街中で暴れる野球グローブを媒体としたランボーグ相手に、ヘヴン1人でその相手をしている。
あれから数分としか時間が経っていないが、内容は少々濃いものとなっている。
拳や脚技を巧みに使い、相手の隙を突いて攻撃を繰り出しているヘヴンに対し、それを全て防いでいるランボーグ。
側面からの正面からの攻撃には、野球グローブである体の衝撃を吸収する程の防御力。側面からの攻撃に対しては、武器てして持つリーチの長い木製のバットを片手に弾き、受け流している。
攻撃にしても、接近すればバットの餌食となり、離れれば片手に持つ野球ボールでの遠距離攻撃に切り替わるその判断力。
攻守共にバランスの取れたランボーグ。
決め手となる技を持たず、更に武器を所持していないヘヴンに取っては苦しい戦い。
「オレ、TUEEE!お前、YOEEE!さっさと諦めてガキを渡せ!!」
「諦めるつもりもないし、エルちゃんを渡すつもりなど毛頭ない!」
両脚に最大限の力を込め、ランボーグへと一気に飛び出して接近する。
武器を持たないヘヴンに残された戦法は、接近戦のみ。通じる通じないの問題は何処かへ捨て、ただエルとあげはを守る為にヘヴンは立ち向かう。
バットを使い、ボールを打ち、近づけさせない様に攻撃を繰り出して来る。
自分より何倍も大きなボール相手だが、飛んで来ているのはその一球のみ。攻撃範囲と向かって来る球速を冷静に見極め、横へ回避する。
回避する事を見るや否や、再度ランボーグはボールを打ち放つ。
少しでも近づける様にする為に、動きは最小限に抑えつつ一歩二歩と歩む。
「ランボーーーグ!!」
バットを振り翳して当たる範囲にヘヴンが入り、攻撃方法を切り替えていく。振り翳されるバットをジャンプで避け、その上に着地して伝う様にして走る。
ようやく、ヘヴンは懐にまで接近する事に成功した。跳び、拳を握り締めて確実にこの一撃を与える。たった一撃で良い。それだけで戦況は多少なりと傾く。
──届け!
突き出した拳は激しい衝突音と共に、ランボーグに突き刺さった。手応えはあった。完璧な攻撃。辛抱して、その耐えた分の威力がこの一撃にはある。
「ランボーグ!!」
効かなかった。倒れるどころか怯む事すらなくランボーグは雄叫びを上げる。
よく見ると、このランボーグが媒体としている野球グローブは革製である。革製ならそれなりの強度を持ち、グローブ特有の衝撃を吸収したりと特徴を活かしてヘヴンの攻撃を受け止め、無力化したのだ。
生半可な打撃では通じない。キュアスカイの力強さなら何とか対応出来るが、悔しい事にスカイと比べてヘヴンはそこまで力は強くない。
ヘヴンを振り解き、空中に投げ出されてしまったヘヴンは険しい表情をする。そして来る。ランボーグの反撃が。身を固め、今出来る最大限の防御体勢を取る。
ランボーグは一本足打法でバットを振り、ヘヴンに炸裂する。バギャっと、思わず目を瞑ってしまう音がヘヴンから聴こえ、振り抜かれた勢いで大きく吹っ飛ばされる。建物の壁を突き破り、あげはとエルが隠れ潜む場所近くに転がり落ちた。
「なんて威力だ、右腕が…ッ!」
空中とはいえ防御は成功したのだが、地面に足が接してなかった為に衝撃を吸収、緩和は出来なかった。その負担が防御した右腕に畳み掛けられ、痛々しく腫れ上がっていた。こんな状態になってしまった以上、もう右手は使い物にならない。
「気合いだ気合い──」
右腕を庇いながら起き上がった時、体に蓄積されたダメージで強制的に変身が解かれてしまった。
もう一度変身しようと、スカイトーンを手にした時だった。誰かの視線を感じ、ふと横を見るとあげはが口を開けてかなたの方へ見ていた。
「かなたん、さっきのって…?」
見られた。不運な事に、変身が解けたその瞬間をあげはに見られていたのだ。一旦変身するのを止め、あげはの手を引いて物陰に隠れる事にした。
