ヤーキターイの材料の確保の為、一度家を出てお買い物しなければならない。そんな訳で、土手を4人で歩きつつ、次はどんな味で試そうかと頭を悩ませていた。
特にましろの気合いの入り方はかなりのもの。ただ料理を作るのが得意とか、好きとかというだけではなく、それ以上にもっと何か。言葉では言い表せない程に頑張っていた。
そんなましろの姿を見てツバサは一言、
「ありがとうございます。ボクの為に、ソラさんとかなたさん、こんなに頑張ってくれて」
「私はただ、ツバサ君にヤーキターイを食べて喜んで貰いたいだけで」
「それが良いって事だよましろ」
「はい!ましろさんの料理は、食べた人を笑顔にする不思議な力があるんです!」
「ボクもそう思います!」
ましろは「そんな事はない」と言うが、実際はかなた達の言う様に十分褒められても良い。それくらいましろは、皆の為に頑張ってくれている。皆の為に何かして動いてくれている。それは、誰も簡単に出来る事ではないのだ。
「ありがとう。私が初めて料理したのはね、お仕事で疲れているパパとママにおにぎりを作ってあげようと思ったからなんだ」
それに気付いたましろの両親は、一緒に作り、そして同じ食卓を囲んで共に食べる。とても普通で、ごく一般的な、家庭円満な光景。だけどそれがましろにとって、凄く嬉しく、その時に食べたおにぎりはとても美味しかった。
「もしかしたら、私にとってのヤーキターイみたいなものかも」
「あっ…」
ましろの言葉を聞いて、何か思ってツバサは歩みを止めた。
「気付きました。ボクは、ヤーキターイを食べたかったんじゃなくて本当は──」
『カーバやーきいもー!おいも。おいも!おいも!おいもーおいもだよーん!』
ツバサが何か大事な事を言うとするのに割り込んで来たのは、カバトンの声だった。昔懐かしの焼き芋の屋台を引いて拡声器で、わざとかなた達の耳に入る様に声を出していた。
「ツバサ君教えて」
「本当に食べたかったものって?」
『ちょいちょいちょーい!?』
「ふ、2人共、アレ放置なの?」
カバトンの事など眼中に無いと言わんばかりに、ツバサが先程話そうとしていた話題に何事も無く戻ろうとするソラとましろ。
カバトンは無視されてツッコむのは分かるが、思わずかなたまで声を掛けてしまう。
「今、大事なところなので後にして下さい。カバトンなんて気にしないで、話を続けて」
「えっと…」
『なっ!?美味しい焼き芋なのねん!』
無視されて余計に声を張り上げて声量は悪化するも、ソラとましろは「そんな事より」の感覚でカバトンを雑な扱いで話を流し続ける。
「もう…」
「ごめん、ちょっと静かにしてて!」
『こんのー……おっ?』
拳を握って怒りを露わにしていると、屋台の前にかなたが焼き芋も凝視して美味しそうな物を吟味していた。
「コレとコレと、後そこの分貰える?」
「お、お前って奴は何ていい奴なのねんー!!」
存外な扱いから一変して、かなただけはちゃんと認識して対応しており、その優しさに感動して滝の様に涙を流すカバトン。
同情のつもりで買いに来たかなたも、これにはニッコリと笑みを溢す。
「食べ物に罪はないからな」
「1個おまけしとくのねん。まいどー」
焼き芋を袋に詰めて貰った後、かなたは嬉しそうな表情をしながらソラ達の元へ戻る。しかし、帰って来て早々にソラとましろからのお説教が耳に飛んで来た。
「何でわざわざ焼き芋なんて買ってるんですかー!?」
「だって、流石に可哀想だと思ってつい…」
「子犬を拾って来る感覚で、カバトンから物を買っちゃダメだよ?」
「思ってたより辛辣だね…」
そんなやり取りを繰り広げる後ろで、カバトンは焼き芋を媒体としてランボーグを生み出していた。
