ゆっくり、日が差し込む林道を歩きながらソラと出逢えた事を運命的なものだと話していた。
実際そうだと思う。ヨヨがスカイランド人という事は、ましろも少しばかりその血は流れている。生まれは違うが、流れている血が引力の様に2人を引き合わせたのだろう。そう考えれると、なんとロマンチックなもの。
「そういえば、さっきからエルちゃんの機嫌が…」
外に出たら多少なりは機嫌も良くなるだろうと思っていたのだが、少し甘い考えだったみたいだ。泣いてはいないが、頬を膨らませており、良いとはあまり言い切れない表情をしている。
かなたとソラは、撫でたり小さな手を握ったりして落ち着かせようとしているが、両親の顔を見れていない事がかなり大きく、気持ちがいつまで経っても揺らいでいるまま。
少しの間だけで良いのだ。その少しの間で、3人がスカイジュエルを見つけれたらそれで済む話。
赤ん坊をあやすというのは、自分達が思っている以上難しい。
「エルちゃん、はい」
そう言いながらましろは、エルにまだ花が開いていない、綿毛があるタンポポを目の間に出してみた。
目の前で揺ら揺らと揺らし、エルがタンポポを目で追っているのを確認して、ましろは息を吹き掛けて空高く綿毛を飛ばした。
「える!える!」
かなり興味を惹かれたエルは、両手を出して掴もうとするくらい元気を取り戻した。今日見た中で、それは一番の元気な姿。
「ましろさん上手ですね」
「えっ?」
「エルちゃんのあやし方です。赤ちゃんにとって大事なのは、今何を感じているのか、分かってあげる事です」
ただ、エルを元気にさせてあげたいという気持ちで動いていたましろだったが、ソラの言う様にそれを自然にやっていた結果である。
ましろの優しさが、エルを元気にさせたと言っても過言ではない。
本人は照れ臭くしているが、それを普通にして出来るのが凄い。
「はーい、エルちゃん…う?」
かなたもそれに便乗しようとした時、またも急に不機嫌となって泣き始めてしまった。まだ何もしていない。そう両手を上げてアピールをする。
「あ、どうやらお腹が空いたんですね」
「さっき、ミルク飲まなかったから。ちょっと休憩しようか」
少し開けた場所に移動し、その場でレジャーシートを大きく広げた。エルの為に、手早くミルクを作って飲ませてあげる。
「エルちゃん、ミルクですよー」
「える」
人肌までに温めたミルクを作って早々、マグに齧り付いては大きく喉を鳴らしながらエルはミルクを頬張る。朝、ミルクを飲まなかったせいもあって食欲は結構なもの。そのまま全部飲み干してしまうのではないかの勢いから、口を離した。
「もういいの?」
「える」
マグの中には、まだもう少しだけミルクが残っている。けれど、ここまで飲んだのならそれなりの量だ。後は背中を軽く叩き、ゲップをさせて終わり。
「はい、ソラちゃんにはパンがあるよ。かなた君もどうぞ」
ミルクを飲ませ終わるのを見計らって、ましろは持参して来たパンを出した。このパンは、ましろが焼いて自作したもの。丁寧に紙にも包み、シンプルな見た目に反してよく作り込まれている。その手際の良さに、幼い頃からずっと見ていたかなたは毎回感心してしまう。
「ましろって何でも作れるから羨ましいよ。将来、良いお嫁さんになれるし、旦那さんは幸せ者だな」
「それは褒め過ぎだよー!」
照れ臭そうに頬を赤らめるましろに、ソラは見ていて微笑ましいと思った。まだ一緒に居る時間は浅いが、2人の会話のやり取りをしているだけで仲の良さが分かる。
ソラはひと口パンを食べて、その味の良さを感じた。外はふわふわの生地で包まれ、中はクリームが入っておりお店と遜色ない味を醸し出している。
味だけではない。ソラは、パンの形を見て空に掲げてましろに質問した。
「ましろさん、もしかしてこのパン雲の形ですか?」
「うん、スカイランドをイメージしてみたの。スカイランド…どういう所か分からないけど、名付けてくもパン!」
名前も決めていた事も考えると、相当気合いを入れて作った事が伺える。
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小休憩も終わり、スカイジュエル探索を再開する3人は、浅瀬のある川に辿り着いた。ヨヨがこの場所にスカイジュエルがあると言われて、此処まで目指してはいたが、さてここからどうやって探すのか。
「ヨヨ婆さんが言っていたよ。スカイジュエルを探す時には、ミラージュペンを頼りにすれば良いって」
「このペンには、そんな力もあるんですね」
