ひろがるスカイ!プリキュア 英雄綺譚   作:シロX

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第20話 あなたのナイトが参ります!

 カバトンが出入りしていた扉。僅かな隙間に剣先を軽く突き立て、そのままテコの原理で動かして強引に扉を開く。

 

「扉はそこ。頑丈そうだがら流石に力づくは無理、と思う。でも少し頭を使えば……よいしょ!」

 

 何とか扉を潜り抜け、何処かへと続く廊下を歩き出す。内部はかなり簡素な作りだが、やはり何処もかしこも頑丈というのは確かだ。

 となると、エルを助けた後はどう立ち回るかが考えさせられる。

 

 それより考えるべく事はまだある。どうやって、カバトンからエルを助け出すのかだ。

 右腕は使えない事はないが、使えばきっと不利となる状況になるであろう。

 

 もう1人この場に居れば、容易に作戦と呼べるものは立てられる。しかし、いつまででも此処で油を売っている訳にはいかない。

 ふと、偶々あった窓に視線を向けると思わぬ光景がそこにはあった。

 

「えっ、ツバサ!?」

 

 窓の外には、エルが乗っている舟となったスリングに、ツバサが乗って落下から免れていた。ツバサとも目が合い、お互いに窓近くまで顔を近付ける。

 

「良かったツバサ、心配したよ!」

 

「すみません」

 

「少し離れてて。窓くらいなら簡単に!」

 

「す、ストップ!!」

 

 窓を破壊しようと剣を振り翳す途中、ツバサが慌ててその行動を止める。何か問題でもあるのかと首を傾げ、「どうしたのか?」と質問をした。

 

「窓を割ってしまったら、気付かれちゃいます!入れる場所が他にもありますので、少しだけ待ってて下さい!」

 

 ツバサが何処か移動して数分。人の姿に変身した状態で、ヘヴンと合流を果たしたのだった。物音もさせずに、一体何処から侵入出来たのかちょっと気になるも、ツバサが参戦したお陰でエルを助けやすくなった。

 

「心配おかけしました」

 

「だけどナイス根性。それはそれとして、これからエルちゃんを助けに行く。勿論協力するよね?」

 

「はい!エルちゃんは、ボクが責任持って必ず助けて見せます!ヘヴンは、援護をお願いします!」

 

「あ、ちょっと!?援護も何も俺が…それに一体何処から入って来たの…?」

 

 とても静かな走りでツバサは、カバトンが居ると思われる場所に移動した。ヘヴンの話しはまだ終わってなかったのだが、止める頃にはもうその姿は見当たらなかった。

 

 仕方ない。それならそれで、ヘヴンにしか出来ない事をするしかない。

 右腕で剣が使えないのなら、使える様にすれば良いだけのこと。

 

 ヘヴンは自分のマントを取り、それを紐代わりとして剣を右手首に固定させる。これならば、少しは戦える。それが無理でも時間稼ぎ程度なら問題無い。

 

 これでいつでも大丈夫と準備が終わると、丁度そのタイミングでエルを抱えたツバサが戻って来た。ただ、カバトンまでついて来てしまったのは、あまり良くはなかった。

 

「ヘヴン!」

 

「伏せて!」

 

 言われた通りツバサはエルを胸に抱いて背を低くし、ヘヴンが繰り出す斬撃を避ける。放たれた斬撃は、カバトンの足元の床に直撃して怯んだ。

 

 一瞬とはいえ、更に距離を離せれるには充分過ぎる。それに加え、エルも助け出せれている。此処にはもう用はない。後は、逃げ道だけだ。

 

「ツバサ、何処から入って来たの?」

 

「此処です」

 

「えっ、あ!」

 

 1枚の窓に、1人分が入れるくらいの大きさに綺麗に切り抜かれている部分があった。

 こんなのがあるなら、変に難しく考える必要も無かったと思うヘヴン。

 

 ツバサは、エルをスリングの舟に乗せて先に外に逃がそうとする。

 

「さぁ、行くんだ。ボクは──」

 

「えるぅ!」

 

