この次は少し飛びます。
細かく戦況をちまちま書いてられっか!
アリスside
自陣に戻ると、キリトとユージオが出迎えてくれた。
「大丈夫だったかアリス」
「怪我は無いかい?」
「大丈夫です」
彼らは服に返り血こそあるものの、負傷は見当たらない。流石の実力と言った所だ。潜り抜けた修羅場の数が違う。息を整えていると、血に塗れたエルドリエが声をかけてきた。
「師よ……」
「エルドリエ、怪我は無いのですか!」
「はい……大きな傷は受けておりませぬ。しかし、いっそ戦いの中で命を落とすべきでした」
「何を言っているのです。そなたにはこの戦いが終わるまで衛士たちを率いて戦い抜くという使命が……」
エルドリエの顔色は悪く、息も絶え絶えだ。普段の彼からはかけ離れた姿に驚く。
「私はその使命を果たせませんでした……」
虚ろな眼で言うエルドリエ。
「私には、アリス様の弟子を名乗る資格など無いのです!」
「そなたは……そなたは良くやりました。私にも守備軍にも、そして人界の民達にも、そなたは必要な者です。何故そのように自分を責めるのですか」
「必要……? それは戦力としてですか? それとも……」
突然の呻き声に警戒する。未だに燃え盛る火の中を一人のオウガ族が立っていた。体は焦げ、武具も持たずにただ私達に向かって歩いている。
「そなた、もう天命はもう残っていないはず。何故丸腰でそこに立っているのですか?」
「オレは、オウガの長、フルグル」
「オウガ族の長……」
ユージオとキリトも剣を抜いて構えている。フルグルは途切れ途切れの言葉で話す。
「オレ……見た。あの光の術、放ったの、お前。あの力、その姿、お前、《光の巫女》。お前連れて行けば、戦争終わる。オウガ、草原帰れる」
「……光の巫女?」
「戦争が終わる……?」
「おのれ、獣風情が何を言うか!?」
「よせエルドリエ!」
キリトの静止を聞かずにエルドリエは剣を振りかぶる。彼に一番近かった私が彼の腕を掴んで止める。
「師よ、何故?!」
「如何にも、私こそが光の巫女。さあ、私を何処に連れて行くのです? 私を求めるのは誰なんですか?」
こちらの質問に、フルグルは躊躇わず答える。
「皇帝《ベクタ》。皇帝欲しいの光の巫女だけ。巫女を捕まえ、届けた者の願い何でも聞く。オウガ、草原帰る。馬飼って、鳥取って、暮らす」
「……私を恨まないのですか。そなたの民を皆殺しにしたのはこの私です」
「強い者、強さと同じだけ背負う。オレも、長の役目背負っている。だから、お前捕まえて、連れて、行く!」
フルグルはそのボロボロの体を必死に昂らせて私を襲うが、私は斬り捨てる。
呆気ない終わり方ではあるが、彼との一戦は決して軽んじてはならないものだった。
「せめてその魂だけでも、草原に飛ばしなさい」
神聖術でフルグルの神聖力を風素に乗せて彼方に飛ばす。どうか彼が安らかに寝られるように。
~~~~~~~~~~
「光の巫女?」
私はオウガ族の長から得た情報を共有する為、小父様の天幕にてキリトとユージオも連れて報告をしている。
「はい。そのような名前はどんな歴史書にも出て来た記憶はありませんが、しかし敵の司令官がそれを強く求めているのは確かと思われます」
「司令官……《暗黒神ベクタ》か」
「とても信じられません。神の復活などと……」
小父様と、食事の給仕をしているファナティオ殿も信じ難いと言った様子。
「嬢ちゃんよ、ダークテリトリーに《暗黒神ベクタ》が降臨し、そいつが《光の巫女》を求めていて、その巫女が嬢ちゃんのことだと仮定するとしてだ。問題は、それがこの戦況にどう影響するかだぜ?」
「……意見いいか、整合騎士長殿」
険しく考え事をしていたキリトが口を開いた。彼は白い剣に触れ、少し息を吸って、話し出す。
「恐らく、《暗黒神ベクタ》が求める《光の巫女》はアリスのことで間違いないと思う。だから、《ワールドエンド・オールター》、《東の大門》からずっと南の場所にアリスを連れて行く。そうすれば、アリスが奴らに奪われることなく戦争は終わる」
「ほう、何故言い切れる。お前さんは《暗黒神ベクタ》について何か知っているのか?」
キリトはユージオと私を見て、目を瞑る。目を開いて、その決意の塊を吐き出した。
「……俺は、俺とソルは外の世界から来た。《暗黒神ベクタ》は、俺たちと同じ世界の人間だ」
「き、キリト?! どういうことだい?」
