君ガ為ニ剣ヲ振ルフ   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

仮の最終回ということでこれまでの倍の文字数となっています。
長い間、読んで頂き本当にありがとうございました!

ではどうぞ


《胡蝶と⬛︎⬛︎と剣舞士》

 

ソルside

 

 

 

 長い夢を見ていた。それはもう、一つの生涯を追体験したかのような長さだった。僕は蝶になったり、騎士になったり、戦士だったり、天使だったりした。

 

 僕は夢を見ていたけど、夢が僕だったのかもしれない。それでも、変わらないモノが僕にはあった。

 

 

君ガ為ニ剣ヲ振ルフ

 

 

 僕の剣は誰かの為にあった。助けを求める声があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 帰路に着いてる時、違和感があった。何かを忘れているような気がする。今日もいつも通りだ。母さんが居て、父さんが居て、星奈が居る。

 

「ただいま」

「おかえり」

 

 家に帰ると居間から母さんの声が聞こえる。この香りは……今日はハンバーグだな。

 

「おかえり!」

「ただいま星奈」

 

 星奈を抱き止めて、部屋に鞄を下ろす。机の上にある〈ナーヴギア〉と〈ソードアート・オンライン〉を見て、何かを思い出しそうになる。

 

(……?)

 

 今日の食卓も、家族四人で夕食を囲む。テレビのニュースは、仮想世界に関するものが流れていた。

 食後、僕は自分の部屋のベッドに寝転がる。スマホでSNSを見ると、人工知能のことがトレンドになっている。

 

(何を……忘れているんだろう?)

 

 この突っかかりの正体が解らない。いや、そうじゃなかった。違和感はあった。

 思い返せば、母さんも父さんも星奈も”色”が無かった。()()()()()()()()()()()()()。僕は居間に戻る。

 

「どうした湊、風呂はまだだぞ」

 

 テレビを見ている父さん。あの透き通った綺麗な”色”

は無い。

 

「何か伝えること?」

 

 洗い物をしている母さん。鮮やかな暖色のグラデーションの”色”は無い。

 

「兄、見て見てー」

 

 ノートを持って階段から降りてくる星奈。眩しい星の輝きの”色”は無い。

 

「父さん……母さん……星奈……?」

 

 僕は困惑する。僕の”世界”は”色”で溢れているはずなのに、星奈達だけぽっかりと空いた穴のように()()()()

 

「……ああ、気付いたか」

「父さん?」

 

 父さんはソファから腰をあげると、幻のように消えていく。

 

「もう、仕方ない子ね」

「母さん?」

 

 母さんは皿を置くと、父さんと同じように消えていく。

 

「あーあ、もっと一緒に居たかったのに」

「星奈……?」

 

 星奈も消えていく。手を伸ばして星奈の腕を掴むと、星奈は僕に振り向いて笑った。

 

「アタシ、もう行くね」

「何処に?」

「……アタシ達は君の中に居る。大丈夫、兄は一人じゃない。キリトが、シノンが、アリスが、ユージオが居る」

「行かないでくれ……」

「駄目だよ。()()()夢なんだ。もう起きないと。接続部が焼き切れた兄のフラクトライトは、記憶のバックアップを使って修復されている。本当はもう、聞こえてるんでしょ? 彼らの声が」

「星奈……」

 

「過去は変えられない。喪った人は蘇らない。だからこそ、人は今を懸命に生きているんだ。例え、それが虚しくても、哀しくても、進み続けるんだ。心が、魂が生きたいと叫び続けてるんだ。だから兄、前を向いて。あの人達を助けてあげて。兄はアタシの自慢の……お兄ちゃんだから」

 

 星奈も消える。世界が崩壊する。何も無い空間に二つの光が僕の手を掴む。

 

『ソルは相変わらずお寝坊さんね。ほら、キリトとユージオが待ってるわ』

『全く、あんたって意外と世話が焼けるわよね。……いつまでも待ってるわ』

 