 ツバサは残って、カバトンの足止めと考えていたが、エルはツバサも逃げる様にと1人で逃げる事を拒否する。

 そんなやり取りを数回続けていると、とうとうカバトンがすぐ近くまで追い付いて来た。

 

「ツバサ、悠長にやり取りしている場合じゃない。此処は俺が時間を稼ぐから、エルちゃんと一緒に逃げるんだ」

 

「それだと逃げきれません!」

 

「追い付いたのねん!」

 

 ツバサが入って来た所から、カバトンは強引に体を詰め込んで外へ出て来てしまった。走ってジャンプでもすれば、エルに届いてしまう距離。

 

 もう引き返せない。前に進むしか選択肢がない。

 

「エルちゃん、ツバサを頼んだよ!」

 

 ヘヴンは、強引にツバサの手を舟に掛けさせてその背中を押した。空中に投げ出された足は、逃げ切って地上に着地するまで落ち着けれない。

 ツバサが振り返ると、カバトンを足止めして奮闘するヘヴンの背中が見える。

 

「追わせないよ」

 

「フン、そんな腕でオレ様とやり合おうなんて傲慢なのねん!」

 

 右手首に固定された剣を、2度3度と振り回してランボーグの中へと追いやろうとする。しかし、慣れない剣の扱いに振り回されており思う様に立ち回れない。だが、攻めているのはヘヴン。攻めれているだけでも上等だ。

 

 ──不恰好だけど、これなら行ける。それに時間を掛ければエルちゃん達が逃げ切れ、俺も扱いが上手くなる。このまま攻め続ける!

 

 連続の攻撃にカバトンも対応出来ず、足がもつれて尻餅をついた。今が好機とヘヴンは畳み掛ける。

 

 大きく振り上げて斬り掛かるも、カバトンは間一髪の所で避けた。それで終わる事はなく、振り下げた腕に掴み掛かり、そのままヘヴンを空中へと投げ飛ばした。

 

「しまった!」

 

 放り投げられたヘヴンは、嫌でも建物の屋上に着地せざる得なくなった。空を飛べないヘヴンには、これ以上の援護は見込めない。

 

 スカイとプリズムも、まだ地上で手をこまねいている。ヘヴンはそれ見て確信する。今回ばかりはお手上げ、どうする事も出来ないと。

 

 

 ////////

 

 

 一方でツバサは、これ以上は逃げ切れないと確信しており、ある決断をしようとしていた。自分が荷物の様にエルの舟にしがみついて、スピードは全く出ない。後ろを見れば、カバトンがすぐそこまで来ている。

 

 答えはもう出ている。単純だ。

 

「エルちゃん、逃げて」

 

 自分という荷を下ろせば良いだけ。すんなり自分の置かれている状況を受け止め、その手を離した。それもあっさりと。

 

「えるるぅ!」

 

 そんな事はダメだと言わんばかりにエルは叫び、まだ幼く小さい力を解放してツバサを空中で留めた。この力は、ソラが初めてソラシド市にやって来た時に行使したそれだ。

 

 まだまだ甘いところもあるが、それでも自由に扱えているだけでも褒めるべきだ。がしかし、今はそんな場合ではない。あの時とは状況が違う。

 エルが少しでも気を許せば、ツバサはそのまま落下して地面に激突。そうなったら助からない。

 

 カバトンもとうとう2人に追い付き、更に問題が積もるばかり。此方は何も出来無い。歯痒い気持ちだけが溢れて、焦りを隠せず。

 

「エルちゃん、ボクの事はいいから!」

 

「える!えるる!」

 

 ツバサはエルの力で助かっているものの、その間はエルは集中しているせいもあり身動きが取れない。このままでは、カバトンに捕まってしまうのは時間の問題。

 しかしそれをエルは、承知の上でツバサの言葉を力強く拒否する。

 

『掃除機光線発射!』

 

 動けない事をいい事に、カバトンは再度エルを捕まえようと光線を放ち、回収しようとする。

 

 徐々にエルはランボーグの方へと引き寄せられるが、エルの力で空中で留められているツバサは動いていない。

 

 このままだと、ツバサだけが助かってエルが連れ去られてしまう。ツバサにとってそれは、一番起きてはいけない最悪のシナリオ。

 

