異世界でスプーン曲げの超能力を使った結果、色々と深読みされてしまっている件   作:ランサード

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3話 展開が早すぎて俺がついていけない

 

 異世界生活5日目。そろそろこの世界について詳しくなってきた頃だ。

 

 ただ、日本のように帰るべき居場所がない。友達も家族も顔見知りすらいない。そんな現状が寂しくて辛くなってきた。

 

「学園行きて〜」

 

 このセレシア王国には学園がいくつか存在する。ただしそのほとんどが貴族専用だったり、優秀な剣士・魔法使いのみが通える施設となっている。

 戸籍すらない俺が行けるような場所じゃない。魔法はもちろん剣も使えないんだし。

 

 スプーン曲げを評価してくれるんなら別だが。

 

 でもいいよな〜。学校。異世界でも友達できるかも。

 

「はぁ。俺の知り合いなんて、騎士団長のケルッソさんしかいないもんな」

 

 そもそも彼だって2、3回しか会ってない。

 というかパフォーマンスの時に話しただけで素の状態で話したことがない。

 

 それって知り合いじゃなくない?

 そうだね。俺はぼっちだね。

 

 行くあてもなく大通りをぶらつく。すると、視界の端にそのケルッソさんの姿が見えた。

 きょろきょろと辺りを見渡して、誰かを探しているように見える。

 

「あっ」

「あっ!」

 

 目が合う。俺を探してたのかな?

 何か嫌な予感がする。

 

「『魔封殺し(マジックブレイカー)』の少年じゃないか。昨日から姿が見えないから心配していたんだぞ」

 

 小走りで近付いてくるケルッソさん。

 マジックブレイカーってなに? 俺の特技はマジックだぞ。種明かししまくる人みたいで嫌なあだ名だ。

 

「何か用でしょうか」

「そう警戒しないでくれ。ちょっと聞きたいことがあるだけだから」

「はあ」

 

 ぐいぐい来るケルッソさん。

 聞きたいこと……住所とか身分証明に関することを聞かれたらまずい。騎士団長って警察的な組織なんでしょ? 不法滞在で死刑にされるかも。

 

「君、名前は?」

「暁ネンドウと言います」

「ふむ……珍しいが素敵な名前だね。オレはケルッソ・ソーサレイだ」

「かっこいいお名前ですね」

「ありがとう。さてネンドウ君。君は数日前から路上パフォーマンスを行っては宿屋に帰るという生活をしているようだが……歳はいくつなのかな? ひょっとすると無職なのかい? それとも学園をサボっていのかな? いずれにせよ住所を教えてもらえると嬉しいのだが、構わないかな?」

 

 この世界の成人は15歳。

 見た目はまんま子供でも、15歳を超えた瞬間大人の扱いを受けることになっている。

 

 俺は15歳。一応この世界的に言うと成人だが……なんて真っ当な質問なんだろう。

 未成年が街をひとりでぶらつくのは危ないし、成人が怪しい大道芸をしていたら「お前無職なの? 学校行かないの?」と言いたくもなる。

 

 素直にお縄になろう。さようなら現世。

 

「すみません。俺無職で学園にも行ってなくて、住む場所とか戸籍とか何もかもが無いんです」

 

 自分で言っててアレだけど、あまりにも終わってる人間だなと思う。

 

「そうか……素直に打ち明けてくれてありがとう」

 

 そこはありがとうじゃないよね。

 

「で、やっぱり俺のこと殺すつもりですか」

「何故?」

「え? 殺さないんですか?」

「はは、ネンドウ君を殺すわけないじゃないか。君は『魔封殺し(マジックブレイカー)』なんだから」

 

 けたけたと笑うケルッソさん。

 その二つ名やめてくれない? 普通に恥ずかしい。

 

「聞きたかったことってそれだけですか? お腹痛いんで帰ってもいいですか」

「いや、まだある。ネンドウ君は学園に興味があるかい?」

「あるかないかで言われたらあります」

「そうか。魔法に関する幅広い学問を学ぶ気は?」

「まぁ、あります」

「大変結構」

 

 そりゃ魔法に関する勉強ができるなら最高でしょ。

 でもお金がない。識字もできない。無理な話だ。

 

「では本題に入ろうか。ネンドウ君さえ良ければ君をセレシア学園に通わせることが可能だと言ったら……どうする?」

「え?」

 

 これマジ? セレシア学園ってめちゃくちゃ良い所だ……。

 国内ではもちろん、世界中を見ても最高峰と呼ばれるセレシア学園。そんな所に入っちゃっても良いんですか? スプーン曲げが出来るだけで? そもそも学園って貴族しか通えないリッチな施設なんじゃ?

 

 そんな俺の曇った表情を受けて、ケルッソさんは快活に笑い飛ばす。

 

「心配には及ばない。ネンドウ君のような才能を埋もれさせるのはセレシア王国の損失なんだよ」

「そんなに!?」

 

 ここにいた。スプーン曲げを評価してくれる人。

 そんな簡単でいいの? 学園入学って。

 

 この超能力はマジモンだから、確かに凄い才能と言っても差し支えない。でも、本当に凄いものではあるけど本当にしょうもないのもまだ事実。ケルッソさんは何か勘違いしてるんじゃないか。

 

「あの、俺を買い被りすぎなんじゃ……」

「謙遜するなネンドウ君。それとも、オレの目が節穴と言いたいのかな?」

「とんでもありません」

 

 ほんの少しだけ威圧してくるケルッソさん。

 

 そんなこと言われたら反論できるわけないじゃん。ケルッソさん、めちゃくちゃ偉い騎士団長様なんだから。

 

「オレが全て手回しをしておく。ネンドウ君は学園生活を謳歌したまえ」

「あっあっ」

「ああ、最後に言っておくことがあった。セレシア学園に入学する際、筆記試験と実技試験がある。気をつけておけよ」

 

 あ、やばい。この人俺が異世界文字を書けないことを知らないんだ。文字が書けない上に知識がなくて、どうして試験をパスできようか。

 

「すいません、俺文字書けないです」

「そうか。なら筆記試験は免除してもらうよう言っておこう」

 

 え?

