戦況をどう書くか迷い中です。
さてさてどうなることやら。
アリスside
「……あなたはまだ寝覚めないのね」
この家に寝室は二部屋ある。一つはユージオとキリトの、もう一つは私とソルが使っている。
「キリトを呼んでいたのはあなたなのでしょ? ……正直、キリトが羨ましいわ」
ベッドは二つあるが、看護の名目で同じベッドでくっついて寝る。はだけて露出した彼の胸に埋まっている結晶を指でなぞる。
「私の記憶はあなたに届いているのかしら?」
ユージオと融合して剣になっていた私の記憶は、あの戦いの後、ソルの胸部にはまりこんだ。だから、私は未だアリス・シンセシス・サーティのままだ。
彼の身体のあちこちには治すことの出来ない傷がある。右腕も左足も、私には治せなかった。彼は私達の傷を治していた訳じゃない。彼は傷を己の身に移していただけだった。それも苦しい顔を一切せず、まるでそうあるべきと主張しているかのように。
彼は昔から人情が厚くて、義理堅く、義務感が強かった。そんな所も好きだったし、それが彼の魅力の一部でもあった。
彼のことを何時好きになったのかはわからない。彼の記憶を受け継いだ時、キリトから彼の話を聞いた時、考えても答えは無かった。きっと、あれは私の一目惚れだったのだから。
キリトの話だと、ソルが目覚めることはほぼ無いらしい。私達の身に危険が迫っていることも、剣に彼の意識が宿っていることも、私にとっては耳を塞ぎたくなる内容だった。
「ねえソル。このまま、四人でずっと隠れて生活していかない? きっと素敵だわ。またあなた達三人はやんちゃするんでしょうけど、毎回私も付き合ってあげるから……」
彼の胸に頭を乗せる。逞しい胸板は、まだ鼓動を打っていて、彼が生きている事実に安心する。
「……おやすみなさい。ソル」
私は、彼に四肢を絡めて抱き締めて眠りに着いた。
~~~~~
夜中に何かが倒れる音と、這いずる音に目を覚ます。
「…………ぁ」
「ソル……?」
横を見るが、そこにいるはずのソルの姿が無い。辺りを見て、誰かが床に横たわっているのに気付く。
「ソル!」
眠気なんか吹き飛び、ソルの体を支える。彼が目覚めたことに驚いてる余裕は無かった。片腕と片足の無い状態で、彼は何かを求めるように這いつくばる。
「…………ぁ」
「どうしたのソル?」
赤い彼の剣から何かを警告する高い音が鳴り響く。彼が手を伸ばすと、剣は彼の元に行こうと床に転がる。
「どうしたの?!」
「ソル!」
騒ぎに気付いたユージオとキリトが部屋に入ると、ソルの姿に言葉を失う。
「……っ!」
キリトが何かに気付いて急いで外に出る。私とユージオも外に出ると、彼方の夜空に燃え上がる煙と火の光が見える。あの方角はルーリッド村だ。
「村が……」
「…………ぁ」
ソルは家の外まで出てきていた。その手には赤い剣が握られている。服が汚れるのも、身体に擦り傷が付くのも、なりふり構わず彼は助けに行こうとしている。
「ソル。いいの、あなたはもういいのよ。村には私達が行くから。ここで待ってて、お願い」
彼を抱き締めて止める。彼の手に指を絡めて剣を取り上げる。
「……ぁ」
だらりと腕の力が抜けたかと思うと、彼は再び眠りについた。
「……行きましょう。キリト、ユージオ」
「おう」
「わかった」
彼は私達の分の傷も負った。もう十分だ、彼の為に、私が剣を振ろう。
~~~~~
整合騎士の鎧を身に着け、雨縁に跨ってルーリッド村を目指す。ユージオは小父様から借り受けた
「私は先に行っています」
「任せた」
「頼んだよアリス」
ユージオが念の為と鎧を着けるのに手間取ったので、私が先行する。
ルーリッド村を空から確認すると、ダークテリトリーのゴブリンとオークが群で村に攻めて来ていた。
村の住人は、広場に集まっている。南側には敵がいないのに、避難する様子も無い。