 アリスとシノンが僕を引っ張ってくれる。光の水面に浮かび上がって、僕は()()()姿()を取り戻す。

 

(嗚呼、そうだよな。僕は…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 目を覚ますと、そこは馬車の中だった。耳が剣戟の音を拾って、ここが戦場のド真ん中であることを知らせてくれる。

 

「先輩!」

 

 ベッドから起き上がるとルーナが飛びついてくる。腕を背中に回され、ガッチリと抱き締められる。

 

「先輩……先輩……」

「ありがとうルーナ。……行ってくるね」

 

 この世界は心意……心の在り方に応える。僕は左手で剣を取ると、黄金が僕の欠けた手足になる。

 

「……皆をお願いします。先輩」

 

 ルーナは大粒の涙を流す。不安に震える彼女の肩に手を置く。僕は微笑んで、ルーナの涙を拭う。

 

「行ってくる」

「行ってらっしゃい……先輩」

 

 僕は抜剣しながら馬車の扉を開ける。まず視界に入ったのは赤。人界の人とALOの皆を攻撃しているのが見えた。この時点で、僕は限界点に達しそうになる。

 

 そして、何よりも僕をキレさせたのは。

 

「……お前を殺せば、あいつは俺だけを見てくれるかもなぁ!」

 

 キリトに斬り掛かるPoHだった。怒超天に達した僕はありったけの心意を解放して、戦場に存在する剣の全てを掌握して止める。

 ゆっくりと歩くように心意で浮遊して辺りを見回す。

 

「待たせたね、みんな」

 

 みんなの装備の破損具合でどれだけの戦いだったか解る。僕は赤い兵士への慈悲を棄てる。

 

「今、全てを終わらせる」

 

 この《戦憶の剣》に遺された権能に接続する。

 

「僕の原罪、想い出。今、此処に全ての記憶を解放する。システムコール、リンク・トゥ・カーディナルシステム。リリース・リコレクション!!!」

 

 剣を黄金の珠へと変えて握り潰す。仮想世界を規律、秩序の天秤を守護するカーディナルシステムの全権限をダウンロードし、記憶に権能を付与する。

 黄金の珠は十に弾ける。篭手《色染》、剣《戦憶の剣》、両手剣《理力剣》、刀《千刃の剱》、両刃槍《空絶槍》、戦斧《磁元斧》、両刃剣《罪禍の剣》、鎌《雷位鎌》、短剣《廻巡剣》、盾《無戒盾》を顕現する。顕現した装備は僕に黄金を注ぎながら周りを廻る。

 

 篭手は腕に、残りの武装は背中に横扇型に装備される。服装も、銅色の肩当、肘当、膝当、グリーブと篭手、コイルは赤錆色。黒のインナーに赤が映える見た目だ。背中の武装は宙に浮いており、その姿はまるで、

 

「《戦神ミナヅチ》様……」

 

 人界軍の誰かが呟いた。その名は伝承で語り継がれる戦いの神。始まりの鐘を鳴らし、終わりの時を齎すと云われる神。

 

 

「ソル……」

「兄さん……」

「ソル君……」

 

 キリト、ユウキ、アスナ、顔見知りが沢山傷付いている。手をPoHに向けて、照準を定める。

 

「やっと起きてくれたか。さあ、ショータイムだ!」

「いや、もう終幕だ」

 

 カーディナルに譲渡された権限でPoHを一時的にアンダーワールドへの干渉不可状態にする。

 その隙に、僕は盾と槍の権能をシノンとリーファをアシストしている物と同期させる。これでリーファが相手している赤いのは数秒で片付くと思う。

 

「我が武力の心槌、冥土への片道切符として味わうがいい。殲滅せよ、ラスト・リコレクション!」

 

