ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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書きたいように書きなぐっていたら、今までで一番長くなりました、お付き合い頂けたら幸いです。


15.コーヒー豆の焙煎は煙すごいから台所でやるときは換気扇使おうね。

 夕食後のジムに来る生徒が、少ない時間に流はジム機材の整備と日常点検を行っていた。

 

 日常点検レベルでは故障は見られなかったので、カフェテリアイベントの前後で、業者に入ってもらうか。

 

 立会人はどうするかは後で考えよう。

 

 ジムの仕様予約も飛び入りも無いので、流は実家から送られてきた生豆のハンドピックを初めることにした。

 

ハンドピックとは状態の良くない豆=欠点豆を手で選別し仕分ける作業で、この作業が如何に丁寧に行えるかによってコーヒーの味が決まる。いくら焙煎が完璧でも豆が悪けりゃ不味くなるし健康にも良くない。

 

 どんな豆が不良豆かといえば、カビの生えた豆、虫食い穴のある豆、欠けた豆、潰れた豆、発育異常、発酵豆など様々だ。

 

そんな不良豆一個でもあればコーヒーの味はだめになってしまう。

 

 他にも異物でトウモロコシやら小石やらネジやら混ざっていることもあるので徹底しなければならないし、さらに焙煎後も見逃したものが無いか徹底する。

 

 この前ユキノビジンにあげたセレベス・カロシは最高級品で最初の状態からある程度の選別はされていたが、保管や輸送の都合上からかやはり結構な量の不良豆が残っていて、ハンドピックには苦労した。

 

 あのときはここに就職する前でまだ暇だったので、一度に500g程の豆を一粒一粒手でひっくり返し選別していたのだが、今はここで働いている影響で一日200g程度でしか選別できなくなってしまった。

 

 今回ハンドピックしようとしている豆はセレベス・カロシよりも更に希少なイエメン産の豆のなかでも最高級品、アールマッカだ。

 

 この豆は酸味系を主としたアラビカ原種でワインのような香りと柑橘系の酸味と甘みが特徴で他のイエメン産の豆と比べても粒が大きくモカ系の香りが強く飲んだ時に柑橘系の風味が口いっぱいに広がる、コーヒーの香りを持ったフルーツティーと言うほうが近い。

 

 そのままブラックでも充分に美味いと思うが、コーヒーではあるが流の好みとしてははちみつを入れたほうが酸味と甘みのバランスの調和が取れてよりフルーツティーに近くなり飲みやすくなると思っている。

 

 なぜ実家からこれだけ希少な生豆が送られてくるのかと言うと、流の実家は珈琲と紅茶専門の商社で高級ホテルや純喫茶、レストラン、大手コーヒーチェーンに卸している老舗中の老舗で喫茶店はその直売所でもある。

 

 父が焙煎した珈琲のブレンドと母が焼き上げた焼菓子と厳選した紅茶はトレセン学園関係だけでもメジロ家、サトノ家、華麗なる一族、シンボリ家などの名家御用達となっているがその事を流は知らない。

 

 そんな両親から純喫茶における珈琲の知識を徹底的に叩き込まれ、高校入学と同時に家が豆を卸しているイタリアンバールのチェーンでバリスタとして教育を受けたのが流だった。

 

 紅茶に関しては基本的なレベルでしか知らず、淹れることが出来、後は軽くアレンジドリンクを作れるぐらいだが、姉と妹が知識を受け継いでいるので問題はない。

 

 ためしに100gほどトレイに出してみるが、ぱっと見ただけでも欠点豆が多い。

 

 これは天日干しによる自然乾燥と使い継がれた古い石臼による、脱穀という昔ながらの方法をとっているため、とにかく豆が欠けやすいし状況によっては傷みやすい。

 

 欠けた豆そのものはコーヒーの味に影響は無いが焙煎時に焼きムラが出来やすいので取り除く。

 

 そう言った豆も一緒に焙煎して、挽いて楽しむのも充分に有りなのだが、実家が超のつくほどの高級喫茶店であり、幼き頃から両親の仕事を間近で身近で見てきたからこそ、こう言った徹底したハンドピックを行うのは当然のことであるし、別に苦でもない。

 

 カビ、虫食い、発育不良、発酵と生豆を裏返して一つ一つ選別していく。

 

