異世界でスプーン曲げの超能力を使った結果、色々と深読みされてしまっている件   作:ランサード

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13話 強硬手段

 

 春の武闘大会は30人前後で行われるトーナメント制の大会だ。

 

 例年は2年生や3年生の出場者で埋め尽くされるのだが、今年は1年生からの出場が非常に多い。

 

 まずは優勝候補にして最良の魔剣士アルナス・セレシア。王族の血を継ぐ彼女は、名実ともに学園ナンバーワンとの呼び声が高い。

 

 次に同じく優勝候補のルミエール・ハーフストーン。卓越したスピードと観察力で敵の隙や弱点を突く戦法を得意とし、アルナス王女と渡り合える実力を持つ。

 

 そしてゴドリック・ヴェンダー。上記の2人に通算戦績は負け越しているものの、それ以外の人間には圧倒的な勝率を誇る。パワーに任せた魔法と剣術の組み合わせは圧倒的だ。

 

 一部を除いて有力者揃いの1年生組だったが、1回戦で早くも潰し合いが発生することとなる。

 

 ゴドリック対ルミエール。

 過去の大会で幾度となく行われてきたマッチアップに、スタジアム内は決勝戦と見紛うような熱気に包まれていた。

 

「ギャァァ! ゴドリック! ゴドリック!」

「『陽炎の騎士(ヒートヘイズナイト)』様ぁ!」

 

 ゴドリックが姿を現すと、黄色い歓声があちこちから上がる。

 

「ルミエール様〜!」

「今日も可憐ですわ〜!」

「キラキラですわ〜!」

 

 対面の入場口から歩いてくるルミエールに対しても声援が降り注ぐ。

 

 ステージの中央で向かい合ったところで、2人は立ち止まった。

 

「まさか1回戦で戦うことになるとはな」

「…………」

「ん? ……どうした、震えているぞ? お前らしくもない」

 

 ゴドリックは彼女の身体が震えていることに気付く。

 

 武者震いをするタイプの人間でない。

 体調不良だろうか。

 

 そう思ってルミエールに近付こうとしたところで、ゴドリックは彼女の手の一部が血に濡れていることに目をつけた。

 

「……?」

 

 違和感の正体を掴めぬまま、無言のルミエールが下がっていく。

 

 レフェリーが手を上げ、戦いの火蓋が切られた。

 

『いよいよ注目のカードが始まりました! ルミエール・ハーフストーン対ゴドリック・ヴェンダー! 両者共に学内きっての実力者です!』

『おおっと、早速ゴドリック選手が仕掛けましたよ!』

 

 始めに動いたのはゴドリックだ。

 

 全身に炎を纏いながらルミエールに接近し、得意の肉弾戦に持ち込む。

 

(さぁお前はどう出る、ルミエールッ!)

 

 彼女の得意とする魔法は雷の魔法。

 紫電を纏った電光石火の魔剣は、元の身体能力と合わさって驚異的な速度を生み出す。

 

 剣を振った、そう思った時には既に振り終わっている。

 ルミエールの剣は、そういうものだ。

 

 何千何万とルミエールの剣を受けてきたゴドリックは、日々進化し続けるその剣に期待を込めて一撃を打ち込んだ。

 

 しかし、想像したような反撃は来なかった。

 

「……!?」

 

 ルミエールらしからぬ覇気のない受け流し。

 電気を纏ってはいるが、その斬撃はあまりにも腑抜けていた。

 

 その剣が、彼女のものだと信じたくないほどに。

 

 ゴドリックにとって、ルミエールの剣は憧れそのものだった。

 彼女の剣は最強の剣ではなかったが、それ故に惹かれていたのだ。

 

 アルナス王女の剣が才能によるものなら、ルミエールの剣は凡才による努力の剣。時間が練り上げた世界最高の剣なのだ。

 

 初めて彼女の剣を見た時、ゴドリックは愚直な彼女の剣に見惚れた。

 彼女がいない時も脳内で何億何兆と剣筋を思い描き、再び戦える日を待ち望んだ。

 

 剣といえば彼女を思い浮かべてしまう。

 それ程の存在感と完成度だった。

 

 だが、今の剣筋はどうだ。

 まるで素人。

 

 「調子が悪いのか?」という言葉すら飛び越えて、ルミエールの皮を被った別人が剣を振るっているのかと思えてしまう。

 

「お前……誰だ……?」

 

 ゴドリックは思わず言葉を零した。

 彼女の虚ろな瞳は無感情で、彼の問いに反応すらしなかった。

 

「……何が起きている?」

 

 ルミエールは呆気に取られるゴドリックを攻撃しようとしない。

 

 いつもの彼女なら、隙ありと容赦なく打ち込んでくるはずだ。

 

 あまりの異常さに、ゴドリックは攻撃の手を止めて飛び退いた。

 

『おっと、これは珍しい展開! 2人とも距離を取って睨み合いを始めた!』

『持久戦ですか。こうなると灼熱を巻き起こすゴドリック選手に軍配が上がりますね。ジリジリ体力を奪っていきますよ』

 