 全武装の権能を発動させる。

 《色染》はこの空間に存在するリソースを掌握する。

 《理力剣》と《空絶槍》と《磁元斧》と《雷位鎌》はベクトル場、空間座標、磁場、電場を使った原理結界を展開させてPoHを拘束する。

 《廻巡剣》は掌握したリソースを操作して人界軍の傷を塞ぐ。

 《無戒盾》は赤い兵士思考を阻害、対象として設定する。

 

 

「クソが、これは……」

 

 背部から《千刃の剱》を呼び出して構える。キリトなら赤い奴らも苦しませたくないと考えるだろうが、僕はキリト程優しくない。瞳に黄金を宿して、僕は剱を振るう。

 

「我が剱は一振当千。千刃よ、煌めけぇ! エンハンスアーマメント!!!」

 

 心意で強化した幾万もの不可視不可避の斬撃を放つ。その一振りだけで十分だった。

 

「てめえ……」

 

 悲鳴すら聞こえる間もなく、赤い兵士は一人残さず消えた。PoHの拘束は解けていない。心意で破られる可能性も考えたが、要らぬ備えであったようだ。

 

「悪いが、お前に構ってる暇は無い」

 

 次は《罪禍の剣》を呼び出す。

 

「リリース・リコレクション」

 

 今しがた消した赤い兵士のリソースを罪と傷の記憶に全て変換させる。《罪禍の剣》を振り上げ、片刃を巨大な損傷事象の非物質オブジェクトで包む。

 

「お前は、どうして俺を見てくれないんだ……」

 

 口だけは動くPoHが問い掛けてきた。彼は僕にはどうにも出来ない。過去は変えられないから。

 

「命を知らないお前に、僕の心は永遠に解らない。君の言う通り人は薄汚い卑怯者だ。でも、それだけで人を語っちゃいけない。君に災いを与えた人だけを見てはいけない。……少なくとも、君が実際に人を殺すまで僕は君に手を伸ばそうとしていたよ」

 

 PoHは目を見開く。

 

 

~~~~~~~~~~

 

――アインクラッド某所。

 

 

「お前は誰かに引っ張って貰いたかったんだな」

「……あん?」

 

 僕が彼と出会ったのは圏外で狩りの終えて街に戻ってる時だった。

 PoHだってプレイヤーだ。レベル上げも装備調達も生きる為に必要になる。そう思えば、彼と出会ったのは奇跡に近いのかもしれない。

 

「いや、突然すみません。……あなた、人を殺したいって顔に写ってるから」

「…………」

 

 革ポンチョで顔は見えてないけど、あの頃は”色”が薄らと見えていたから気付けた。

 

「独りは……辛い、ですよね」

 

 PoHは剣で斬ろうとしてくるが、僕は当然のように避ける。

 

「……そうですか」

「…………」

 

 会話が出来ないと悟ってらその場を後にした。これが、僕が《蜃気楼》と呼ばれる元のお話。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「…………」

 

 俯くPoH。無限に存在するもしもの世界の中で、彼はこの道を選んだんだ。それを咎める権利なんて誰にも無いし、彼のせいだと断定することなんて許されない。

 だから、僕は躊躇いなくこの剣を振ルフ。

 

 僕が振った剣は空を裂き、大地を割った。PoHの姿は跡形も無い。

 

「…………お前のアカウントをこの世界から切り離した。STLの中で無限の時間を経験して、その罪を知るんだな」

 

 

 剣を背中に戻して、僕は心意で地上に降り帰る。みんなの前に立つと、歓声が上がる。

 

「ソル…………、ソル!」

 

 キリトが抱き着いてくる。ユウキも、アスナも、みんなが僕を心配してくれてたのが分かる。

 

「心配かけたな」

「本当に……本当によかった…………」

 

 キリトの背中に手を回す。彼の暖かい温もりが伝わってくる。

 

「じゃ、僕はアリスを助けに行ってくる」

「俺も行く」

 

 抱擁を解く。僕が飛ぼうとした時、キリトに外部からの通信が来た。

 

(この音声データ……菊岡か)

 

 僕宛の通信チャンネルじゃないから正確にはわからないが、カーディナルシステムの権限で情報を横流しさせている。

 

(加速……早く……脱出?)

 

 断片的な情報で内容を推測する。恐らく、FLAに異常が起きたからコンソールを使って脱出しろって所かな。

 

「キリト、アスナも連れて早く行くぞ」

「え? あ、ああ」

 

 二人に心意でALOの翅を与える。二人は少し動作確認するだけで、もう浮遊し始める。

 

「えー! ボクはー?」

 

 ユウキがねだって来るが、ユウキはログアウトする必要は無いと感じるから連れて行かないことにする。

 

「お留守番です」

「えー!!」

 

 