状況は再度振り出しに戻った。
「あげは姉ちゃん、見たよね?でも話は後にして、取り敢えずまた避難してくれるとありがたい。そういう訳だから──」
ランボーグに立ち向かおうとしたが、あげはが負傷している右腕を掴んで引き留める。その時、痛みが走りかなたの表情が歪む。
「かなたんが、ましろん達みたいに変身出来るし、ランボーグと戦える事も分かったよ。だけどね、こんな姿になってまで行かす事は出来ない」
「2人を待っていられる猶予はない。エルちゃんだけじゃない。あげは姉ちゃんだって危険なんだよ?片腕だけでもやるよ俺は」
「ましろんがそう言っても?」
足を止めた。振り返り、ただあげはを見る。
「…ましろは、関係ないじゃん」
「ちょい話をしよ?座って」
「言ったでしょ。そんな時間は──」
「いいから座れ!!」
怒鳴られて、体が反射的に動いてその場に正座をするかなた。
腕の痛みより、あげはに怒られる方がよっぽど恐ろしいのか素直になり、静かにあげはの言う事を聞く。
あげはは、かなたと同じ目線になるくらい腰を落とし、いつになく真剣な目で見つめる。
「関係あるよ。ヘヴンがかなたんだったのなら、あの時のましろんの気持ちも今ならちゃんと分かるんじゃない?」
あの時。そう、あげはの言うあの時とは、初めてましろがプリキュアに変身する時の事である。
正体を知った今だから言える話し。それにあげはが言いたいのは、あの時とは逆の立場である。変身しようとするかなた、それを止めようとするあげは。人は違えど、構図は全く同じ。
「私知ってるよ。喧嘩の原因も、かなたんのせいでしょ?違う?」
「何で知って…俺はただ、ましろには何事も無く、笑顔で日常を過ごして欲しくて」
「だけどそれが、ましろんにとっては逆効果だったみたいだよ」
その言い方的に、あげはは何もかも知っているみたいだ。ギクシャクし始めた例の件も、ましろの気持ちにも。
「ましろんと手紙でやり取りしてたのは、かなたんも知ってるでしょ?だけど、珍しく電話して来たんだよ。その喧嘩の相談で、泣きながらね」
「何で?」
「ましろんだって、今のかなたんと同じ様に誰かの為に、友達の為にって変身する事を選んだの。かなたんに嫌われても平気って言ってたけど、やっぱり無理だったよ。かなたんとは今まで通りに喋りたいし、学校に行きたい。何より『かなた君だけには嫌われたくない』って」
知らなかった。特に、泣きながらあげはに相談していたのは初耳である。よそよそしい事はあったが、その様な素振りは一切見せていない。
だからかなたは、時間が過ぎればすぐに前と同じ関係に戻れるだろうと考えていた。
それが甘い考えである事を、今更ながら痛感した。
ましろは、ちゃんと考えていた。それに引き換えかなたは、ましろの事を思う自分の事だけを考えていた。ましろの為と思っていたが、実は自分の為と考えているのと変わりない。
「ましろんはね、それくらいかなたんの事を考えているんだよ。かなたんが、誰かの為って思う気持ちと同じくらい。そして、私もかなたんの事を大切に思ってる。だから──」
あげはは、優しくかなたの頬を両手で包み込んでおでことおでこをくっ付ける。まるでその様子は、親と子そのもの。
「行って欲しくないし、こんな姿は見たくない。私は、かなたんの親代わりなんだから」
言葉が出ない。何て口にしたら良いのか分からない。ただ一つだけ分かるのは、自分がましろを、誰かを強く思う様に誰かも自分を強く思ってくれていたこと。
心配させてないつもりでいた。ましろに何も無ければそれで良いと思っていた。だけど違った。違くもないが、正解かどうかと問われると口をつぐむだろう。
本当に今更だが、ましろの気持ちがようやく理解した。というよりかは、最初からその答えを知っていたのに、気付かない内にそれを棚に上げていたのだ。
