ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
放課後のジムの業務前に、流は自分のタブレットPC に方眼紙のようなマス目の入った四角い板状の機械をつなげていた。
これは、足裏の状態を調べるための測定器でトーセンジョーダンの足が地面とどのように接しているかを調べるために用意しておいたものだ。
親指の爪の割れ具合からすると、足の裏が親指以外が浮いている状態になっている可能性がある。
足の裏の状態をチェックしてからどのように歩いているかがわかれば、爪に対しても対策が立てやすい
道具を用意しているうちに谷口トレーナーとトーセンジョーダン御一行が来た。
御一行と言ったのはLANEでの連絡があったとおり、複数名の友人を連れてきていた。
一人を除いてトーセンジョーダンと同じような雰囲気のウマ娘ばかりだった。
空気が違うのは黒髪のショートの快活そうなウマ娘だった。
女性相手の指導は学園での業務をこなしているから出来なくはないが、ギャル系は未経験だぞ、しかも複数。
現実にオタクに優しいギャルは存在しないし、陰キャコミュ障に優しいギャルも存在しない。
ここはいつも通りのキックで鍛えたポーカーフェイスで仕事をすれば良いだけだ。
「どうも、お疲れ様です、お待ちしていました、えーと初めましての方が多いようなので、名簿にお名前の記入していただくか学生証かスマホをコードリーダーに通して下さい。」
今回来ているのは、トーセンジョーダン、ゴールドシチー、ダイタクヘリオス、メジロパーマー、ウイニングチケットとタブレットに表示されていた。
一人ひとり、形は違うけど丁寧に挨拶してくれるのは有り難い、ただやっぱり顔を見るとびっくりする娘もいた。
「うっわ、ジムカン顔の傷跡多くね?ってか元ヤクザ?」
「ちょっとヘリオス、いきなりそれは管理人さんに失礼だって。」
別に失礼でもないというか、怖がられないだけで十分だとは思っている。
「いえ、別にこの傷は試合で斬られて出来たたものですので。」
試合と伝えたらなんか空気が重くなった。
『喧嘩の隠語かな・・・・』『怖くね?』『だから触れちゃ駄目だって・・・』『アハハ・・・』
快活そうなウマ娘がそのまんまのテンションで。
「あー、それ格闘技の試合で斬られた傷ですよね?ムエタイとか肘有りのルールが過激な奴。」
「良く知っていますね、そんなマイナーなのを。」
「兄がウマチューブで格闘技配信をよく見てたので。」
流は少し驚いた。解ってるのが居たそれもウマ娘で。珍しいなマニアックかつ過激すぎてこんなの観戦するのはよっぽどの格ヲタか、選手の身内で後は、後○園ホールで酒飲みながらヤジ飛ばしてるオッサンぐらいのもんだがよく知ってんなあ、だが断じてムエタイではない、キックボクシングだ。
「ムエタイといったほうがわかりやすいですが、純キックボクシングです、肘打ちを主体にして戦っていたので結果的に私も結構斬られてしまいましたね。」
「うわっ、それ痛くないんですか?」
ギャル系ではあるが品の良いウマ娘が引き気味に聞いてきた。
「試合中は別に痛いというか熱いって感覚で、逆に斬れなかったほうが痛かったです。」
他にもケガの経験やら怖くなかったのか色々質問されたので流はまとめて答えた。
「あなた方のレースに対する想いと一緒で怖いよりも楽しかった楽しいやワクワクドキドキが先にくるんですよ、怪我も確かに怖いんですが、怪我をして出られない時期は自分自身の足りなかった部分を全体的に見直してプランを組んで、いかにより強くなって戻ってくるか考える為の期間でしたね。」
皆この辺の話は真剣に聞いてくれた、快活なウマ娘はちょっと涙ぐんでいる。
「では、トーセンジョーダンさん、改めてお伺いします、貴女に皐月賞の出走について心情の変化はありませんか?私が話したようにクラシックを回避して休養しつつパフォーマンスのアップを図り、シニア級で勝負するというやり方もありますが?」
2日ほど時間が経っているし、午前中に理事長室で一悶着あったことだし、改めてトーセンジョーダンの意志がある事を確認しておく必要があった。