~~~~~~~~~~

シノンside

 

「これは……」

 

 私のヘカートIIと奴の銃弾が尽きた頃、盾が光り出す。

 

 ソルの盾は奴の弾丸を難なく止める。お陰で私は落ち着いて静止射撃を行えた。私の弾丸は奴の右腕を吹き飛ばすことしか出来なかったけど。

 その盾がネックレスに膨大なリソースを送っている。

 

(熱い……!)

 

 燃え滾る熱が私に力をくれる。この武器はイマジネーションで銃に姿を変えても、周囲の空間からリソースを自動吸収し、攻撃力をチャージするというソルスの弓《アニヒート・レイ》のシステム上の特性は持続しているはず。

 

(この熱を、ソルと私の想いを。全てぶつける!)

 

「いっけえぇぇぇ!!」

 

 焔の弾丸を放つ。焔は奴が纏う心意を焼き尽くし、全身に重度の火傷を負わせた。

 

「どうだ……?」

 

 奴は苦虫を噛み潰したような顔をする。私は気力を使い果たして、地上に降りる。

 手負いにはさせたが、奴は私の相手を切り上げてアリスを追いかけた。

 

「……ソル。おかえりなさい」

 

 彼が私の為に目覚めてくれたことを感じる。彼が起きたならもう大丈夫だ。アリスを助け、全てを守ってくれる。

 

「ありがとう……」

 

 私はネックレスの太陽を握り締めて祈りを捧げる。

 

 

~~~~~~~~~~

アリスside

 

 《果ての祭壇》と思われる空島が見えたところで、私たちに向かって来る巨大な気配を感じる。

 

「……奴が来ます」

「僕が足止めする。だからアリスは祭壇に向かって!」

 

 別の姿を得たベクタが急速に距離を縮めてくる。ユージオと陽炎は進路を反転させて、迎え撃つ為突撃する。

 

「駄目よ、ユージオ!」

「エンハンス・アーマメント!」

 

 《胡蝶の剣》の武装完全支配術を行使して分身を作るユージオ。でも、奴の雷撃は一度で全てのユージオを撃ち落とす。

 

「ぐわっ!」

「ユージオ!」

 

 真っ逆さまに地上に叩き付けられるユージオ。雨縁から降りて駆け寄ると、まだ息があった。生きていることに安堵すると、私の後ろで嘶きが聞こえる。

 

「駄目、やめなさい雨縁!」

 

 私の声を振り切って、雨縁と滝刳は奴に突貫する。自身をも焼き焦がす熱の炎を吐くが、奴の心意に阻まれる。電撃の反撃を受け、瀕死の状態になるが、それでも立ち向かう。

 

「駄目ぇ!」

 

 雨縁の最期を与える雷撃は、雨縁達を包む紅い翅が防ぐ。蝶々は雨縁に吸収されていくと、卵にまで時を戻される。

 

 空に浮かぶ赤い青年を、私は待ち望んでいた。赤茶色の髪、暗褐色の瞳。コイルを風にたなびかせながら武装を操る彼の姿。

 

「おかえりなさい。ソル」

 

 