それを見てソラとましろは、かなたの事をジト目で見つめて来る。「ほら見たことか!」と言っている様で、かなたの肩身は余計に縮こまる。
「これ、俺が悪いのかな?」
「うーん、ボクには分かんないや」
ひとまずこの話題は置いといて、ランボーグが現れたのならやる事は一つ。プリキュアに変身して、浄化をするのみ。
ソラ、ましろ、ツバサはミラージュペンを取り出して変身する準備をする。
スカイミラージュ!トーンコネクト!』
スカイトーンにあるつまみの部分をスライドさせて、スカイミラージュに装着させる。
「ひろがるチェンジ!SKY!」
「ひろがるチェンジ!PRISM!」
「ひろがるチェンジ!WING!」
アイテムを装着後、その下にあるボタンを押して、内に秘める力を一気に解き放ち、3人の姿を変えさせる。
サイドテールだったソラの髪は、自分の身長と大差変わりない程にまでツインテールとして伸び、髪色も水色、毛先はピンク色に色変わりする。
ましろも長かった髪が更に伸び、それに伴って髪色もピンクへと変色する。
両足には白きロングブーツをそれぞれ着用。
続くツバサも、頭部から髪色や長さ、髪型がガラリと変わり、オレンジ色となってポニーテールの様な髪型で、身の丈程の長さとなる。
「きらめきHOP!」
「さわやかSTEP!」
「はればれJUMP!」
更に掛け声と共に、3人はそれぞれの衣装に身を包み込んで新たな姿へと変える。
ソラは肩マントを大きく靡かせ、男の子にも負けないくらいのカッコよさと可愛さを兼ね備える。
ましろは、白とピンクがベースのワンピースドレスで可愛さがいつも以上に爆発した姿となる。
ツバサは、オレンジを基調した色のセーラー服スタイルにショートパンツを履いて、翼のようなスカートがつく。
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!」
「ふわりひろがる優しい光!キュアプリズム!」
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!」
『Ready Go!ひろがるスカイ!プリキュア!』
変身を終え、スカイとプリズムが飛び出して行く。かなたも変身して、より優位に立とうとしたが、それをウィングが止めに入る。
「待って下さい。今ここで変身すれば、2人にバレてしまう可能性があります。ここはボク達任せて隠れてて!」
どうやら、ウィングはかなたとの約束をちゃんと覚えており、それに気を遣って変身させない様に促した。それに此処は土手で身を隠せる場所が無い為、余計バレる可能性が高まる。
今回はウィングの言葉を素直に受け取り、その場から動かず、3人のプリキュアの戦いの様子を見守る事に専念する。
前までなら、自分もと無理矢理出しゃばる形で変身して参戦するかなただった。けれども、ウィングも加わって戦力的に申し分ないので、特に焦って変身する必要も無くなった。
それでも、自分の手で守りたいという想いは変わらない。隙があれば、瞬時にかなたは変身する。
けれどそれは杞憂となる。3人の、特にスカイとウィングの連携は目を見張る物だった。今回がちゃんとした連携が初めてだからと、少し心配はしていたが、十分に圧倒している。
ウィングが翻弄し、その隙を突いてスカイが接近戦で巧みに技を繰り出して確実にダメージを与えている。
この調子なら、ランボーグが浄化されるのは時間の問題。それを危惧したカバトンは、とっておきの秘策で対抗するべく自ら動いた。
「さっきは、お芋買ってくれてあんがとさん!お礼にもっと食わせてやるのねん!ランボーグ!アイツを狙え!!」
「ランボーグ!!」
焼き芋のミサイルが放たれた。ランボーグが狙ったのは、土手の上で隠れて見守っていたかなただった。
──変身するしか…なっ!?
