君ガ為ニ剣ヲ振ルフ   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

そろそろ決戦です。エンハンスアーマメントをお楽しみに!


《最後の騎士》

 

 

 

 

「……ソル」

 

 アリスが呟く。彼の暗褐色の瞳に光は無く、喋り方も何処か機械じみていた。記憶の中の彼との違いに困惑する。

 

「くそ……」

 

 キリトも予想していたとはいえ、ショックは大きかった。ユージオとの戦いで負傷しているのも忘れ、力強く剣を握る。

 

「…………」

 

 ユージオからは彼が現れた時、()()()《心意の腕》によって敬神モジュールが飛び出る。ユージオは額から零れ落ちるモジュールには目もくれず、ソルを眺める。

 

 

「サーティツー。命令の実行はどうした?」

「ソル…………」

 

 感情が抜け落ちたような表情をするソルにユージオは絶句する。

 固まった空気に、ひょうきんな声が響いた。

 

「ウォーっホッホッホー。三十二号! まーだ反逆者どもを始末できてないのですか!?」

 

 青赤の道化、元老長チュデルキンだ。チュデルキンはソルの頭を踏みつけるように降り立つと、キリトらを一瞥し、口を開く。

 

「三十二号!何をモタモタしているのです! さっさと反逆者どもを始末しなさい! ……まあいいでしょう、どうせお前はこれから処分ですからね! 三十三号! 三人とも始末しなさい!」

「……チュデルキン。それは命令の更新か?」

「あ? お前は何も考えずにワタシの言うことを聞くだけでいいんですよ。お人形の騎士風情が。そ・れ・に、ワタシのことは元老長閣下と呼ぶように」

 

 ゲシ、ゲシ、とソルの頭を踏むチュデルキン。

 

「……それは命令か?」

「ん? だからぁ…………」

 

 瞬きの間にソルは剣を抜いた。鈍く錆びたような赤錆色の剣。柄の部分は茶色、鍔には赤い蝶の紋章が彫られている。キリトら三人も剣士として高い練度を持つが、ソルが抜剣からチュデルキンの首までの剣の軌道を理解することができなかった。

 

「我の命令への干渉権限を持つのはユニットネーム・クィネラのみである。権限不所持者の干渉は、命令プロトコルに則り…………排除する」

「な、何を言って……!」

 

 ソルの一閃でチュデルキンの首が飛ぶ。首を失った胴体からは血が噴水のように噴き出る。チュデルキンの血を雨のように浴びるソルの顔はピクリとも動かない。その光景はかつてアインクラッドで多くのプレイヤーの命を刈り取った《蜃気楼》を連想させる。

 ベチャリと嫌な音とともに倒れたチュデルキンだったものを見下ろして、ソルはキリト達に向き直った。

 

「……命令プロトコルを実行。我が名はソル・シンセシス・サーティスリー、公理教会整合騎士の最後の騎士である。これから我は貴殿らを始末する、……抜剣せよ」

「ソル!」

 

 最初に斬りかかったのはユージオだった。ソルは目線だけでユージオの剣の軌道を見切ると、剣を片手に受け止めた。

 

「……君のお陰で思い出せたよ。僕は君さえいればいいんじゃない。みんなが、大切なんだ。愛とは与える物なんだって。ソルはいつも僕を助けてくれた。今度は……僕が君を救う番だ!」

「…………」

 

 ソルが剣を振ると、とてつもないソルの膂力に大きく後ろに飛ばされるユージオ。体勢を調整して着地する。その隙を、ソルはただ見守っていた。

 

「ユージオ! 記憶が……」

「ごめんよキリト、アリス……。ソルは僕が何とかしてみせる!」

 

 ユージオは二人と肩を並べる。自分の知る最強の剣士達を頼りたい気持ちが湧き上がるが、それをグッと抑える。

 

「……いいえ、私も戦います」

 

 ユージオの左肩に手を乗せてアリスは言う。彼女の左眼には怒りと、焦燥と、後悔があった。

 

「もし……、もしあの時、私が彼と逃げていれば…………戦っていれば、連れていかなければ、このようなことにはならなかった。だから私も戦います。彼を取り戻す為に」

「ああ、それに相手はあのソルだ。手加減なんてしてたらこっちがやられるぞ」

 

 キリトはユージオの右肩に手を置く。ユージオは二人の顔を見て、大きく頷いた。

 

「……うん。そうだね。ソルの強さは僕達が一番知っている。油断なんて出来ない。……いくよ!」

 

 

 

「…………話は終わったか?」

 

 三人の会話が終わるのを遠くから待っていたソルが口を開く。向き直った三人は剣を抜き構える。

 

「ああ、来いよソル。今回は三対一だ、いつものようにはいかないぜ」

「いきます!」

 

 先陣を切ったのはアリス。《武装完全支配術》でその《金木犀の剣》を無数の花弁へと変え、金色の群と成してソルを襲う。ソルは避けずに花達に突っ込む。

 

「…………」

「なっ!」

 

 ソルの体がぶれたと思うと、下から赤錆色の剣がアリス向けて放たれる。ソルは単純な加速と身体制御だけでアリスの《武装完全支配術》を避け、そのまま反撃に及んだのだ。

 

「てやぁ!」

 

 ユージオが間に入って防ぐ。心意の太刀を使ってソルの背後から攻撃するが、ソルも心意の太刀で相殺する。

 

「はあああああ!」

 

 キリトは突進系ソードスキルを横からねじ込んでブレイクポイントを作る。ソルの剣は手から離れ、床に転げ落ちた。

 

(今だ!)

