どこまででも広がる青い空。そよ風が吹き、それに乗って彼方まで飛んで行く鳥の群れ。
そんな空の下にある活気盛んな街ソラシド市で、とある男女の2人組がお買い物のメモ書きに目を移しながら歩いていた。
女の子の名前は虹ヶ丘ましろ。ソラシド市で暮らしている、何処にでも居る中学2年生。薄い小豆色の長髪を靡かせ、優しさ満点の笑みで隣に歩く男の子と談笑している。
次にその男の子の名前は空園かなた。こちらも同じくソラシド市で暮らしている中学2年生。黒髪に綺麗なライトブルーの瞳。一見物静かな人物をしているが、ましろと会話をしている時は常に笑顔を欠かさない。
2人共幼馴染であり、兄妹の様に育った仲で今日もいつも通りの平々凡々の日常を過ごしている。
今は、ましろのお婆さんのお使いで出掛けている。本来ならましろ1人で充分なのだが、それを心配してかかなたも共にお使いに同行している。
「それにしても、改めて見ると苦笑いしか出ないよね」
「う、うん」
ましろが手に持っているメモ書きに、かなたは覗き見する様な形でましろの顔近くに寄せ、2人して紙に書かれている内容を改めて確認する。
ローズオイル、シナモンスティック、干したカエル。前2つから思えぬ3つ目のインパクト。何に使うのかも不思議でしかないが、先ず干したカエルなんて何処に売っているのかという疑問が先立つ。
2人共顎に手を当て、唸りながら売っていそうなお店を頭の中に思い浮かべる。しかし、何度も何度も繰り返し考えても出て来ない。
「かなた君、何処のお店に行けば良いのかな?」
「心当たりのあるお店が1つでもあれば良かったのだけど、流石にちょっとって感じかな」
ましろは「やっぱり?」といった表情で返した。いつまででも考えても埒があかない。取り敢えず動くしか他はない。最悪、街の誰かに聞けば済む話だ。
「行こうか、かなた君」
どうやら、偶然にもましろもかなたと同じ考え方をしており、指をさして前に進もうと促す。かなたも「そうだね」と軽く相槌を打ってゆっくりと歩き出した。
丁度そのタイミングでだった。歩き出した目の前に、上から1冊の手帳が落ちて来たのだ。2人は不思議そうに思いつつも、ましろがその手帳を拾い上げて表紙を確認する。しかしその手帳の表紙、文字が書かれているのだが日本語とはまた別の言語が書かれてあった。外国語かと思ったのだが、それでも見覚えのない言葉。それ故、表紙に何て書いてあるかがましろには理解出来ず読めない。
「何、これ?かなた君読める?」
「えっと、ちょっと待ってね……。これはその──」
謎に満ちた言葉をかなたが読もうとした時、何処からともなく悲鳴の様な叫び声を耳にした。辺りを見渡しても、声を出している人は見掛けない。だけど声は確実に聞こえており、近付いて来ている。まさかとは思いつつも2人で空を見上げるとそこには──、
「そこ、退いて下さーい!!」
声の主は空からであり、現在進行形で赤ん坊を抱き抱えたまま重力に引っ張られるまま、2人に向かって落下して来ている。思いも寄らぬ所からの出現に、只々驚きの声だけを上げて立ちすくむかなたとましろ。
退いて下さいと言うが、その後の事を考えると避けるに避けれない。じゃあ、受け止めるのかと言われてもそんな事は不可能だ。受け止めたとして、キャッチした瞬間に掛かる負担は相当なもの。どっちを選んでも良くない結末しか待っていない。
こうして考えている内にも、どうするかの選択が刻一刻と迫っている。
かなたは意を決して一歩踏み出す。とにかく目の前…ではないが、物凄いスピードで落下している人を助けなければならない事は確かだ。両手を大きく広げて、キャッチ出来る姿勢を作り上げる。「さぁ、来い!」と気合いを入れると、落下している子に異変が起きる。
全身に淡い紫色の光に包まれ、落下速度が急激に失速して最終的に緩やかになった。そのまま落下して来た子、もとい女の子は体勢を整えて地に足を着く。
「せ、セーフ…」
女の子の冷や汗とは対照的に、胸の中に抱き抱えられていた赤ん坊は、女の子の苦労を知らずか無邪気に笑っていた。特にこれといった外傷も無く、無事に着地出来た事に安堵する。
目の前に降り立った女の子が軽く一息吐くと、かなたとましろの存在に今一度気付き、慌ただしく謝罪をしながら2人に詰め寄って来る。
「ご、ごめんなさい!ビックリしちゃいましたよね!?実は私も、相当ビックリしてて!偶然誘拐現場に出会して、この子を追い掛けて不思議な穴にえいや!と飛び込んだら空の上にぽこんって、それでぴゅーって!」
先程の状況になった事に、当の本人でさえも予想外だったらしく落ち着きの無い早口で2人に説明をする。しかし、それを聞かされているかなた達もすぐには受け止め切れずに、その圧に押されている始末。それでもお構いなく、目の前に居る女の子の口が止まる気配は全くなかった。
