ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

10 / 76
またグダグダで長くなってしまったので中編になりました。


9.怪我をした後のほうが全体的にパフォーマンスがあがることだってあるかもしれない。(中編

 

「感心!理事長室にジャージに短パン姿で入ってくるとは、仕事熱心で宜しい!」

 

 理事長には褒められたけど、ここに来るまでに他の職員にはめっさ睨まれたけどな、理事長室入った瞬間に駿川さんから現在進行系で笑顔でガン飛ばされてるけどそれでもスタンスはぶれることはない、短パンの下はラッシュガードは着用しているのだ露出は少ない。

 

 流としては仕事の話をするのに仕事着で来て何が悪いという感覚なのだが、理事長を除く背広組からすれば、ウマ娘の事を何も知らない、ぽっと出のコネ入社野郎が何やってるんだと思うのはあたりまえだ。

 

 

 直接文句を言ってこない連中の事はどうでも良いし、これだけ理事長の権限が強い職場で働いている奴らが今更何言ってんだ?で終わることだ。

 

流は理事長に鍵の件について交渉したら、すぐに工事に取り掛かると言ってくれた。

 

 

 それと数日は休暇を取っていいと言われたが外出の時間があればいいとそれは断った。

 

 

 それだったら、カフェテリアにコンピュータ制御式のジェットロースターを置いてほしいと言ったら本当に置きかねないのでまだ止めて置いたほうが良さそうだ。

 

「私としては休暇よりも、あのマシンを使うための、カフェテリアの使用許可を頂けたらと思っているのですが。」

 

「そういう約束だったな、承知!次の休日はイベントの予定がなかったはず、そこを使うといい、あと鍵の件は盲点だった、感謝!」

 

そこは仕方ないが一つ疑問も浮かぶ。

 

「私がここにフィジカルトレーナー兼管理人として就く前はそう言う話はなかったんですか?」

 

「無かったわけでは無いが、古株のチームを運営するトレーナー達、殆どの名門トレーナー一族から反発を受けた、只最近当主が変わった桐生院だけは反対しなかった。」

 

ああ、やっぱりそういうもんだよなあ、一流どころからしてみれば飯の種をバラされたらたまらんし、こういう技法は自分達だけの秘密にしておきたいという気持ちは流にも理解できる。

 

反対しない奴もそりゃいるか、考え方が違うのか、当主が若いのか

 

 

「そこで、動いたのが現生徒会長シンボリルドルフだった。すべてのウマ娘の幸福を第一とする彼女は、担当がまだ居ないウマ娘達にも専門的なフィジカルトレーニングやケアの方法を教えられる、指導者の必要性を学園に訴えてきた、そこで学園が人選を行うという条件で認可されて君が選ばれたわけだ。」

 

 

成る程、生徒会というか生徒会長は直接採用に関わっているわけではない、関わっていたのなら、文句の一つでも言ってやろうと考えていたがあてが外れた。

 

 

「私が言うのもなんですけど、学園側の人選間違ってませんか?私は22になったばかりの若造も良いところですよ?」

 

 

「人選の条件でスポーツ関係の有資格者かつ、競技で実績を出している年齢的に若い人材となると限られてくる。そこで君の伯父が君を推薦してきたので、徹底的に調べ上げて問題ないと判断し、即採用とした。」

 

 

「とはいえ、私はレースにもウマ娘にも知識も興味も無いんですけどね。」

 

「視点!私は先の条件に加えて、レースやウマ娘の知識を持っていない人物の視点が必要だと考えた。ウマ娘の為に。」

 

 

「そもそも、私が仕事をしないとは考えなかったのですか?」

 

「信頼!先程も言ったが君のことは大体把握している、面倒見のよさも業務記録で確認済み、よって問題なし!」

 

 

評価が悪くないのは光栄だが、理事長室にジャージで来るような奴を信頼するのはどうかと思うが。

 

 

「仕事ですから、話は代わりますがカフェテリアのマシンのテストですが、生徒会室にも話を通して良いでしょうか?」

 

 

「許可!しかし、それだと君が大変ではないのか?」

 

 

「宣伝しても来るのは精々学園生全体のの1〜2割位でしょうからやサンレモのマシンのフル稼働と他のマシンを使えば十分に捌けます、粒度と抽出速度さえ守ればなんとかなりますし」

 

 

「そ、そうか、捌けるなら良いが。」

 

 

そこへ駿川さんが笑顔で。

 

「そういう時まで、仕事着と言ってジャージで現れたりしませんよね?」

 

何いってんだこの人?

