それぞれが、それぞれの役割を果たす為にランボーグが現れた街の中心へと、集まり始めている。
先行して飛び出したキュアスカイとキュアプリズムは、空中に居るランボーグと既に戦闘に入っており、その後をエルが追い掛けている。
更にそれを少し手前でヘヴンが追い掛けており、ツバサも遅れて虹ヶ丘家を出ている。
街の方でも、エルを見つけようと必死に探すあげは。
先に状況が変わったのは、スカイとプリズムの2人だった。ランボーグによる攻撃で、一つの建物が消滅するのと同時に巻き込まれて、スカイとプリズムは吹き飛ばされて気絶してしまう。
その様子を、エルを探しながら見ていたヘヴンは思わず足を止めてしまった。
「スカイ!プリズム!」
名前を叫ぶも、ここからだと遠くて聞こえはしないだろう。ここは一旦、エルを探すのは後回しにして、2人の元へ行こうとた時だった。
どうやらヘヴン以外にもこの光景を見ていた者がおり、同じく2人の元へと移動して行くのを目にした。
「あげは姉ちゃん!?それにエルちゃん、見つけた!!」
街中ではあげはが、スカイとプリズムが吹き飛ばされてしまったと思われる場所へと向かい、エルは空から2人の元へと駆け付けようとしていた。
運が良い。これで2つの問題を一気に解決となった。スカイとプリズムはあげはに任せるとして、ヘヴンが優先すべき事はエルの保護である。
行く方向を切り替えて向かおうとするが、今度はまた別の問題が発生する。
「カバトン!エルちゃんに手を出すな!ボクが相手だ!」
視界の端から聞こえる声に耳を傾けてると、そこには小鳥の姿で佇むツバサが居た。
ツバサもエルを守ろうとして、ランボーグの注意を惹こうとして声を出してるのだが、それが問題となる。
戦える力を持っているならともかく、そんな力を微塵も持ち合わせておらず、一方的に攻撃されるのは目に見えて分かる事だ。
案の定、上空から一方的に攻撃しては追い回していた。ツバサは只々、悲鳴を上げながら逃げ惑うしか出来なかった。
ツバサの存在に気付いたエルが、方向転換して助ける為にツバサの元へと飛んで行く。
「何でツバサが…仕方ないね!」
目的を変更する。ツバサとエルを救出した後、すぐさまこの場から離脱する。
建物の上を縦横無尽に跳び移り、瞬く間に2人の元へ駆け付ける。
エルを助けるつもりだったツバサが、逆にエルに助けられて共に舟に乗って逃げようとしていた、が、重力オーバーなせいでとても逃げ切れるとは思えない速度まで落ちている。
「っと、何やっているの?まぁ良いけど、少し荒っぽくなるけどそこは自業自得って事で!」
舟ごと2人を左脇に抱え、予定通り離脱して帰宅しようとした時だった。
それよりも早く、カバトンの方が先に仕掛けて来た。
『掃除機光線発射!』
ランボーグから放たれた緑の光線が、3人を包み込む。その光線は、3人を浮かび上がらせて引き込もうとする。
ジタバタと抵抗してヘヴンだが、何も出来ないままどんどん引き込まれて行く。それでも何か手を打たないとと模索して、ギリギリ手が届きそうな建物が右側にある事に気付いた。
「ヴァリアブル・ディバイド!」
ヘヴンの呼び声と共に、右の手の中に一本の浄化の剣が出現する。それを視界に入った建物に突き立てて、これ以上引き込まれないように踏ん張る。
「危ない危ない、セーフ」
このまま、ツバサとエルだけでも建物に避難させてやり過ごそうと考える。だが、それくらいカバトンは想定済み。
『フン、往生際が悪いのねん。出力アップ!』
ヘヴンが2人を避難させようとした直後、引き込む力が急激に上がり、ヘヴンの体幹が崩れる。体勢を整えようとするが出来ず。ならば少しでも耐えようと右手に力を込める。
が、ここへ来て注意していた事を身をもって思い出す羽目となる。
「──しまッ!?」
もうすぐ完治する右腕に違和感が生じた。思わず一瞬右手から力が抜けて、剣から手を離してしまった。再度掴もうとしたが、剣を掴めず空を掴む。たったその一瞬の出来事で、ヘヴン達3人は、ランボーグの中へと放り込まれるのだった。
放り込まれたランボーグの中は、ちょっとした空間で3人を閉じ込めていた。
ヘヴンは此処から出る方法を模索中で、床や壁を軽く叩いたりして強度の度合いを調べていた。
一方でエルは、今にも泣きそうな様子。ツバサは側で寄り添い、少しでも安心させようとする。けれど、エル以上にツバサの方が心に不安を抱え込んでいた。