~~~~~~~~~~

ソルside

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

 アリスとユージオを襲う外部の人間に問う。全身の火傷は、恐らくシノンのお陰だろう。倒れてもおかしくない傷だらけの奴に、心意が吸い込まれるのが”見えた”。

 

「求め、盗み、奪う者だ」

「何を求める?」

「魂を……」

 

 キリトとアスナが到着する。僕は手で彼らを後ろに下がらせる。

 

「お前こそ何者だ。何故そこにいる。如何なる権利があって私の前に立つのだ」

 

 言霊のように心意を操ってくるが、僕にそんな心意は届かない。

 

「僕は《剣舞士》。嘗て幻と呼ばれた《剣舞士》ソル。この世界に害を成すお前を処分するカーディナルの代行者だ」

 

 《色染》で接触してきた心意を根こそぎ奪う。

 

「お前の名は?」

「ガブリエル……私の名はガブリエル・ミラー」

 

 濁った心意がガブリエルの姿をより邪悪な見た目へと変える。

 

「キリト、アスナ、アリスとユージオを連れてシステムコンソールに急げ」

「俺も戦う。あんまり良いとこばっか取ってくんじゃねえよ」

「……はあ、頼んだアスナ」

「任せて」

 

 頑固者なキリトは諦めてアスナをアリスに向かわせる。《地形操作》で巨大な階段を創り、手を引いて走る。

 

「さて、いいのかキリト?」

「何がだ?」

「愛しのお嫁さんと会えなくなるかもしれないんだぞ? 今ならあっちに行ってもカッコ悪くないぞ」

「ほざいてろ。大切な親友を置いていけるかよ」

 

 僕は《戦憶の剣》を、キリトは《夜空の剣》と《■■■■》を構える。

 

「システムコンソールに到着するまで五分といった所か。三分あげよう、私をせいぜい楽しませてくれ」

「楽しめたらいいな」

 

 僕の武装は既に常時《武装完全支配状態》だ。僕の意志のまま、神器がガブリエルに襲いかかる。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

 《色染》で心意を収束し、エネルギー砲撃を放つ。直撃したエネルギーは爆発する。

 

「無駄ダ!」

 

 煙が晴れると、ガブリエルは過剰の心意を膨らませ続けて変態した。物語の中の堕天使のような神聖味を欠片も感じられない邪悪。心意にあてられた神器達の動きが鈍くなる。

 

「お前の魂は年代ワインのように芳醇で、和牛のステーキのように肉厚だ」

「せいぜい吐かないように気を付けるんだな」

 

 心意で神器に付いたガブリエルの心意を消す。神器と心意の激戦が繰り広げられる。権能を持つ神器が打ち勝つが、奴の心意は無尽蔵に溢れ出てくる。

 

「面倒な奴」

「ハハハハ、イイゾ! お前の感情、記憶、心と魂を喰らってヤルゾ!」

 

 舞闘術ソードスキル〈ダンスウィズソード〉で、心意を剥がそうとしても瞬時に回復される。こいつを倒すには一撃で仕留めなければならない。だが、リソースの収束をする際には無防備になる。どうにか隙を見る必要があるが。

 

(隙がない)

「俺が隙を作る!」

 

 キリトが二刀流ソードスキル〈サンライトドライヴ〉で僕とガブリエルの間に入る。

 

「キリト!」

「ディスチャージ!」

 

 キリトは神聖術で牽制するが、心意ごとガブリエルに吸収される。僕は急いで《色染》でリソースを集めるが、まだ時間がかかる。

 

「……っ!」

 

 危機感知が発動して《空絶槍》で位置と距離を操作してキリトとの位置を入れ替える。次の瞬間、電撃が僕の視界一杯に広がった。

 

「がぁ!」

「ソル!」

 

 僕の体に風穴が幾つか空く。ガブリエルは高笑いしながら空中を満たす雷撃を迸らせる。

 

「お前ノ弱点はそいつだナ」

 

 雷撃がキリトを襲うのを僕は《無戒盾》で防がせる。今ので心意をごっそり削られる。

 