 

「実技試験は君の力があれば余裕でパスできる。頑張れよ」

 

 ケルッソさんは高笑いしながらその場を後にした。

 それでいいのか、騎士団長。

 

 

 

----------

 

 

 

 ケルッソは胸ポケットにしまったメモ帳にネンドウ少年の情報を書き加えていく。

 

 【名前】アカツキ・ネンドウ

 無職、戸籍なし、家なし、家族なし、友人なし……恐らく剣の才能もなし。ただし、これらの不都合を補うのに十分過ぎる魔法を使える。

 

「その名も『魔封殺し(マジックブレイカー)』……と」

 

 ペンを走らせた後、ケルッソはポケットにメモ帳を押し込んだ。

 数日間部下に彼を尾行させ、先刻ネンドウ少年に話を聞いた甲斐があった。これで彼の素性がある程度分かったわけだ。

 

「団長」

「セリシャか」

「学園への手回しが終わりました」

「ご苦労だったな」

 

 路地裏を歩くケルッソの元に、副団長のセリシャがやってくる。彼らの所属する『騎士団』は国の秩序を守る警察機構のような役割を果たしており、そのトップたるケルッソはコネを使いまくることが可能だった。

 

「しかし平気なのですか。大陸最高峰の魔剣学園とも言われるセレシア学園に、識字さえできない少年を入学させるというのは……」

「セリシャ。大事なのは彼に恩を売ることだよ。()()()は後からたんまり、だ」

「……それはそうかもしれませんが。私は彼のことを信頼していません」

「どうして?」

「彼は怪しすぎます! 反社会的勢力や邪教徒である可能性が否定し切れません! そんな人間を王女殿下が在籍されている学園に入学させるなど――」

 

 セリシャの言うことは大変ごもっともである。

 ネンドウ少年に利用価値があるとはいえ、確かにケルッソの判断は些か急ぎ過ぎていた。

 

 しかし、彼には急ぐ理由がある。ケルッソはまくし立てるセリシャに1枚の紙切れを手渡した。

 

「団長、これは……?」

「……邪教徒共が不穏な動きを見せ始めた。明らかにネンドウ君を狙った動きだ」

「そんな、まさか……」

 

 その紙は、ケルッソの部下の報告書だった。

 邪教徒の拠点にスパイとして潜り込んでいた騎士団員が送ってきたものだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()……!?」

「いつ気付かれたのかは分からん。可能性としては、ネンドウ君を初めて見つけたあの日……オレ達のことを監視していた邪教徒が偶然ネンドウ君の魔法を目撃してしまったのかもな……」

「…………」

「邪教徒から彼を守らなければならん。そのために学園に入れるんだ」

 

 ケルッソはその他にも気になることがあった。

 少年にアダマンタイトのスプーンを曲げさせ、金貨を支払っていた歯の欠けた青年のことだ。

 

 彼もまた要注意人物のひとり。アダマンタイトのスプーンはともかく、一般人が金貨をポンと出せるわけがないのだ。邪教徒にせよそうでないにせよ、歯の欠けた青年にも何かしらの裏があるに違いない。

 

 邪教徒に加え、まだ見ぬ何かがネンドウ少年を狙っている。その事実だけで、ケルッソはネンドウ少年がどこかの組織の手先と疑うことができなくなっていた。

 

「ネンドウ少年を()()()()()()()()()()()()()。それだけである程度の抑止にはなると思うが?」

「う……そ、それは確かに……」

 

 セレシア学園のセキュリティは大陸随一。その学園の中に少年を押し込むことで、仮に敵だったとしても動きを制限できるという考えだろう。

 セリシャは引き下がろうとしたが、まだ胸の中に(わだかま)りがあった。

 

 そんな彼女を見て、ケルッソはボヤいた。

 

「そんなに気になるなら、君の妹に監視させておけば良いではないか」

「……そうですね。頼んでおきましょう」

 

 ケルッソは人を見る目には自信がある。

 彼が見てきたネンドウ少年の目は『善性』そのものであった。

 どうしようもなく、疑いにくかった。

 

 しかし、セリシャのように人を疑ってかかることも必要。セリシャの妹の監視に期待しておこう。ケルッソは顎を撫でた。

 

「セリシャ。実は少年を囲い込む理由はまだあるんだ」

「なんでしょう」

「魔力を使わない魔法について調べていたら、興味深いことが浮かび上がってきたんだよ。まだ推測でしかないがね」

 

 そう言うと、ケルッソは路地裏を歩きながら語り始める。

 

 日食の夜に復活する『魔人』と、それを打ち倒す『無力な英雄』の御伽噺だ。

 ネンドウ少年は『英雄』に値する。()()とは()()()()()()()()と考察するケルッソ。

 だから囲い込んでも損は無い、と。

 

 セリシャは、突拍子もない話だと彼の言葉を遮った。

 

 

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