ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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トレーニング回の前半部です、カオスな出来になりました。


12.何でもかんでも経費で落とそうとするのは、トレセン学園に監査が入っちゃうからやめようね!

谷口トレーナーにフィジカルトレーニングとケアのプランを送って2日後。

 

谷口トレーナーもプランを受け入れてくれて、トーセンジョーダンの腫れも少し引いて放課後の練習に合わせて最初のケアとフィジカルトレーニングを始める日の朝に流は理事長室に呼び出されていた。

 

 一昨日ノリで頼んだ焙煎機2セットと空冷機と換気扇とタブレット一式とホットサンドメーカー締めて70万円相当を経費として他の領収書に混ざったまま経理に上げてしまったのがまずかったか、なくしたと思った領収書がこんな所で…まあそのまま経費で落ちてくれれば、儲けもんだったが。

 

 駿川さんは笑顔で領収証を握りしめて、洒落にならない殺気をこっちに向けていて、理事長はいつもの笑顔だった。で、なぜかシンボリルドルフ生徒会長もいた、シンボリルドルフはたづなさんの殺気に気圧されつつもそれを表に出さないことに努めていた。

 

「蒼真さん、今のあなたの住居はトレセン学園内ですから、通信販売で私的に購入された物品の届け先をトレセン学園宛にするのは別に構いませんが、それを他の物品と混ぜて経費として経理に上げるというのは、どういうつもりでしょうか?」

 

「生活の知恵です、節約は大事でしょう?」

 

「私的に購入した物品を経費で落とせるとお思いですか?」

 

「そこは経費へのチャレンジ精神というか度胸試しと言うか。」

 

 駿川さんの表情は笑顔だが怒気が凄い勢いで放たれているのを察して、流はたづなチャレンジを止めた、あんまり仕事増やすのは良くないので正直な事情を話してみる。

 

「と言うか、なくしたと思っていたのですがジムの道具関係の領収書や請求書纏めてた時に、そちらに混ざってしまったようで気づかずに提出していたみたいです、それはそれとして経費で落ちるなら儲けもんだとは思いますけど。」

 

 駿川さんがため息をつきながら

 

「なぜそういう事を先に行ってくれないんですか?」

 

「呼び出された直後に殺気出しながら、領収書握りしめてたじゃないですか。」

 

「そんな事ないですよ?」

 

前回のジャージのことを根に持ってんなあこりゃあと思いながら領収書の返却を求める。

 

「領収書を返して頂いても宜しいですか?」

 

「次から気をつけてくださいね。」

 

「ああ、どうも」

 

 流は領収書を受け取ると、そのままポケットにしまい込んだ。

 

「あと一つ、お聞きしたい事があります。」

 

部屋を出ようとする流を駿川さんが呼び止めた。

 

「なぜ、トーセンジョーダンさんの皐月賞出走について助力を?怪我の発見者であり、安全管理上、貴方は止める立場だと思いますが。」

 

 (なるほどこっちが本題か、会長さんが居るわけだ…)

 

「そりゃ、指導者の立場なら色々上手いこと言って止めるでしょう、競技者としては止められなかった。そして皐月賞に間に合わせる為のプランが俺にも谷口さんにもあった。それだけの話です。」

 

 何を言われてもこれに関しては引く気はなかった。

 

「我々の方でまだ抑えていますが、現在URA上層部から学園に対し、トーセンジョーダンさんの皐月賞出走を取りやめるように要請が来ています。」

 

怪我の件か・・・医務室の方で怪我の報告がURAまで

話が行ったと言うことか面倒くせえな。

 

「爪と言っても、細菌による感染症や痛みをかばってほかを怪我したり最悪レース中での転倒の危険がある、彼女の将来を考えれば、申し訳ないが生徒会としても今回の出走は許可できない。」

 

 学園もシンボリルドルフも苦しい決断をしたのだろうが納得いかない。

 

「彼女の将来と言ってるが結局は何か起こった時の責任から逃れたい、あんたら学園と生徒会、URAのお偉方の保身の問題だろ。」

 

珍しく言葉が荒くなった。

 

「そんなことはない、慎重に協議した結果なんだ。」

 

「トーセンジョーダンはやめるって言ったんだぞ!皐月賞を走れないならレースを引退すると!そこは知っているなあんたら?」

 

 

「それについては私が責任を持ってちゃんと説得するつもりだ。」

 

 

「皐月賞で走るって夢を諦めろと?勝利したあんたが?」

 

 

元々ファイターであり鋭い顔立ちの流の表情に周りが気圧される。

 

 

「誰にでも夢に向かって前に進む権利がある、自ら戦って欲しいものを得ようとする権利がある!ここにいる誰にも奪う権利はねえ!」

 

