ひろがるスカイ!プリキュア 英雄綺譚   作:シロX

2 / 23
第2話 ヒーローの出番です!

 ショベルカーを基に生み出された異形の怪物ランボーグ。それを誕生させ、使役するのは豚の様な姿をした輩。名をカバトン。

 

 異様な光景に街の人達はどよめいた後、恐怖の叫びを上げながらその場から逃げて行く。かなたとましろも同じくその光景を見て動揺の声を上げる。

 

「普通に痛いよ!これ、夢じゃないの!?」

 

 未だに夢だと信じ込んでいたましろは、自分で両頬をつねって確認をしていた。

 確かに動揺はしているが、かなたとはまた違った動揺をしていたので少々呆れてしまう。対してソラの様子はというと、2人と違ってこの場の状況を冷静に見ている。

 

 胸の中に抱える赤ん坊を第一に考え、そしてかなたとましろを、どうにかこの場から避難させる手段を考える。

 

「ましろさん、かなたさん!この子を頼みます」

 

 ソラは赤ん坊を、初対面であるにも関わらずましろに預けて一歩前に出る。何をやろうとしているのか、それだけで2人は察した。自己犠牲を厭わず、他の人を助けようとするその姿は、テレビや漫画でよく見るヒーローそのもの。

 

 だがそれは、あまりにも危険な行為。

 

「あの、ソラちゃんだっけ?一緒に逃げ…」

 

 ましろが共に逃げる事を促しているものの、ソラはわざとそれを無視して歩み始める。策があるのかと思いきや、特にこれといった事をする事も無く、無策で歩く姿をかなたは咄嗟に手を出した。

 

「ダメだ!」

 

 グッとソラの腕を掴んで引き留めた。が、ソラの腕を掴んでいるかなたにも分かるくらい、ソラは震えていた。本当は怖いに決まっている。「ならどうして?」という疑問が浮かぶ。怖いなら、震えているならましろの言う通り一緒に逃げれば良い。

 

「君は…何で?」

 

 力も無い、女の子は男の子より身体能力も劣っている。いくら赤ん坊を守る為とは言えど、自分の命は欲しい筈。

 

「相手がどんなに強くても、正しい事を最後までやり抜く。それが──ヒーロー!」

 

 ソラは、かなたの手を振り解いて一気に走り出した。隣で静止の声を上げるましろだが、それすらも聞かずにただ突き進んで行く。「ヒーロー」とソラは言った。確かにヒーローなら、どんな状況下でも逃げずに戦うのだが、それは力があっての行動だ。親切心とか、勇気だけで怪物に立ち向かうなんて無謀も良いところだ。

 

「時間を稼ぎます!逃げて下さい!」

 

 ソラの言葉と行動に、ただかなたは俯き、ましろの手を引いてその場から逃げようとする。

 

「…行くよましろ」

 

「でも、あの子を放って置けないよ!」

 

 ましろはの言う事にも一理はある。このまま放って置いて行ったら、あの子は絶対に助からない。無様に、残酷に、容赦無く暴力に打ちのめされて終わる。

 

 けれど、今のソラの気持ちをちゃんと汲み取るとなると────、

 

「それでも行くよ!」

 

 強引にましろを引いて走り出して逃走を図る。まだ納得がいっていなかったましろは、かなたに強く呼び掛けて引き返す様にお願いする。

 

「かなた君待って!ソラちゃんが!」

 

「危険なのは分かっているよ!でもね、あの子が折角勇気を出して俺達を逃がしてくれたんだ!その気持ちを考えると、やっぱり」

 

 走る後ろの方では、大きな音が鳴り響いている。生身でソラが上手く時間を稼いでいるのが、それだけで伝わって来る。振り返ってはダメだ。ソラの姿を見たらきっと、かなたは足を止めて助けに行ってしまう。それをしたら、逆にソラに申し訳ない。だから前だけを見て、走り続けるしかないんだ。

 

 託された赤ん坊を守る為に。

 

 角を曲がり、そのまま真っ直ぐ家まで逃げ込むしかない。まだ、あの怪物達は追って来ていない。距離もかなり開き、そう簡単に追い付けるものでもない。このまま全力で走り続ければ、逃げ切れる。

 

 そう希望を抱いていた。

 

「待つのねん!その子を渡すのねん!」

 

