私立あやかし学園――スケバン雷獣娘と男装の狐娘、そして教師のワイ   作:斑田猫蔵

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妖怪少女たちのひとこま:男装妖狐の散策

 嵐のごとく綺羅星のごとくあやかし学園にスケバン雷獣・梅園六花が編入してきてから二か月が経過していた。数十年ぶりに行われた生徒同士の決闘、校外学習での悪妖怪との対決と、今年の春は何かと波乱に満ち満ちていた。

 その春も過ぎ去り、今はもう六月の初旬である。若干肌寒いものの雨が多く、夏の手前に横たわる梅雨の訪れを思わせる季節に移り替わりつつあった。

 さてそんな中で、あやかし学園では二人の美少女妖怪が日夜注目を集めていた。

 一人はスケバン雷獣の梅園六花。もう一人は男装妖狐の宮坂京子である。

 同じクラスメイトでありながらも全く異なった魅力を具え、しかもおのれの沽券を賭けた決闘を経て親交を深めた間柄である。

 そんな彼女らが、それぞれ自分らしい姿を見せるのは、授業から解放された放課後の事なのだ――

 

「はぁ。やっぱり六月になったから、雨も降るようになったみたいだね。たまにはお湿りも無いといけないし、曇り空や雨の空も風情があるもんねぇ……」

「ピピッ、ピュイッ!」

 

 灰白色の雲に覆われた空を眺めながら、宮坂京子は学園内の中庭で散策を行っていた。その肩に止まり、喉やら胸やらを膨らませて啼いているのはホップという名の小鳥である。京子の所属する文芸部で飼われているこの小鳥は、やはりというべきなのか普通の小鳥ではない。十姉妹が妖怪化したものであった。縁あってあやかし学園の文芸部に寄贈され、今となっては文芸部の一員でもある。

 妖怪化して日が浅いために、人語を口にしたり人型に変化する事はまだない。だがそれでも、文芸部員のマスコットキャラクターとしての役目は果たしていた。

 京子もまた、そんなホップを可愛がる部員の一人である。というよりもむしろ、ホップもよく京子に懐いているほどだった。元来臆病とも言われる十姉妹が、籠の外に出されているというのに肩の上で大人しく止まっている事こそが、京子に対して信頼を寄せている最大の証拠とも言えるだろう。

(これはあくまでも物語上の演出であり、無闇に小鳥を籠の外に出してはいけないゾ:byトリニキ)

 

 それはそうと宮坂京子である。最近再び真面目に部活動に励むようになった彼女であるが、小説のネタが中々思いつかず、それ故に部室を飛び出して散策に励んでいたのだ。京子自体は読書を愛好し、また何処か夢見がちな気質をも持ち合わせている少女でもある。だがそれでも、小説という形でアウトプットするのはいつでもどこでも出来る訳では無かった。文芸部での活動は、ある意味教師から与えられる課題をこなすよりもはるかに難しかった。芸術の道に正解はなく、しかもすぐに湧き上がる物ではないのだから。

 ましてや、京子は長らく言い訳を練り上げて創作活動から距離を置く日々が続いていた。創作者としての勘が鈍りきっており、だからこそ余計に筆が進まなかったのだ。

 だからこそ、京子はホップを伴って中庭を散策していたのだ。中庭の何処に何があり、どんな植物が植わっているのかは既に京子も把握している。しかしそれでも、中庭の散策は飽きないものだ。似ているようでまるきり同じ事は無く、よくよく注目すれば時々刻々と微妙に移り変わるものもある――そうした眼差しで、京子は草木や喧騒を眺め、創作の勘を取り戻そうとしていたのだ。

 

「ピピッ」

「あ、まって……」

 

 静謐に散策が終わると油断していたまさにその時、京子の肩に止まっていたホップがにわかに飛び立った。慌てて京子が声を上げ、ホップに向かって手を伸ばす。ホップが首を傾げたのを確認したまさにその時、彼(ホップはオスの十姉妹妖怪なのだ)は何事も無かったかのように中庭のタイルに降り立っていた。

 遠くへ向かう意志の無さそうなホップの姿に、京子は安堵のため息を漏らした。妖怪化していると言えどもホップは臆病な所があり、何かに驚いて飛び立つ事もままあった。だが今回は、何か気になる物を発見し、それに向かっていったというだけだったようだ。

 京子はその場にしゃがみこみ、ホップの胸元に手を伸ばした。妖怪化していると言えども、ホップも元々は手乗り十姉妹だ。ヒトの手に乗る事には慣れているし、おのれの許に手を伸ばされた理由も理解しているはずだ。

 ホップは小首をかしげ、しかし京子の手には止まらなかった。ホップが何を見ているのか、京子もつられて視線を動かす。そして気が付いた。ホップが急に飛び立った理由について。

 石段の上には、百円玉ほどの大きさのカタツムリが、銀色の軌道を作りながらゆっくりと進んでいたのだ。

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