「だけど、今の俺にはこうする事しか出来ない。誰かを悲しませてでも、自分を犠牲にしても大切な人達の為に戦う。あの人達がそうだった様に、全てあの人達から教わったんだ」
スルリとあげはの手を優しく退け、立ち上がる。まだ右腕は痛む。だけどそれがどうした。
まだかなたはヒーローではない。これがもしヒーローなら、こんな怪我なんて日常茶飯事だ。その為の予行練習として考えれば、良い体験だ。
「それが、かなたんのヒーローなの?」
「ヒーロー、なんて名乗るつもりは無いよ。そんな資格はまだ無いけど、俺がヒーローと呼んでいたあの人達の意志を俺は継いだんだ。ましろの事は、ちゃんと謝るつもりでいる。だから、行かせて?」
柄にも無い事を恥ずかしくも言ったのに、それでもかなたの意志は変わらなかった。それは良いのか、悪いのかあげはには分からない。
だけどまぁ、それでもましろの気持ちを理解しただけでも良しとしよう。この先どう転ぶかは、まだ誰にも分からないのだから。少しでも、良い方向に繋がる事を願っている。今のあげはには、それしか出来ないのだから。
「じゃあ約束しよ。ちゃんとましろんと、仲直りすること。分かった?」
「うん。ましろと全力で仲直りします!」
「なら、ドーンっと行って来い!」
バシンっとかなたの背中を大きく叩いて送り出す。結局、送り出す羽目となってしまったが、どう、あげはが言ってもこの様になるのは必然。
かなたも、期待に応えれる様に笑顔で返してランボーグの前に飛び出す。
ランボーグの前に立ちはだかったが、まだ探しているのかこちらに目が入っておらず気付いていない。
なら、今の内に変身して戦闘体勢に入る。
首にぶら下げてあるスカイトーンを握り、強く思う。ヒーローなんて名乗るのは、まだおこがましいが、それでも今だけは言っても誰にも文句は言われないだろう。
「──ヒーローの出番だな!」
かなたを中心に、竜巻きの如く暴風が巻き起こり、戦闘服となって体に身に纏う。今までと比べて、エネルギーの出力が向上している。まるで、鎖から獣が解き離れたような。
見た目の変化は殆ど無いが、一つだけ上げるとするなら左手に武器を持っていた。
魔を裂き、浄化の力で光りを照らす特別な剣。その名を────、
「ヴァリアブル・ディバイド!!」
剣を携え、ようやくこちらの存在に気付いたランボーグへと走り出す。
野球ボールを使って遠距離での攻撃で、打ち倒そうとするも、それを難なく躱し、受け流し、切り裂き、走り抜ける。
果敢に攻め続けるも、ヘヴンの猪突猛進は止められない。止める事など出来ない。
ヘヴンの間合いまで接近する事が成功した。腰に剣を構える。迎撃しようとランボーグも、バットを高く振り上げて力を込める。
今ヘヴンは、利き手ではない左手で剣を扱っている。受け切ったとして、鍔迫り合いに持ち込まれたら力で負けてしまう。
避けるにしても、今が一番勢い付いてる。これを止める訳には行かない。流れは今ヘヴンに来ているのだから。
ヘヴンは地面に減り込む程に力強く踏み締め、下からバットを真っ二つに切り裂く。素早い動きにランボーグは唖然としている。
力で敵わないのなら、それ以外で勝負して勝つしない。今の一撃で、速さではヘヴンが圧倒的に上回ってる事が分かった。
切り上げた剣を更に振り下げる為、柄を握る力を強めて、更にもう一歩踏み出す。
その時、ヘヴンの頭の中に一つの記憶の映像が流れた。それは、ある女性とのやり取りである。
『──良いですか?ヒーローになるのでしたら、絶対に必要なものがあります。それは何でしょうか?』
『──えっと、──姉ちゃんみたいにスカイランド神拳を覚えるとか?』
『──私もそう思いました。ですが、──さんに酷く怒られてしまいましたので、それは無しでお願いします。あでも、会得したのであれば後でこっそり教えてあげますよ?』
