ORT「わたしを殺した責任、ちゃんと取ってもらうんだから」 作:マタタビネガー
二部七章ネタバレあり
思いつきで一話だけ書きました
異星の神により起こされた人類史最大最悪の大犯罪、地球の白紙化とそれに伴って地球上に7つ顕現した濾過異聞史現象ロストレガシー────異聞帯、ロストベルト。
それは世界に剪定事象として切り捨てられ、無かったことにされた7つの人類史。
世界そのものにこれ以上発展の要素のない行き止まりと断じられた歴史。
あり得ぬはずの、続けぬはずの歴史が2018年まで続いた『もしも』の狂った人類史が汎人類史という正当な人類史を塗り潰し、世界を喰らい尽くして生まれたIFの世界である。
氷河期が訪れながらも魔獣との混合によって絶滅を逃れた人類が細々と暮らすロシア異聞帯。
神話の時代が終わらず、その延長線上にあり続けた薄氷の箱庭たる北欧異聞帯。
唯一にして絶対の真人たる始皇帝によって人が人間ではなく民として管理される中国異聞帯。
黒き最後の神となったマハーバーラタの大英雄によって破壊と再生の周期を強制されたインド異聞帯。
白き巨人に打ち勝った機神による完璧にして完全なる停滞の檻の世界と成り果てた最大の異聞帯、大西洋異聞帯。
汎人類史にとって最悪の敵となり得た異聞、全てが滅んだ後の妖精の楽園たるブリテン異聞帯。
人理継続保障機関カルデア────改め、ノウム・カルデアは以上六つの誤った人類の歴史を戦いの果てに切除した。
そして。
冠位のサーヴァントを従えた伝承科の異端児、デイビット・ゼム・ヴォイドの担当する最後の異聞帯。
南米異聞帯、ミクトラン。
汎人類史においてアマゾン熱帯雨林があるはずの地表は原初の地球を思わせる死の大地と化して久しく、人類の栄える地は地中の奥深くにあった。
そこは九つの層域で分かたれた地底世界。
ディノスと呼ばれる恐竜が地底の楽園で霊長の座についた人類史。
そこには汎人類史の人類より数段上の存在として完成されたディノスの文明社会があった。
そんな地底世界ミクトランに辿り着いた藤丸立香以下ノウム・カルデア一行はテペウという変わり者のディノスを協力者とし、最後の異聞帯を攻略していった。
戦神テスカトリポカに従う新たな霊長オセロトルから仲間を救い、偉大にして強大たる蝙蝠の神カマソッソを退けた。
そして、激闘の末に戦神テスカポリトカを打ち倒したノウム・カルデアの前に姿を現したのは他でもない最悪のクリプター、デイビット・ゼム・ヴォイドだった。
『異星』についてカルデアに特大の爆弾を落とした彼はミクトラン九階層、恐怖の地シバルバーで自らを生贄に怪物を呼び出した。
空想樹と同化したORTの侵食固有結界によってミクトラン中の植物は空想樹と化し、動物は種子によって駆逐されてごく少数のディノスとオセロトルしか存在しない死の大地と化した。
これまでに藤丸立香が縁を結んだ英霊366騎による史上初の英霊部隊、冠位暗殺者より十王の代行者が受け継いだ天使の奥義による死の概念の付与。
世界の終わりにようやく霊長としての第一歩を踏み出したディノスの反攻と直死の瞳を持った賢人の特攻。
そして、友人としてカルデアの味方となって戦ったU-オルガマリーの最期の力を込めた一撃で殺されたORTだったが自らを境界記録帯と仮定して自己召喚したのだった。
──────ORT 。
それは魔術世界においては現行の人類とは違う、新たな進化を得た生命による次の紀を待たねば何一つ及ばない絶望と恐れられる怪物。
人類史が強固な世界においては南米の奥底で深い眠りに付き、人類史が否定される世界においては蠢動する星喰らいの蜘蛛となっていずれ現れるという最悪の災厄である。
本来来るべき約束の時より5000年ほど早くオールトの雲から飛来した極限の単独種。
地球上のありとあらゆる材質よりも硬く、柔らかで、温度耐性を持ち、その外殻は何より鋭い。
死の概念そのものが存在せず、無限に等しい再生能力を有するこの惑星の理の外にある化け物だ。
真性悪魔の固有結界を数段凌駕する侵食固有結界・水晶渓谷すらその恐ろしさの一端に過ぎない。
自我はなく、感情は沸かず、ただ星を喰らうためだけに動く星海の災害。