「ソル! 俺は大丈夫だ!」

「キリト……」

「ナラ二人とも……死ねェ!」

 

 ガブリエルはキリトに集中攻撃を浴びせる。このままでは二人とも……。

 

 

 

 

「リリース・リコレクション!」

 

 薔薇の香りがした。肌を鋭く突き刺す冷気、吐く息の白さに驚く。ガブリエルの背後から薔薇の蔦が巻き付く。その術を扱えるのを僕は一人しか知らない。

 

「「ユージオ!!」」

 

「さあ、今だよ。ソル、キリト」

「ああ! リリース・リコレクション!」

 

 ユージオに続いてキリトも《夜空の剣》を《記憶解放術》を行使する。《夜空の剣》の剣先が天に伸び、がこの世界を覆う。静かで優しい夜空。

 

 

 

(これは……。キリトの心が……)

 

 この世界みんなの心が、この夜空の星と成る。願いが、想いが、星と成って世界を導いている。

 

 星は集まり、キリトに力と想いを託す。

 

(やっぱりキリトは凄いよ)

 

 僕はユージオの持つ《胡蝶の剣》とキリトの持つ《■■■■》の記憶を遠隔で解放する。

 

「夢と現世の境を惑わす幻の附与者よ、夢幻を顕せ。リリース・リコレクション!」

 

 《胡蝶の剣》はガブリエルの周囲に夢幻を作り出す。氷の蔦を砕いたガブリエルをその場に留める。

 

「全てを照らす太陽の写し星よ、この夜空を照らしたまえ。リリース・リコレクション!」

 

 ()()()()()》はキリトの夜空に一番大きく輝く月を出現させる。その月光はキリトの剣を白く輝かせた。

 

「スターバースト・ストリーム!!!」

 

 キリトの得意技がガブリエルに炸裂する。キリトが斬っている間、僕はタイミングを見計らう。

 

(ここだ!)

 

 ユージオも同じタイミングで接近する。

 

「「「はあああああああ!!!」」」

 

 《二刀流》十六連撃ソードスキル〈スターバースト・ストリーム〉、《舞闘術》超重撃単発ソードスキル〈ピリオド・アクセント〉、オリジナルソードスキル〈スキャニングビート〉。渾身の一撃はガブリエルの纏う心意を貫通した。

 

「フハハハハハハ! 無駄なコトヲ。一滴残さず飲み干し、喰らい尽くしてヤロウ」

「出来るものか! 人の心の力をただ恐れ、怯えているだけのお前に!」

「人の心を侮るなよ! この剣には、みんなの想いが託されている!」

「求めるだけのお前に、僕らの剣を防ぐことなんて出来ない!」

 

 僕らは持ちうる心意全てをガブリエルにぶつける。笑い続けるガブリエルは、そのまま爆裂してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エンハンス・アーマメント」

 

 ……タイムリミットだ。僕はガブリエルの終わりを確認する間もなくキリトとユージオを《果ての祭壇》、システムコンソールに転移させる。

 

「ソル!」

「何やっ……」

「……またな」

 

 ガブリエルは死に、曇天は去った。僕らは勝利を収め、人々を守ることが出来たのだ。

 

「…………」

 

 恐らく、もうログアウトは出来ない。カーディナルシステムに接続されている僕だから解る。何年、何十……何百年後に帰れるのかはわからない。その間に魂の寿命を迎えてしまうかもしれない……。それでも、僕は彼らの為に剣を振ったと胸を張って言える。

 

 例えそれが、今生の別れだとしても。

 

「シノン……アリス……」

 

 心残りなのは、この想いを伝えることが叶わなかったくらいか。

 《果ての祭壇》まで翔んで行く。庭園のような花畑には、煌びやかな蝶々が飛んでいた。黄、水、黒、青そして……赤の色々。

 

「あーあ。僕も行けばよかったなぁ」

 

