ライブハウス・スターリー。新星が生まれるかの如く夢に輝くバンドマンたちを見守り、送り続けていく場所。またの名を狂人の集い。その風評のおよそ半分ほどは入り浸っている廣井きくりが原因である。ホームじゃない筈なのに。
家以外に居場所のないぼっちこと後藤ひとりも、最近はこのスターリーを憩いの場としている。
「~♪ ~♪」
その日ひとりは珍しく堂々と椅子に座っていた。いつも人の目を気にしてゴミ箱にINしている彼女では考えられないことだ。最早逆に奇行である。
しかし少し見ればその理由が分かる。彼女は今イヤホンを耳につけて音楽を聴いていた。つまり一人の世界に浸っているのである。なるほど。認知の世界に一人なら人目を気にする筈もない。
だからこそ、気付かない。
鮫のヒレが如くアホ毛を揺らしながら背後へ近づく存在に。
「ぼ~っちちゃん!」
「ひゃああっ!!」
突如肩を叩かれ飛び上がるひとり。その時の衝撃で顔のパーツが取れた。コロコロと転がるそれを拾って着け直すのは、スターリーの黄色い鮫こと伊地知虹夏だった。鮫のように貪欲にメンバーを集めたことからその異名がついた。なお食べた相手が全員劇物だった為に日常的に身体を壊しがちである。主にツッコミによる過労で。
「に、に、虹夏ちゃん」
「ごめんごめん。あんまりに珍しかったからさ。こんな風に一人でまともに椅子に座ってるの」
何気に酷い事を言うが、本当のことなのでひとりも気に留めない。多分スターリー常駐全員が揃っていても誰も突っ込まない。猫々すらもだ。希望の星は大槻だけ。しかし悲しいかな別ホームである。
「それで、何を聞いていたのかな~っと」
「あっ」
勢いのまま虹夏は片方のイヤホンを取り上げ自らの耳につけた。少々行儀の悪い行ないだが純粋に興味があったのだ。ひとりの音楽趣味は青春コンプレックスを刺激しない歌としか聞かされていない。具体的な趣向は何も知らなかった。
しかしイヤホンの向こうから聞こえてきたのは聞き慣れた声だった。
『ひとりちゃん、だ~い好き♡』
「え……」
それは結束バンド不動のボーカル、喜多郁代の声だった。間違う筈がない。音源を聞き返したりする都合上耳にタコが出来る程聞いているのだから。
しかしイヤホンを通して聞こえてきたのはボーカルを歌い上げる時のかっこいい声音ではなく、どちらかというと平時の郁代の甘い声であった。
『ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡ ひとりちゃん、だ~い好き♡』
それが何度も繰り返されていた。
「ひ、ひぃぃっ!!」
ぶち切るようにもぎ取って虹夏はイヤホンを捨てた。それを慌ててキャッチするひとり。だが虹夏は謝るどころではなかった。
突如として晒された恐怖に震え上がる虹夏。
「な、なななななななに!? え、呪い!!??」
「あっ違います。喜多ちゃんがくれた、『自己肯定感を高められるASMR』です」
「いや最早洗脳だよコレ!!」
ズザザッと後ずさり虹夏は慄いた。そして心の底から恐怖した。こんなものを送る郁代にも、それに没頭するひとりにも。
遂にひとりもおかしくなったか。そう思った虹夏だが、あの日見てしまった押し入れの中を思い出す。壁一面に張られたアー写の数々。元からだったな。そう思い返した虹夏は少しだけ冷静になった。足はまだガタガタ震えていたが。
「な、なんでこんなもの……」
「あっ私が頼んだんです。どうしたら、もっと人前で堂々としていられるんでしょうって」
発端はひとりにあるようだった。