『そんな脇役ほっといて、1人でさっさと逃げときゃ良かったのによぉー!』

 

 エルだって、そんな事は分かっている。皆が、自分1人を守る為に必死になって戦っている事くらい。巻き込んどいて、守られているばかりで何も出来ない。

 

 それでも、だからこそ元々関係の無いツバサを巻き込む訳にはいかない。ツバサがエルを助ける様に、エルだってツバサを助けたいのだ。

 

 涙も流して泣き叫びたい気持ちなる。それが出来ればどれだけ楽な事か。そんな気持ちも抱え込み、抑え切れなくても、助けたいという気持ちだけは抑えてはダメなのだ。

 

 例え自分が連れ去られたとしても、ツバサだけはと。

 

 力も無い、どうする事も出来ないのだが、声を出して嘲笑うカバトンにツバサの感情は止まる事がなかった。

 

「やめろ…エルちゃんを…笑うなぁぁぁ!!」

 

 心からの叫び。どうしようもなくとも、全然駄目でも、それを馬鹿にする権利など誰にも無い。ましてやエルは赤ん坊なのだ。相手の気持ちが分からずとも、その頑張りを馬鹿にする事だけは、ツバサは絶対に許す事は出来なかった。

 

 そしてそんな気持ちは光となり、形となって具現化する。

 

「もし、ボクに最期が訪れたとして、その時に思い出すのはボクを笑った人達の顔じゃない。プリンセス、ボクを守ろうとしてくれた貴女の笑顔です」

 

 スカイやプリズムの様に、心の内側からミラージュペンが現れて手に取る。

 

「でも、それは今じゃない。だってこれからは、ボクが貴女を守るんだから!」

 

 ツバサの覚悟が決まった直後、地上からの方でも動きがあった。何度も空高く上げる事をトライしていたスカイとプリズム、そこにヘヴンも手を加える。

 プリズムの白いエネルギー弾を足場にスカイが跳び、最後のひと押しはヘヴンが剣で押し上げる。そしてとうとう、ランボーグにスカイの拳が減り込み、地上からの攻撃が届くのであった。

 

 無いと思っていた所からの攻撃に、カバトンとランボーグは対応出来ず、体勢が崩れて一瞬の隙が生まれる。

 

「ぷりきゅあーー!」

 

 スカイやプリズムの時と同じく、エルの力をツバサが受け取る。

 

「プリンセス・エル──あなたのナイトが参ります!」

 

 今この全てに決着をつけるべく、1人の騎士(ナイト)が覚醒する。

 

「スカイミラージュ!トーンコネクト!」

 

 スカイトーンウィングにあるつまみの部分をスライドさせて、スカイミラージュ装着させる。

 

「ひろがるチェンジ!WING!」

 

 アイテムを装着後、その下にあるボタンを押して、内に秘める力を一気に解き放ち、ましろの姿を変えさせる。

 

 頭部から髪色や長さ、髪型がガラリと変わりゆく。オレンジ色となり、ポニーテールの様な髪型で、身の丈程の長さとなる。

 両足も、オレンジ色のロングブーツを着用する。

 

「きらめきHOP!」

 

 装飾として、頭部にリボン付きのシルクハット、羽の髪飾り、両耳にはピンク色の丸い2つのピアス。

 

「さわやかSTEP!」

 

 掛け声と共に服装が一変する。オレンジを基調した色で、セーラー服スタイルとなる。ショートパンツを履いて、翼のようなスカートがついている。

 

「はればれJUMP!」

 

 最後に両手に手袋が装着されて完成する。

 

「天高くひろがる勇気!キュアウィング!」

 

 オレンジ色の空を背に、髪や衣装を靡かせて空中で佇む1人の騎士。スカイやプリズムとはまた違った雰囲気だが、それでもプリキュアには違いない。

 

 その名は──、

 

「キュアウィング…」

 

 空中で佇むウィングは、その場から天高く飛翔する。自由自在に空を駆け抜け、それは正しく翼を大きく広げる鳥。

 地上という縛りから解き放たれたウィングは、瞬時にエルを救出して空を泳ぐ。

 

