ショベルカーを基に生み出された異形の怪物ランボーグ。それを誕生させ、使役するのは豚の様な姿をした輩。名をカバトン。
異様な光景に街の人達はどよめいた後、恐怖の叫びを上げながらその場から逃げて行く。かなたとましろも同じくその光景を見て動揺の声を上げる。
「普通に痛いよ!これ、夢じゃないの!?」
未だに夢だと信じ込んでいたましろは、自分で両頬をつねって確認をしていた。
確かに動揺はしているが、かなたとはまた違った動揺をしていたので少々呆れてしまう。対してソラの様子はというと、2人と違ってこの場の状況を冷静に見ている。
胸の中に抱える赤ん坊を第一に考え、そしてかなたとましろを、どうにかこの場から避難させる手段を考える。
「ましろさん、かなたさん!この子を頼みます」
ソラは赤ん坊を、初対面であるにも関わらずましろに預けて一歩前に出る。何をやろうとしているのか、それだけで2人は察した。自己犠牲を厭わず、他の人を助けようとするその姿は、テレビや漫画でよく見るヒーローそのもの。
だがそれは、あまりにも危険な行為。
「あの、ソラちゃんだっけ?一緒に逃げ…」
ましろが共に逃げる事を促しているものの、ソラはわざとそれを無視して歩み始める。策があるのかと思いきや、特にこれといった事をする事も無く、無策で歩く姿をかなたは咄嗟に手を出した。
「ダメだ!」
グッとソラの腕を掴んで引き留めた。が、ソラの腕を掴んでいるかなたにも分かるくらい、ソラは震えていた。本当は怖いに決まっている。「ならどうして?」という疑問が浮かぶ。怖いなら、震えているならましろの言う通り一緒に逃げれば良い。
「君は…何で?」
力も無い、女の子は男の子より身体能力も劣っている。いくら赤ん坊を守る為とは言えど、自分の命は欲しい筈。
「相手がどんなに強くても、正しい事を最後までやり抜く。それが──ヒーロー!」
ソラは、かなたの手を振り解いて一気に走り出した。隣で静止の声を上げるましろだが、それすらも聞かずにただ突き進んで行く。「ヒーロー」とソラは言った。確かにヒーローなら、どんな状況下でも逃げずに戦うのだが、それは力があっての行動だ。親切心とか、勇気だけで怪物に立ち向かうなんて無謀も良いところだ。
「時間を稼ぎます!逃げて下さい!」
ソラの言葉と行動に、ただかなたは俯き、ましろの手を引いてその場から逃げようとする。
「…行くよましろ」
「でも、あの子を放って置けないよ!」
ましろはの言う事にも一理はある。このまま放って置いて行ったら、あの子は絶対に助からない。無様に、残酷に、容赦無く暴力に打ちのめされて終わる。
けれど、今のソラの気持ちをちゃんと汲み取るとなると────、
「それでも行くよ!」
強引にましろを引いて走り出して逃走を図る。まだ納得がいっていなかったましろは、かなたに強く呼び掛けて引き返す様にお願いする。
「かなた君待って!ソラちゃんが!」
「危険なのは分かっているよ!でもね、あの子が折角勇気を出して俺達を逃がしてくれたんだ!その気持ちを考えると、やっぱり」
走る後ろの方では、大きな音が鳴り響いている。生身でソラが上手く時間を稼いでいるのが、それだけで伝わって来る。振り返ってはダメだ。ソラの姿を見たらきっと、かなたは足を止めて助けに行ってしまう。それをしたら、逆にソラに申し訳ない。だから前だけを見て、走り続けるしかないんだ。
託された赤ん坊を守る為に。
角を曲がり、そのまま真っ直ぐ家まで逃げ込むしかない。まだ、あの怪物達は追って来ていない。距離もかなり開き、そう簡単に追い付けるものでもない。このまま全力で走り続ければ、逃げ切れる。
そう希望を抱いていた。
「待つのねん!その子を渡すのねん!」