 僕は自傷気味に笑う。ガブリエルの最期を確認する為に残ったとはいえ、かなりくるものがある。

 

「これから、どうしようか……」

 

 アンダーワールドにはまだやることが沢山有る。それを一つ一つやっていくのもいいかもしれない。

 

「あ、あれ……?」

 

 頬が濡れているのに気が付く。今は晴れだ、頬が濡れるなんて……。

 

 

 

 

「ほら、泣いてるぞ。ソル」

 

 右頬に手が添えられる。黒髪黒目、黒のコートに二振りの剣。僕の星、キリト。

 

「キリ……ト?」

「ソルも涙を流すんだね。泣いてるところ初めて見たよ」

「ユー……ジオ……?」

 

 肩に手を置かれる。亜麻髪と緑色の瞳、銀色の鎧に二振りの剣。僕の親友、ユージオ。

 

「なんで……コンソールを使う時間はあったはず」

「親友を置いていけるかよ」

「そうだよソル。僕らは生きる時も死ぬ時も同じ、親友じゃないか」

 

 二人を抱き締める。涙が止まらない。溢れる雫は彼らの服を濡らす。

 

「は、入りずらい……」

 

 視界の端には気まずそうなアスナが立っていた。キリトの付き添いだろう。でも、僕に彼女を気にする余裕は無い。

 

 

「ソル、これからやることが沢山ある。泣いてる暇は無いぞ」

「もー。キリト、時間はこれから全然あるじゃないか」

「ははっ! 男なら泣いてられないよな。もう大丈夫、ほれ行くぞ二人とも」

 

 僕は翅を広げて空に飛び立つ。

 

「おう!」

「ちょっと、切り替え速いよソル」

「…………あ。待ってキリト君ー!」

 

 

「ふふ。ハハハハ!」

 

 生きていこう。この素敵な親友と一緒に。大切な人に僕の想いを伝えるまで。…………僕の本命はどちらか決まるまで。

 

 

 

「いつまででも、僕は! 君ノ為に剣ヲ振ロウ!!」

 

 黒、青、赤い星は翅を羽ばたかせ空を舞う。彼らとなら何処まででも飛んでいける。僕にはその確信があった。

 

 

「ちょっと待って~!」

 

 …………女神はこれから二百年もの間苦労することになる。三人揃った幼馴染達は、もう加減を忘れたのだから…………。




色染

其の篭手は、少年が見てきた”色”の記憶を元に創られた。
其れに込められた記憶は、”色”の理解と把握。

上辺を塗り重ねたとて、その本質たる”色”が褪せることなど無いだろう。

属性は《認識掌握》
一度は失った感覚が汝を苦しめる人は居ないと教えるだろう。


理力剣
空絶槍
磁元斧
雷位鎌

其の武具は、或るシステムの権能を元に創られた。
其れに込められた記憶は、力の理、空間と座標、磁場と次元、電波と位相。

最後の戦い、皆が絶望していたとて、英雄は目覚め武器を取り戦うだろう。

属性は《力場操作》《空標操作》《磁場操作》《電場操作》
神の如き力が汝を本物と成すだろう。


廻巡剣

其の短剣は、何度も繰り返した思考と行動の記憶を元に創られた。
其れに込められた記憶は、生きとし生けるものの命の巡り。

幾度も倒れたとて、汝を求める声に起き上がるだろう。

属性は《命廻天巡》
罪とは違う何かが汝を助けたい者に希望を見せるだろう。



幻月の剣

其の剣は、黒い剣士と見上げた幻の月の記憶を元に創られた。
其れに込められた記憶は、鉄の城が見せた月で在って月で無いモノ。

嘗ての約束を忘れたとて、君は必ず思い出してくれるだろう。

属性は《天月光照》
あの日見た景色が汝を願う理由と成るだろう。



後書きまで読んで頂きありがとうございました!
後一話で番外編をやるつもりです。よろしくお願いします。
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