「雨縁、あなたはユージオ達と合流しなさい」
私は雨縁の背中から飛び降りる。
広場の空いた場所に着地すると、村人たちが私を見る。
「ここでは奴らを防ぎきれません。今すぐ南の通りから全住民を避難させなさい」
「バカ言うな、屋敷を……いや、村を置いて逃げられるか!」
欲深いバルボッサが噛み付いてくる。
「今ならまだ、ゴブリン共に追いつかれることなく逃げられます。家財と命と、どちらが大事なのですか」
言葉を詰まらせるバルボッサ。
「広場は円陣を組んで守りを堅めろというのが衛士長ジンクの指示なのだ。この状況では村長の私とて従わなければならない。……それが帝国の法なのだ」
私の父……ガスフト・ツーベルクが間に入る。法、キリト達はそれを変える為に塔を登った。やはり、法は間違って……。
「姉さまの言う通りにしましょう」
「セルカ」
セルカの一言は私にとって鶴の一声だった。村人達の雰囲気も、少し私に傾く。
「逃げるだと? 子供がでしゃばるでない、村を守るんじゃ!」
「……!」
強烈な殺気を感じて咄嗟に手を伸ばすと、家にあるはずの彼の《戦憶の剣》が抜き身でバルボッサに襲いかかろうとしていた。私が反応しなかったら、確実に命を奪う威力はあった。
「ひぃ! …………そ、そうか、わかったぞ! 村に闇の怪物を招き入れたのはお前じゃなアリス。昔、果の山脈を越えた時に闇の力に穢されたのじゃ! 魔女じゃ、この娘は恐ろしい魔女じゃ!」
……もう限界だ。時間も説得もここまでだ。私は全てを曝け出す覚悟を決めて、口を開く。
「騎士の名において、衛士長ジンクの命令は破棄します。この広場に集う村人は全員、武器を持つ者を先頭にして南の森へ避難するよう命じます」
「き、騎士とはなんじゃ。そんな天職この村にはないぞ。ちょっと剣が使えるからといって、勝手に騎士を名乗るなぞ、王都の騎士様に知れたらどうなるか……」
私はフードを取り、黄金の鎧を月明かりの元に晒す。
「セントリア使役統轄、公理教会整合騎士、第三位アリス・シンセシス・サーティ」
「せせ、整合騎士ぃ!?」
村人の間に衝撃が走る。目の前の罪人たる少女が罪を取り締まる騎士だったのだ、動揺は必然である。
「姉さまが……」
「今まで、黙っててごめんなさい。これが私に与えられた本当の罰、本当の責務なの」
「ううん! 私……信じてたわ、姉さまは罪人なんかじゃないって」
セルカに隠してたのは要らぬ動揺を生まないようにと思ってのことだ。それでも、彼女が流してくれる涙をとても暖かく思う。
「御命令、確かに承知した整合騎士殿。武器を持つ者を先頭に村のみんなを南門に誘導しろ! 村を出たら開拓地、南の森に避難するんだ!」
お父様のお陰で村人は避難を始める。これで、被害は最小限に抑えられる。
「お待たせアリス!」
「ちょ、おいユージオ!」
ユージオが陽凍から降りて空から降りてくる。心意を使ってゆっくりと着地すると、キリトを乗せたままの陽炎に命令する。
「先に行っててくれ! 後で行くよ」
「ったく、任せろ」
飛竜に乗ったキリトは一足先にゴブリンの行列に突っ込む。
「ユージオもだったの!?」
「隠しててごめんセルカ。まあ、僕は整合騎士と言っていいかわからないんだけど……」
「一応ユージオは整合騎士に名を連ねたのだから大丈夫でしょう」
「そうかな? じゃあセルカも避難してここは僕らに任せて」
セルカと別れて剣を抜く。右手に《金木犀の剣》、左手に《戦憶の剣》を持つ。
「それはソルの……」
「こいつは自分でここまで来たようです。抑えていますが、今にも暴れだしそうで……」
「……手を離してみれば?」
ユージオの言う通り一度手を離すと、剣は一直線にゴブリンの首を突き刺した。
「大丈夫そうですね」
「まるでソルが戦っているみたいだね」
