ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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色々省略したのに長くなりました、妄想と勢いだけで書いてます。


14.トレーニングの後はアイスとジュースで糖質補給すればいいよね

1回目の勝負は左足のバランスは3分半を超えた辺りでトーセンジョーダンのバランスが崩れ、トウカイテイオーが勝った。

 

2回目の勝負もトーセンジョーダンとトウカイテイオーが残り、お互いに利き足なのか感覚を掴んだのか4分を超えても崩れない。

 

皆二人を応援している

 

「ジョーダンそろそろ限界なんじゃない?膝がプルプルしてるよ・・・!」

 

「テイオーこそ・・・限界が近そうじゃん。」

 

「マダヨユウダモンニー!」

 

 それにしても二人とも見事に重心を安定させているな。

 

トウカイテイオーは理想的な柔軟性でバランスを維持し、対してトーセンジョーダンは純粋な筋力で身体のブレを抑え込んでいるがそれだけならすぐに保たなくなるものだが、力が入らなくなるたびに的確な重心を瞬時に探し出して体勢をととのえている。

 

 流は疑問に思ったことを口に出した。

 

「谷口トレーナー、トーセンジョーダンさんって学業の方は?」

 

「自分でバカを自称するぐらいには良いとは言えませんが、常に努力し進歩を見せています。」

 

「なるほど普段の練習も相当努力して、その経験から直感で最適な重心を選んでいるんですね素晴らしい、良いトレーナーさんに巡り会えましたね、トーセンジョーダンさんは。」

 

「有難うございます、まだまだ課題は多いですが。」

 

「そう謙遜するなって、谷口。で、管理人から見てうちのテイオーはどうだい?」

 

 棒付きキャンディを咥えながら、沖野トレーナーも会話に入ってきた。

 

「そうですね、柔軟性、体幹の強さ、足裏の感覚の鋭さ、バランス感覚、重心がどうずれるかの先読みの正確性、どれをとっても一流、この年齢でアスリートとして完成に近づいていますね、あれだけケトルベルを動かしても殆どブレが無いのは天才のそれです。用心すべきは骨格の強度がアスリートとしての成長速度に追いついているかどうかと言うところです、後、関節との柔軟性が高すぎるせいで、逆に関節や骨、筋肉に負荷を掛ける可能性も出てくるのでテーピング等で一部可動域を制限するか筋力トレーニングで関節周りを強化した方が良いかもしれません。」

 

「流石にフィジカルトレーナーも兼任してるだけあるな、テイオーは確かに天才だよ、骨格のについてはアンタの見たとおりだ、テーピングについては検討してみるよ。」

 

5分経過したがまあ崩れない、トーセンジョーダンはそろそろ限界かトウカイテイオーも表情には出ていないがきつそうだ。

 

少しだけリズムを速くした直後ほぼ同時に崩れた、トーセンジョーダンの方がやや早かった、トウカイテイオーは瞬時に体勢を戻していた。

 

「トウカイテイオーさんの勝ちですね、おめでとうございます。」

 

トレーニングとして考えるならすっげー地味なことやってるんだけど、時間勝負にすると結構盛り上がるのな。

 

「やるじゃん、テイオー」

 

「ジョーダンもね。」

 

 皆、拍手してるしトーセンジョーダンもトウカイテイオーもお互いの健闘を称え合っている。

 

「続いてはケトルベルスイングで行います、コレは下半身と体幹を鍛える事ができる有酸素運動効果も含まれたトレーニングです。」

流は20kgのケトルベルを持ってきて、スイングのためのセットアップを始めた。

 

「まずは両手でケトルベルを握って貰い、両足は肩幅かやや広めに取って、膝と爪先はやや外側に向けて、これはあなた方がジムでスクワットをするときと同じ様な感じです。」

 

そしてスクワットのように腰を浅く曲げていき、膝と股関節を素早く伸ばした反動でケトルベルを引き上げ胸の前で止めそのまま戻す。

 

「足裏で地面を押すように膝と股関節を一気に伸ばして、反動で引き上げます、連続でやるときは1回目のスイングの準備と同じように、膝と股関節を軽く曲げてまた伸ばす反動で振れば大丈夫です。」

 

 20回ほどやって見せて説明することにした。

 

「今回は持久力重視で軽めの40kgを20回の5セットのスイング100回で行います」

 

 まあこれは皆簡単にやってのけた。

 