「空を飛ぶプリキュア…ツバサ君頑張ったね!」

 

 変身し、何かを成し遂げたのを見届けたスカイは、ウィングの姿を見て涙ぐむ。

 しかし、まだ安心は出来ない。今はまだ戦闘の真っ只中。本当の戦いはこれからだ。

 

 スカイはランボーグに減り込んだ拳を抜き、空中でウィングに助けて貰い、地上で待っているヘヴン、プリズム、あげは達の元へ合流する。

 

『認めねぇーー!!空が飛べたからって何だってんだ!TUEEEのは、このオレだ!』

 

 ヤケクソになったカバトンは、最後の切り札である兵器を繰り出して来る。凄まじいエネルギーを溜め込み、それを全て放出する気でいる。

 もし、あのエネルギーが撃ち出されて直撃でもしたら、プリキュアとてただでは済まない。かと言って、避ければ辺り一帯は消し飛ぶ。

 

 危機的なこの状況だというのに、何故か安心感がある。恐らくそれは、キュアウィングという存在がいるからである。

 

「える!えるるぅ!」

 

「はい。行って来ます、プリンセス!」

 

 エルの言葉を胸に、ウィングは空に居るランボーグへと飛び立つ。

 

 ──一度やると決めた事は、絶対に諦めない。それがヒーロー。

 

 鳥は羽ばたき、空を舞う騎士(ナイト)となり、そして────、

 

「そう!ボクは決めた!プリンセスを守るのはキュアウィングだー!!」

 

 守るべき者の為に、立ち向かう。

 

「ひろがるウィングアタック!」

 

 夕焼けの空をバックに、飛行しながらの全力突撃技を繰り出して、ランボーグを貫通する。

 ウィングの一撃により、完全に制御不能となったランボーグはその場で静止する。

 

「今がチャンスだ2人共!」

 

 ヘヴンの声に反応して、スカイとプリズムが動き出した。

 

 スカイトーンWシャイニングを手に取り、スカイとプリズムは、スカイトーンのつまみ部分をスライドさせてスカイミラージュに装着させる。

 

「スカイブルー!」

 

「プリズムホワイト!」

 

 2人はそう唱え、お互いの手を強く繋いでスカイミラージュのボタンを押す。ボタンを押した事で、スカイミラージュに充填されたエネルギーがランボーグの上空にバーサライタの円盤が現れては中へ入れ込ませる。

 

「プリキュア!アップドラフト・シャイニング!」

 

 強力な爆発と共に、あれだけ苦戦を強いられていたランボーグを完全に浄化させてしまう。

 

 破壊された街は元通り。ウィングはようやく地上に降り立つ。

 そこで待っていたのは、自分の力で守り抜いた大切な人達が居た。

 

 

 ////////

 

 

 翌日から、ツバサも本格的に虹ヶ丘家の一員となって暮らし始めた。ソラと一緒になって、エルのお世話をよく見る事が多くなり、少しはそれぞれの負担が減って来た。もし何かあっとも、またその時はきっとナイトが手を差し伸べてくれる。

 

 色々と落ち着き、久し振りにゆっくりとかなたとましろが2人っきりでリビングで腰を落としていた。

 

「ツバサ君、良かったね」

 

「ツバサが居れば、エルちゃんも安心出来るね」

 

「それはそれとして…かなた君、何この腕?」

 

 眉を吊り上げて、怒り心頭気味なましろは、かなたの悪化した右腕をついて質問した。ましろがかなたに目を向けるのと同時に、素早く明後日方向に視線を逸らして誤魔化そうとする。

 

「ナ、ナンノコノデショウカ?」

 

「昨日、ちゃんと家に居たよね?」

 

「イタヨ」

 

「…今日から暫く、外出禁止だよ!」

 

 言葉がカタコトだった事もあるが、ましろに嘘を見抜かれて外出禁止が言い渡された。

 

「かなた君、嘘を吐いてる」

 

「そんな事はない……多分」

 

「ほらやっぱり!」

 

 こうして虹ヶ丘家に、また新しい日常が始まる。

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