剣が独りでに戦っているのを見ながら、私たちも《武装完全支配術》を行使する。
「「エンハンス・アーマメント!」」
ユージオの氷が手前のゴブリンを氷漬けにし、私の花が遠くのオーク共を蹴散らす。
ふとある一角を見れば、キリトが白と黒の二振りの剣で敵の数を減らしていた。キリトが目覚めた時に手に持っていたその剣は、ソルの剣から分離した物だ。神器と言っていいその剣を生み出したソルの剣は、神器を生む神器、私の知る理から大きく外れる代物だ。キリトは試しに《武装完全支配術》を使うと、粒子を操る術のようだった。
「行くよアリス」
「ええ」
私達が闇の軍勢を片付けるのに、一刻も要らなかった。
~~~~~~~~~~
「今、なんと言いましたかキリト!?」
あれから一週間後、食事の時間にキリトが突然ソルを連れて《東の大門》に、ダークテリトリーとの戦争に参加しに行くと言う。カッとなってキリトの胸倉を掴む。
「だから、俺とユージオはこの戦いに参加する必要があって、それにソルも連れて行こうって言ってるんだ」
「ちょっと二人とも!」
ソルが目を覚ましたのはあの時だけ、それ以降も彼は眠り続けたままだ。《戦憶の剣》に触れさせても何も起きない。
「そういうことならあなた達二人で行けばいいでしょう!? 何故、ソルを巻き込むのです!」
「……このまま何もしないと、ソルは二度と起きない。多少危険が伴っても試してみるべきだ」
「……アリスは行かないのかい?」
ユージオの問に言葉が出ない。私は騎士としての責務を果たすべきだが、それ以上に大切な者を守りたい。葛藤する私に、キリトはある提案をする。
「何かあったら俺が守る。絶対にだ。それがソルとの約束だからな」
「約束…………」
幼き日の記憶に、確か彼と似たような約束をした気がする。私だけでなく、みんなを助けようとする彼に私はこう誓ったはずだ。彼がみんなを守るなら、私が彼を守ると。
もし仮に彼を連れて行かないとして、彼の声も、表情も、仕草も、聞けないし見られない。もう一度、彼に抱き締めて欲しい、そんな願いも叶わない。
「……私も行きます」
「決まりだな。出発は明後日の朝でいいか?」
「構いません。……彼を後方に置いてもらえるようにお願いしてみます」
「ああ、頼んだ」
少しは美味しく作れるようになったスープを掬い、口に運んだ。
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食事を終えたら、彼を濡らした布で拭く。
「……あなたを血の気の多い場所に連れて行くことになったわ。本当は嫌だけど、このままじゃ駄目なことくらいわかってた。ムカつくけどキリトの言っていたことは本当だわ」
彼の頬に触れる。安らかな寝顔はあどけなさと可愛らしさが共存していて、ついこちらの頬の筋肉が柔らかくなる。
「私はあなたが死ぬのが怖い。目覚めないのが怖い。戦うのが怖い。誰かを庇うのが怖い。……臆病ね、私。あなたが強いことを誰よりも信じているのに、あなたが生きて帰って来ることを誰よりも信じられないんだから」
またあの笑顔が見たい。また彼の腕に包まれたい。記憶の中でしか経験していないことが沢山ある。
「私が危険な時、あなたは剣を取って立ち上がってくれるのでしょう? ……己の命を顧みないで」
彼に伸し掛る。顔を近付け、触れるか触れないかの距離で彼の閉じられた瞼を見つめる。
「もし、あなたが私を助けに来たら、その時は必ず私を救い出すんでしょ? なら、あなた自身は私が救ってみせる。…………待ってるわ」
彼の唇に接吻を交わす。彼の唇はとても柔らかくて、暖かかった。
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「あなたは今、何処で何をしているのかしら、ソル…………」
二人の少女は唯想ウ、想い人の帰還ヲ。