「最後のトレーニングはファーマーズウォークで行きましょう」

 

 ファーマーズウォークとはケトルベルやダンベルを片手に一個ずつ持って歩くだけという全身のトレーニング法、先程のケトルベルの片足ゆらゆら体操が足裏と足首の感覚を養うものなら、ケトルベルスイングが、足から発生した力のコントロールを養い、こちらは負荷をかけながら足首の強化と足裏の使い方を養うものだ。

 

 流は40kgのケトルベルを一つずつ左右の手に持って歩いてきた。相当重かったが、ウマ娘よりも非力とは言え、彼女たちなら軽く扱えるものを両手で一つずつ持ってくるのもかっこ悪い。

 

「コレを左右の手に持って背筋を伸ばしたままジムの中を10周ほど歩いてもらい、それが終わったら逆方向に10周歩いてもらいます、合計20周ですね。」

 

 学園のジムエリアは結構広いのでこのメニューは地味にきつい。

 

「うげーこれ地味にきつくね?」

 

「爪に負担を掛けずにパワーアップを図るにはこういった地味に体を使う全身運動が多くなりますからね、今回のは私が負傷していた時にやっていたメニューを応用したものです。」

 

「負傷した時にって、ジムカン怪我多かったん?」

 

「まあ、この顔の通りそれなりには。」

 

「ああ、顔だけじゃないんだ。」

 

トーセンジョーダンはケトルベルを両手に一つずつ持ちジムの中を回り始めた。

 

 

「顔〜?どうかしたの?」

 

 トウカイテイオーがこちらに顔を近づけて見にきた。自らの前髪をかきあげて複数の斬り傷が目立つ額を晒す。

 

「こんな感じです。」

 

「…ぴえっ!」

 おお、飛びのいた飛びのいた。正しい反応だなと反射的に飛び退ったトウカイテイオーを見て納得してしまった。

 

「テイオー、自分で覗いておいてそれは失礼だろ…しかし傷跡見るとアンタ結構派手に切られてんな、キックボクシングか?」

 

「ええ、最初の頃は肘の間合いが掴みにくくて止められはしませんでしたが結構斬られましたね。」

 

「付き合いで知り合いの試合を見に行ったときも、結構流血が多かったなあ。」

 

「観客も、流血があると盛り上がりますし、選手も斬ったほうが勝ちやすいので、必然的に倒す肘より斬る肘が多くなりますから。」

 

「派手な方が盛り上がるのは、どのスポーツでも一緒だな。」

 

 流は見たことは無かったが、レースもウイニングライブも金を掛けられる位には派手なんだろうなとは思った。

 

 後学の為に一度見に行っても良いかも知れないがただ仕事柄学園の外に出る機会がなかなか無い。

 

 そんな事を考えているとトウカイテイオーがまた話しかけてきた。

 

「ゴメンね、傷痕がすごいからびっくりしちゃって。」

 

 謝るような事ではないし、気にすることもない怖い顔なのは事実だからだ。

 

 流は本来、中性的でありながら、日本刀のような鋭さを持つ眉目秀麗と呼ぶにふさわしい顔立ちだが、複数の顔の傷跡と目つきの鋭さに加え、顔から険が取れず常に不機嫌そうな表情をしているから、周りからの印象が兎に角怖いが先行する。

 

 此方が軽く脅かしたようなものなので少し気まずいしフォローはしないと。

 

「驚かせてしまったのは私ですのでそこはお互い様と言う事で、話は変わりますが、トウカイテイオーさんは先程のスイングを拝見させて貰いましたが柔軟性と体幹のバランスが素晴らしい、足の感覚も鋭い。」

 

「ありがとー。前屈は記録もってるんだ。」

 

「なるほど、これから予定がなければ一つ頼お願いしたい事があるのですが。」

 

「お願い?どーしたの?」

 

「トーセンジョーダンさん達のトレーニングが終わったら、ストレッチの指導をしてあげて欲しいんです。」

 

「ストレッチ? それだったらキミが教えたほうが良いんじゃないの?」

 

「私は全体的に固いんですよ、全体的なフィジカルトレーニングに関しては指導できますが、レースに重要なストレッチはどうしてもマニュアル通りになりがちですし、現役の方が指導されたほうが彼女達の為になりますから。」

 