 

 ユージオは《青薔薇の剣》を床に刺し、《武装完全支配術》を発動しようとするが、

 

「エンハンス・アーマ……ぐわっ!」

 

 縮地で眼前に迫るソルに首元を掴まれ、床に叩きつけられる。床にはクモの巣模様に罅が入った。あまりの激痛にユージオは悶える。

 

「てやああああ!」

「はあああああ!」

 

 アリスとキリトが同時に斬り掛かる。剣を持たないソルに防ぐ手立ては無いと踏んだ行動だった。

 

「……」

 

 しかし、ソルは徒手空拳で剣を躱しながら関節を刺激する。神経が痺れたアリスとキリトは剣を落とす。

 

「まだだ!」

 

 キリトはソルと取っ組み合いに持ち込んだ。ソルは両手を上に上げてキリトを吹っ飛ばす。

 

「ソル! 思い出しなさい。あなたはルーリッド村で私たちと過ごした幼馴染でしょう?!」

 

 アリスはソルの腰にタックルし、押し倒す。そのままマウントポジションを取ると、ソルの両手を押さえつけて声を上げる。

 

「私に記憶を垂れ流しておいて、自分はおいそれと忘れてしまうことなど許されると思いますか?! 早く思い出しなさいソル!!」

 

 アリスは泣いていた。ポロポロとソルの頬に涙を落とし、胸が張り裂けそうになりながらも想いを訴えた。

 

 

「私はまだあなた達の知るアリス・ツーベルクではありません。しかし、この気持ちは……あなたを想うこの気持ちは本物です!」

「サーティ……」

「違う!! 私はアリス、あなたの幼馴染であり、あなたに恋慕する一人の人間です!」

「アリス……」

「そうです! 帰ってきなさい、ソル!!」

 

 ソルはアリスの言葉に徐々に力が抜ける。抵抗してこなくなったソルをアリスは見つめる。

 

「……おかしい」

 

 誰もがソルは記憶を取り戻す、そう思って安堵した。しかし、キリトの顔は険しくなる。

 

(エルドリエの時も、ユージオの時も額に敬神モジュールの光が出た。でも、ソルには何の変化も無い。まだ記憶が戻らないのか? それとも…………)

 

 キリトの脳裏にソルとのこれまでの記憶が流れる。何か大事なことを見落としているような気がしてならなかった。

 

(まさか……そんなまさか……!)

 

 アスナを救出する為にALOで世界樹を登った時のことを思い出す。その時目にした《シムラクルム》の姿と今のソルを重ねる。

 

「ソル!」

「……思考プログラムにエラーを検出。エラーの原因を削、削、削、削……」

 

 ソルは壊れた機械のように呟く。やがてアリスを退けて立ち上がると、心意で剣を手元に呼び戻した。

 

「ソル!」

「ソル!」

 

 アリスとユージオも剣を構えながら叫ぶ。ソルはゆっくりと剣を逆手持ちにすると、自身の胸を貫いた。

 

「え?」

「おい……おいソル!」

 

 言葉を失うアリス。急いで駆け寄るユージオ。

 

「あ…………ああああああ!」

 

 叫びながら、キリトは走り出す。

 

「システム・コール、ジェネレイト・ルミナス・エレメント!」

「システム・コール!」

 

 キリトとユージオは神聖術で治療を試みるが、神器で貫かれた胸の穴は塞がらない。

 

「はっ、システム・コール!」

 

 やっと状況を飲み込めたアリスも加えて三人で治療にかかる。しかし、アリス程の術者が加わっても焼け石に水であった。

 

「不味いよキリト!」

「くっ! システム・コール、トランス・ファー・ヒューマンユニット・デュラビリティ、セルフ・トゥ・レフト!」

 

 三人は己の天命を分けるが、傷は中々塞がらない。

 三人とも気絶寸前まで天命を送って傷がようやく塞る。床に両手を着くが、まだ決戦が残っている。力を振り絞って立ち上がる。

 

「ソル……」

 

 キリトが眠るソルに触れようとすると、ソルの赤錆色の剣が彼らの前に宙に浮いた。

 臨戦態勢を取る三人。しかし、その剣は彼らを襲うことはしなかった。

 

『信じてたよ。三人とも』

 

 声が聞こえた。今、目の前で眠る人の。声に驚いていると、三人の身体が淡い光に包まれる。

 キリトが己の天命を確認すると、減っていた筈が上限値まで回復していた。

 

「これは……」

「《武装完全支配術》……」

 

 思い返せば、ソルは先の戦いの中で一度も神聖術や武装完全支配術を使っていなかった。いや、使う素振りすら無かった。

 

「……行こう」

「……うん」

「ソル、待っててね。あなたが起きる前には全てを終わらせてみせるから。だから…………私達を見守ってて」

 

 キリト達は昇降盤に向けて歩き出す。最後の戦いに向けて。これから、この旅の目的を果たす為。

 

 

『…………頑張れ』

 

 赤い蝶々が、ひらりひらりと跳び廻っていた。

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