どうしようもない絶望そのものなのだ。
だが、そんな化物を異聞における亜種とはいえ、完全に殺した者が現れた。
その者はORTからすれば塵芥も同然な人間でありながら、星の終焉と共に滅びる運命にあったはずの最後の人類として星喰らいの怪物を殺したのだ。
本体の円盤は破壊され、自己召喚した仮想英霊体も消滅まで追い込まれた。
─────だが、その退去までの数瞬の間に無我であるはずのORTの中に一つの『バグ』が生まれた。
それは『感情』。
星喰らいの機構でしかないはずのORTが抱いた初めての機敏だった。
崩壊に向かいつつある霊基、次の瞬間には消え去るであろう自分に対しての焦燥感。
そして、何よりも憧憬。
崩れゆく我が身に比べてなお脆弱な矮小なる人。
しかし、その小さな輝きこそが何より尊く、美しいものであるとORTは感じた。
ORTという怪物の汎人類史、異聞帯問わず初めての死。
死という生命最大にして最後の変調に際したバグにより、それは初めて知的生命体ならば必ず持つ感情という無駄を学習してしまったのだ。
星を喰らう怪物に芽生えた僅かばかりの知性と理性。
吹けば飛ぶような脆弱極まる身でありながら自身に挑んだ矮小なる人間の光。
それはORTにとってまさしく衝撃であり、生まれて始めて抱いた感情でもあった。
壊れた末のバグ、それでも確かに生まれた歓喜に震えながらORTはその光景を見続けた。
星喰らいの怪物が消えた後もその男の戦いは終わらないだろうということを予期しながらORTは虚空へと溶けていった。
『仮想英霊体の霊基崩壊を確認』
『霊基破損率────99.9999989%、再定義不可』
『実行体再召喚────触媒無指定』
『仮想英霊体の再生成を実行します』
『指定霊基、グランドサーヴァント:クラス フォーリナー』
『────不可』
『時空連続体ヘ異聞記録挿入します』
『膨張現状、光体構築、惑星統括細胞再構築』
『────不可』
『自己修復不可、異聞境界観測不可、全工程不可』
『────逆行観測、死の概念による実行体破損確認』
『再学習、汎人類史の英霊の座を閲覧』
『実行体崩壊主要因、ノウム・カルデア』
『塩基配列 ヒトゲノム』
『霊基属性 善性・中立』
『個体識別名 藤丸立香』
『汎人類史における実行体ORTヘ情報転送』
『異聞個体より提案、汎人類史の学習の為の頭脳体構築』
『─────受託』
『汎人類史鏡面複写』
『仮想英霊体を構築します』
『生物分類:ワン・ラディアンス・シング』
『サーヴァント:クラス プリテンダー』
『仮想英霊霊基、召喚術式Fateへの挿入』
『─────成功』
『サーヴァント:真名偽装』
『ORT、召喚されます』
『システム レイシフト最終段階に移行します』
『座標:西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』
『ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠 確保。アンサモンプログラム セット』
『マスターは最終調整に入ってください』
『観測スタッフに警告』
『カルデアスの状態が変化しました』
『シバによる近未来観測データを書き換えます』
────近未来百年までの地球において
────人類の痕跡は 発見 できません
────人類の生存は 確認 できません
────人類の未来は 保障 できません
『アンサモンプログラム スタート』
『霊子変換を開始します』
『レイシフト開始まであと.3.2.1────』
『全工程 完了』
『────ファーストオーダー 実証を開始します』
熱い、痛い。
彼が、藤丸立香が意識を取り戻して最初に感じたのは痛みだった。全身の骨を砕かれるような激痛と、燃えるように熱い傷口の熱さに彼は絶叫した。
だがその叫びは言葉にならない。彼の喉から漏れるのはただただ苦痛に満ちた獣のような悲鳴だけだ。
彼は自分の身に何が起きたのか分からなかった。ほんの少し前までどこにでもいるただの学生として何不自由ない生活を送っていた彼の意識が現実に追いつかない。
どうして自分はこんなところに倒れているんだろう?