 

「当たり前じゃないですか、バリスタ用の正装はちゃんと用意していますから、ジャージ姿でコーヒーを淹れるなんて、そんな見苦しい真似はできませんよ。」

 

駿川さんが、笑顔で拳を握りしめている。

 

「んじゃ、生徒会室に行ってきますね。」

 

流は逃げるように理事長室を後にした。

 

校舎内を歩きながら、生徒会室へ向かっていく、ウマ娘ばかり廊下のジャージ姿の男が校内を歩いているのは軽く違和感はあるだろうが気にされることはなかった。

 

生徒会室に着いたのでそのまま、ノックして

 

「どうぞ、入ってくれ。」

 

「失礼します。」

 

 入室OKの合図が出たのでそのままドアを開け一礼すると、デッカイ執務机で書類に目を通しているウマ娘が居た。

 

 シンボリルドルフ、学園最強格のウマ娘の一人で生徒会長、凛々しく堂々とした見た目で獅子を思わせる風格、その顔には何処となくだが年相応の少女の部分も残っている。

 

 

「済まないね、もう少しで切りの良い所なんだ、もう少しだけ待ってもらえないだろうか?」

 

 

此方を一瞥することも無くただただ、書類に目を通している。

 

 いきなり押しかけたのは、流の方なので寧ろ邪魔をしてしまったように感じた。

 

「ええ、お気になさらず、突然押し掛けてきたのは此方ですから。」

 

「ふむ、ではお言葉に甘えさせてもらうよ。」

 

口調こそ硬いが威圧感は感じなかった。

 

10分程その場で待っていると、仕事を切り上げたシンボリルドルフが話しかけてきた。

 

「待たせて済まない、君は確か最近入ったジムの管理人を任されている、蒼真さんだったかな?」

 

「ええ、蒼真です。お忙しい所に連絡も無くお邪魔してしまって申し訳ありません。」

 

「いいんだ、急な要件を聞くのも生徒会の仕事だからね。しかしながら、生徒会室にそのような格好で来るのはか礼節に欠けるのではないかい?」

 

 シンボリルドルフは表情こそ無礼を嗜めるようにしているが、ユキノビジンで学んだウマ娘特有の怒りのサインは見られなかった。

 

 

試しているのだろうか?流は堂々と答えた。

 

 

「これは仕事着ですから、職務に誇りを持ってなきゃこれを着てきませんよ、礼節は服装では無く行動で示すべきでは?」

 

シンボリルドルフは流の真剣な答えに納得したようだった。

 

「理事長から事前に連絡を受けていたが、君は多少変わり者のようだが本当に仕事熱心なようだ、試すような真似をしてすまない。」

 

 

「ぶっちゃけるとこっちに来るのに、一々スーツに着替えるのが面倒くさかっただけです。」

 

シンボリルドルフは一瞬固まったが、すぐに笑い出した。

 

「唖然失笑…経歴を見た限り堅物だと思っていたが君はなかなかに面白いな。」

 

 

「笑っていただけたようで何よりです、堅物と言うよりは、単なるへそ曲がりですよ私は。」

 

 

「済まないね、本来なら私の方がジムに出向くのが筋なのだろうが、生徒会の仕事が中々に立て込んでいてね。」

 

 

「いえ、学業に加え生徒会の事もされているのですから、そちらを優先させてください、それに私は個人的なお願いがあって。」

 

「そう言ってくれるなら、有り難い。お願いを聞く前に一つ気になっている事があってね、君は、今辛くないか?」

 