「じ、自分のコミュ障がこの結束バンドの足を引っ張ってるのは自覚してて……ライブの時もバイトの時も、堂々としていられたらもっとみんなの役に立てるのにってずっと思ってたんです」
「ぼっちちゃん……」
それを聞いた虹夏は胸がじぃんと温かくなった。ひとりなりに結束バンドを想っての、そして自分を変えようとしての決断だったのだ。涙が出そうになる。
「だ、だからそれを直したくて、喜多ちゃんに相談したらこれを……」
「やっぱりおかしいのはそっちか」
涙はすぐに引っ込んだ。脳裏にキターン☆と笑顔を輝かせる赤い何某が浮かぶ。ASMRの機材なんてどこにあったのだろうか。あの貧乏事務所にあるとも思えないが。
「ぼっちちゃん。こんなのを聞いててもコミュ力は強くなれないよ。歪んだ愛情を脳に刷り込まれるだけだよ」
「あっやっぱりそうですよね……こんな幸せになれる物を聞いてるだけじゃ強くなれないですよね……」
「そうじゃないんだけど」
恋は盲目というのだろうか。ひとりは郁代の言うことを素直に聞きがちである。陽キャオーラに圧倒されているだけかもしれない。
「でも自己肯定感を高めようとするのはいいことだよね! あたしも協力するよ!」
「あっありがとうございます」
それはさておいて、虹夏はひとりの努力を肯定した。ひとりがちゃんと自信を持ってライブ中も実力を発揮出来るようになれれば、それだけでバンドの質はグーンと上がる。何故なら彼女は登録者10万人のギターヒーローなのだ。
そうとなれば、無論虹夏も協力する。打算だけではなく、ただ前に進もうと努力する友人の為に。
「でも何をすればいいんだろう。あたしそういうの困ったことないしな~」
「あっもう格の差が。これが天然の陽キャ……」
「虹夏が完全な陽キャかどうかは議論の余地があるけれど」
ヌッと横から出てきたのは山田リョウだった。今日も草を食べている。気分だけでも味わおうというのか、お菓子の缶に摘んできた草を入れているのが涙ぐましい。
「いたんだ、リョウ」
「虹夏の後を着いてきてた」
「まるで気付かなかった……もー、ストーキングやめなー?」
「えっ私が声かけられてからも見える場所にいましたけど……」
「え……?」
虹夏はそこで怖くなってこの話を続けるのをやめた。自分の感知能力がどんどん下がっている気がしたからだ。その内一緒に風呂に入っていても気付かなさそう。あれそういえば記憶の中にあるこれってリョウのシャンプーだった気が……いや、よそう、あたしの勝手な推測でみんなを混乱させたくはない。
「そ、それよりっ! リョウはなんかある? 自己肯定感を高める方法」
「それは簡単」
「えっ本当ですか」
ひとりは前髪に隠れた瞳を微かに輝かせた。ひとりにとってリョウは憧れの人物だ。自分と同じダウナーな性質や音楽への造詣。曲を作るときに相談に乗ってくれたりといつも頼っている。今は摘んできた草の中から紅葉を食べてしまい「苦っ」と吐き出しているが、こんなのでも見習うべき点は多い。迷惑をかけられることも多いが。返してもらっていない金もあるが。
なので為になるアドバイスが出てくるのだろうと、期待に目を輝かせて次の言葉を待つ。
「それは……」
溜めて、言う。
「肌の露出を増やすことだ」
「お前が儲けようとしているだけだろ」
「うっ」
決め顔でそう言い放った親友に虹夏は重いボディーブローを放った。バンド内最強の拳は空っぽの胃に深く突き刺さり、リョウはその場で蹲り虹色の液体を吐く。郁代が見たら悲鳴を上げそうな光景だ。
掃除しなよえっ私が?他に誰がいるんだでも触りたくない見てよこの色何食べたらこうなるのか自分が食べたもんだろうがあくしろよ。ゴチャゴチャッと丁々発止のやり取りが行なわれる横でひとりはブンブンと首を振っていた。