『──遠慮しとくよ。それより早く教えてよ!』
『──カナタさんはせっかちさんですね…。まぁ良いでしょう!では教えてあげます!ヒーローに必要なもの、それは────』
記憶を蘇らせた直後、今度はランボーグが真っ二つに切り裂かれた。ほんの刹那とも言える僅かな一瞬で、ヘヴンは切り上げた剣を下に切り返した。上下2段攻撃。
「──ヒーロースラッシュ」
放たれた全力の縦一閃の斬撃は、完全な軌跡を描き、切った箇所の空間を歪める程の威力だった。
『──ヒーローならではの必殺技です!!』
そこで記憶の映像は途切れた。憧れ、今でもその背中を追い掛け続けている人達が、力を貸してくれた様な気がした。それを噛み締めながら、ヘヴンはくすりと笑った。
「必殺技って、普通アレに書かれてある心得を言うもんじゃないの?」
自信作でもあったランボーグが浄化され、空いた口が閉じないカバトン。ハッと我に返り、佇むヘヴンの姿を見るや否や腰を抜かして退散するのであった。
ヘヴンはその場にへたり込み、変身を解いて大きく息を吐いて疲れを滲み出させる。
流石のかなたも、今回ばかりは冷や汗を隠せないでいた。それでもやり遂げたのだ。
「かなたん!」
「あ、あげは姉ちゃん…」
とうとう力尽き、倒れるかなた。それをあげはは膝上に起こして、優しく頭を撫でる。
「かなたんは、私とエルちゃんのヒーローだね」
「俺はヒーローじゃない。その背中を追い掛けている最中。ソラと同じだよ」
「誰かを助けたら、それは立派なヒーローだよ。だから、かなたんはヒーロー」
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帰りは夕方となった。あの後、あげははかなたを病院へと連れて行き、腕の具合を診てもらう事となった。その診断結果というのは、意外にも軽い骨折で済んだ。変身して、プリキュアとまではいかないが強靭な体になっていたのが功を奏した。
もし生身で受けていたら、骨は完全に砕け、最悪の事態となっていただろう。
右腕は包帯ぐるぐる巻きで、こんな状態をソラやましろに見せたらなんて言われるか。
ソラは騒ぎ、ましろにはいつも以上に心配されるだろう。
それでも、こんな目に遭っても得たものがある。
「エルちゃんは私が。かなたんは、先に家行って良いよ」
「あげは姉ちゃん」
かなたの代わりにエルを抱え、虹ヶ丘家の玄関前でインターホンを鳴らす直前、呼び止められて一度動きを止める。振り返るとその目で見たのは、恥ずかしくもあり、何処か嬉しそうな表情をしているかなた。
その様子に首を傾げて聞いてみる事にした。
「どったの?」
「ありがとう、ヒーローって呼んでくれて。そう言ってくれて嬉しいけど、まだまだ本物のヒーローには遠く及ばない。だからね、今度はちゃんと自分で胸張って『ヒーローだよ!』って、あげは姉ちゃんに言えれるくらい頑張るから。側で見てて欲しいんだ」
「そばッッ?!!」
思わず驚いてエルを落としそうになるが、何とか耐えてみせた。しかし、あげはの顔は赤い。
かなたは至って真剣に言っている。純粋な子供故に、深い意味は全くないのだが、それでも異性の大人を意識させるには充分。
あげはもそんな事は分かっているが、動揺を隠せずに言葉に詰まる。
「そ、側に居て欲しいだなんて…かなたんも大胆!まぁ、あげは姉ちゃん的にはありだけどね!!」
「ごめん。あげは姉ちゃんが何言っているのか分かんないよ」
「ば、だ、だよね!!めんごめんご、困らせちゃったね!」
そう言いながらインターホンを鳴らし、この話題から逸らそうとする。すると、凄い勢いで玄関の扉が開かれて、かなたの頭と扉が激突する。
「かなたさん大丈…かなたさん、本当に大丈夫ですか?」
「ソラ、いきなり開けるのは危ないでしょ…」