カバトンとランボーグが先回りして、かなたとましろの前に現れた。現れた事や、あの距離を一瞬で詰めて来た事にも驚きだが、それ以上にソラの事が心配だ。ランボーグがこの場に居ると言う事は、そういう事なのだろう。
「さぁ、早く渡さないと──」
「やめなさい!」
声のする方向には、ボロボロの姿なっているソラだった。傷は見た目より浅いものばかりだが、それでも生身の人間を弱らせるには充分過ぎる。しかもソラは、女の子だから余計その痛みに耐えられているのかも怪しい。
「貴方の相手は、私が…ッ!」
流石に耐え切れず、その場に崩れ落ちるしかなかった。それによって、胸ポケットに大事に仕舞い込んでいた手帳を落とし、カバトンの目の前まで滑る。
当然、カバトンは拾い上げて不思議そうに読み上げる。
「うん?『わたしのヒーロー手帳』?何じゃこりゃ?」
1枚1枚丁寧に、挿し絵も描かれている。
「『空の上を怖がっていたらヒーローは務まらない』『ヒーローは泣いている子供を絶対に見捨てない』」
どんなヒーローを目指したいか、決意表明みたいな感じで手帳いっぱいに書かれている。最後のページに差し掛かった時、カバトンは思わず笑いが溢した。
「ブフッ!『絶対ヒーローになるぞ!』ヒーロー?ギャアハハ!!」
カバトンは、ソラのヒーロー手帳を嘲笑い、そしてその夢を無慈悲に引き裂いて破り捨てた。カバトンからすればそんなもの、たかが知れている。自分さえ良ければ良いと思っている、目的の為なら手段を選ばない。他人の夢絵空事に興味など微塵も無い故、この様な所業が最も容易く行われている。
何とも不可解極まりない。
しかし間違っている訳でもない。強大な力を持つ者が上に立ち、支配する。弱き者は強者に怯え、支配される。弱肉強食、この世界は酷く醜く、理不尽で満ち溢れている。
「大丈夫、パパとママの所に──お家に帰ろう」
だからこそ、ヒーローという存在が大きく輝く。憧れ、それに感化されて人は希望を抱き、夢を持ち、いつしかその志を持って目指す者が現れる。それがソラだっただけのこと。
──相手がどんなに強くても、正しい事を最後までやり抜く。
「それが────ヒーロー」
力の限り振り絞ってソラが立ち上がった時、それは起こった。ソラの胸の中から小さくも、とても輝かしい青い光が飛び出した。光が少しずつ収まり、ソラが掴むと弾けてその姿を現した。
形は羽根ペンの様なものに似ており、羽の部分には未だに淡く光りが灯って力強さを感じられる。
「ぷいきゅあー!!」
赤ん坊も、ソラの姿に感化されて「プリキュア」という聞いた事のない謎の単語を発しながら、不思議な力を使い、ソラに何かを光と共に送り飛ばした。
ソラはソレを華麗に受け取り、不思議な羽根ペンと一緒に使用にする。
「ヒーローの出番です!」
羽根ペンがソラの想いに応え、形を変える。ペンからピンク色を基調としたステッキに変化し、赤ん坊から受け取ったもう一つのアイテムを同時に使用する。
「スカイミラージュ!トーンコネクト!」
赤ん坊から受け取ったアイテムにある、つまみの部分をスライドさせて、スカイミラージュと呼ばれたステッキに装着。
「ひろがるチェンジ!スカイ!」
アイテムを装着後、その下にあるボタンを押して、内に秘める力を一気に解き放ち、ソラの姿を変えさせる。
サイドテールだった髪は自分の身長と大差変わりない程にまでツインテールとして伸び、髪色も水色、毛先はピンク色に色変わりする。
「きらめきHOP!」
足からヒールへ、頭部には羽を模した可愛い髪飾り、耳にはオシャレなピアス。
「さわやかSTEP!」
服装は青と白を基調としたワンピースドレスになり、一気に見た目が変わる。
「はればれJUMP!」
両手を軽く手合わせすると、ハートマーク付きのフィンガーレスグローブが身に着けられる。左肩に手を当て、大きく撫で上げるとマントが着飾られる。