 

シンボリルドルフは何か心配するような表情を流に向けてきた。

 

 

「辛いって何がですか?」

 

「これは私だけが理事長から聞いている事なんだが、君はウマ娘に対して忌避感をもっていると聞いている、それでも此処で彼女たちの為に働く事を選んでくれたとも。」

 

すげえな、自分たちに忌避感を抱いていると聞かされた相手を気遣えるか?普通無理だと流は感心した

 

 

「仕事ですから。別にウマ娘の事を嫌っているわけではなくて、個人的に色々あってコンプレックスに近いものを抱えてしまっただけです。」

 

 

「コンプレックス?というと」

 

 

「私は元々、レースやウイニングライブにはそれほど、興味がない人間でしたから、その上で幼い頃からキックボクシングにのめり込んでいて、小学生の時は接点はなかったのですが、中学生になったあたりから、同級生にクラブで期待されたウマ娘が入学して来たこともあって、学校でもトウィンクルレースの話題が中心になって、特に興味のなかった私は、浮いてしまい一匹狼の扱いを受けてしまいずっと一人でした。」

 

 

シンボリルドルフはただ頷いていた。

 

 

「流行に乗れない奴は排除される、この辺の事はよくある事ですが、私はキックボクシング一本で練習して週末は試合の生活をしていたのですが、いくら試合で勝ってトーナメントで優勝したりタイトルを獲っても、皆同級生のウマ娘のクラブのレースの勝利に埋もれてしまうし、学校のガラの悪いやつからは、お前どうやっても【ウマ娘に勝てないの解ってんのに何目指してんの?】って言われたり絡まれたりして、最終的に暴力沙汰起こしちゃいまして、不登校になって…。」

 

流は溜息をついてから

 

「気に入らなかったんですよ。何となくでウマ娘に夢を見てそこで思考停止して何もせず、真面目に夢に向かって努力する奴をバカにする奴らが、彼女たちは全く悪くないのですが、その辺りですね何となく避けるようになったのは。」

 

 

シンボリルドルフはどことなく悲しそうだった。

 

 

「不登校に関しては、実家の喫茶店にクラス委員やってた件のウマ娘が何度も来るのですから、根負けして学校には行かざるを得なくなってかなり大変でした。」

 

微妙な表情のままのシンボリルドルフを前に流は続けた。

 

「最初の何回かは、店の迷惑になると普通に帰っていったみたいですが、そのうち自分の金で珈琲を註文して居座るようになって、お高い純喫茶は珈琲一杯でも中学生の懐事情では相当にキツイのは解っていますから、私の家族も彼女の味方になり、姉と妹が私の保管していた高級生豆の瓶を彼女に渡したので、返してほしければ学校に来いという条件で行くことになりました。」

 

「それは、災難というか、なんと言うか大変だったね。」

 

「この話はまだ続きがあって、今度は彼女が企画し、プロデュースした学園祭のウマ娘のコスプレをしてのライブに参加させられ、各クラスのアイドル女子や何名か居たウマ娘を差し置いて、何故か女装させられ、ウマ娘のコスプレした私がセンターでうまぴょい伝説を踊る事になったり、生豆は返してもらったんですけど、ライブの写真をばら撒かれたくなかったら、これからも学校に来いとか言われて、普通にコスプレ女装写真をばら撒かれるなら、まだ耐えられるのですが、センターの【きょうの勝利の女神はあたしだけにチュゥする】のシーンの所を周りにばらまくと脅迫されたら、従うしかありませんでした。」

 

シンボリルドルフは突然出てきた何処から突っ込んでいいかわからない話にドン引きしながらも早口で愚痴りまくっている流の話を聞いていた。

 

「コレが中学卒業まで続いたんですよ、彼女は中学卒業と同時に中央トレセン学園に入学してそっからは関わりは無かったので、その後の事は良くは知らないです。」

 

 

「君はいつ頃から府中に?」

 

