君ガ為ニ剣ヲ振ルフ   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

アベマの無料終了までに終わらせたいけど無理くさいです。
……やるしかなぇよなぁ!


《開戦》

 

 

アリスside

 

 

 私たち四人は、飛竜に乗って《東の大門》へと辿り着いた。峡谷の手前に展開した人界軍の訓練の様子を見るが、整合騎士の数が明らかに少ない。

 

「ここが……」

「《東の大門》……」

 

 キリトとユージオは目の前の光景に固唾を呑む。これから共に闇の軍勢と戦う予定だが、一度は剣で命のやり取りをした間柄だ。気まずくもなるし、なんならその場で処刑されることも有りうる。そうなった場合逃げるしかないが、そういった覚悟を持って二人は此処に来たのだ。

 

「師よ! 信じておりましたぞ!」

 

 ソルを抱えて雨縁から降りると、エルドリエが鎧を鳴らしながら走って来た。彼は私が抱えるソルを見ると喜びの表情が一変、嫌悪の表情となる。

 

「一先ず、場所を変えましょう」

 

 

~~~~~

 

 

 天幕に入り、簡易的な椅子に座って私達はエルドリエと話す。

 

「先程《東の大門》を見て来ました。門が崩壊し、闇の軍勢が押し寄せて来るまでもう猶予はありません」

「敵軍は約五万、対する我が方は三千。せめて少しでも兵を鍛えなければ」

「他の整合騎士は何処に居るのですか? 上空から見た所、外には七名ほどしか居ないようですが」

 

 いくら我々整合騎士が一騎当千の力を持とうと、たった七名では闇の軍勢の侵攻を防ぐことはできない。キリトとユージオが壊滅させたとは言え、もっと居てもいいはずだ。

 

「……あれでほぼ全部です」

「そんな馬鹿な、騎士団には私を含め三十二名が存在するはず」

「アリス様はご存知でしょう。元老長チュデルキンが記憶に問題が生じそうになった騎士に、再調整なる術を施していたことを。十人の騎士が、その術から未だに目覚めていないのです。今、覚醒している整合騎士は二十一人、内四人はカセドラルと中央の管理、四人は果の山脈の警護に当たっていますので……」

「差し引きすると十四名……」

「我らの戦力には一切の余裕はありません。……なのにアリス様は、その若者を庇いながら戦うつもりですか?」

「当然です。守ると誓ったのですから」

「なりませぬ師よ。そのような無用の重荷を抱えて戦えば、剣力が半減するどころか師の御身を危険に晒すことにもなりかねません」

 

「俺ら空気だな……」

「…………だね。サラッと僕を整合騎士として数えているアリスに言いたいことはあるけど、今は黙るよ」

 

 キリトは言わずもがな、ユージオは一応整合騎士の鎧を着ているが、エルドリエの眼中に無い。すぐに処刑と言わないあたりはまだマシと言えるか。

 

「まあそうカッカするなよエルドリエ」

 

 とても聞き馴染んだ声に振り返ると、ベルクーリ騎士長、小父様が天幕に入って来た。

 

「よう嬢ちゃん、それに坊主ら。思ったより元気そうで安心したぜ。ちょっと顔がふっくらしたかい。結構結構」

「小父様……。御無沙汰しております」

「うむ」

 

 ベルクーリは頷いて、天幕に足を踏み入れる。その視線は、ソルを捉えていた。

 

(……ソルを斬るつもり?)

 

 何時でも守れるように、キリトとユージオと私は剣に手を伸ばす。

 

「大丈夫だ。お前さんら」

 

 そう言うと、小父様は深呼吸して剣気を放った。

 

「止せソル!」

 

 キリトの声が響く。《戦憶の剣》が小父様を今にも突き刺さんと小父様の首元で震えている。それだけじゃない、目を凝らせば無数の心意の剣が小父様を囲んでいる。

 

「……こりゃあおっかねぇ。そこの坊主が止めてなきゃ、天命の半分は持ってかれてたな。お前さんら、今のは見えたな?」

「は、はい……」

「一瞬ですが……剣戟の光が」

「俺はそこの若者に向けて心意の太刀ならぬ心刃を放った。見ればわかるが、結果はこれだ」

 

 からからと笑う小父様。しかし、私には気が気でなかった。

 

「どうやらそいつの心はそこには無いようだが、まだ死んじゃいねえ。きっと戻って来る。お前さんらがそいつを必要としたその時にな」

「……わかってます。ソルは必ず戻ってくる」

 

 ユージオは真剣な眼差しで小父様を見る。ユージオはセントラル・カセドラルで小父様と一戦交えたと聞いた。ユージオも小父様に思うところでもあるのだろう。

 

「そういうことだエルドリエ。若者一人くらい面倒見てやろうや」

「…………」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 陽が沈み始めた頃、私はソルと用意された天幕で移動の疲労を癒している。天幕を用意されたのは整合騎士の私と名目上整合騎士のユージオだけ、ソルは私の、キリトはユージオの天幕に入ることになった。

 

「はい、ソル」

 

 キリトに言われてからソルには常に《戦憶の剣》を待たせるようにしている。彼曰く、こうすることで目覚める可能性が上がるらしい。正直、寝る時痛いのだが、我慢している。

 

(あなたが私達を守る為に心意を放つのなら、私があなたにありったけの心意を注ぎ込めれば、あなたはどうするの?)

 