「……今更やめろって言うの?走れないなら、やめるって言ったじゃん。それにトレーナーと一緒にあんたも手伝ってくれるって言ったのに!」
決意は変わらずならばよし、ただ土壇場で裏切るみたいなタイミングで確認したから、本人ちょっと怒ってるし、周りの視線がガシガシ突き刺さってくるのが正直痛い。
「もちろん手伝いますよ、2 日ほど経過していますので仕事をさせて頂く上で貴女が心変わりしていないか再度確認させていただいた次第です。」
「・・・言いたいことはわかるけど、ホントの直前にいうのは流石に空気読めてなさすぎじゃね?」
「友人の前で確認したほうが、ちゃんと決意表明になるでしょう?」
不服そうにしているトーセンジョーダンとそこをなだめるゴールドシチーを他所に、そのまま谷口トレーナーのところへ行き少し離れたところに連れて行くと、朝に理事長室であったURAや学園とのやり取りをトーセンジョーダンには言わないように念押ししてから耳打ちで伝えると谷口トレーナーは顔を押さえるようにして唸りだした。
「やはり医務室の方から学園とURAの上層部に伝わっていましたか・・・可能かまだわからないか、コレはジョーダンには言えませんね。」
「彼女がやると言うならギリギリまで支援するべきだと伝えたら、理事長が上層部と交渉はしてくれるそうですし、後はお医者さん次第でしょう。」
「しかし、貴方は学園職員としてURAにあまり噛みつくような事は良くないのでは。」
「私は学園職員というか、雇用形態としてはURA経由の学園職員ではなく理事長から直で雇用されている形になりますのでそこは気にされなくて大丈夫ですよ、それにURAにも解ってくれる方はいるはずです。」
流としては要件は伝えたしそろそろ仕事を始めたくなったので話題を斬ることにした。
「そろそろ、トーセンジョーダンさんのトレーニングプランとデータ取りを始めましょうか。」
「あ、ハイ。」
流はトーセンジョーダン達の前に行くと、タブレットの着いた板を彼女達の前に置いた。
「何これ?」
「これは足の裏の状態を調べる装置です、今のトーセンジョーダンさんの足の裏がどうなってるかこの装置で調べます。」
「でもレースの時は靴履いてるんだから足の裏調べても意味無くね?」
「でも、足の裏って歩くときも走るときも常に地面と接してるし一番衝撃を受ける所だからこそ状態を見たいって事でいいですよね?管理人さん。」
ウェイ系なのに何処か品のあるウマ娘が代わりに答えてくれたタブレットの名簿をみたらメジロパーマーと表記されていた。
「そうです、靴やソールに関しての調整をするにおいても、トーセンジョーダンさんの足がどうなっているのか、どうして爪に衝撃が加わりやすいのかを調べる必要があるからです、ほかにも重心位置やら体のバランスとか負荷も調べられます。」
「へえ、足の裏から色々わかるんですね。」
「そういう事です、あとは直接歩き方や、足の裏の角質化している部分をチェックしていきます。というわけで、トーセンジョーダンさん、裸足になって板の上に乗って下さい。」
トーセンジョーダンは、測定器の板に乗った。
画面に表示された足裏の状態を見ると、右足の親指を除くすべての指が浮いた状態になっていて、その上で小指球側に重心が寄っていた。
無意識に爪を庇っているうちに足の形成するアーチが崩れることで重心がずれてきて、それでまた爪に負担が掛かりやすくなる、爪が割れるのループを繰り返してたってところか。
流の三白眼が更に鋭くなる、斬り傷だらけなのに端正で日本刀の様に切れ味鋭い顔立ちなので威圧感が凄い。
皆が不安そうな顔をする中
「結論だけ言うなら、これなら何とかなります。」
「ウェーイ!やったー!」
「ゔわあああんジョーダン何とかなるってよがったよおおお!!」
大泣きして他のウマ娘から宥められているのは、ウイニングチケットというウマ娘で去年ダービーに勝ったらしい、トーセンジョーダンと相部屋で皐月賞出走の為に協力したいと同行したという。
「やることっていうのは、足の状態を元に戻してから、足首及び足裏の柔軟性と筋肉を鍛えて、衝撃吸収能力を強化して、爪への負担を下げます。」
メジロパーマーとゴールドシチー以外はよくわかっていない様子だった。