「俺達の仕事は大人の事情を押し付けて夢を諦めさせるのではなく、彼女が夢を諦めないのならその心意気を尊重し、励まして背中を押し、彼女が無事にレースを終える事ができるようにギリギリまで全力で支援することだろうが!」

 

 シンボリルドルフも駿川さんも理事長も普段から表情を変えることのなかった流の見せた怒りの顔に圧されたのかにただ黙って聞いていた。

 

「取り乱して申し訳ない。あんたらの仕事も判断も間違っちゃいない。だが、皐月賞まではまだ時間があるんだ、学園の掲げる理想が総てのウマ娘たちの幸せだってんなら、そんなに簡単に夢を奪わないでやってくれ。」

 

 

 理事長室を出ようとした所、後ろから声をかけられた。

 

 

「何割だ?彼女の爪が出走可能にまで治る確率は。」

 

 

「正直に言えば谷口トレーナーが提案したプランで6割、私が協力して精度を高めて7割5分というところでしょうか、それでも最終的にはお医者さんの判断にはなると思います。」

 

シンボリルドルフの問に8~9割と言えないのが辛いところだ。

 

「了承!もう一度検討しURAと再交渉する!」

 

理事長が扇子を奮った。

 

「希望的観測を含めた確率なら、許可するつもりは無かったが君は正直に言ってくれた。」

 

「そりゃあ正直に言わないと、命に関わりますから、この件本人たちに伝えてんですか?」

 

そこはシンボリルドルフが答えた。

 

「まだ彼女たちに伝えてはいない、一応ではあるが学園職員の君に先に伝えて意見を聞くことにした。」

 

 伝えなくてよかったな、本当に・・・伝えたら恨みを買うどころじゃ済まなかったと思う。

 

「今のところはまだ不確定ですからね、ギリギリまで調整してそこで医者とトレーナーの判断でないと、将来の為とか言って今、挑戦する機会まで奪っちまうのは違うでしょう。」

 

「確かに、ある程度の抗議はあると思ったが、君がここまで噛みつくとは思っていなかったよ、何方かと言えば君は中立的な立場だと思っていたが」

 

 シンボリルドルフは少し嬉しそうというか、おそらく出走取消には反対していて学生という立場では政治的に大人の事情には勝てなかったか。

 

「そりゃ畑は違えど競技選手として15年近くやっていましたし、今も引退していませんから、それなりに思うことはあるんですよ。」

 

 「選手歴15年というと、相当長くやっているわりにかなり若く見えるが・・・不躾だが君の年はいくつになるのかな?」

 

 「今22歳で、6月の終わりに23歳になります。」

 

シンボリルドルフは、えっ?て顔をしている、思ったより老けていると思ったのだろうかと考えると流は少しションボリした

 

「いや失礼、正直にいってここまで若いとは思わなかった、選手をやりながらその上で複数の資格取得とは見上げたものだよ。」

 

「買いかぶり過ぎです、学業を疎かにし、趣味に全振りし続けた結果ですよ、学生として学業も練習もレースも疎かにすることことがない、あなた方の方が凄いですよ、その上で貴女は生徒会長としての業務までこなしているんですから。」

 

 格闘技の練習と試合、それに伴う知識としてのスポーツトレーナーの資格やバリスタの資格などは結局趣味の延長でしか無い。

 

「そちらこそ買いかぶり過ぎだよ、私は私で義務を果たそうとしているだけだよ。」

 

「総てのウマ娘の幸せのためですか・・・では私がカフェテリアでのイベントで使うために用意したコレも生徒会の予算から必要経費として落ちないでしょうか?」

 

 そう言うと流はポケットから領収書を取り出し、シンボリルドルフに手渡そうとした。

 

「蒼真君、先ほど学園内の経費で計上しようとして断られたばかりだろう、それ以前に生徒会費の私的流用以前の問題だ。」

 

「ジョークですよ、カフェテリアの件にしたって私の趣味とストレス解消ですから、実際金には困っていませんので普通に払います。」

 

 表情が無表情の状態から全くブレないためシンボリルドルフとしてはどうしたものかとは思ったが、冗談として受け止める事にした。

 

「理解った。今回は冗談として受け止める事にするが、あまり生徒会や学園を無礼るような事はしないで欲しい。」

 

そこに理事長が割って入ってきた。

 

「監査!無理に経費で落とそうとすると学園に国税局が監査に来るので私のポケットマネーから出そう!」

 

 そのまま理事長が分厚い財布から現金を取り出し手渡そうとしてくるので返そうとするが、思いの外力が強い。

 

「流石に現生は受け取れませんって、ちゃんと自腹を切る分の金はありますから!」

 

「いいや、これは君の想いに賛同したからこそ、心ばかりの寸志だ。遠慮なく受け取って欲しい。」

 