ミラージュペンを手に取ると、確かに何かに反応して光っていた。これで、探知機としての役割りをしていると分かり、その光りの反応を頼りにして川沿いを歩き始める。
それからして、ある程度の時間が経ったもののスカイジュエルは見つからない。それどころか、ミラージュペンにはそれといった反応は示していなかった。
道中、巨大な岩が積まれてあったり、一番驚いたのがソラが岩を拳一つで真っ二つに割って見せたりと、改めてソラの身体能力の高さを知るくらいだった。
「見つかりませんね」
「それ以上に驚く事はあったけどね」
すると、何かに反応してミラージュペンの光りが更に強く輝いた。それを周りに向けていると、ミラージュペンを同じく川の方でも青く光る物があった。
3人は急いで光る川の方に行き、ソレを拾い上げた。そしてようやく目的のものである、それを手に入れた。
本で見たまんまの通りの青く、綺麗な宝石のスカイジュエル。
「やったー!やりました!」
「急いで帰って、通信しようか」
ソラがその場で飛び跳ねる程に喜んでいたのだが、着地をすると同時に後ろの方から大きな音が聴こえて来た。しかもかなり大きい音。まるで土砂崩れでもあったかの様に。
音に反応して後ろへと振り返ると、そこには悔しそうに四つん這いになっているカバトンが居た。
「人が折角苦労して積み上げたものを!どうしてくれるのねん…あっ!」
「貴方は…えっと、名前なんだっけなぁ…?」
「うおおい!?あれだけ間違えといて、今度は忘れるとかなんて仕打ちのねん!」
3人はテヘぺろで誤魔化して、カバトンの怒りをサラッと受け流して終わらせる。
カバトンは怒りに打ち震えているが、エルの姿を見てニヤリと笑った。
「探し物が向こうからやって来るとは、運が良い!さぁ!!」
名前すら覚えられなくなって腹立たしかったが、それを忘れるくらいエルを見つけた喜びは大きかった。カバトンの狙いは最初からエルのみ。それ以外は眼中に無いが、邪魔する者は全て片付ける。その為、ソラを狙っていたが。
欲しいものが目の前にあるなら無理矢理にでも、力づくで、どんな手段を使ってでも手に入れる。
「カモン!アンダーグ・エナジー!」
山に生えてある竹を媒体にし、禍々しいエネルギーを注入して怪物ランボーグを生み出した。
竹の体に、両手は鋭いタケノコという武器を持ち合わせている。
「2人は隠れていて下さい!」
ミラージュペンが、ステッキであるスカイミラージュへと変化した。それを手に取り、変身に必要なもう一つのアイテムであるスカイトーン スカイも手に取る。
「スカイミラージュ!トーンコネクト!」
スカイトーン スカイにあるつまみの部分をスライドさせて、スカイミラージュ装着させる。
「ひろがるチェンジ!スカイ!」
アイテムを装着後、その下にあるボタンを押して、内に秘める力を一気に解き放ち、ソラの姿を変えさせる。
サイドテールだった髪は自分の身長と大差変わりない程にまでツインテールとして伸び、髪色も水色、毛先はピンク色に色変わりする。
「きらめきHOP!」
足からヒールへ、頭部には羽を模した可愛い髪飾り、耳にはオシャレなピアス。
「さわやかSTEP!」
服装は青と白を基調としたワンピースドレスになり、一気に見た目が変わる。
「はればれJUMP!」
両手を軽く手合わせすると、ハートマーク付きのフィンガーレスグローブが身に着けられる。左肩に手を当て、大きく撫で上げるとマントが着飾られる。
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!」
最後に決めポーズと、変身した自分の名を名乗り変身を完了させる。
ランボーグの相手はスカイに任せて、2人はエルを連れて岩陰に隠れる事にする。
客観的に見て、スカイの身体能力は変身前と掛け合わせって超人を超えた存在となっている。
今回もまた、容易く火の粉を振り払い、ランボーグを倒してくれるだろうと思っていた。
「今回、かなり苦戦しているみたいだね」
「えるぅ…」
「大丈夫、今回もキュアスカイが守ってくれるよ」
かなたの言う様に、今日のランボーグに悪戦苦闘をしている。
ランボーグは両手を地面に突き刺す事で、そこからスカイに向かって生え襲って来る竹を避けるので精一杯。防御一辺倒。近付く事すら困難な状態。
──
何とかしたいと思うかなた。けれど、ましろ達が居るこの目の前で変身してしまえば、自分の正体を知られてしまう。それを恐れて、おいそれと変身出来ず、歯軋りする。
──だけどそれで良いのか?