それどころか、周りにある物に対して驚きの声を上げるばかり。
「えっ?えっ?何ですか?この変な街!アレは何ですか!?アレも!もしかして此処って、魔法の世界!?」
「ターイム!!」
遂に許容量をオーバーしたましろのタイムが炸裂した。街に広がる言霊が女の子の喋る口を止め、3人の間には静寂が生まれた。
それから数秒という短い時間だが、落ち着きを取り戻して後、ましろと女の子は同時に口を開いて言う。
──これ、夢だぁ…。と、
「かなた君、これはきっと夢だよ。だって、人が空から落ちて来る筈ないもの」
「常識的に考えたらそうだけど、現に落ちて来ているから…」
「なるほど、夢なら納得です。夢なら空から落ちても何も違和感はありません」
「その考えは、いくら何でも無理がある様な気もする…」と、かなたは心の中でそう思った。夢にしては現実味を帯びている。でも確かに、夢の様な瞬間に立ち会ったのは間違いない絶対。普通では考えられない事が起きたのだ。夢と言って現実逃避もなるくらいに。
かなたはそんな曖昧な感情を持ち合わせ、対してましろと女の子は夢の続きとして話を進めさせていた。
「初めまして、夢の中の人。私は、ソラ・ハレワタールです」
かなた達の前に現れた女の子の名前はソラ。青い髪にサイドテール。その話し方といい、かなり真面目なタイプの子だと察する。見た目も、かなた達とそう対して変わらない。
「私はましろ。虹ヶ丘ましろだよ。それでこちらが」
「空園かなた。宜しくね」
先にソラから自己紹介ぎ始まり、それに続いてましろ、かなたの順番で挨拶を交わす。
名前の雰囲気や様子を見ている限りでは、この街に来たのは初めてらしい。見るもの全てに衝撃を受けている。
「不思議が満ち溢れているこの夢の世界。この夢の街、名前はなんて言うんですか?」
「ソラシド市だよ」
この街について説明するのは良いが、未だに夢と現実の区別を付けられていないソラとましろ。かなたも夢ではないと説明するにも、言うタイミングを完全に逃してしまい、そのまま置いてけぼり状態。いつかは、夢ではない事に気付いてくれるだろうと願うばかりだ。
「あっ、その手帳!」
ソラがふと、ましろの方へ顔を向けると先程拾った手帳に目が食い付いた。その反応を見るからに、恐らくだがこの手帳の持ち主はソラのだ。手帳も空から落ちて来て、その後にソラも落ちて来たのだ。それだけで充分。
「ましろ、多分それソラのだと思う」
「あ、そっか。じゃあ、はい」
「拾ってくれてありがとう!とても大事な手帳なんです!」
ようやく手帳が持ち主の元へ返っていった。返したのは良いが、ましろは次いでと思って手帳に書かれてある文字についてソラに質問をする。
「何て書いてあるの?」
「これですか?スカイランドの文字で、『私の──」
手帳に書かれてある文字は、どうやら聞いた事のない場所特有の文字であった。そして、表紙に書かれてある文字が何て読むのか解ると思ったそのタイミングでだった。
すぐ近くの道路の十字路真ん中で、またも空から落下物が地面に凄い勢いで落ち、土煙を大きく舞上げる。その音と衝撃で、街の人達は反応して一気に視線を集めた。それは、かなたとましろも同じ。
「夢の中、ホント何でもアリだよ!」
「いやーましろさん、そろそろ夢ではない事に気付いて欲しいのだけど」
土煙が晴れようとする中から、男性の声が聞こえてきた。
「許さないのねんソラ…先ずはお前はボッコボコにして、それからプリンセスを頂くのねん!」
降って来たのはまたも人…というより豚の様な姿をした者だった。ソラの時と違って、明らかに硬いコンクリートの地面に叩き付けられているのに、多少の土埃が体に付着している程度で済んでいる。
「えるぅ…」
突然現れた相手に、赤ん坊が恐怖の色を浮かべる。「プリンセス」というのが分からないが、ソラが抱き抱えている赤ん坊が狙われているのは間違いない。
ソラは赤ん坊の気持ちを落ち着かせる為に、優しく宥めさせる。親が子を守る様に。
「怖くないですよ。私が守ります」
「守れるかな?」
豚の人は、近くの工事現場にあるショベルカーに目を付けた。何をやるのか、3人には分からないが嫌な予感がするのは確かだ。
「カモン!アンダーグ・エナジー!」
豚の人から放たれた邪悪なエネルギーが、ショベルカーを包み込み、その姿を変えていく。キャタピラだった脚部には、自身の体重を支える程の強靭な脚に変わり、手の様にバケットも2つになった。体も元と比べたら多少なりと大きくなっており、動くだけで地震でもあったのかと思わせる程の衝撃がある。
ショベルカーは、怪物となってソラシド市にその姿を現した。
これから一体どうなってしまうのか。
新しく書く度に書き方が変化する