「かんたんに言うと、地味でキツイことして足の裏を鍛えて爪を守るよ作戦です。」
全員理解してくれたようだ。
「最初に地味できついことをする前に足をほぐす処置をするのですが、私が女性の足に触るわけには行きませんので谷口トレーナーの足で見本をお見せします。」
そのまま近くに谷口トレーナーを呼び、裸足になってもらうと、流は消毒済みのポリ手袋を嵌めて、悪戯心で谷口トレーナーの左足の反射区を押してみた。
「ンア〜〜〜〜〜〜っ!痛、痛、痛スギィ!」
野獣の咆哮を彷彿とさせる顔で苦痛に顔を歪める谷口トレーナー、うん何だその強くは押していないんだが…あんまり寝てないんだろうな。
「ウケる。撮っとこ。」
無慈悲だなおい。
「じゃあ、お遊びはここまでで、撮るなら此方をお勧めします、片足だけ行きましょう、まず硬くなった指先をほぐします。」
流は、谷口トレーナーの足の指を一本一本引張り解して行きその後、指を曲げて反らしてを複数回行い徹底的にほぐしていった。
「次は中足骨を解して足のアーチを整えます。」
中足骨を同じ様に引っ張ったり上下に動かしたりしながら、少しずつ足をほぐしていき、足のアーチにそ沿うように形を整える、靴を履く仕事が多いせいか、谷口トレーナーの足は固い、ほぐしているときにちょっと痛そうな顔をしていた。
左足の処理だけ終えて流は作業をやめた。
「谷口トレーナー、そのまま立ってみてください。」
谷口トレーナーは、左足に違和感を感じていた。
左足の足の裏の安定感が
「なんというか、良い意味で感覚が全然違いますね。」
「これは私のジムで一部のトレーナーや選手に教えられる秘伝を応用したものです。」
「秘伝って、簡単にバラしていいの?」
「秘伝と言っても伯父の商売道具ですし元々の使い方はケガ予防としての使い方ではないので一通り見て大体の事はご理解頂けたとは思いますので、各自でやっていただきましょう。」
「でも、ジョーダンの足はセンモンカのジムカンがやったほうがよくね?」
ジムカン?ああ管理人の略か、それは真っ当な意見なんだけど。
「私も最初はそうしようと考えたのですが、私が女性の足に触るのは、あんまり好ましい事ではありませんし、ここに来るまで、女性相手の指導経験も殆どなかったので、ましてや施術なんか…」
自らの爪を剥いで乱入したくせに我ながら困ったちゃんである。
「そういうのいいからはやくやってよ、もしかして照れてる?可愛いとこあんじゃん。」
「それは勿論ですが、後でセクハラとかなんとか何とかってリスクが。」
「は?足ぐらいでどうこう言わないというか手伝いでしょ?。」
慣れとか信用とか色々あるからなあ。
「状態をチェックしながらやりますので、椅子に座って下さい。」
流はまた手袋を交換してから、トーセンジョーダンの足の状態を目視する、親指含めて指が浮きやすいのか
人差し指や中指の関節部が少し角質化していた。
足の甲や裏の中足骨や指を触ってみると固く、足首もそれなりに固かった
「体重や衝撃のかかり方からだいぶ固まっていますね、一気にほぐしてしまいましょう。」
谷口トレーナーよりも念入りに力を入れて指先や中足骨をほぐして行く、少し痛そうな表情をされると罪悪感が結構あるが。
足のアーチを支える筋肉が妙な形で固まってるのでそこを一つ一つ整えていった、片足を解すだけでもかなり力を使うので左の指先が痛かった。
「もう片方は、ウイニングチケットさん、お願いします。」
流はウイニングチケットにポリ手袋を手渡した。
「あたしがですか、大丈夫かなあ?」
「大丈夫ですよ私がサポートしますし、やっていることは簡単なことですから、朝と夜は同室の貴女が手伝っていただけた方がより効果的ですので。」
「そういうことなら、やってみます。」
ウイニングチケットは流の指示を受けながら足の処理を終えた。
「では、トーセンジョーダンさん、立って歩いてみてください。」
「うわ、足がなんかペタペタした感じで歩く時に指が全部地面を掴んでるっていうか立ちやすくね?」