「私も中学卒業と同時にこっちに上京していますよ、両親からキックのプロ選手として活動させてもらう条件が学園近くの伯父のジムに所属しろって事でしたので、高校も学園とは真逆の場所を選んでいたので学園の方に行くことはあまりなかったのですが、高校時代が一番きつかったです。」

 

 

「きつかったというと?」

 

 

「16でプロデビューしてどんなに努力して戦って顔面を血に染めて結果を出しても世間の話題はウマ娘、ウマ娘でしたからね男子校だからなおさら、私のように幼い頃にキックボクシングって自らの夢を見つけてターフやウマ娘に夢を見る事が無かった人間としては、肩身が狭いというか、メジャースポーツの影に隠れるマイナースポーツの宿命なんですけど、周りから注目もされず、スポーツを解っていない奴らから、無意味に煽り続けられるのは、辛いもんがありました、こいつらは夢を蝕む存在だってウマ娘を憎みかけるぐらいには。」

 

 

 シンボリルドルフは流の言っていることはわからなくもないが、納得行くような話ではない。ただウマ娘という存在が結果的に彼の心に影を落としてしまった事は何とも言えない気分にはなった。

 

 

「其れも過去の話で、私はウマ娘を憎んだり嫌ったりしているわけではないですから、苦手意識はまだありますが。」

 

やっべえ愚痴りすぎて気まずいどころの話じゃない、会長が聞くことに集中していたからちょっと話しすぎたと、流は反省した。

 

「生徒会室に来たのは、頼み事があったからで愚痴りに来たようになってしまい申し訳ありません、貴女が聞き上手ですからつい話しすぎてしまいました。」

 

「こちらこそ変なことを聞いてしまって済まなかった。頼み事というのは?」

 

「理事長からは学園にあるカフェテリアに置いてあるエスプレッソマシンを用いたイベントを企画しているので、生徒会にもお話しておこうかと。」

 

「イベントに関しては別にかまわないが、イベントを開くのか君が?」

 

「エスプレッソを淹れるのだけは得意なので、というか私の趣味とストレス解消を兼ねてマシンいじりをしつつも、エスプレッソやラテを楽しんでもらって少しでもウマ娘と親睦を深められたらと思ってですね、いつまでも変に関わりを避けようとするのも良くないですし、何かを変えたいと思ったなら、まず自分自身が変わらないといけませんから。」

 

なんというか一部不順な動機だが、生徒会長としてウマ娘に歩み寄ろうと言うなら協力したいとシンボリルドルフは少し考えた。

 

「それだったら、イベントとして単独で行うよりも、どこかのフェアに合わせて間借りする形で行った方がいいんじゃないかい?近いうちというかファン感謝祭の前日に学生だけのケーキ、スイーツビュッフェのイベントもあるからそこが良いとのでは思う。」

 

その視点は流からも抜けていた、父親のコーヒーを中心とした環境という感覚がまだ抜けていないと思ってしまう、コーヒーはあくまで楽しい時間を過ごすための物であって中心ではない。

 

 

「なるほど、それでしたらスイーツに合わせた淹れ方やアレンジドリンクを作りやすくなりますので、色々楽しんでもらえますね、やはり聞いてみるのは正解でした。」

 

 

「そう言ってもらえるとこちらとしても嬉しい、美味しいエスプレッソを楽しみにしているよ。」

 

 

流はシンボリルドルフに一礼してから生徒会室を後にした。

 

 

 

 校舎から出てジムに戻る途中、練習用の芝のコースの方を通りかかると、ぐぐもった悲鳴が聞こえたので急いでコースへ走っていくと、そこには運動靴を血で真っ赤に染めたウマ娘が蹲っていた。

 

自主練だったのか近くにトレーナーらしき人物は見当たらない。

 

本当なら靴を脱がせて確認したいところだが、足の骨折の可能性もあるので負傷部分の保護を考えると脱がせられない、近くに居た別のウマ娘に声をかけ医務室へと運んでもらった。

 




推敲していると、時折矛盾が出来たりするので、それに合わせて前の話も時々編集して加筆修正したりしています。

色々拙いですが頑張って完結できるように頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。