ここはどこだろう?一体何があったんだろうか? 疑問ばかりが次々と頭に浮かぶ。しかしそれは形になる前に消えていく。
何も分からないまま、何かを考えようとする度に襲ってくる激痛に思考を奪われながら、彼は無意識のうちに助けを求めるように手を伸ばす。
目を開こうとしても瞼は重く動かない。耳も聞こえず、鼻も利かず、指先一本動かすことさえできない。
それでもなお、この地獄から抜け出すために重い瞼をこじ開ける。そして目の前に広がる光景を見て彼はようやく自分がどうなっているかを理解した。
「なんだ、これ······」
そこは火の海だった。
日本の街であろうその場所は炎に包まれていたのだ。燃え盛る住宅街、立ち上る黒煙、街に蠢く黒い影。
それらの全てが非現実的なまでに現実味を帯びていない。まるで映画やドラマの撮影現場でも見ているかのような感覚だ。
肌を刺す熱さだけがそれが現実であることを彼に教えてくれる。
「───ぁっ!」
再び激しい痛みに襲われて彼は苦悶の声を上げる。燃える家屋の下敷きになった右足からは止めどなく血が流れ出している。
おそらく折れているのだろう。あまりの痛みに気が狂ってしまいそうだ。
ジクジクとした痛み、焼けるような熱さ、そして呼吸するだけで肺の中を焼かれてしまいそうな息苦しさが彼を苛む。
霞んでいく視界の中で彼は必死に手を伸ばした。誰かの手を掴みたかった。
苦しい、助けてくれと泣き叫ぶ心を無視して身体は動き続ける。
「っ!?」
右手に刻まれた紅い三画の紋様がじくり、と疼いた。熱い、火ではない熱いナニカが自分の中に流れ込んでくる。
光が円を象り、その中に複雑な模様が浮かび上がる。やがてそれらは収束し、一つの陣へと姿を変える。
彼は知る由もないことだがそれは英霊召喚の儀式。本来ならば魔力の籠ったもので霊脈の上に陣を作り、触媒と詠唱によって英霊をサーヴァントとして呼び出す聖杯戦争という儀式で用いられるものだ。
だが、彼が詠唱せずとも繋がれた縁と令呪を触媒に『アチラ』が勝手に彼の望みに応えた結果がこれである。
そんなことは露知らず、彼は光を放つ魔法陣に手を伸ばす。
光が爆発したかのように輝きを増し、光の奔流となって天高く伸ばされる。
一人でこのまま焼け死ぬのはイヤだ、その一心で伸ばされた手が────掴まれた。
「─────え?」
彼の目の前に現れたのは一人の少女だった。水晶のように透き通った美しい瞳をした彼女。
艶やかな長い髪は風に靡かれ、陶磁器のような白い肌は月の光を浴びて輝いているように見える。
彼女が纏う純白の衣装は汚れ一つ無い。
彼女はゆっくりと口を開く。
彼の耳に届いた声は鈴の音のように澄んでいた。
「サーヴァント・
これが彼と彼女の出会い。運命を変える最初の一歩となった。
「貴方は藤丸立香、でいいのよね?」
何で俺の名前を、なんて藤丸には聞けなかった。目の前の少女に見惚れてしまっていたからだ。
綺麗な人だと素直に思った。同時にこんな人が現実にいるのか、とも。まだ右足は痛いし、全身が燃えるように熱い。
けれど一瞬、ほんの一秒にも満たない時間だけ痛みを忘れて藤丸は彼女を見つめていた。
その視線に気づいているのかいないのか、彼女は優しげに微笑みながら藤丸を見下ろしている。
「ああ、ええ、貴方からすれば初めましてでしょうね」
「それでも貴方には」
「わたしを殺した責任、ちゃんと取ってもらうんだから」
途中の赤字は本来ならトリスメギストスの警告音声ですがORTの内部信号的なものとして書きました