「む、無理です。無理無理無理」
「いや、これは実際理に適ったことでもある」
モップとバケツで虹色の何かを掃除しながらリョウは言った。
「容姿の優れた人間はそれだけで自信が持てる。私みたいに」
「自分で言っちゃうんですね……」
「ぼっちは素材がいい。だからやろうと思えばいくらでも磨ける。でも前髪を上げたら……」
「あっ消えちゃいますね、私」
何のことはない事実であるとひとりは頷いた。前髪を上げて視界を確保したひとりはフィルターなしに注ぎ込まれる陽の気に当てられ、灰となる。それは純然たる事実であり、変えようがないことだ。現代を生きるヴァンパイア。それが後藤ひとりなのである。ひとりすぐ死ぬ。
「でしょ。だったら……服の方の露出を上げるしかない」
「そう戻ってくるんですか」
「幸い、ぼっちはスタイルがいい」
モップの柄に手と顎を乗せ、リョウはひとりの一点をじーっと見つめた。正確に言えば、その胸元。ピンクのジャージを下から盛り上げる双丘である。
「えっあっ」
「顔を出せないのなら胸を出せばいいじゃない」
「さ、最悪なマリーアントワネット……!」
後藤ひとりは巨乳だ。運動しない生活がもたらした二つの果実はたわわに実ってその胸元にぶら下がっている。ウェストも意図して引き絞っている訳ではないが過食でもないひとりはちゃんとくびれており、まさにボンキュッボンというのが相応しいプロポーションをしている。顔かたちも面食いの郁代が絶賛するほどに整っている。日を浴びていないから肌も美白だ。ひとりは素材はいいのだ。脳以外。
しかしそれに自信を持っていたら今のようにはなっていない。完全な無自覚。宝の持ち腐れ。豚に真珠だ。
「わ、私みたいな奴のを見せてもみなさんが困るだけだと思いますよ……ね、虹夏ちゃん」
クルリと振り返り、ひとりは虹夏へ同意を求めた。困ったときは虹夏へ縋ればいい。ひとりが学んだ良くない処世術の一つだ。
だが、今の虹夏は。
「………」
ジッと座った目をしてひとりの胸元を見つめていた。
「えっあっ虹夏ちゃん……?」
「……確かにリョウの言う通りかもね」
「えっえっ」
「持つものにはその義務がある……ノブレス・オブリージュ、だよね」
「マリーアントワネットが続いてる……!?」
虹夏は味方してくれなかった。むしろ敵対した。胸の大きさを気にする年頃の少女にとって巨乳な奴は敵であり、言うことは全て悪なのだ。
「うん、やろうかリョウ」
「そうこなくては」
ちなみにリョウは気にしていない。していないが、単純に稼げるコンテンツを逃さないだけだ。
「無理矢理おっぱいの谷間を作って演奏してるピアノ動画を見たことある。ぼっちも同じ事をすれば稼げる筈。ギターヒーローアダルト編の始まりだ。メンバーシップを開設して限定動画として上げよう」
「ひぃっ、具体的な方針まで思いついてるっ……!」
「そこまでですよ!」
バーン、とライブハウスの扉が開け放たれる。
そこに立っていたのは結束バンドの鉄砲玉こと喜多郁代だった。どんな相手にも物怖じせず突っ込んでいくことからその名がついた。ちなみにその場合ひとりは不発弾と呼ばれている。必要なときにすら沈黙を保つ為だ。
救い主を見たかのようにパァッと顔を輝かせるひとり。
「き、喜多ちゃん……!」
「ひとりちゃんのおっぱいは私たちだけで楽しむべきです!」
「き、喜多ちゃん……!」
そして曇らせる。郁代に自覚はないがひとりの曇らせ率は彼女がナンバー1だ。
そんなことは露知らずたったか階段を降りて先輩ズに詰め寄る郁代。