──何をやっているんだボクは。助けに来たのに、逆に足を引っ張ってるじゃないか…。
調べ終わったヘヴンは、神妙な表情で2人に悪い知らせを言い渡す。
「壊すのは多分無理みたい。剣があれば行けたかも。最高にマズい状況だよ」
ヘヴンは優しくエルの頭を撫でて、少しでも恐怖心を和らげようとする。こんな事で泣き止むとは思えないが、今頼りになる人物は此処にいる人のみ。スカイもプリズムも居ない。
ヘヴンの剣があれば、簡単に内部を破壊して脱出は可能。けれど、先程手を離してしまい手元にはない。拳でならと考えが過ぎるも、壁が壊れる前に拳が壊れるのが先だ。やろうと思えば出来る。しかし、リスクが大き過ぎる。
「大人しくスカイ達の助けを待つか……?」
この空間にある唯一の扉が開かれた。現れたのは、両手にバナナを持って食している最中のカバトン。その態度や表情を見る限り、特に警戒などしておらず余裕でいる。
「余計な奴が1人2人と。その内の1人、お前はスカイランドのプニバード族だろ?」
「エルちゃんは渡さないぞ!どうしても欲しいと言うなら、このボクを倒してからに──」
「止めるんだ。俺が行く」
ツバサとエルを庇う様にして、代わりにヘヴンが前に出て戦おうとする。
カバトン相手なら簡単に倒せる。その自信はヘヴンにはある。
「行くよ」
足を強く踏み締め、一気にカバトンの懐に潜り込み、左拳を軽く素早く突き出す。
激しい衝突音が響きはした。したのだが、カバトンの豊満なお腹はその衝撃を完全吸収して、まともなダメージが入らなかった。
「おかしなのねん!!」
カバトンの反撃が始まる。カバトンは右腕を構えるのを見て、ヘヴンも防御態勢に入り、その拳を受け止める。
だがその時、また右腕に違和感が生じたせいで気を取られてしまう。
防御はしても、踏ん張る事は出来ず壁際まで吹っ飛ばされる。背中に強く壁に打ちつけ、右腕を押さえながらその場で蹲る。
「えるぅ!」
「ヘヴン、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だけど、治り掛けている腕に負担を掛け過ぎた…」
やはり無理があった。カバトン、ランボーグに左腕だけで相手をするのは酷。ヘヴン自身も、多少なら右腕を使っても平気と軽々しく考えていた。しかし、あげはの言う様に左だけ使うにも、無理に右を使うのにも誤った選択だった。
「お前達さ、何でそんなに頑張っちゃってるの?あれか?プリンセスに恩売っときゃ、王様からご褒美貰えるかもーってか?」
「そんなんじゃない…こんな小さい子が、知らない世界に放り出されて、助けたいって思うのは当たり前じゃないか!」
誰に命じられた訳でもない。ご褒美が欲しくてそうしているのではない。ツバサはただ、自分が助けたいから助けているだけ。その気持ちに嘘はなく、あるのは純粋な善意。
しかし、カバトンからしたらそんなものに興味など無い。
助けたい気持ち?純粋な善意?そんな、ふわっとした気持ちだけでやっていけると程、世の中は甘くはない。
力こそ全てを掲げる者からすれば、そんなものはどうしようもない戯言だ。
だからカバトンは、冷酷に吐き捨てる。
「分からん」
邪魔をする者は居ない今、カバトンは悠々にエルを連れ去って退出した。
「エルちゃん!」
「待つんだ!」
ヘヴンとツバサが追い掛けようとした時だった。突然、2人が立っていた床が収納されて綺麗に消えた。ジタバタともがいて落ちまいとする2人だが、重力に逆らえずそのまま落下するしかなかった。
だが、床が開いたのならこれは逆に好都合。
「来て、ヴァリアブル・ディバイド!」
キーンと響いたヘヴンの呼び声に剣は応えた。建物の突き刺さったままのヘヴンの剣は、ひとりでに動いて主人の元へと天高く舞い上がる。
高速で飛んで来る剣を、ヘヴンは空中で掴んでそのままランボーグに突き立てる。
その途中、一緒に落ちていくツバサにも手を伸ばして一緒に乗り込もうとしたのだが、紙一重のところで掴み損ねてしまった。
「ツバサ!?」
流石に目の前で落ちて行くのを放っておく事も出来無いヘヴンは、ランボーグに乗り込むのは諦めてツバサを最優先で助けに行こうとしたが、
「ボクは何とかします!エルちゃんをお願いします!」
戸惑ったが、ツバサがそう言うのならそれを信じてヘヴンはエルを優先させる。剣を掴んだ手に力を込めて剣に乗っかり、消えた床が元に戻るのと同時に突き立てた剣も回収する。
結局、ヘヴンはランボーグの中に1人だけとなった。