 そう言った欠点豆は袋に入れておき、水でふやかしたあとに生ゴミ処理機で堆肥にしてから園芸部に渡せば解決、食べられないものとはいえ食べ物を粗末にするのはバチが当たる。

 

 40分ほどの選別で1割近くの欠点豆が出てきたので一通り作業を終えた頃に出てきた欠点豆は2割だった。

 

 焙煎後にもまた少し出るだろうし、生豆の水分も飛んで容量が減るから200g分のハンドピックを終えるのはまだまだ時間がかかりそうだ。 

 

 

 さらに100gの豆を入れては選別するを繰り返すこと1時間半ほど行い200gのハンドピックを終えた

 

 なぜ200gも必要としているのかと言えば、この豆の浅煎り、中煎り、深煎り、極深煎りと色々と焙煎テストしてどの焙煎がこの豆に合っているかを試したいのと今回ウマゾンから届いたタブレット連動型家庭用焙煎機のテストにもぴったりでちょうどよかったからだ。

 

 この黒い衣類乾燥機を思わせる立方体のマシーンは家庭用焙煎機としてはかなり狂った仕様だった。一般的な焙煎機は熱源が下にあったり横にあったりしてチャフに引火する可能性があるのだが、この焙煎機はドラムの回転軸に炬燵に使われている石英式のヒーターが取り付けられていて引火率は下がるしなおかつ、均等に熱が行き渡りやすい。

 

 ドラム自体もパンチングメタルでつくられており、チャフや煙をしっかり逃がす構造になっている、ドラム内に取り付けられている金属フィンもまた生豆の流動性を意識した計算した角度で取り付けられていて、一度に500gも焙煎できるというほぼ業務用と言っても差し支えない焙煎機だ。

 

 更に吸気型の冷却器と手袋まで付いてくるのでお得すぎる

 

 ただこんな希少豆を吊るしの焙煎機のテストに使うのは気の狂った所業に感じられるが、こういった焙煎機も使ったことはあるしタブレットの連動アプリ内推奨焙煎レシピもあるし、アールマッカに対する適切な焙煎度合いも知っているので失敗することはまず無いのだが、アプリの焙煎の標準の制御のプリセットを見ていると、浅煎りに関しては割と攻め気味だなあと思ってしまう。

 

 後吸気及び排気ファンの制御によっては吸気の都合上焙煎の温度が下がる可能性もあったりと、弱点はそれなりにあるが、家庭用焙煎機でこれだけできるのは面白いし凄いので、アールマッカのためだけに専用の焙煎プリセットを煎りの深さに合わせていくつか作っておきたかった。

 

 とは言え、アールマッカの味を本当に引き出すなら、浅煎りか中煎りぐらいまでであり、段階で例えるなら、シナモンからミディアム、ギリギリでハイローストぐらいが限度になる、苦いというかコーヒーが苦手なタイプが飲むならレモンティーのように飲めるシナモンローストからミディアムの間が一番いいと流はおもっている。

 

 ただ今回の豆はいつもと比べて気候の問題か乾燥がやや足りないか、輸送工程で湿気ったのか何時もより水分量が多い感じがするので、水分を飛ばす作業も少し計算に入れる必要がある。

 

 アールマッカは同じ農場でも出来に差があったりするが焙煎する分には許容範囲内なので問題はない。

 

 イタリア本国のバリスタは普段の業務で余り高級な豆を扱うことはそこまで多くない、イタリアはエリアごとにエスプレッソの値段の上限が決められているので、必然的に安価な豆でも美味しく飲める様にと豆の知識とブレンドの技術が求められる。

 

 流も安価な豆のブレンドを作るのに慣れているし好きなのだが、高級な豆を好きに焙煎してさらにブレンドしてみる一つの楽しみだ。

 

 半分の100gを焙煎するとして、どうするかだが先ずはアールマッカではメジャーな中煎りでいくのもいいが、和えて思いっきり深煎りにしてブランデーの様なコクと苦味を出してみるのも面白そうだし、浅煎りの柑橘系の様な爽やかさかといろいろ迷う。

 

 「先ずは浅煎りで行ってみるか」

 

 台所の換気扇を起動した後、先に焙煎機のスイッチを入れ予熱を開始し、90℃まで行った所で予熱はストップさせて焙煎機に豆を投入する。

 ここから3分程掛けて120℃迄上げ、芯まで火を通しながらじっくりと水分を飛ばしていく、そのためにドラムの回転はやや速度を落としておく。

 

