次が本命の話なので、飛ばします。
ああー、エンハンスアーマメントしたーい!
『頑張って、キリト』
『助けてくれて……ありがとう』
『
『汝の願い、しかと受け取った』
懐かしい、只只懐かしい気持ちだ。走馬灯を駆け抜けるような感覚の中に僕は漂っている。この記憶は全て
『駄目だアリス!』
『ユージオ逃げろ!』
『キリト……これは……』
『首席修剣士として、貴殿らの秩序を乱す行為は断じて看過できない。今すぐ彼女たちを解放しろ!』
思えば、僕の天職はキリトと同じ剣士だったのかもしれない。あの日、洞窟で初めて握った剣の感覚は今でも覚えている。体に従うようにステップを踏み、勢いを殺さないように剣を振る。キリトの言うアインクラッド流も妙に手に馴染んだ。
(キリト……)
親友の名を思い浮かべると、この世界では無い彼の姿があった。いつも自分の隣に居た、《黒の剣士》。
(君は……何者なんだ?)
彼に触れようとして、僕と彼の間に何かが生じた。壁のような何かに遮られ、見ていた記憶が段々と消えていく。
「え……。やだ、やめろ…………」
さっきまで見ていた景色が抜き取られるように消えていく。僕を遮る壁は殴ってもうんともすんとも言わない。
「おい! やめろよ!」
叫んでも誰も何も言わない。反響すらしない空間に霧散してしまうだけであった。
「それは……それだけは!」
水髪、又は黒髪の少女と、アリスの記憶が抜かれるのを僕はただ眺めるだけしかできなかった。とても大切な……大事な人の記憶を。
「詩乃ぉ! アリスぅ!」
~~~~~~~~~~
――ソルが最上階に連行されてから数刻後。
―ユージオside
「ここは……?」
僕は確か物語の英雄、ベルクーリと戦って……。チュデルキンとかいう小男に…………。
「ここは……セントラル・カセドラルの最上階?」
辺りを見渡す。これまでの階層の中でも特に広い空間に絢爛な天蓋ベッドが一つ。壁の柱には神器と思われる武具が華美に並び飾られている。
(ここが最上階ということは、この人が……)
天蓋カーテンの隙間から覗くと、人間離れした美貌を持つ女性が眠っている。
(この短剣を刺せば……)
ベッドの上に上がろうとしたその時、何かが僕の袖を引っ張った。
「……ソル?」
振り返ると、僕らの先に上に連行されていたソルが僕の袖を掴んでいた。
「ソル! 心配したよ」
呼び掛けるが、返答は無い。ソルは黙って俯いたまま、僕の袖を掴み続けている。
「…………ソル?」
「…………」
「可哀想な子」
「え?」
ベッドからの声に振り向くと、眠っていた女性は覚醒状態となって、大きく欠伸をしていた。
「可哀想な子?」
「そうよ。とっても可哀想。貴方はまるで萎れた鉢植えの花」
「鉢植えの……花?」
「貴方にはわかっている。自分がどれほど乾き、飢えているか」
「……何に?」
「愛に」
「愛……だって? まるで、僕が愛を知らないみたいに……」
彼女の言葉に少し頭に来た僕は語尾を強める。
「その通りよ。貴方は愛されるということを知らない、可哀想な子」
「そんなことない。母さんは、僕を愛してくれた。怖い夢を見て眠れない時は、僕を抱いて子守唄を歌ってくれたんだ!」
「その愛は、本当に貴方一人の物だったの? 違うでしょ? 貴方の兄弟に分け与えた余り物だったんでしょ?」
「嘘だ……母さんは…………」
誰かに腕を掴まれて後ろに引っ張られる。
「……ソル?」
「…………」
ソルは何も話さない。その暗褐色の瞳には光は無く、まるで魂の抜けた人形のようだ。
「あら? 意識は無いのに動けるのね」
「お前……ソルに何を…………っ!」
キリトとの話を思い出す。もしかしてソルは……整合騎士に?
「まあいいわ。貴方のお友達も一緒よ。貴方をずっと、何時までも見守ってくれる、愛してくれるのはこの私と……そこのソルだけ……。ねぇ? そうでしょ? ソル? さあ、一緒にいらっしゃい」
ソルの震える手に引かれ、僕はベッドの中に引きずり込まれる。
(ソルが……、ソルだけが……僕を、愛して……)
昔から僕の傍にソルは居てくれた。辛い時も、悲しい時も、ソルが助けてくれた。アリスよりも僕を優先してくれた。ソルの愛は、僕だけの…………。
「さあ、これから貴方達の邪魔をする者は誰一人居なくなる。貴方は一人だけの愛を手にすることが出来るわ」
(これで……いいのかな?)