 元々実務の経験はキックジムで相応に長いが、実際にレースを見たこと無いのであくまで走るレベルのストレッチしか教えられないのもあるし、クールダウンまで堅苦しくなるのは良くないとが判断したのと、少しはマシになったと思っていた忌避感を抑えるのが辛くなっていた。

 

 個人相手ならそういうこともないのだが多人数になると少しきつくなる。

 

 仕事なら大抵のことは割り切れると思っていたが意外と難しい。

 

「それに仕事とはいえ、余り女性に触れるのは好ましくありませんので。」

 

「へ?僕のトレーナーはすぐ足とか触ってくるよ。」

 

「それはトレーナーさんが特殊というかベテランなだけです、ちゃんとお礼はいたしますので。」

 

「お礼?どんなの?」

 

「これは3日程前に仕込んだの試作品なのですが。」

 

 流はタブレットから、桃、オレンジ、マスカット、パイン、リンゴ、イチゴ、クランベリー、ブルーベリー、バナナ、レモン、マンゴー、キウイと一口サイズにした沢山の果物を漬け込んだ葡萄ジュースの画像をトウカイテイオーに提示した。

 

「あー!サングリアじゃん、これノンアルコールだからグレープジュースベース?凄く手が込んでるね。」

 

「ご名答、葡萄ジュースのサングリアです、これにはちみーを加えとろみと甘さをプラスしてソースにしたものをバニラアイスにかけてお出しします。」

 

「うわー美味しそうだね、それみんなにも用意するならOKだよ。」

 

 元々トレーニング後の果糖の補給やモチベーション維持の為のアイテムとして提供するつもりで作ったので問題はない。

 

「元々、運動後のエネルギー補給の為に皆様に作ったものですので、それは勿論。では、契約成立ということで宜しいですか?」

 

「うん、いいよ。で、ジョーダンのやってるトレーニングってどっちかというと終盤の追い込み練習だよね?今の時期からコレを続けてたら走る時に疲れが残らない?」

 

「いい質問です、そこはちゃんと理由がありまして、トーセンジョーダンさんは筋力がある分、どうしても力みがちになりますからね、その上で体が硬いからどうしても、爪に負担が掛かるのである程度疲れを残して無駄な力を抜いてしまうやり方を取っています。」

 

「なるほどね。でも、それぶっつけ本番にならない?皐月賞まであとちょっとしかないよ?」

 

「彼女は判断が早いというか体の感覚に対して素直で対応力が高いですから、爪の回復状況を考えてみてもコースを使った練習は1回か2回と言うところでしょうか。詳しい見立てはトーセンジョーダンさんのトレーナーに決めて貰うところです、併走相手はまだ決まっていなかったようで。」

 

 流はトーセンジョーダン達の周回をカウントしながら、足の使い方を確認していく、問題はなさそうだ、靴とかだと踵から地面につくことが多いが、裸足は本能的に足先から地面につくことなるから足の使い方を感覚的に染み付かせることができる。

 

 トウカイテイオーは谷口トレーナーと沖野トレーナーたちの所へ向かいなにか交渉のような事をしていた、それを終えるとまたこちらに戻ってきた。

 

「ジムかん、ボクねトーセンジョーダンと併走することにしたんだ。」

 

いつの間にかジムカンで呼称が統一されてんな好きに呼べばいいとは思うが。

 

「そりゃ有り難いですが、あくまで私はフィジカルトレーナーとしての補助でその辺の事に関しては私に話されても。」

 

「えーでもボクに軽くアピールしてたじゃん、【力み】とか【硬い】とか【無駄な力】とかさー、要するにボクみたいに柔軟性に優れたウマ娘に併走してほしいってことでしょ?」

 

予想外に聡いな、トウカイテイオーというウマ娘は。

 

「さあ、何のことでしょうか?そろそろトーセンジョーダンさん達のファーマーズウォークが終わる頃ですので、柔軟の指導をお願いします、私はジュースとアイスの準備をしてきますので。」

 

「OK、ジュース楽しみにしてるね。」

 

 流は管理人室から冷蔵庫に入れておいたノンアルコールのサングリアの入った梅酒瓶を取り出し受付のテーブルに乗せた、ついでに紙コップと紙皿も人数ぶんとりだして纏めておいた、ストレッチと整理体操はそれなりに掛かる。

 

ジュースはその場で用意するとして、アイスのソース用に出すものにはジュースを少なめにしたフルーツに蜂蜜を和えてとろみと甘みを出す。

 