かなたが、変身せざるを得ないとスカイトーンに手を掛けた時、かなたを庇う為にプリズムが目の前に現れた。
「かなた君伏せて!!」
プリズムはかなたを押し倒して、代わりに焼き芋のミサイルをその背中に炸裂した。爆発音によってプリズムの悲鳴が掻き消されて、スカイとウィングが聞こえなかったが、近くに居たかなただけは耳にした。
爆発によって出来た煙が晴れると、ぐったりとかなたに寄り掛かってプリズムが倒れていた。
「そんな…プリズム!プリズム!!」
「だい、じょうぶだよ…かなた君。私が守るから、私が傷付けさせないから…安心して」
「YOEEE雑魚が出しゃばるからそうなるんだ。何も出来無い雑魚は、とっととくたばっちまえ───」
ランボーグに指示を出そうとしたその瞬間、カバトンの腹に何かが貫いた。
「えっ?」
けれど、腹部を見ても何も無い。さっき感じたのは目の錯覚か。しかし、感触は確かにあった。
カバトンはふと、かなたの方へと視線を移すと思わず一歩身を引いてしまった。
かなたの目はカバトンに向けられていた。生半可な敵意では無く、容赦の無い殺意とも言える目で。そして、先程の錯覚かと思われていた感覚は恐らくかなたの視線のそれだ。
「お前に何が分かる。プリズムは、誰よりも優しい心を持っている。皆を照らしてくれる光なんだよ。それの何処か弱い?語るなよ…お前がプリズムを、ましろを────語るな!!」
晴れ晴れとしていた空模様が怪しくなり、かなたの上空に雷雲が立ち込める。その雷雲の中心から、一筋の緑の光りがランボーグへと差し込む。
「守るチャンスを、手放してたまるか」
瞬間、雷雲から一つの閃光がランボーグを貫いて浄化した。
あっという間の出来事に、一同は頭の整理が追い付けずに唖然としていた。何が起きたのか、何をしたのか。分かるのはたった一つの真実、遥か上空から膨大なエネルギーによってランボーグが浄化された事だけ。
いち早く我に返ったカバトンは、腰を抜かしてその場からすぐさま退散した。
「かなた君、今のは…?」
質問をするプリズムだが、それを無視してかなたは強く抱き締めた。
痛く、苦しい事もあって、どれ程かなたがプリズムを心配していたのかが分かる。そして───、
──えっ、震えている?
抱き締めるその腕は何かに怯える様に震えており、プリズムにしかその事は分からなかった。しかし理由は不明。今は、かなたにその身を委ねるしかなかった。
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気付けば夕方。もう、ヤーキターイをあれこれ試す為の時間が殆ど無くなってしまった。がしかし、ツバサはヤーキターイに必要な最後の材料に気付いた。
「本当は、ただヤーキターイを食べたかったんじゃなくて、父さんや母さんと一緒に食べたあの楽しい時間を過ごしたかったんだって。その事に気付けたのは、ましろさんのお陰です」
それはとても身近にあって、目に見えないもの。
ツバサは、今日皆でヤーキターイを作った時間がとても楽しいと終始思っていた。その楽しいという気持ちのまま、出来上がったものを食べてみると、家族と一緒に食べた時と同じくらい美味しかったと。
味も大切だが、それ以上のものをツバサは知り、それがヤーキターイに足りなかった最後のピースだった。
今日皆で作ったヤーキターイは、掛け替えのない、この4人でしか作れないヤーキターイ。
それを胸に、帰って歓迎会パーティーの準備に励む一同だった。
そんな嬉しくも思う気持ちと同時に、何か引っ掛かる気持ちも出来てしまった者が1人。
ましろである。
帰宅する最中、かなたの背中をずっと見ていた。自分とそう変わらない筈なのに、違和感を感じてしまう。
哀愁と言うべきなのか、それとももっと他の言葉を当てはめるものか。
ただ今まで以上に、かなたから目が離せなくなった。それは、自分がかなたへと抱いている気持ちとはベクトルが違う。放っては置けない何か。
アニメ11話はスキップします。12話の話を書く時に、11話の話題に触れはしますが…って感じです。