大切な人、ソルと一緒なら…………僕は……。
~~~~~~~~~~
キリトside
俺とアリスは、一度外に放り出せれた後、壁を登って内部に入ることに成功した。ミニオンと戦う時、謎の不可視の斬撃が俺たちを助けた時、アリスはそれを《心意の太刀》と呼ぶと教えてくれた。俺たちを助けたのは誰の心意かはわからないが、それを見たアリスは安心するように笑った。
空間神聖力が無くなって夜明けを待つ時、アリスはルーリッドでの記憶の殆どを思い出したと言った。聞くと、ソルの連行中にソルにねじ込まれたらしい。村娘としての記憶と騎士としての記憶に葛藤するアリスに共に戦おうと提案すると、彼女は右眼の封印を破り、教会に剣を向けることを決意した。
アリスの手当には、ソルから「紳士たる者、手拭くらい持ち歩けよ」と日々散々言われて渡されていた手拭で手当をすると、彼女は頬を赤らめながら手拭に触れた。
そして、先に進んでいたユージオが騎士長ベルクーリと戦った後、元老長チュデルキンに連れ去られたことがわかり、最上階に急ぐ。
元老院の非道な仕組みに怒り、チュデルキンに不意打ちを仕掛けるが逃げられてしまう。
「チュデルキンはこの上、百階まで逃げたんでしょうか?」
「そもそも上への階段は何処だ? ……ん?」
天井にぽっかりと空いた穴から、一人の騎士がゆっくりと降りてきた。
「まだ整合騎士が残ってたのか」
「いえ、そんなことは…………」
降りてきた騎士の顔は、俺のよく知る顔だった。青のマント、装飾を散りばめた銀色の鎧を見に纏った俺の親友だった。
「ユージオ……、お前?」
「……まさか、早すぎる」
「早いって何が?」
「儀式の完了がです。ユージオは既にシンセサイズされています」
「嘘だ……そんな、だって……」
ユージオがベルクーリと戦ってからまだ時間はそう経っていない筈だ。ユージオが記憶を操られたなんて、俺には信じられなかった。
「しっかりしなさい! ここでキリトが動揺すれば、助けられるのも助けられなくなる」
「助ける?」
「そうです。整合騎士に本来の記憶を取り戻させる方法があるなら、ユージオもまだ元に戻せる道理。その為には何としても、この局面を乗り切りなければなりません。それに…………」
「……ここは俺に任せてくれ」
アリスの言いたいことはわかった。ユージオのシンセサイズが完了したのなら、その前に最上階に連れて行かれたソルは……。
「油断しないで、あの騎士はキリトの知るユージオではない」
「ああ」
兎にも角にも、目の前のことを乗り越えなくてはいけない。
「ユージオ、俺のことがわかるか? 俺はキリト、お前の相棒だ。ルーリッドを出てからの二年間ずっと一緒にやってきただろ?」
「ごめんよ。君のことは知らない。でもありがとう」
「何がだ?」
「僕の剣を持って来てくれて」
ユージオは手をかざすと、回収していた《青薔薇の剣》が独りでにユージオの元に動いた。
「な!?」
「《心意の腕》!? 騎士となったばかりで何故?!」
ユージオは剣を取り、腰に帯びた。
「その剣で……どうするんだ?」
「君達と戦うんだよ。それがあの人の望みだから」
「ユージオ、誰かに命令されるまま戦う意味さえ分からず、戦うつもりなのか!」
「戦う意味なんてどうでもいいんだ。あの人は僕らを一緒にしてくれる、欲しいものをくれるんだ。僕にはそれで十分なんだ」
「お前の欲しい物? それはアリスよりも大切な物なのか?!」
「そうだよ。だからもう、他のことなんてどうでもいい……」
そう言い、ユージオは剣を抜いた。
「これ以上、君と話すことは無いよ」
「…………ユージオ。覚えてないだろうけど、お前に剣技を教えたのは俺だ。師匠として、まだ弟子に負けてやる訳にはいかない」
同じ構え、同じソードスキルを放つ。
「「はあああああああ!!」」
『ユージオ……。キリト……』
二人の親友の周りには、謎の心意が満ちていた。
~~~~~
激しい剣戟の中、キリトは叫ぶ。親友への想いを、大切な思い出を刃に込め、ユージオの魂に届くまで。
「思い出せ! お前には大切な人達が居たはずだ。ルーリッド村で俺たちの帰りを待っているセルカ。修剣学院で指導してくれたゴルゴロッソ先輩。別れ際まで俺たちを心配してくれたティーゼ。そして何より、ソルとアリスと一緒に村に帰ることがお前の願いじゃなかったのか!?」
ユージオの瞳にアリスが映る。それは失われた記憶を刺激し、敬神モジュールの埋め込まれた位置に紫の逆三角形が出現する。
「思い出せユージオ!」
キリトの剣に込められた想いは心意として剣を通してユージオの中に入る。ユージオは懐かしい記憶、
「アリス……。キリト……。…………ソル」
「っ! 思い出したのかユージオ!?」
キリトはユージオの反応を待つが、ユージオは一向に動かない。静寂が訪れる。
―カチャ。
静寂を破ったのは、ユージオでも、アリスでも、キリトでも無かった。ユージオが降りてきた天井の穴。そこから、一人の騎士が再度降ってきた。ユージオは心意でゆっくりと下がるように登場したのに対し、彼はかなりの高さの穴からそのまま落ちてきた。着地の瞬間だけ心意で音と衝撃を消したのを見て、心意を知る者ならばその難易度の高さに驚愕するだろう。
「対象のユニット識別コード閲覧、ライブラリファイルに該当のコード」
赤茶色の髪、暗褐色の瞳のよく知る、二人の親友。
「標的を目視、命令プロトコルを実行します」
銅色の鎧を纏った、もう一人の親友の姿であった。