ユージオが詰め寄る。キリトがそれから話したことは、にわかには信じがたいことばかりだった。この世界は外の世界に創られた物であり、創作者達はその気になれば自分達をいつでも消滅させることが出来ること。その技術を巡って、今外では争いが起きているかもしれないこと。
「俺は本来外の記憶を消されてこの世界に来るはずだった。実際、ソルには記憶が無かった」
「な…………」
「でも、確かに俺たち四人は共に育った幼馴染だ。外の記憶があるだけで、そこは変わらない。……今まで黙ってて悪かった」
キリトの話が終わると、天幕の中には気まずい空気が流れる。
「……とても信じられんが、兎にも角にも今は戦況を気にするのが先決だ。そういった細々したのは後でいい。坊主、嬢ちゃんをその《ワールドエンド・オールター》に連れて行けばいいんだよな?」
「ああ」
「じゃあ決まりだな。流石に防衛を手薄にする訳にはいかん。兵の三割と、俺が一緒に行こう。敵の主力は未だ健在だ、敵を分断する意味でも、十分な数で行くべきだ」
「……え?」
「これは条件だ。いいな?」
私は、この情報の波を捌ききれなかった。
~~~~~~~~~~
我々遊撃部隊は、《ワールドエンド・オールター》向けて飛び立つ。整合騎士は私と小父様、レンリ殿にシェータ殿。そしてユージオと、整合騎士では無いがキリト。ソルも同行する。
飛竜で峡谷を進んでいると、反響する無数の声が響いた。
「これの音は、術式の多重詠唱。馬鹿な、この一帯にはもう大規模術式を行使できるほどの神聖力は残っていないはず」
「あ、あれは……」
「奴ら、なんて真似を……」
敵軍の上空で、闇素で形成された砒素蟲が蠢く。
「くっ、接近してこちらに引き付ける。上昇!」
しかし、虫たちはしつこく引き剥がせない。私は雨縁に降下の指示を出す。
「嬢ちゃん、無理だその技では!」
「アリス!」
ユージオは私の後をついて《武装完全支配術》の用意をする。
~~~~~
「エンハンス…………」
「……ソル先輩?」
目覚めたかと思われた青年は、されど言葉をそこで止めた。いや、
守備軍に向かう虫に立ち向かう一頭の飛竜。その上にエルドリエが居た。
「駄目、エルドリエ!」
「エルドリエさん!」
アリスとユージオは叫ぶ。不甲斐なくも、彼女らは追いかけることしか出来ない。
「古の神蛇よ! お前も蛇の王ならば、あれら如き長虫の群れなど喰らい尽くしてみせろ!!」
師を一瞥し、エルドリエと滝刳は虫を引き寄せて上昇する。
「リリース・リコレクション!!!」
鞭は白い神蛇となって、虫を喰らう。それでも、大量の神聖力を含んだ砒素蟲は止まらない。むしろ、どんどんエルドリエを追い詰めて、彼の天命を貪る。
「ぐわあああああぁぁぁぁ!!」
一度、エルドリエの天命は尽きた。
『ごめんよ』
光の青年がエルドリエの背を押すと、エルドリエは目覚める。自らの想う彼女の為、一匹残さずその身で受けた。
「アリス様…………」
「エルドリエぇぇぇ!!!」
砒素蟲はエルドリエの天命を過分に吸い、彼ごと爆発した。
~~~~~
落下するエルドリエを何とか掴む。彼の下半身は術式の爆発で無くなってしまっていた。
「師よ、ご無事で……」
「ええ、ええ無事ですとも。そなたのお陰で、言ったでしょ、私にはそなたが必要なのです」
「アリス様。あなたは、もっと、ずっと、多くの人々に必要とされております。私は、なんと小さかったのでしょうな。あなたを……独り占め、しようなどと」
「そなたが求めるなら何でもあげます。だから帰ってきなさい。私の弟子なのでしょう?」
「もう十分に頂きました……」
「エルドリエ……? エルドリエ!」
もう反応もしなくなっていく彼を見て、その命が尽きるのを感じる。エルドリエは濡れた私の頬を拭うと、優しい笑顔で言った。
「泣かないで…………母、さん……」
エルドリエの体は光となって、消えていった。滝刳の嘶きが夜空に響く。私は怒りに震えながら、彼の鞭を手に取る。
「これだけのことをして…………ただで済むと思うまいな! 雨縁、滝刳、全速突撃!」
「アリス!」
ユージオの声も振り切って、弔いの突撃をする。敵の術士は逃げ惑うが、逃がさない。
「逃がさん! 撃て!」
二頭の飛竜の火炎が敵を燃やし尽くす。
「エンハンス・アーマメント」
「僕だって、エンハンス・アーマメント!」
ユージオも参戦して、残党全てを屠る。燃えるエルドリエの仇、暗黒術士のもう半分を心意で強化した《武装完全支配術》で凍らせる。
「我が名はアリス。整合騎士アリス・シンセシス・サーティ。人界を守護する三神の代行者、光の巫女である。我が前に立つ者は、尽く聖なる威光に打ち砕かれると覚悟せよ」