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!」
最後に決めポーズと、変身した自分の名を名乗り変身を完了させる。
スカイミラージュと赤ん坊から受け取ったアイテムのスカイトーン スカイを使用した結果、ソラは新たな姿と名前を手にした。
キュアスカイ。その姿は正に、スカイが憧れ、いつも夢見ていたヒーローそのもの。とても女の子が変身したとは思えない程のカッコ良さと可愛さ、逞しさを兼ね備えている。
赤ん坊はスカイの姿に喜び、かなたとましろは空いた口が閉じられないくらい、その急激な展開に着いて来られず呆気に取られている。
そして変身した当の本人も、イマイチ状況が飲み込めずに困惑していた。
「私、どうしちゃったんですか!?」
「ランボーグ!!」
どれだけ姿を変わろうとしても、捻り潰せば意味を成さない。ランボーグは凶悪なバケットを振り下げる。避ける為、スカイは力強くジャンプしたのだが、その高さが尋常ではなかった。
「う、嘘!?」
「高い!」
建物より高く、空の彼方まで届くかと思える程の驚異の跳躍力でランボーグの攻撃を見事回避してみせた。見渡せば、ソラシド市全体が見渡せる。
スカイ自身も、この内側から溢れて来る力に驚き、初めて変身した力を制御が上手く行っていない様子だった。
そんなままならない状態で、建物の屋上に着地して大まかな力の感覚を覚える。ある程度理解はした。次はこれを使いこなしてランボーグを討ち倒す。
ランボーグはスカイが着地した屋上まで、ひとっ飛びして追い掛けて行く。
その様子をかなたとましろは、地上から様子を見る事しか出来なかった。
「これ、本当に夢じゃないんだよね?」
「現実、の筈だと思うのだけど。こういうのを目の当たりにすると、ましろの言う通り夢と錯覚してしまう気持ちも分からなくもない」
かなたとましろが喋っている間、スカイは打ちのめして地上へと引き摺り落とした。倒れて動けない今が好機。追撃+止めをさしに、スカイは建物の壁側面を一直線に走り、最速最短でランボーグとの距離を詰めて行く。
有り余る力を全部吐き出す。助走を付け、握り締める右拳に今出せる全ての力を凝縮させる。悪を滅する一撃必殺の浄化の拳。
「ヒーローガールスカイパンチ!」
放たれたヒーローの一撃。その力はランボーグを浄化させ、元のショベルカーとして元に戻った。更に、所々破壊された街並みも浄化の力によるものか、こちらも修復されていつもの風景がそこにはあった。
「か、カバトントン!」
これ以上の戦闘は分が悪いと察し、呪文の様な事を急いで口走り、その場から退散するのであった。
悪が去った事を確認したスカイは、全身の力を抜いて変身を解き、元の姿へと戻った。
「えあ!」
赤ん坊が大きくソラを呼び掛ける。ソラもその姿に笑顔で出迎える。
「2人共、怪我はありませんか?」
開口一番、それを聞いてかなたとましろは目を見開いて驚く。2人の安否を確認してくれる事は有り難いが、もう少し自分を気遣って欲しいとも思った。2人を庇ってランボーグに立ち向かい、変身したとはいえ間接的にソラが倒し、カバトンを追い払ったのだから。
「怪我は何もないけど、俺達よりソラ…だっけ?君を心配するのが普通なんじゃないかな?」
「ねぇソラちゃん、貴女ってヒーローなの?」
ましろにヒーローかどうか問われ、ソラは空を見上げて唸りつつ考える。人は助け、赤ん坊を守り、悪を倒す事が出来たのだ。ヒーローと言えばヒーローなのだが、ソラの中ではまだ踏ん切りがついていない様子。それ故、考えた結果出した答えは、
「私にも分かりません」
などと、ソラ自身も言った。
今日1日だけで不思議な事が一度に沢山起きた。
この出逢いを機に、ソラのヒーローとしての物語が開幕する。
大体2話構成でこれからもお届けします。