「確かにひとりちゃんはかわいくて色白で磨けば光る存在ですけど、かといって衆目に晒すのは反対です! 私たちみんなの共有知的財産としてこっそり楽しむべきなんです!」
「喜多ちゃん、擁護してるつもりなんだろうけどひとりちゃんの目がどんどん死んでってるよ」
流石に突っ込む虹夏。どんなになってもツッコミ気質は消えない。
「……郁代。私に意見する気?」
「うっ、それは……!」
リョウはスッと目を細め、覇気を醸しだしながらそう言った。紺色のオーラが背後から見えるようだ。
元々リョウの追っかけでこのバンドに入った郁代はリョウに逆らえない。この時もたじろぎ後ずさりしてしまった。
しかし。
「い、いえ! いくらリョウ先輩でもここは退けません!」
「なにっ」
ダン! と足を踏みしめ郁代は食い下がった。かつての彼女では考えられない成長だ。こんなことで実感したくはなかったな……そんな風に遠い目で睨み合う二人を見つめる虹夏。
「ここは譲れません! ひとりちゃんは私たち専用のグラビア企画、『私はバンドの専属奴隷アイドル ~身内だけでの枕営業~』に参加させるんです!」
「い、いつの間にそんな企画が……!」
「喜多ちゃんそれAVじゃないよね」
何故か持っていた企画書をバァンと叩きつける郁代。パラパラと軽く捲ってみる虹夏だが予想以上の書き込みにすぐそっと閉じた。撮影場所まで練られている。屋内プールまで借りて水着撮影する気満々じゃないか。
しかしリョウも退かない。
「却下。ぼっちのビジュアルを生かして荒稼ぎするべき。ぼっちには対魔忍のコスプレをして鬼滅呪術チェンソーのメドレーを弾いてもらうんだ」
「浅ましっ。浅ましすぎるよリョウ。せめて音楽にプライドを持っているのがお前じゃないのか」
「そんな全方面に喧嘩売ったら絶対炎上します……」
第一そんなことをすれば一生残るデジタルタトゥーになりかねない。そこのところをどう考えているのかと虹夏が問うと、「えっ、もうなってない?」と真顔で返された。確かに身内に発覚する前に書かれていた達者な虚言一覧を見ているとそう思えてきてしまう。これと比べるとコスプレ演奏は些細な火傷かもしれない。
「くっ、どうあっても譲らない気ですねリョウ先輩……!」
「こっちにも退けない事情がある。この間手を出したハイエンドベースのローンが差し迫っている」
「いやそれはお前が100%悪いやろがーい!」
しかしお互い(身勝手な)理由で決して退こうとはしなかった。バチバチと火花を散らし睨み合う。一触即発の空気だ。もう我に返った虹夏にも止められない。
「むむむ……!」
「ぐぐぐ……!」
至近距離まで近づいて、すわ殴り合いでも始まるのか。そうとすら疑った。
幸い、二人の次の行動は違った。
しかしそれが誰にとっても幸福だったかというと、それもきっと違うだろう。
「ひとりちゃん!」
「ぼっち!」
「えっあっ」
「「どっちの方が良い!?」」
特に後藤ひとりにとっては。
「えっえっ、えぇぇぇ」
突然の二択を叩きつけられ、ひとりは潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
AV紛いの身内グラビアを撮るか、あるいは恥ずかしいコスプレをして炎上するような演奏をするか。
究極の二択だ。すごい、ひとりは何も得をしない。それなのにひとりの自由意志に全てが委ねられた。処刑法を選ばされているようだ。
「首吊りとギロチン、どっちがいいかしら?」
想像の中のマリーアントワネットがそう言っている。新しいイマジナリーフレンドか?