 あの夜から、彼に接吻をするのが癖づいている。四人で暮らしている為、二人きりの時間は限られている。……今は二人きり、誰の邪魔も………。

 

―チリン。

 

 心意を込めながら彼に触れていると、鈴が鳴る。天幕の外を見ると、黒髪の少女が立っていた。

 

「騎士様、御夕食をお持ちしました」

「ありがとう」

 

 黒髪が珍しいからか、彼女は見覚えがあった。確かあの時…………。

 

「もしかして、あなたは北セントリア修剣学院の……」

「はい。私は人界守備軍補給部隊所属、ルーナ・クルクカン初等練士です」

「そんな畏まらなくてもいいわ。此処では私も一人の剣士に過ぎないのだから。私のことはアリスと呼んでね」

「では、僭越ながらアリス様に尋ねたいことが御座います。……あなたがソル先輩を連れていると聞き及びました。会わせて頂けますか?」

「そう……、あなたは知るべきね。とても辛いでしょうけど、ソルの後輩たるあなたなら受け止められると信じます」

 

 ルーナ初等練士を天幕の中に招き入れる。ソルの姿を目にした彼女は崩れ落ちる。

 

「せん…………ぱい?」

 

 恐る恐る彼の腕に触れ、足に触れ、胸に触れ、涙を流す。

 

「どう……して? ロニエやティーゼはキリト先輩とユージオ先輩は無事だって、なら何でソル先輩だけ……こんな、こんなことに?」

「……ごめんなさい。彼がそうなったのは、私達が弱く、彼を頼るしかなかったから。彼が私達の変わりに文字通り命を削らなければ勝てなかったから……」

 

 震えた手でルーナ初等練士は赤い剣を握る。剣は一瞬淡く発光する。

 

「…………どうして、そんなこと言うんですかソル先輩。待っててくださいよ! 私が行くまで、私だけを見てくださいよ!」

「あなた……ソルのことが……」

「私は彼を愛しています。彼が罪を犯したのも、彼が傷付いたのも、私のせいなんです。だから、私は彼を誰よりも幸せにしてあげたかった! 二人だけで何処かの辺境に住んで、家庭を築きたかった!」

「……なら、この戦い。あなたが彼を守って下さい。それ程彼を想うあなたなら、必ず彼が目覚めるまで守りきってみせるでしょう?」

「……当たり前です」

 

 彼のある意味での罪深さを感じながらも、彼の預け先が見つかったことに不安の種は一つ減った。

 …………彼を渡すつもりなど微塵も無いが。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 次の日、私達も混じえた軍議が行われた。始めこそキリトとユージオに嫌悪する者もいたが、最高司祭を倒した彼らの強さを小父様が語ると口を噤んだ。整合騎士団の副長たるファナティオ殿が主立って軍議は進められる。

 

「この四ヶ月の間というもの、あらゆる作戦を検討してきましたが。結局の所、現状の戦力で敵軍の総攻撃を押し戻すことは困難です。果ての山脈のこちら側は、十キロル四方に渡って草原と言う他ありません。ここまで押し込まれたら、後は五万の敵軍に包囲、殲滅されるのみでしょう。故に我々は、この東の大門へと続く幅百メル、長さ千メルの峡谷で戦い抜かねばならない。ここまでで何か意見はありますか?」

 

 エルドリエが挙手し、発言の許可を求める。許可されると、立ち上がって口を開く。

 

「敵軍には大弓を装備するオーガの軍団、そして一層危険な暗黒術士団も存在します。それらの遠距離攻撃には如何なる対応を?」

 

 ファナティオ殿は私は一度見て、質問に答える。

 

「これは危険な賭けですが。峡谷の底は昼でも陽光が届かず、地面には草一本生えていない。つまり、空間神聖力が薄いのです。開戦前にそれを我らが根こそぎ消費してしまえば、敵軍は強力な術式を打てなくなる通り」

 

 その大胆な作戦皆がザワめく。ファナティオ殿は続けて言う。

 

「無論、それは我が方も同じこと。しかし、こちらにはそもそも神聖術士は百名程しかおりません。術式の撃ち合いとなれば神聖力の消費は敵方の方が遥かに多いはず」

「なるほど、副長殿の言は正しかろう。しかし神聖力が枯渇してしまえば、傷付いた者の天命の回復すら出来なくなるのではないか?」

 

 デュソルバート殿の意見に私は頷く。圧倒的に数が少ない我が軍は、敵よりもその命の価値が跳ね上がっている。いくら戦場を限定的な場所にしたとしても、我が軍はその分戦い続けなければならない。

 

「ですから賭けと申しました。ここには高級触媒と治療薬をありったけ運び込んでおります。使用する術式を治癒術に限定し、薬を補助的に用いれば触媒だけで三日は持つはずです」

 

 確かに、それならば戦線を維持するのは可能だ。しかし、その前提条件が厳しい。私は口を開く。

 

「問題はもう一つありますファナティオ殿。如何にソルスとテラリアの恵みが薄いといっても、あの谷には長い年月の間に膨大な神聖力が蓄積していると思われます。一体何者が開戦までの短時間でその力を根こそぎ使い尽くせましょう」

「いえ、います。たった一人、それが可能な者が」

「一人……?」

 

 ファナティオ殿は私を真っ直ぐ見つめる。

 

「あなたです、アリス・シンセシス・サーティ。自分では気付いていないかもしれませんが、現在のあなたの力は整合騎士の範疇をも超えています。今のあなたなら行使できるはず、天を割り、地を裂く真の神の力を」

 

 結局、キリトとユージオは軍議の圧迫感に何も言えないまま軍議は終了した。

 

 

