オリジナル展開まで進めるの普通に難しいです。
タスケテ
ルーナside
「ソル先輩…………」
耳に響く轟音に、《東の大門》が崩れたのがわかった。緊急用の担架と車椅子を確認して、腰の剣も今一度確認する。
私がソル先輩から教わった剣は、実践的に相手を翻弄する剣。足運び、重心、剣心、勢い、全てを計算しながら戦う計算高い剣。先輩はいつも言っていた。
『この闘術は、無勢で多勢に勝つ為の剣だ。相手の力を使い、自らの疲弊を最大限抑える継戦能力、相手を倒す確実性に特化している。だから体術や他の武器も使う。……まあ、ルーナには難しいだろうけど』
『やりますよ』
『ん?』
『やってみせますよ。私も先輩のようにあらゆる武具を扱ってみせます』
杖術だけは習得出来なかったが、他の武器ならものにした。試合でも負け無しの私はこのまま整合騎士としてセントラル・カセドラルに行くはずだった。……行けたんだ。
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「先輩はどうして私を傍付きに選んだんですか?」
「どうしたの急に?」
「普通に気になるからですよ」
先輩との稽古が終わってから、私は先輩に聞いたことがある。首席たるソル先輩は次席のライオスをボコボコにしてその座を得たという、本物の強者だ。そんな強者に選ばれた理由なんて知りたくない訳が無い。
「……そうだな。一番強そうだったから」
「強そう……」
「ふふ、僕が傍付きをしたウォロ先輩に習ったんだ。こうやって意思は受け継がれるんだなあ」
嬉しそうに笑う先輩。美しい横顔につい見惚れてしまう。
「まあ? あの時と違うのは傍付きが未だに一本も勝てて無いことかな?」
憎たらしいくも優しい笑みの先輩。
「…………先輩の初めては私が貰いますからね?」
先輩は学内無敗の最強の剣士。彼と同郷の上級修剣士たるキリト先輩もユージオ先輩も彼に勝ち星をあげたことは無い。
目標としては高すぎる気がするが、元々私は剣一つでここまで逃げてきた身。私の家は落ちぶれた高貴の血を引く家系だ。私の両親は私を成り上がりの道具としか見ていない。
私が先輩に明確に惚れたのは、確かあの時。私が一人で鍛錬していた時だ。
「お疲れ様ルーナ。精が出るね」
「お疲れ様です」
こうして先輩が私の鍛錬を見てくれるのは珍しくない。むしろ、先輩の教えを求めて毎日沢山の初等練士が先輩に押し寄せている。……女剣士ばかりだが。
先輩は教えるのがとても上手い。何がわかってなくて、何が知りたいのかを正確に把握している。その暗褐色の瞳は万物を見通しているようだった。
「ルーナって(剣の軌道が)綺麗だよね」
「え?」
「それに(リズムの取り方が)とても僕好みだ」
「え? え?」
「きっと(戦闘スタイルの)相性が良いからだろうね」
「……///」
先輩は天然のタラシだ。その自覚無き言動で何人の乙女が堕ちて来たのだろう。少なくとも数えようとは思えない数だ。
ちなみに私がチョロい訳では無い。……顔の良い優しくて強い先輩では相手が悪かっただけだ。
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剣戟の音と悲鳴が聞こえ始めた。開戦からどれほど時間が経ったのかはわからないが、早すぎる。
(前線は一体どうなっているの?)
補給部隊の天幕に隠れている私たちは最後方の生命線。ここまでそうそう突破されるなんて考えられない。きっと何か異変がある。
「先輩、少し外を見てきます」
天幕の入口から少し顔を出すと、第二左翼部隊がゴブリンと衝突していた。
(あれは……煙幕)
機動力のあるゴブリンはその実、敵軍の他種族より脆い。煙幕はそれを補う策だ。
(こっちに来る!)