 ほんの少しだけ色がライトローストに近づいた所で、火力を200℃にセットしドラムの回転速度を一気に上げ、仕上げに入るとごく小さな1ハゼの音が聞こえてきて、タブレットからも1ハゼが始まったと表示されたので、本体の焙煎停止ボタンを押し、トレイを開けて取り出すと柑橘系の香りと共にシナモン色の豆が飛び出してしてきた。

 

 それを冷却器で一気に急冷し、冷まし終えたら、再びハンドピックをする前に真空式のキャニスターに詰めておく。

 

 そろそろ晩飯を買いに行かないとやばい時間なのでカフェテリアの購買で弁当を買いに行くことにした、毎日3食鯖缶と納豆と生卵とささみに玄米のパック飯は流石に味気ない。

 

 カフェテリアの売店に着いたが、来るのが遅かったのか、弁当は売り切れていたし、夜勤の職員向けの弁当が並ぶまでは時間が掛かる。

 

 24H営業の職員の食堂に行っても良いのだが、顔の傷跡が目立つと他の奴等の飯がまずくなるかもしれないなんて事を考えると避けたほうがいいのである。

 

流はため息をついた

 

 

 「仕方ない、現ナマもある事だし外で焼肉でも食うかね。」

 

「あの、すみません購買でお弁当を買おうとしていましたよね?」

 

 購買から出た所で褐色長身で猛禽類のような鋭い目を持つウマ娘を連れた小柄な黒縁眼鏡のウマ娘に呼び止められた。

 

「ええ、少し来るのが遅かったようで、売り切れてしまったようです。」

 

 何故そんな事を聞いてくるんだ、思ったら鋭い目をしたウマ娘の両手に沢山の弁当が入った袋が握られている。 

 

「ごめんなさい、お弁当がもうすぐ廃棄ということで私とクリスエスさんで全部まとめ買いした所だったんです。」

 

「そういう事でしたか、悪いのは来るのが遅かったのは私ですから、お気になさらず。」

 

「ロブロイ、やはり、この弁当は真に必要としている者に対し使命を果たすべきだ。」

 

目の鋭い方のウマ娘が弁当の使命みたいな事を、小柄な眼鏡のウマ娘に話している。

 

「あの、良かったら一つ如何ですか?」

 

ちょっと迷ったがいきなり出されるのもあれだと思ったので断ることにした。

 

「申し出は有り難いですが、そちらはあなた達が買われたものですので、受け取るわけには参りません。」

 

「元々、寮の皆さんに夜食として出すもので寮の皆でお金出し合っているんです、それでもし、入れ違いで買いそびれた方が居たらお渡ししようって皆で決めていたんです。」

 

 なるほど、ツッコミどころは色々あるが、イタリア文化のカッフェ・ソスペーゾっていう保留金みたいなもんか、こういう事も、予算に入ってんだな、しかし一方的に学生に奢られるのもなあ、対価を用意しなくてはと考えていると、メガネのウマ娘がこちらを見て怖かったのか後ろに下がった。

 

 彼女を庇うように目の鋭いウマ娘が前に出てきた、両手に弁当のたくさん入った袋を持っているのがなんかシュールだ。

 

「済まない、貴方にも━Pride━はあるだろうが、そんなに彼女を━ロブロイ━を睨まないで欲しい。」

 

 ん?対価のことを考えていたんだが、顔がまたキツかったか。

 

 彼女の此方を見る眼に圧はなく、ただ友人が此方に粗相をしてしまったのでは無いかという心配している感じだった。流と同じく余り表情には出にくいタイプっぽいな。

 

「あ、睨んでいたわけでなくて寮の皆さんにどうお礼をするかを考えていただけです。」

 

「そうか、安心した。」

 

「そんな、お礼なんていいですよ。皆で決めていたことですから。」

 

「いえ、仮にも社会人で学園職員が対価もなしに学生さんから弁当を譲って頂く方が私のプライドに反しますので。」

 

 先程作ったジャムとサングリア風ジュースの瓶を何種類かでいいか。

 

「というわけで、まだお時間に余裕があれば、学園のジムまでお越し頂きたいのですが。」

 