頭を抱えて悩むかなたの脳裏に、ノイズ混じりの記憶の映像が再生される。その映像の中には2人のある人物が映っている。
その人達をかなたは知っている。誰よりも知っている。今も、昔からずっと知っている。大切で、大好きで、憧れで、尊敬する人達。
かなたにとってその人達は────、
──もしあの人達が居れば、こんな悩みも顧みず前に出るに違いない。だって、あの人達も"ヒーロー"だから。
かなたは立ち上がり、この場から離れようとする。しかし、それをましろに呼び止められてしまった。
「待ってかなた君、何処に行くの?」
「…大丈夫、キュアスカイは何とかなるから」
ましろに小さく笑い掛けて、林の中へとかなたは飛び込んで行く。ましろは、その後を追い掛けて行きたいが、今エルを抱えたまた動いてしまったら、それこそスカイに迷惑が掛かる。
そしてかなたはというと、木陰に隠れながら首に下げているペンダントを取り出して握る。
大きく、そして小さく深呼吸して想いを込める。
「あの人の口癖……ヒーローの────!」
かなたの周りに荒れ狂う暴風が巻き起こり、それは次第に優しく身を包み込ませて、緑色の戦闘服に変わる。キュアスカイとは反対にマントを羽織り、首元には少しでも素顔を隠せる様にスカーフを着用しており、体全体に金色のラインが描かれている。
変身を完了した彼は、その場から一瞬で姿を消した。
次に現した場所は、ランボーグの背後。蹴り飛ばし、川の向こう岸まで一撃で吹っ飛ばした。
突如として現した事に、スカイとましろは何が何だか分からないと言った表情をしていた。
「貴方は先日の!」
「ましろは任せろ。キュアスカイは一気に決めるんだ!」
「は、はい!」
マントを翻し、そしてそのマントを靡かせながら川の水の上を走り、ランボーグへと向かって拳を振り抜く。
「ヒーローガールスカイパンチ!」
浄化の力が込められたスカイの拳が、ランボーグに突き刺さり、邪悪なエネルギーを浄化する。
ランボーグは元の竹の形になり、エルを襲う者は消え去った。残ったとすればカバトンだけになるが、
「まただ!グゥ、覚えていろ!」
プリキュア以外による第三者の介入に怒りながら、その場から退散して行った。これで脅威は何もなくなった。
彼もその場から立ち退こうとするが、それをましろが手首を掴んで止めた。
「質問良いですか?」
「ダメだ。質問には答えない」
「でも今質問に答えてくれました。『質問良いですか?』の質問に」
思わず彼は笑った。その屁理屈とも言えるその質問をしたましろに、彼は笑った。
やっぱり彼女は、ましろは見た目通りの賢い子。そんな事を言われたら答えざる得ない。
彼はそう言う人間で、ましろに対してはそう在る人間なのだ。
「──何で私の名前を知っているのですか?名前を教えた記憶が無いので」
こういう事があるから、あまり前に出たくなかったのだ。彼の正体は知られてはならない。絶対ではないな、今は知られてはいけない。
思わず名前を言ってしまったのなら仕方ない。が、誤魔化さなければならない。
「風の噂だ」
「嘘ですよね?」
「えぇ、そうなんですか!?」
適当に誤魔化したつもりだったが、一瞬でましろに見破られた。スカイは信じていたらしく、嘘という事に驚いていた。
彼は押し黙ってしまう。「どうしよう」「困ったなぁ」という色が伺える。だからこう言うしかなかった。
「お、俺の名前を教えるから見逃してくれないか?」