ドルチアーリオ(菓子職人)程ではないがしてコレくらいはバリスタの範疇だ。本来バリスタとはコーヒーの専門家という意味ではなく、バールで働く人のことであり、

コーヒー以外にもジュースや酒も淹れるし何なら簡単な調理もできるし菓子だって作れる。

 

 こういった物を作っていたのは、きつい練習を終えた後に糖質補給とリラックスできるようにと、流なりの心遣いだ。

 

 こちら側にもどってくる時間を見計らって、サングリア風ジュースとバニラアイスを人数分用意しおえたタイミングで、受付テーブルに全員戻ってきた。

 

「お疲れ様です、飲み物と冷たいものを用意しましたので宜しければご賞味下さい。」 

 

受付のテーブルに置かれたノンアルサングリアの瓶とフルーツソースに全員が驚いていた。

 

アイスの上に手慣れた所作でフルーツたっぷりのソースをかけて手渡していく。

 

「バリ美味っ、ジムカンどっかで菓子職人でもやってたん?」

 

「美味しいと言っていただいて光栄です、私は菓子職人と言うとかそういうのではなく、あくまでこれは飲料類ですのでバリスタの仕事の範疇です。彼らならアイスも自前で作りますから。」

 

「ユキノから、管理人さんはバリスタの資格持ちって聞いていたんですけど、バリスタってコーヒーの専門家ってだけじゃないんですね。」

 

ゴールドシチーさんはユキノビジンさんと友人だったか。

 

「その辺は、ウマバとかの大手のラテ系を提供するコーヒーチェーンから来たイメージで、イタリア本国のバリスタっていうのは、バールというバーと喫茶店を合わせたような場所で働く人のことを言います、コーヒーを淹れるだけでなくバーテンダーさんのようにカクテルを作ったりとかお酒のお摘みや簡単な調理も作ります、簡単に言えばバールの業務全般を行うスタッフですね。」

 

「ということは、管理人さんはウマバとかのバリスタじゃなくてそっち系のバリスタなんですか?」

 

 

「ええ、最初は実家の純喫茶の手伝いで、高校入学で上京してイタリアの大手バールチェーンの日本一号店でアルバイトすることになり、高校3年の時に社内資格試験に受かってバリスタに昇格し、お酒とかの技術は、キックの試合で顔の傷が増えたので、照明が暗くて傷が目立ちにくいバー部門に異動させて貰った時に指導を受けました。」

 

 

いかんな、コーヒーや飲み物に関して聞かれると口数が多くなる、ヲタクあるあるだ。

 

「ジムカン、何でウチらにコレ出してくれたん?」

 

「キッズクラスの指導を終えた後に、練習後のご褒美と水分と糖質補給を兼ねてこのフルーツジュースとアイスをだしていたのが、習慣になっているからでしょうね、ドリンクはお替りもありますのでどんどんどうぞ」

 

 飲んでくれた相手が笑顔になるのが嬉しいからと言うのは恥ずかしいので黙っておこう。

 

「ねー!ジムかん!コレ、スピカの皆にお土産にしたいんだけど容れ物あるかな?」

 

トウカイテイオーが気に入ってくれたらしく持ち帰りを要求してきたので、流は管理人室に戻っていき、1リットルほど入るガラス製ドリンクボトルを持ってきた。

 

柄杓を用いてフルーツごとドバドバ移してやると8割ほど入った所で蓋をした。

 

「容器は飲み終わったら返していただければ。」

 

「ありがとージムかん。」

 

「どういたしまして。」

 

他の皆もルームメイトへのお土産(テイクアウト)を要求してきたので、小型の一杯分の瓶に入れていった。

 

「後の余ったフルーツは適当に砂糖突っ込んでジャムにしておきますので、欲しい方はまた夜ご飯が終わった頃にでもジムに来ていただければお渡しします。今日はよく脚と足をよくほぐしてくださいね、特にトーセンジョーダンさんは爪と足のケアを忘れないようにお願いします。」

 

カフェテリアのイベントの時にこのノンアルサングリアも用意しておくか。

 

 

皆が戻り一旦ジムから誰もいなくなった後、流は給湯室で余ったフルーツを砂糖と一緒に鍋にぶち込んでジャム作りを始めるのだった。

 

その後ノンアルサングリアが評判になり其れを目当てにジムでトレーニングを受ける生徒が増えていったりと、ジムに変化が表れるのはまだ先の話。

 

 

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