「ジムに?…あっ!もしかして管理人さんですか?」

 

「はい、自己紹介が遅れましたね、学内ジムの管理人とフィジカルトレーナーの蒼間といいます。」

 

「ゼンノロブロイです、図書委員をやっています。」

 

「シンボリクリスエスだ。最初に見たとき貴方は休憩中の━Security Staff━の一人だと思っていた。」

ああ、確かにこのナリでこの顔だと休憩中の警備員だと思うのも無理はない。

 

「シンボリクリスエスさんとゼンノロブロイさんですね。宜しくお願いします。改めてお時間は大丈夫でしょうか?」

 

シンボリクリスエスは時計を見て時間を確認すると。

 

「━━No Problem━━」

 

どうやら時間はそれなりにはあるようだ。

 

流は二人を連れてジムに入るとそこにはトウカイテイオーが居た。

 

「ジムかん!やっと来た。ジャム取りに来たよー、あ、ロブロイとクリスエスも一緒じゃん。」

 

「トウカイテイオーさんどうも、ジャムは少々お待ち下さい、先に済ませることができましたので。」

 

 流は三人を待たせると、すっかり私物化し、半ばカフェの厨房のような状態となっている給湯室の扉の鍵を開けて冷蔵庫に入れておいた果物をミックスして煮込んだジャムの瓶とサングリア風ジュースの入った梅酒瓶を4つ取り出した。

 

 それぞれオレンジ、桃、パイン、グレープと出来合いの業務用ジュースに一口サイズにカットした果物を漬け込んだもので、トーセンジョーダン達に出したものよりは漬かりは浅いが、果物を仕込む作業は丁寧にやっているので味は劣らない。

 

 流は瓶を台車に乗せるとそのまま三人の前に持ってくると、まずはトウカイテイオーにジャムの入った瓶を手渡した。

 

「今日作ったフルーツのジャムです、パンに塗ったり紅茶に入れてもいけると思います。あとゼンノロブロイさんとシンボリクリスエスさんにはこちらのジュースを私が台車で寮までお運びします。」

 

 蓋を開けて中を見せると色とりどりのフルーツの入ったジュースが珍しいのか二人とも目を丸くしていた。

 

「良いんですか?こんなに沢山。」

 

「はい、そちらの寮の皆さんがお金を出し合って購入したものを一つ頂くわけで、見合った対価かと、練習後の糖分補給やビタミンの補給とリカバーには効果的ですから。」

 

「でもやっぱり、釣り合っていないんじゃ」

 

 恐縮しているゼンノロブロイをよそに流は、弁当を受け取るタイミングを掴みきれずにいるとトウカイテイオーが話に入ってきた。

 

「ねー、ジムかんのそのジュース試作品でつくったやつ?要はお礼もあるけどモニターもしてほしいってことだよね?」

 

「はい、ジュースは評価があれば有り難いですね、後今更ですが、お弁当を選ばせていただいても宜しいでしょうか?」

 

「あ、ハイ、モニターも兼ねてというということでしたら、寮長にも連絡します。」

 

 ゼンノロブロイが寮長に連絡している間に、シンボリクリスエスが弁当の袋を見せてくれたので、【たっぷり焼き鳥重ウマ娘盛り】を選んだ、ガテン系やウマ娘向けにでっかい焼鳥の串が20本も入った豪華なやつだ。見ているだけで腹いっぱいになりそうではある、これが500円前後で買えるのが本当に凄い。

 

 流は弁当を受付の机に置くと、3人と一緒にウマ娘の寮へ向かった。

 

 雑談を交わしていると、流がバリスタということは同じ寮のユキノビジンから軽く聞いていたらしい。

 

 今度珈琲を淹れて欲しいというので、トレーニングに来るなら用意はしておくとだけ伝えた。

 

「ボクは栗東だからまたねー!」

 

 トウカイテイオーだけは寮が違うらしく、途中で別れた美浦と呼ばれる寮の前に着くと寮長らしきウマ娘が待っていた。

 

「アンタが管理人かい?アタシは寮長のヒシアマゾンだよ、宜しく。こりゃまた、結構な量を持ってきたね。」

 

「ジムの管理者の蒼間です、纏めてお礼をするのでしたら、この方が効率がいいと思いまして、各瓶フルーツを除いた液

体のみでも12リットル入りですから、お一人様100mlずつで配ってもらえるなら、全員賄えると判断しまして。」

 