 カバトンとランボーグが先回りして、かなたとましろの前に現れた。現れた事や、あの距離を一瞬で詰めて来た事にも驚きだが、それ以上にソラの事が心配だ。ランボーグがこの場に居ると言う事は、そういう事なのだろう。

 

「さぁ、早く渡さないと──」

 

「やめなさい!」

 

 声のする方向には、ボロボロの姿なっているソラだった。傷は見た目より浅いものばかりだが、それでも生身の人間を弱らせるには充分過ぎる。しかもソラは、女の子だから余計その痛みに耐えられているのかも怪しい。

 

「貴方の相手は、私が…ッ!」

 

 流石に耐え切れず、その場に崩れ落ちるしかなかった。それによって、胸ポケットに大事に仕舞い込んでいた手帳を落とし、カバトンの目の前まで滑る。

 当然、カバトンは拾い上げて不思議そうに読み上げる。

 

「うん?『わたしのヒーロー手帳』?何じゃこりゃ?」

 

 1枚1枚丁寧に、挿し絵も描かれている。

 

「『空の上を怖がっていたらヒーローは務まらない』『ヒーローは泣いている子供を絶対に見捨てない』」

 

 どんなヒーローを目指したいか、決意表明みたいな感じで手帳いっぱいに書かれている。最後のページに差し掛かった時、カバトンは思わず笑いが溢した。

 

「ブフッ!『絶対ヒーローになるぞ!』ヒーロー?ギャアハハ!!」

 

 カバトンは、ソラのヒーロー手帳を嘲笑い、そしてその夢を無慈悲に引き裂いて破り捨てた。カバトンからすればそんなもの、たかが知れている。自分さえ良ければ良いと思っている、目的の為なら手段を選ばない。他人の夢絵空事に興味など微塵も無い故、この様な所業が最も容易く行われている。

 

 何とも不可解極まりない。

 

 しかし間違っている訳でもない。強大な力を持つ者が上に立ち、支配する。弱き者は強者に怯え、支配される。弱肉強食、この世界は酷く醜く、理不尽で満ち溢れている。

 

「大丈夫、パパとママの所に──お家に帰ろう」

 

 だからこそ、ヒーローという存在が大きく輝く。憧れ、それに感化されて人は希望を抱き、夢を持ち、いつしかその志を持って目指す者が現れる。それがソラだっただけのこと。

 

 ──相手がどんなに強くても、正しい事を最後までやり抜く。

 

「それが────ヒーロー」

 

 力の限り振り絞ってソラが立ち上がった時、それは起こった。ソラの胸の中から小さくも、とても輝かしい青い光が飛び出した。光が少しずつ収まり、ソラが掴むと弾けてその姿を現した。

 

 形は羽根ペンの様なものに似ており、羽の部分には未だに淡く光りが灯って力強さを感じられる。

 

「ぷいきゅあー!!」

 

 赤ん坊も、ソラの姿に感化されて「プリキュア」という聞いた事のない謎の単語を発しながら、不思議な力を使い、ソラに何かを光と共に送り飛ばした。

 ソラはソレを華麗に受け取り、不思議な羽根ペンと一緒に使用にする。

 

「ヒーローの出番です!」

 

 羽根ペンがソラの想いに応え、形を変える。ペンからピンク色を基調としたステッキに変化し、赤ん坊から受け取ったもう一つのアイテムを同時に使用する。

 

「スカイミラージュ!トーンコネクト!」

 

 赤ん坊から受け取ったアイテムにある、つまみの部分をスライドさせて、スカイミラージュと呼ばれたステッキに装着。

 

「ひろがるチェンジ!スカイ!」

 

 アイテムを装着後、その下にあるボタンを押して、内に秘める力を一気に解き放ち、ソラの姿を変えさせる。

 

 サイドテールだった髪は自分の身長と大差変わりない程にまでツインテールとして伸び、髪色も水色、毛先はピンク色に色変わりする。

 

「きらめきHOP!」

 

 足からヒールへ、頭部には羽を模した可愛い髪飾り、耳にはオシャレなピアス。

 

「さわやかSTEP!」

 

 服装は青と白を基調としたワンピースドレスになり、一気に見た目が変わる。

 

「はればれJUMP!」

 

