ですよサーティ。こいつは使える駒になりますよぉ」

 

 跳ねる肉袋と見間違えたが、どうやら人間のようだ。青と赤の道化服を纏った、薄気味悪い血色の肌。カタカタと嫌に気が散る声のピエロにアリスは顔を顰める。

 

「もう下がってなさい三十号。こいつを猊下の元に連れて行くのはワタシがします。そいつを置いてさっさと立ち去りなさい!」

「…………では、私はこれで」

「ああ、そうだ」

 

 最後の言葉を忘れていた。

 

「アリス、あの二人は必ず来る。精々身構えてろよ」

 

 空元気の笑顔でアリスに言い捨て、肉団子の前に出る。

 

「ごちゃごちゃ五月蝿いですよ! システム・コール!」

(どうか、三人の行く末に幸有らんことを……)

 

 僕の意識は、ここで途切れた。

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