 茹だるような熱気の中で膠着状態が続くと、ルミエールの様子が変わり始める。

 

 攻撃も防御もしない、完全な静止。

 かと思えば、ふらつき、時たまに頭を抱えて、虚空に向かって剣を振る始末。明らかに錯乱していた。

 

 その異様な雰囲気は実況席を超えてスタンド席まで伝わり、裏方の教師が救護班を呼び始めるまでに至った。

 

 だが、試合を止めようとする者はフェイドが足止めをする。

 ルミエールにはゴドリックを倒して2回戦に勝ち上がってもらわなければならない。途中棄権などあってはならないのだ。

 

 洗脳されたルミエールと暁ネンドウが激突し、同時にアーティファクトによる魔封領域を展開。

 何が起きたか分からぬ観衆の前で、そのまま英雄を殺して全てを絶望に染める。

 

 そのための準備だったと言うのに……!

 フェイドは歯噛みしながらスタジアム中央部を睨む。

 

(くそっ! 僕の計画は完璧だったはず! ルミエールは何をやっている!? ゴドリックなぞ早く倒して勝利を収めるのです!)

 

 しかしフェイド焦りとは裏腹に、彼の計画には解れが生まれていた。

 

「どうしたのですルミエール……はやく……はやく……はやくしろよぉッ!」

 

 原因は些細なことだ。

 

 まず、モヒカン先生がフェイドの計画に気付いたこと。

 次に、人を刺したショックでルミエールの洗脳が解けかけて精神に混乱が生じていること。

 何より、ゴドリックが友人の変化に聡かったこと。

 

 これらの要因が絡まり合って、遂にフェイドの計画は破綻し始めた。

 

「あっ……!?」

 

 フェイドの視線の先で、ゴドリックが動きを見せる。

 あろうことか、試合中に剣を投げ捨てたのだ。

 

 それから、彼がしたことは単純だった。

 ルミエールの目の前に立ち、彼女に話しかけたのだ。

 

「ルミエール。お前……暗示か催眠の魔法をかけられているな? 安心しろ。この俺様がすぐに解放してやる」

 

 もちろんゴドリックはフェイドの計画に気付いてすらいない。

 彼自身の慧眼が、計画の一端を探り当てたのだ。

 

 フェイドの目の前で、英雄暗殺計画が崩れ落ちていく。

 

「目を覚ませ、ルミエール……お前の剣はもっと美しいはずだ……」

 

 魔法もなにも纏わないで、ゴドリックが一歩前に踏み込む。

 暗示による反射的なルミエールの防御行為が襲いかかるが、彼は防御せずに受け入れた。

 

 その結果、ゴドリックの胸元が薄く切り裂かれる。

 飛び散る鮮血を意に介さず、ゴドリックは大股で距離を詰めていく。

 

「これ以上――そのふざけた剣を見せるなッ!」

 

 ルミエールの剣に憧れた男の怒号が飛ぶ。

 

 同時、彼女の手首を掴んで、ゴドリックは剣を捻り落とした。

 

 流れるような動作で彼の手刀が飛ぶ。

 あまりにもあっさりと、ルミエールの首筋に当たった。

 

 フェイドは彼の行為に身を乗り出して叫んだ。

 

「なっ……まさか!」

 

 暗示や洗脳の魔法を解除する方法は様々ある。

 その1つとして『魔法をかけられた者を気絶させる』という方法があった。

 

 ゴドリックの的確な手刀によって、ルミエールはほんの僅かな間だけ意識を刈り取られてしまったのだ。

 

 糸の切れた人形のように倒れていくルミエール。

 次にルミエールが身体を起こした時、彼女の瞳には強い意思が宿っていた。

 

「……ふ、ふふ。どうしてわたくしが洗脳されていると分かったのですか、ゴドリックさん……」

「……お前は俺様の友達だ。分かるんだよ、それくらいのことなんて……」

 

 元通りとなったルミエールの手を取るゴドリック。

 その光景を見て、フェイドは髪の毛を掻き毟った。

 

 2回戦。ルミエールにネンドウを殺させるはずが、全て台無しになった。

 違う。違う違う違う! こんなはずじゃない!

 

「ふ、ふざけるな……冗談じゃないっ! 僕の計画は完璧なはず! でも、あぁ! 直接手を汚したくはなかったが……仕方あるまい!」

 

 フェイドが隠し持っていたスイッチが押し込まれると同時、地下に隠された『魔法石』のアーティファクトが起動した。

 

 それは魔封の領域を生み出す災厄の逸品。

 

 魔封領域は一瞬でスタジアムを覆い尽くしていく。

 

 そのアーティファクトは、副作用として領域内にいる人間から大量の魔力を奪い去っていった。

 

 ばたばたと観客が倒れていき、それと同時に隠れていた邪教徒達がスタジアムを占拠する。

 

 ほとんど全ての人間が気絶寸前まで追い込まれ、辺りは1分もしないうちに地獄絵図と化した。

 

 術者や術者の加護を受けた者以外は生きることさえ難しい。

 そんな領域において、ただ1人平気な顔をしている人間がいた。

 

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