駿川さんもシンボリルドルフもこちらを見ようとしない。

 

「良いんじゃないですか?経費で落とされるよりは悪い事ではありませんし。」

 

「我々が見なかったことにすれば何も問題はない。」

 

誰一人味方が居ない状況で、理事長に押し切られて流は現金を受け取ることになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 午後におけるジムの掃除と機材整備、マシン使用の予約のチェック、業務におけるメールのチェックに入ると学園から、仕事の依頼が入っていた。

 

 時々でいいから自重トレーニングやストレッチ関係の講習をやって欲しいときていた、一応管理業務だけなら暇だから受けても問題はない。

 

 運動生理学や解剖生理学も多少は覚えているが教えられるレベルで覚えている訳はないので、後でやり直すか。

 

 しかもウマ娘相手だと、結構違ってくるからなあ、そこに関しては図書館へ行くか。

 

 そんなこんなでスマホにLANEのメッセージが届いた。

谷口トレーナー経由でトーセンジョーダンからだった。

 

【データを取りたいなら何人か一緒に連れてきていい?】みたいな内容だった。

 

そりゃあ、一人のデータより複数のデータを取るほうが都合もいいし、一度に何人も見るのは経験があるのでやれない事はない。

 

【OK】とだけ返しておいた。

 

 時計を見るとそろそろ昼飯を用意しようと、一旦ジムを出て、購買と近々イベントを行う予定のカフェテリアに向かう途中だった。

 

 長身で銀髪ストレートにヘッドホンらしきものを着けたウマ娘が、にこやかに話しかけてきた。

「おーい!アンタジムの管理人だろ?」

 

「ええ、私ですが。」

 

「おう、そうかー…構えな。」

 

 その初撃は早撃ち専門のガンマンの様だった、銀髪のウマ娘は予備動作も無く右の縦拳を打ち放ってきた。

 

左足を引き、半身になることで拳一つ空いた位置で距離を外す、次いで放たれた強烈なストレートは左足に体重を預けてのスウェーバックで避けた。

 

 3発目は左を引く勢いでの前手の右フックと思いきや、右フックはブラフでダブルでの左ストレートだった。

 

これは右に身体を倒すことで避けられた。

 

4発目は本当に予想外で、左を戻す反動で、左後ろ回し蹴りを頭めがけて放ってきた。

 

 無理やり首をひねってヘッドスリップ気味に重心をずらし、倒れ込んでから転がるようにして距離を取った。銀髪のウマ娘は右足と右拳を突き出した構えに戻っている。

 

約5秒の攻防は流が手を出さず回避に徹しただけで終わった。

 

「やるなアンタ!アタシのゴルゴル式截拳道の打撃技を人間で4発も避けられた奴はオメーが初めてだぜ!」

 

いや一般の人間に今の打ち込んだら死人が出るだろと言いたかったがソコは抑えた。

 

「踏み込みやタイミングとかフォーム、スピードから推測して、私に当てる気は無いと判断できたので、避けることが出来ただけです。」

 

銀髪のウマ娘はムスッとした顔で。

 

「なんだよ、そこまで読んでんのかよ、つまんねーな。」

こちとらそれでも命懸けだけどな。

 

「んで話変わるけどさーアンタ、ジョーダンの皐月賞云々に関わってんだって?あ、どこで知ったとかつまんねー質問は無しな?」

 

「情報なんて、どこからでも漏れますからね、学園でそういう事があっても驚く事ではないですよ、彼女が諦めず出走出来る可能性があるなら、私はサポートするだけですよ。」

 

 銀髪のウマ娘の雰囲気が先程とは別人のようにガラリと変わった。

 

「ジョーダンが走ることを諦めてないんなら、アタシはあいつの夢を応援する。もしそのせいでジョーダンに何かあったら、お前のこと許さねえからな。」

 

バチバチに殺気のこもった、ガチガチのドスの聞いた声で言ってきた。

 

「友人思いですね、わかりました。肝に銘じておきます。」

 

銀髪のウマ娘の殺気が消えた。

 

「なんだよー少しはビビれよ。さっきの事はジョーダンには内緒な、後襲撃した詫びに今度ゴルシちゃん特製焼きそばを差し入れてやるぜ!んじゃまたなー」

 

ゴルシちゃん?と名乗ったウマ娘はそのまま走り去って行った。

 

 派手に転がったせいで、服が汚れたので新しい服に着替えにジムに戻った、衛生面考えたらそのまま購買とかいけないし、悪目立ちしてしまう。

 

 洗濯や着替えで結局昼飯には間に合わず、いつもどおり買い貯めたパック飯と鯖缶、納豆と生卵の野菜ジュースになったのだった。

 




前半として、書きたい部分と思いつきが重なり長くなりました。
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