「す、すみません!!」
その場で蹲りながら唸るかなたに、ソラはぺこぺこと何度も頭を下げては謝罪の言葉を述べ続ける。
「あ、やっぱり大丈夫ではないですか!ヨヨさんから聞いた通り、大怪我です!ましろさーーん!!」
「ソラちゃん!?エルちゃんを先に…」
かなたが右腕が使えない今、ソラにエルを任せようとしたがリビングの方へ走って行ってしまった。「どうしよ?」とあげはが呟いたその直後、2人の背後から1人の人影が割り込んで来た。
「おかえりなさい、かなたさん」
「ヨヨ婆ちゃん!?びっくりしたー」
「エルちゃんは私が預かりますね」
あげはからエルを受け取り、ヨヨは家の中へと入って行った。ポカンとして、2人は固まっていたがハッとなって動き出す。
「それじゃ、私はそろそろ帰るね。ましろんと仲良くね。それと、コレもありがと」
あげはが見せるのはPretty Holicで売られていたリップ。このリップは、帰り途中でかなたが購入してプレゼントしたもの。
お礼を行って車へと戻って行った。
「かなたん、女の子にプレゼントするのは良いけど程々にね。私みたいに、期待してしまう子もいるから」
あげはの車が見えなくなるまで、玄関前で見送った後はかなたも家の中に入って行った。
リビングに行き、そこでようやく帰った時の挨拶を交わす。
「ただいま」
「かなた君、おかえりなさい」
「ソラ、コレお土産。どうぞお納め下さいませ」
Pretty Holicで買ったメイク道具をソラに手渡した。コレもあげはのと同じくリップ。中身を見てソラは、瞳を輝かせて「ありがとうございます!」と大きな声で言ってくれた。
嬉しそうで何より。しかし本命は──、
「ましろ、ちょっと良いか?」
「うん?」
かなたに招かれて2階へと上がり、薄暗い自分の部屋へと誘い込む。月の光が部屋の中を照らし、優美な一面と成り変わる。
かなたは浅く深呼吸し、ましろにもPretty Holicで買った物を手渡した。中身は、同じくリップ。
正直、他2人と同じ物というのは自分でも些かどうかと思った。1人1人違う物を渡した方が特別感があると思う。しかし、今時の女の子は何が好きなのか結局判らずじまい。だから、無難なリップを選んだのだ。
「ありがとう!大切にするね!」
「喜んでもらえて良かった。ちょっと不安だったんだ」
「そんな事ないよ。かなた君から貰ったものは全部嬉しいよ!」
そう、屈託の無い満面の笑顔で言ってくれた。それが余計に辛い。でもそれも、今日で終わらせる。何の為にPretty Holicでリップを買って手渡したのかは、あくまでましろと大事な話をする為の口実作りだ。
「その、ましろ。あの時はごめんね。嫌いって言ったの」
「あ…ううん、かなた君の気持ちも分からない訳じゃないから。もし逆の立場だったら、私も同じ事したよ」
「違う…違うんだ、ましろは何も悪くない。俺の方こそ自分勝手な意見を押し付けて、ましろの心を、気持ちを見ていなかった。ましろが無事なら、それだけで良いって思ってた」
大切な人を守る為と言えど、その心を縛っていいものではないと今日それを知った。誰にでも、誰かを守りたいという意志がある。
「ましろの事を嫌いになれない。なれる訳がないんだ。だって、ましろのこと好きなんだもん。本当に、ごめんね」
「もう謝らないで、充分分かったから。私も好きだよ、かなた君」
本当に強かったのは、自分ではなくましろ。ましろの方がよっぽど大人で、心も体も強かった。
只々情けなかった。いつも一緒に居てくれた彼女の思いを突き放して、遠ざけていた。
だけど今日からは違う。
「ましろ、約束するよ。絶対に独りにしない。嫌な思いをさせて、ごめ……ううん、そんな思いはさせないから」
「約束だよ」
空園かなたは誓う。ヒーローとして、虹ヶ丘ましろを独りにしないと。そう、心に強く。