何とも情けない。自分が恥ずかしい。正体を隠しているのに、何で自分からバラさなきゃいけないのか。本当に情けない。
だけど、だけどそのまま教える訳にはいかない。
「名前は──ヘヴン」
ヘヴン、そう彼は名乗った。ヘヴンは、英語で空という意味。キュアスカイとは同じ意味の名を持つ者。
狙って名乗ったのか、偶々偶然なのかは彼もといヘヴンにしか分からない。
「ヘヴンさん!ありがとうございました!」
「キュアスカイ、君は素直だね」
「…」
名前を教えたのに、ましろからの視線からは逃げれないでいる。スカイは名前も知り、ちゃんと助けてもらったお礼を言えて満足の様子。
ちょっとあまり居た堪れなくなったヘヴン、逃げる様にその場から退いて行くが、またもましろに捕まってしまった。
今度は何を訊かれるのか構えていると、
「──次はちゃんと答えて下さいね」
耳元でぼそりを呟いたその後、ようやくヘヴンは解放された。
その後ヘヴンは変身を解き、空園かなたとしてソラとましろ達と合流するのであった。
////////
「お願いしますヨヨさん!」
虹ヶ丘家に帰って、今すぐにでも通信させたいが為にソラはヨヨに詰め寄って手に入れたスカイジュエルを手渡した。
ヨヨも苦笑いしながら受け取り、ミラーパッドに向けてスカイジュエルを翳す。
スカイジュエルから綺麗なエネルギーが流れて、それをミラーパッドが受け取りエネルギーを充填する。
これで繋がる筈とヨヨは言い、ミラーパッドをエルに向ける。4人はじっとミラーパッドの鏡を見ていると、鏡に男性と女性の姿が映り込んだ。
「こんにちはー!」
「ちゃんと通じてるのかな?」
ビデオ通話みたく、相手の顔が確認出来て声もちゃんと届いている。手を振って確認していると、突然相手からの言葉に驚きを隠せなかった。
『プリンセス・エル!』
「プリンセス!?」
「エル!?」
相手からの言葉「プリンセス」という単語を聞いて、初めてエルがスカイランドのお姫様という事を初めて知った。スカイランド出身のソラも、エルがプリンセスという事は知らなかったらしい。
それと同時に、エルの名前も判明した。判明したと言うよりは、
「私が付けた名前、合ってました!」
「ねー、流石ソラだね」
「2人共そこじゃないよ!」
3人が漫才している間に、エルはようやく顔を合わせた両親に手を伸ばして涙を流していた。相手のご両親も、涙ながらエルの無事に喜んでいた。
「エルちゃん、パパとママの顔を見てちょっとでも安心出来たかな?」
「える!えるぅ!」
ましろの返事にエルは元気良く応えてくれた。少し前まで暗く、寂しい表情は何処にも無く、あるのは喜びに満ちた満面の笑顔だけ。
「王様、王妃様。そちらの世界に戻る手立てが整うまで、プリンセスをお預かり致します」
『貴女は!』
『スカイランドのハイパースゴスギレジェンド名誉博学者のヨヨ殿!』
「う、んん??今何と?何かもう大渋滞起こして起こしているのは、俺の頭の中だけかな?」
ヨヨが会話に入って来た事で、とんでもなく情報量が増えた事に2人に目で語り掛けると「うん、まあ…」みたいな同情はしてくれた。
そうこうしている間に、ミラーパッドに映る映像に、乱れが生じ始めた。音声も途切れ始めて聞き取り難くなっている。
『そろそろ通信が切れそうです。皆さん、プリンセス・エルのこと』
『宜しく頼みます』
それを最後に限界を迎えて、通信が完全に途切れてしまった。
だが、エルちゃんを元気付けるという事に関しては上手く行った。今日もまた、ヒーローとしての役目を終えた。