~~~~~

 

 

「では、ソルのことお願いするわね」

「はい、アリス様。彼のことはこの命に変えても」

 

 

 とうとう今日が《東の大門》の天命が尽きる日だ。時間帯は夜、苦しい戦いになる。この戦では何人も死ぬ。私やユージオ、キリトだって命を落とすかもしれない。でも、私は信じてる。私たちが求めれば彼は必ず応えてくれると。

 

「そろそろ時間だよ、アリス」

「ええ、今行きます」

 

 幼馴染二人と肩を並べて歩く。私たちの胸中は一つ、彼のことだけ。誰一人欠けずに無事に四人で帰ること。

 私は大規模神聖術の行使、キリトとユージオは最前線での戦いとなる。二人の剣の腕は信用に値する、心配はしてない。

 

「大丈夫だ二人とも。ソルは起きる」

「そんなことわかってますキリト。そう言うあなたこそ、手が震えているのではありませんか?」

「こ、これは……そう、武者震いだ」

「もー、これから戦いに行くっていうのに締まらないなぁ」

 

 そう、大丈夫。きっと上手くいく。だって私たちは、生きる時も死ぬ時も一緒なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 我ら人界軍三千の兵士が峡谷に展開する。目の前に聳える巨大な門の亀裂が音を立てて大きくなる。

 

(ソル……。大丈夫、私はもう戦えるわ。だから、私に勇気を頂戴)

 

 右眼に着けていた手拭を取る。私の吹き飛んだ右眼は、もう完全に治っていた。彼の手拭に口付けをすると、手拭はゆっくり消えていった。

 

 

「システム・コール…………」

 

 

 

 

 アンダーワールドきっての大戦が、開戦する。

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