 両手を軽く手合わせすると、ハートマーク付きのフィンガーレスグローブが身に着けられる。左肩に手を当て、大きく撫で上げるとマントが着飾られる。

 

「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!」

 

 最後に決めポーズと、変身した自分の名を名乗り変身を完了させる。

 

 スカイミラージュと赤ん坊から受け取ったアイテムのスカイトーン スカイを使用した結果、ソラは新たな姿と名前を手にした。

 

 キュアスカイ。その姿は正に、スカイが憧れ、いつも夢見ていたヒーローそのもの。とても女の子が変身したとは思えない程のカッコ良さと可愛さ、逞しさを兼ね備えている。

 

 赤ん坊はスカイの姿に喜び、かなたとましろは空いた口が閉じられないくらい、その急激な展開に着いて来られず呆気に取られている。

 そして変身した当の本人も、イマイチ状況が飲み込めずに困惑していた。

 

「私、どうしちゃったんですか!?」

 

「ランボーグ!!」

 

 どれだけ姿を変わろうとしても、捻り潰せば意味を成さない。ランボーグは凶悪なバケットを振り下げる。避ける為、スカイは力強くジャンプしたのだが、その高さが尋常ではなかった。

 

「う、嘘!?」

 

「高い!」

 

 建物より高く、空の彼方まで届くかと思える程の驚異の跳躍力でランボーグの攻撃を見事回避してみせた。見渡せば、ソラシド市全体が見渡せる。

 スカイ自身も、この内側から溢れて来る力に驚き、初めて変身した力を制御が上手く行っていない様子だった。

 

 そんなままならない状態で、建物の屋上に着地して大まかな力の感覚を覚える。ある程度理解はした。次はこれを使いこなしてランボーグを討ち倒す。

 

 ランボーグはスカイが着地した屋上まで、ひとっ飛びして追い掛けて行く。

 

 その様子をかなたとましろは、地上から様子を見る事しか出来なかった。

 

「これ、本当に夢じゃないんだよね?」

 

「現実、の筈だと思うのだけど。こういうのを目の当たりにすると、ましろの言う通り夢と錯覚してしまう気持ちも分からなくもない」

 

 かなたとましろが喋っている間、スカイは打ちのめして地上へと引き摺り落とした。倒れて動けない今が好機。追撃+止めをさしに、スカイは建物の壁側面を一直線に走り、最速最短でランボーグとの距離を詰めて行く。

 

 有り余る力を全部吐き出す。助走を付け、握り締める右拳に今出せる全ての力を凝縮させる。悪を滅する一撃必殺の浄化の拳。

 

「ヒーローガールスカイパンチ!」

 

 放たれたヒーローの一撃。その力はランボーグを浄化させ、元のショベルカーとして元に戻った。更に、所々破壊された街並みも浄化の力によるものか、こちらも修復されていつもの風景がそこにはあった。

 

「か、カバトントン!」

 

 これ以上の戦闘は分が悪いと察し、呪文の様な事を急いで口走り、その場から退散するのであった。

 悪が去った事を確認したスカイは、全身の力を抜いて変身を解き、元の姿へと戻った。

 

「えあ!」

 

 赤ん坊が大きくソラを呼び掛ける。ソラもその姿に笑顔で出迎える。

 

「2人共、怪我はありませんか?」

 

 開口一番、それを聞いてかなたとましろは目を見開いて驚く。2人の安否を確認してくれる事は有り難いが、もう少し自分を気遣って欲しいとも思った。2人を庇ってランボーグに立ち向かい、変身したとはいえ間接的にソラが倒し、カバトンを追い払ったのだから。

 

「怪我は何もないけど、俺達よりソラ…だっけ?君を心配するのが普通なんじゃないかな?」

 

「ねぇソラちゃん、貴女ってヒーローなの?」

 

 ましろにヒーローかどうか問われ、ソラは空を見上げて唸りつつ考える。人は助け、赤ん坊を守り、悪を倒す事が出来たのだ。ヒーローと言えばヒーローなのだが、ソラの中ではまだ踏ん切りがついていない様子。それ故、考えた結果出した答えは、

 

「私にも分かりません」

 

 などと、ソラ自身も言った。

 

 今日1日だけで不思議な事が一度に沢山起きた。

 

 この出逢いを機に、ソラのヒーローとしての物語が開幕する。




大体2話構成でこれからもお届けします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。