私は急いで天幕の奥に戻ろうとした時、中からの物音に剣を抜く。
「お前は誰だ!?」
「……すまない。敵じゃないよ」
いつの間に入り込んだのか、出て来たのは整合騎士殿だった。
「騎士様でしたか。何故このような場所に?」
「……僕はもう、騎士じゃない。……逃げて来たんだ」
「……は?」
あまりに突飛なことに唖然とする。
「今頃、僕が指揮するはずだった部隊は大騒ぎだろう。死者だって出ているだろう。ここから動けない僕が、騎士なんかであるものか」
「……私は補給部隊所属のルーナ・クルクカン初等練士。こちらは、ソル上級修剣士殿です」
「ソル……? あの最高司祭様を倒した……」
「騎士様、手が空いてるようでしたら手伝って頂けませんか? ゴブリン共はすぐそこまで来ています。私だけだと先輩をどこまで守れるかわからない。騎士様の御助力を承りたく……」
気配を感じて剣を抜く。息を整えて、身体の内で律動を刻む。
天幕が斬られると、緑の肌を持つゴブリンが現れる。
「ウヒョー。シロイウムの娘っ子だ。美味そうだな」
(来たか……)
剣を持つ手が震える。命を賭した戦いなんてこれまで経験したことなんてない。殺される恐怖と、守りたい気持ちがせめぎ合う。
(駄目、絶対守ると誓ったんだから!)
「君は…………」
光に引かれて後ろの整合騎士様を見ると、先輩の赤い剣に触れていた。一瞬剣が光ると、彼は覚悟を決めた顔になる。
「わかった……やってみるよ」
きっと、先輩が彼に何か言ったのだろう。先輩の意思が宿る剣は、役目は終えたとばかりに先輩の手元に戻る。
風を切る鋭い音がする。気付けば、ゴブリンの頭は真っ二つになっていた。
「騎士様……」
「ありがとう、君たちのお陰で僕も戦えそうだ。彼を……頼んだよ」
付き物が取れた顔をして、騎士様は天幕から出ていった。
「言われるまでもありません」
彼は……まだ動かない。
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アリスside
敵の第一波を防ぎきった後、進軍するドミニオンの群れが空中でボロボロと切り刻まれて落ちる。
「あれは《時穿剣》の《武装完全術》。小父様が動いたのね」
術式の制御をしながら上空から戦況を俯瞰する。キリトとユージオも大丈夫そうだし、戦線が崩壊していることも無い。この調子なら、人界の防衛は叶うだろう。しかし……
(何故、何故人界人だけでなく、亜人の魂から生まれてくる神聖力もその全てが温かく清らかなの。もし人界の民も、闇の国の怪物も、持っている魂が本質的に同一の物だとしたら。ただ生まれた場所が山脈のあちらかこちらだけの違いしか無いのだとしたら、一体何故彼らは、私達は、戦っているの?)
「ソル……」
もし彼が起きていれば、この戦争は一刻で終わるだろう。被害は最小限に、最速で敵の機能を止めたはずだ。でも、彼は今はいない。そもそもこれは、最高司祭様に剣を向けた私の責任なのだから。
「来た……」
敵の第二波を確認する。その中には遠距離攻撃を得意とする暗黒術士の姿もある。私の役割はここからだ。
(私一人では数千を超える暗黒術士素因保持量に敵わない。それに、神聖力をただ熱素や凍素にするだけでは峡谷の神聖力を使い切る程の神聖術にはならない。でも、光素を鏡で閉じ込めて無限に反射させれば……)
あの暗黒術士達は、今頃術が発動しないことに困惑していることだろう。
(ソルの為、数多の命を奪う罪……私は背負ってみせる)
《金木犀の剣》を抜き、《武装完全支配術》を行使する。
「咲け、花たち!」
剣は花へと変え、鏡の珠を真中に支える。
「……バースト・エレメント」
何倍にも増幅した光が敵を焼き尽くす。地を焦がし、敵を蒸発させる。さながら地獄のようだ。
(…………)