「一人あたりせいぜい100円かそこらだよ、大袈裟過ぎないかい?」

 

「金額の大小でなく、受けた恩には報いるのは当然の事です、それに仮にも学園職員が生徒に対価もなく譲って頂く方私にとっては問題ですから。」

 

「律儀というか、変わりもんだね、アンタ。」

 

「お褒めに預かり光栄です。後は、ジムに置くリカバードリンクのモニターを探していた所でしたので、ちょうど良かったので。」

 

「ナルホドね、そういう事なら有り難く頂くよ、先に言ってくれればいいのに。」

 

「先に感謝の意を伝えたかったので、そうしないと打算で動いた気になってしまって。」

 

「難儀な性格だね、しかし丁寧な仕事してるじゃないか、この量だと相当手間が掛かってるんじゃないかい?」

 

「作る側としては、こういった作業を怠ると味が落ちるのはわかっていますから、それに幼少の頃からやって来たことなので苦ではないですね、それに美味しいと言ってもらえたほうが、私も嬉しいので。」

 

 ヒシアマゾンも料理好きで下ごしらえの重要性は知っているし念入りに行うが、ここ迄の作業を一人で行うのは中々に骨が折れる、それをやっているという事は、相当に好きなのだろう。

 

「今、変わった奴だと思ったでしょう?私自身もそう思っています。」

 

「変なやつと言うよりは、仕事を間違えてないかと思ったね。でさ、アンタがユキノからカフェにってあげた珈琲豆をカフェに淹れて貰ったんだけど、とっても美味しいじゃないか、あれも下処理しているのかい?」

 

「あれは、焙煎前に割れた豆や、カビ豆、虫食い豆とかを豆を一つ一つチェックして選別しているんです、焙煎後も冷ました直後に見逃した豆や焼きムラのある豆が無いか再チェックを3回ほど行っています。」

 

「そうかい、それでカフェが丁寧な仕事で焙煎された凄い豆が来たと、びっくりしてたんだね。」

 

「とはいえ、それだけ美味しかったってことは、カフェさんの淹れ方が完璧って事でしょう、焙煎だけじゃ美味しい珈琲は淹れられません。」

 

 流としてはあの豆の焙煎に関しては普段通りの処理をして、ジェットロースターを用いて普段の焙煎を再現する実験で焙煎したものではあるので、美味しいと言ってもらえたのは素直に有り難い。

 

「ユキノがアンタの淹れたコーヒーも美味しいっていうからさ、是非飲んでみたいもんだね。」

 

「ジムにトレーニングに来て頂くなら用意はしておきます。後は今度のスイーツフェアの横でこっそりとエスプレッソを淹れていますのでその時にでも。」

 

「ホントかい?楽しみにしとくよ。」

 

流は後日瓶と台車を取りに来る事を伝えてから3人と別れると、ジムに戻って行った。

━━━━━

 

 弁当を温め直してくってからハンドピックと焙煎の続きだな

 

 ジムに戻るとユキノビジンとそのトレーナーの高槻がベンチプレスでトレーニングしていた。 

「トレーナーさん!あと50kgプレート追加お願いします!」

 

 ガンガン行くのは良いが、セーフティラックを付けていないベンチを使っているのと重量の調整が間違っているのでそれを伝えなければならない、弁当食うタイミングがずれた。

 

「高槻!ユキノビジンさん!一旦ストップ」

 

「管理人さん、どやしたんだが?」

バーベルをラックに置いて起き上がってきたユキノビジンに軽く会釈すると

 

「高槻、ベンチプレスの基本フォームは知っているよな?」

 

「そりゃ教育を受けましたからね、勿論知っていますよ。」

 

軽い口調で言ってきたので

 

「そうか、じゃあ説明してくれ。」

高槻は隣のベンチ仰向けになり、バーのみでベンチプレスの姿勢を取った。

 

「まずはスタートの姿勢を整えます」

 

「で気をつけることは?」

 

「頭、肩、お尻、両足をしっかりとベンチにくっつけて、バーが目線の位置に来るようにすることです。」

 

「ああ、基本は分かっているな、で次は?」

 

