ビルの屋上。見上げればそこは、キュアスカイと電車の姿をしたランボーグが激しい戦闘を繰り広げていた。
しかしながら、今回のランボーグは今までとは違って能力値が桁外れに高い。浮遊出来て空を自由に飛び回れる他、見た目通りの姿に力もある。スカイの拳を正面から打ち砕き、跳ね返したりと圧倒的な強さを誇っている。
その様子を見ていたましろは、今すぐに変身しようとして準備を始めていた。
「かなた君、エルちゃんをお願い!」
「ましろ待って!ストップだ!」
強引に、エルを押し付けられて困惑するかなた。スリングの紐を肩に掛けて、ミラージュペンを持つましろの腕を掴む。
「ソラの言った事を忘れたの?」
「忘れてないよ。でも、友達を放っては置けないよ!」
強く、そして自分の意思は絶対に曲げないという目をしている。ヒーローとしては頼もしく、背中を預けるには申し分ない程に気持ちが伝わって来る。
もう、彼女を、止める事は無理だと察した。何を言っても、何をしても、彼女は変身する事をやめない。彼女は優しいから、思っていた通りの展開で変身をしようとしている。
だから思う。彼女を引き留めるのはもうよそうと。
「…分かった。友達の為ならしょうがないね。なら頑張って」
「うん、ありがとう!」
「ましろ!」
背中を押されて、ましろが変身しようとした直前でまたかなたに呼び止められた。振り返ると、かなたは笑顔でいた。何か最後に一言言ってくれるのかと、心の中で期待していたのだが、それを裏切る予想外の事をかなたは言う。
「俺は君が嫌いになりそうだ」
「かなた、君?」
「キュアプリズム。プリキュアに変身する君を俺は許さない。戦う事を選ぶ君の事が嫌う。だから、もし今ここで変身するというのなら、俺は君を一生嫌い、許せず、恨み続ける」
意味が分からない。何でそんな事を言われなければならないのか。ただ、友達の為に変身するという行為だけで、何でそんな感情を向けられるのか。
「それでも変身するというのなら──」
「変身するよ。例えかなた君に嫌われようとも、許されなくても変身するから。だから安心して嫌って良いよ」
「ありがとう。それならこれで、心置きなく君を──ましろを嫌う事が出来る」
かなたが一歩身を引く。ましろが何か言おうとしたが、それを止めて、手を強く握ってスカイが居る方向を見る。
「バイバイ、私の小さくて大切な気持ち」
かなたには聞こえないくらいの声量で呟き、ピンク色の光りに包まれながらスカイの所へと急ぐのであった。
キュアプリズムとなったましろを見送った後、かなたはエルを連れて巻き込まれない様に離れて行く。
「えるぅ?」
「嫌いと言った。でもね、助けない訳じゃないの。そこは勘違いしてはダメだよ。許さないし、恨んでるし、嫌いだけどそれと同じくらい大切に想っている。変だよね、矛盾してる」
大切に想えば想う程に、失った時の絶望は計り知れない。かなたはそれを知っている。いや、一度
ましろにも、いつかそれが分かる時が来る。ましろが友達の為に変身するというのなら、今はそれで構わない。
人間誰しも、その時になってみないと分からないものだ。
──さてと、これからどうしたものか。
今も尚戦い続けているキュアスカイとキュアプリズム。今すぐにでも助けに行きたいのだが、今回も変身出来ない理由がかなたにはある。
「える?」
エルだ。赤ん坊だからと言って侮ってはいえない。幼児でも、印象に残るものを見てしまったら記憶に残る。それは大きくなってもそうだ。
それに今かなたが変身して、プリキュア達の助けに行ったとしても、今度は誰がエルの面倒を見るのかが問題となる。
何処か安全な場所にエルを避難させたとしても、絶対とは言い切れない。万が一、ランボーグがエルを見つけたら守り切れるかどうか怪しい。
「今回は、素直にエルちゃんの元に居た方が良い…?」
今回のランボーグは2人に任せようと考えていると、エルを抱えているスリングが光り、虹色の舟の様な形となってかなたの目線の高さまで浮遊した。
「これはびっくり仰天としか言いようがない」
ヨヨから譲り貰ったスリング。どういう仕組みで、こんな風に変化したのかかなたにも理解出来ない。
動きに合わせて、エルが乗る舟が移動している。どうやら、自由自在に移動出来るみたいだ。
「これは便利だ。だけど、1人にさせるのはねぇ…決めた!」
かなたは服の下に隠してあった、スカイトーン ヘヴンを取り出してエルに見せつける。
見せたという事は、エル相手に秘密にするのはやめたという証。
キラキラしたスカイトーンにエルが反応を示している。小さな指で突いては、握って引っ張って遊び始める。
「ごめんねエルちゃん、遊ぶのはまた今度で」
スカイトーンから手を離す様にさせて、かなたは握る。そして込める。