「わ、わ、私は……」
どちらを選ぶか。
郁代の方を選べばまだ世間に痴態は流出しない。その代わりグラビアというからには撮影は長丁場に及ぶだろう。それだけの間自分の恥ずかしい演技か何かが身内に凝視されてしまうのかと思うと、足が竦んだ。
一方でリョウの方を選べば、撮影時間はまだ短く済む。やっていることはギターヒーロー動画と変わらない。ただし自分の醜い身体(と、ひとりは思っている)と、全方位に喧嘩を売っているようなメドレーが全世界へ配信されてしまう。
どっちを選んでもひとりは後悔するだろう。
「さあ」
「さあ」
「「どっち!?」」
「う、う、うううううう」
二人に詰め寄られ、目をグルグルと回すひとり。大して回転もよくないひとりの脳味噌はオーバーヒート寸前だ。加熱によって頭から煙が上がっている。
このままでは大爆発して消えてしまうだろう。その時だった。
「あー……二人とも、その辺にしておいたら?」
流石に見かねた虹夏が二人を諫めようと声をかけた。一時は巨乳憎さにひとりの敵に回ったが、虹夏は結束バンドの中でも常識人だ。ここまでひとりが詰め寄られているのなら、助け船くらいは出す。
善意。
圧倒的善意。大天使と呼ばれた実績は伊達ではない。
だが、
「……あっ」
情けは人のためならず(誤用)。
そう、ひとりは手を差し伸べてくれた虹夏を見て思いついてしまったのだ。爆発寸前の脳で導き出した結論、それは――
「――に、虹夏ちゃんと一緒なら出ます!」
「は????????」
――道連れを増やすことだった。
「虹夏ちゃんと一緒なら、やります! どっちも!」
多分、どちらを選んでも角が立つ。郁代とリョウ。恋愛ならともかくバンドメンバーとの絆に亀裂が入るような選択をひとりは選べなかった。しかし両方と言ってしまえば、ひとりにかかる精神的肉体的負担は計り知れないものとなろう。
ならば、どうすればいいのか。
分担すればよいのだ。生贄を増やして。
そのひとりの発言に、二人はピタリと動きを止めた。
「は、いや、ちょっと?」
不穏な流れに虹夏は冷や汗を垂らした。一歩後退る。そして退路を模索した。だが入り口までのルートは郁代とリョウに塞がれている。奥に逃げるか。しかしそれはそれで袋のネズミ。時間稼ぎにしかならない。
そして、二人の口が開かれる。
「……ありですね」
「それで妥協しよう」
「どうしてくれんだぼっちちゃん!!!!!!!!」
虹夏は入り口へダッシュした。
安全な活路はない。ならば賭けだ。郁代たちの横をすり抜けての脱出。一か八か、ワンチャンを狙う。
「させません!」
だが見事なまでに郁代にキャッチ。運動が得意な郁代の反射神経は高い。真正面から抱きしめられ、歩みを止められる。
「いや、まだだ! まだあたしは諦めない!」
だがバンドいちのパワーという称号は虹夏の物だ。そのまま膂力に物言わせて突っ切ろうと試みる。
しかしそんな虹夏の身体に突然、細長い物が巻き付けられた。
「何!?」
それは巨大な結束バンドであった。
「いや本当に何コレ!?」
「ふぅ。危なかったぜ。商品化を視野に入れた巨大結束バンドを作っておいてよかった」
「あたし了承してないんだけど!? こんなの作ったから金がなくなったんじゃないの!?」
冷や汗を拭うリョウ。
流石の虹夏も両腕を巻き込んで拘束されては身動きが取れない。そのまま市中引き回しの囚人のように紐を繋げられ、引き摺られていく。
「じゃあ逃げないうちに撮影をしちゃいましょうか。コスプレはどうします? リョウ先輩でアテはありますか?」
「SICKHACKのイライザさんに聞いてみよう」
「ご、ごめんなさい虹夏ちゃん。もうこうするしか……」
その後ろをひとりがトボトボついていく。逆らっても押し切られることが目に見えているので。
味方はいない。
「~~~せっ」
なので今回も、叫ぶことしか出来ない。
断末魔を。
「せめて顔は非公開にしてくれ~~~っ!!」
後日。
星歌はパソコンで動画を見ていた。
「……何コレ」
映っていたのは対魔忍アサギのコスプレをした少女と、ユキカゼのコスプレをした少女の二人がそれぞれギターとドラムを演奏する光景だった。弾くのは流行の曲。二人とも恥ずかしがっているのか演奏はヘタだ。しかしそれが逆に受けているのか、見知らぬ新設チャンネルはグングン伸びていく。
目元を黒線で隠されただけの少女たちの顔に、星歌は強い見覚えがあった。自分の店で働く店員と妹にソックリだ。
「……取り敢えず、後で山田を締め上げて削除させておくか」
しかし星歌が取り敢えずしたのは、高評価ボタンを押すことだったという。