「スタートポジションについたら、ラックからバーベルを外してゆっくりと胸まで下ろす、その時気をつけることは肩甲骨を寄せるようにバーベルを下げることです。」

 

「解ってるじゃないか、ただアスリート向けのベンチプレスは半分というか、肘の角度が90度の位置まででストップした方がいい、筋を傷めやすくなるし、あとは走るときに肩を変な引き方をする癖がつくからフォームが崩れる可能性がある。」

 

「あー、なるほど基本のフォームとアスリート向けと分けて考えなきゃならなかったか、そこは盲点でした、ありがとうございます。」

 

「どういたしまして、でこっちが本題なんだけどさ、高槻とユキノビジンさん。」

 

 流の表情が普段よりも鋭くなり、明らかに怒っているのがわかる

 

「何でセーフティラック付けてないベンチでガンガン重量増やしながらやらせてんの?補助にしたって人間じゃ補助できない重量でオールアウトしたときにバーベルがユキノビジンさんに落下したらどうすんだよ?」

 

 流はユキノビジンの方へ目を向ける

 

「ユキノビジンさんも、高重量を扱うときはセーフティラックの付いたベンチを使うか必ず二人以上のウマ娘をつけるようにと教官から言われていますよね?」

 

「ごめんなさい、今日ぁ特に調子がよぐでガンガン行げるど思って、頭がら離れでらった。」

 

 耳がぺたんとなっていてしょぼんとしているので、フォローはしないといけない。

 

「調子がいいときは、逆に視野が狭くなりますからね、そういった時こそ、安全確認をしっかり行ってください。」

 

 実際には調子の良さで気持ちが入れ込んでいるときに自己を客観的に見るのはプロ選手でも難しい。

 

 だからこそケガ防止の為に客観的にみて指導、指示をするトレーナーが必要になる、今回高槻はそれを怠った。

 

「高槻、お前も担当に合わせ過ぎだ。お前が入れ込んで安全管理を怠ってどうする。調子が良いとわかったんなら、最初からラック付きを選ぶか、一旦中断してラック付きに移動すべきだったな。重量調整ぐらいでしか休息を取っていない状況でやり続けたらいくらウマ娘でもすぐオールアウトするぞ。」 

 

「すいません、俺のミスです。」

 

 高槻は流に頭を下げた

 

「高槻、謝る相手は俺じゃない。」

 

それを聞いて高槻はユキノビジンの方へ向き直った。

 

「ユキっぺごめん、俺が気づかなきゃいけなかったのに」

 

高槻はユキノビジンに

 

「いえ、トレーナーさん、あたしも気合入りすぎで周りが見えでいながったすけ。」

 

これはなあほんと。

 

「とは言え仕方ないところもあるよ、チームはともかく個人の所のウマ娘とトレーナーは以心伝心というか言葉にせずとも伝わると互いに認識している所があるみたいだからな。だから互いに良く話したほうがいい、高槻は新人だから尚更だ。」

 

空気が重くなったので軽く手を叩いてから。

 

「ミスは誰にでも有ります。反省の時間は終わりです、続きはセーフティラックの付いた所でお願いします。」

 

 

 二人はしっかり返事をしてからセーフティラックの付いたベンチの方へ移動した。

 

 その後、流は二人に目的別の重量と回数についてを指導してから弁当を取りに受付に向かった。

 

 

 ベンチは全部セーフティラック付きのものに交換するように上に話すのと、安全教育をウマ娘は勿論、トレーナーに対しても定期的に行うように申請してみるか、ウマ娘だけで無くトレーナーも双方が不幸にならないようにしたい。

 

 さっさと弁当食いますかと、管理人室に入り中の電子レンジで弁当を温めようとした直前にタブレットに入室を知らせる反応があった。

 

 流は弁当を電子レンジからとりだし、机においてから管理人室の戸を開けるとライトブルーの髪を持った深窓の令嬢を思わせる高貴なウマ娘と細身の刀剣を連想させる高槻と同じタイプのスーツを来た黒縁眼鏡の青年が立っていた。

 

 流は直ぐにタブレットで生徒名を確認すると【メジロアルダン】と表示されていた。




 次回は浅煎りコーヒーのフレンチプレスの話とケトルベルや自重を用いた下半身トレーニングと野郎同士のバトルになる予定です。

拙い文章ですが宜しくお願いします。
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