「ヘヴン!トーンコネクト!」
かなたは私服の姿から、変身して緑色の戦闘服に身を包んで助けに行く準備が整った。
「エルちゃん、しーっだよ?」
「える!」
自然にヘヴンの正体が、かなただという事を明かしてエルに秘密にする様に笑顔で言う。エルも、それに対して元気に返事をしてヘヴンを安心させた。
そうしてヘヴンは、2人の元へと跳んで行く。
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ヘヴンの視線の先には、追い詰められている2人の姿が見えた。しかも、スカイを庇おうとしてプリズムがランボーグの前に出て行く場面ときた。
建物の壁を使って更に跳び、プリズムの元へと急ぐ。加速し、一気に距離を詰めて、
「えるっ!」
「下からこんにちは!!」
建物の間、その隙間からランボーグの腹目掛けて蹴りを食らわせて、かなり派手な登場の仕方をしたヘヴンとエル。
それを見たスカイとプリズムは、流石にびっくりしてなのか口を開けている。
「エルちゃんが浮いてる!?えっ、何で!?」
ようやく口を開いたプリズムの第一声が、まさかのエルに対してのリアクション。注目すべき点…ではあるが今はそれではない。
ランボーグは怯んで動けない。体勢を立て直すには丁度良い時間稼ぎとなった。けれど多くはない。
それでもこの限られた時間を、プリズムはスカイの為に使う。
「『友達』以外の言い方見つからないや。パートナーとか相棒とかそうじゃなくて、貴女は私の『友達』。貴方が心配だよ、助けたいよ。気持ちは同じ。それって、一緒に戦う理由にならないかな?」
手を差し伸べるプリズム、その言葉を聞いて何か思う事があるスカイ。2人の様子を見て、エルは何かを感じ取っている。
一方でヘヴンの様子はというと、1人で必死にランボーグを抑え込んでいた。
「ちょ…ッ、手伝…」
冷や汗をかきながら体全体を使い、全力で踏ん張ってはいるがいかんせん中々上手く行かない。そろそろヘヴンの限界が訪れる。
「やろう、スカイ!」
「はい、プリズム!」
「フフ、やっとその名前で呼んでくれたね!」
こんなピンチな状況下でも、それ程余裕を見せるのはそれはそれで良い。が、後でも良いのではないかとも思うこともしばしば。
けれど、この僅かな会話で2人の距離は一気に縮まった事は確かだった。それは目に見えて分かる。
何せ今2人は、初めて肩を並べて立っているのだから。
「ぷりきゅあー!」
2人の絆が最高潮に達した今、エルの両手から2つの光りが飛び出してスカイとプリズム手の中に収まる。光りが弾けると、上下に水色とピンクの色をしたスカイトーンがあった。
スカイトーンWシャイニング。これが2人だけのスカイトーン。そして、新しい力である。
「行くよスカイ!」
「一緒に、共に!」
スカイとプリズムは、スカイトーンのつまみ部分をスライドさせてスカイミラージュに装着させる。
「スカイブルー!」
「プリズムホワイト!」
2人はそう唱え、お互いの手を強く繋いでスカイミラージュのボタンを押す。ボタンを押した事で、スカイミラージュに充填されたエネルギーがランボーグの上空にバーサライタの円盤が現れては中へ入れ込ませる。
「プリキュア!アップドラフト・シャイニング!」
強力な爆発と共に、苦戦を強いられていたランボーグを完全に浄化させてしまう。
その威力もそうだが、やはり1番大きな影響があるとするなら。
もう技を出し終わって繋いだ手を離しても良いのだが、スカイはもう少しだけ今の余韻に浸りたく、2人で夕陽を眺めながら暫くそのままでいるのだった。
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それから変身を解いて、かなたとましろが歩道で対面をしていた。ピリついている様で、重たく、気不味い雰囲気が2人を中心に漂わせている。
只々無言で睨み合っている様な2人の状況に、間に挟まれているソラは困惑しており、エルは心配する表情で見守っている。
いつまででも、こんな状態ではソラとエルにも迷惑が掛かると思ったかなたは、ゆっくりとましろへと近付いて行く。
ましろは動じる事なく、かなたが目の前まで歩いて来るまで動かず、視線を逸らす事もせずに見つめ、待っている。
そして口を開き、ひと言、
「良かったね、ソラと仲良くなれて」
「うん。前よりももっと、ソラちゃんと仲良くなれた」
2人は硬い表情から一変して笑顔となり、両腕を大きく開いて抱きしめた。
「これからもソラと頑張ってね、ましろ」
一瞬、胸の奥がキュッと締め付けられる様な感覚をましろは感じた。
しかしそんな感情とも、今日でおさらば。
明日から、気持ちを切り替えて過ごす事にましろは集中するのであった。