「爪を庇っているうちに足に対する、力の加わり方がだいぶ変わってしまってそのまま足のバランスが崩れて、それを支えるために筋肉が固くなって重心がおかしくなって、逆に爪に負担がかかる状態になっていたので、一度徹底的にほぐしてしまう事で、本来の状態に戻したんです、コレを起床後、トレーニング前後、就寝前にやってみて下さい、あとトーセンジョーダンさんのジムで行うフィジカルトレーニングのメニューはしばらくの間すべて裸足で行うものにします。」
「うん、裸足でやるって事はさっきパーマーが言ってた足の裏が一番地面についてるからって事?」
「そうです、足の裏全体と足の指の感覚、足首の筋力及び柔軟性を高めてバランス力のアップを狙います。」
そう言うと流は鏡の前に全員を連れて行った、床には鏡の約1.5m前に黒テープでラインを引いてあった。
流は8kgのケトルベルを用意すると、ラインの前に左足一本で立つと膝がラインより前に出ないようにしながら膝を限界近くまで曲げて重心を下げ、左手に持ったケトルベルを前後にスイングし始めた。
足元はややふらついているが、しっかりと地面を噛んでいた。
「まずは片足で一分ずつこれで足の指で地面を掴む感覚を覚えてもらい、最終的には最低でも片足で5分間ずつできるようになってもらいます。」
ソールとかシューズも大事だが、爪の負荷に関しては浮き指の解消はもちろん足の裏自体の地面掴む力を高める必要がある、その点でこのトレーニングは効率が良かった。
「おっし、誰が一番長くやれるか勝負しね?片足ずつやって合計時間が一番長いほうが勝ちでOK?」
ゲーム感覚でやるのは確かに良いかもしれない、そこは盲点だった。
「公平性を保つために全員靴を脱いでからやりましょうか、賞品は私の方から出しましょう」
今は臨時収入で現金がかなりあるというか、電子決済で買った物の代金が理事長のポケットマネーで戻ってきただけだが、そこで後ろから声が聞こえた。
「あー!なんか面白そうな事やってる、ボクも混ぜてよ!」
ポニーテールで前髪に白のラインが入った元気なウマ娘が自分も参加させろと言ってきた。
「おい、テイオー!勝手に他所の練習に混ざろうとするな。」
タブレットから名前と入室情報を確認するとトウカイテイオーというウマ娘と沖野というトレーナーだった。
「すまない、ウチのテイオーが突然参加させろって言い出して。」
沖野トレーナーは苦笑しつつこっちに謝ってきた。
「いえ、私としては別に問題ありません、むしろ参加者が増えてくれた方が良いデータが取れますし、対価としてここでやり方を覚えてもらって、トレーニングメニューとして一考して頂けたら有り難いと思っています。」
「データの見返りにトレーニング方法の提供とは対価としては大盤振る舞いだな。で、アンタは見たことない顔だし、それにトレーナーバッジも着けていないが、あの中の誰かのトレーナーやってるのかい?」
「いえ、私はトレーナーではなく、このジムの管理人をやらせてもらってます。」
「ああ、アンタが最近入ってきた例の管理人か、思ったより若いな。」
沖野トレーナーは、流の体型を見て、経験はしっかりしている事はすぐわかったが、どうみても20代前半と若い新人トレーナーとそう変わらないように見えたからだ。
「私はウマ娘さんの指導に関しては新参で、専門外では有りますが、別競技における実績の評価とフィジカルトレーニング指導資格とそれに伴う実務経験が3年以上ありますのでそこを理事長に評価されたのかそのまま採用されました。」
「競技者と指導者を兼任してたのか、なら納得だな、何かあったら色々頼むよ。」
「ええ、その時はサポートさせていただきます。では彼女たちにルールの説明をしてきます。」
『ボクもまぜてー!』『お、テイオーじゃん!』『一緒にやろう。』『負けないぞー』
「それではルール説明を行います。」
流はスマホのアプリのメトロノームを立ち上げた。
「このメトロノームのリズムに合わせてケトルベルを振って、最後まで崩れず立っていた方の勝ちです、それを片足ずつやっていただきます、左右の合計タイムが一番長かった方が優勝です。」
全員が姿勢がとれたので、流はメトロノームのアプリをスタートさせた。
トレーニング回の後半の予定でしたが、中編になりました。
いつの間にか1万ヒットになっていたようで有難うございます
拙く読みづらい文章ですが、色々と改善していきますので、お付き合い頂けたら幸いです。