ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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今回も少し長めです。

書きたかった格闘シーンがあっさりになりました・・・


16.無理難題を突きつけられてもそれをクリアしてみせるのがプロの仕事だけどまだクリアできていない。

 軽く会釈だけして飯をくおうと思ったら、高貴なウマ娘が話しかけてきた。

 

「貴方が管理人さんで宜しいでしょうか?私はメジロアルダンと申します。」

 

「ご丁寧に有難うございます、私が管理人の蒼真です。」

 

深々と頭を下げてきたので、こちらも礼を返すと眼鏡の男も一礼した。

 

「アルダンお嬢様のトレーナーの東郷です。」

 

 二人に椅子を差し出し座ってもらおうとするが、東郷トレーナーは座ろうとしなかった

 

 一見すると礼儀正しく見えるが、形式上のものしか感じないし、なんならこっちに殺気すら向けてくる、なんというかトレーナーというよりは執事というかボディーガードに近い

 

「あっ、アルダンさんおばんです!」

 

 ユキノビジンがメジロアルダンに気づいて手を振り、メジロアルダンも微笑んで手を振り返す、その横で高槻は東郷トレーナーに殺気立ってガン飛ばしてるが東郷はどこ吹く風で受け流している。

 

 そんな空気は全く気にせず、メジロアルダンは

 

「本日は管理人さんに相談したいことがあってこちらに来たのですが。」

 

「もし、相談内容がトレーニング関係なら引き受けますよ。」

 

メジロアルダンもいきなり即答されると思っていなかったのか。

 

「良いのですか?内容も聞かずに。」

 

「椅子に座るときとか歩き方を見るに脚を気にされている様子でしたし、昼にトーセンジョーダンさんと一緒に来訪された、同じメジロのメジロパーマーさん辺りから聞かれたのかなと。」

 

 流の推測にメジロアルダンは感心しつつ

 

「ええ、概ねご推察の通りです。パーマーから脚の事を管理人さんに相談してみたらと提案されたのでトレーナーと一緒に此方へ」

 

「そうですか、私はこれから食事を摂りたいので、この後の話は少し後でもよろしいでしょうか?」

 

「あら、お食事をされていた所だったんですか?それは失礼しました」

 

「いえ、業務中ですから問題ありません、これからまた弁当を温め直して頂こうという所です、お待ち頂く間コーヒー位しか用意できないですが。」

 

 コーヒーが気になったのか東郷トレーナーが此方に話かけてきた

 

「蒼真様、アルダンお嬢様は紅茶派であり珈琲はあまり飲まれたことが・・・」

 

「あ?てめえが苦えのが駄目なオコチャマ舌なだけだろ、アルダンさんに押し付けるなよ東郷。」

 

「コレだから脳筋ゴリラは人の言葉を理解できないようで。」

 

横から割って入ってきた高槻に対し東郷トレーナーも毒で返していく。

 

『あ゙?』『あ゙?』と互いに殺気をこめてメンチ切り合ってる高槻と東郷トレーナー。

 

「東郷さん、管理人さんはコーヒー淹れるの上手だすけ、アルダンさんも美味しく飲めますよ。」

 

 ユキノビジンが二人の殺気のぶつけ合いなど、どこ吹く風で東郷に話しかけているのを見て、メンタル強すぎだなあと思ったが、あの高槻と上手くやっていけているのだから当然か、

 

 東郷トレーナーはユキノビジンの話を聞いてそれならと納得したようだ。

 

 高槻は痛そうな顔をしているけど、何処かつねられたか?

 

「アルダンさんはどうしあんすか?管理人さんならおいしく飲めるみでぐ調整してぐれあんすよ。」

 

「メジロ家は紅茶が主流でしたので、珈琲を飲む機会はそれほどありませんでしたが、興味は有ります。」

 

 紅茶が主流の家の令嬢が美味しく飲めそうな珈琲といえば、先程焙煎したの浅煎りアールマッカをフレンチプレスで抽出し、蜂蜜かジャムでも入れてやれば、オレンジやレモンのような柑橘系の風味が強いフルーツティーのような味になる。

 

 ストレートのブラックコーヒーを楽しむのは日本人ぐらいのもんで、大抵の国は砂糖やらなんやらぶち込んで飲む。

 

 その理由はブラックコーヒーが苦いか酸っぱいのどちらかだからで、素材の味とか甘みとか繊細なものは、コーヒーに慣れてから覚えて貰えればいい、味は自由に楽しんで良いものだ。

 

「それなら、浅煎りの柑橘系の紅茶に近い風味持った豆がありますので、そちらをご用意します。」

 

「では、そのコーヒーを頂けますか?よろしければユキノさんと高槻トレーナーさんもご一緒に如何ですか?」

 

「頂きあんす、管理人さんにこの前のコーヒーの御礼さクッキー焼いでぎだんだげどコーヒーと一緒さ食わねが?」

 

クッキーか。お茶請けがあれば、弁当喰ってる間の時間潰せるなと流は思う。

 

「でしたら、少し前に作ったばかりのジャムがありますので一緒に食べたら美味しいかもしれません。」

 

「わがりました取ってきます。」

 

 流も私物化させている給湯室からジャムと浅煎りのアールマッカの入ったキャニスターと紙コップを持ってきて受付の机に置き、その後に管理人室から、1リットルは入るような大きめのフレンチプレスとコーヒー用の電気ケトルと業務用にしてはやや小さい電動グラインダーを持ってきた。

 

 ユキノビジンが持ってきたクッキーは結構な量だったので丁度良い。

 

 電動グラインダーを中挽きにセットし、4杯分の豆を淹れスイッチを淹れると30秒程で豆が挽き終わったところで聞き覚えのある声が聞こえた

 

「おや、トレーニング上がりに聞き慣れない音がしたと思ったら珈琲を淹れている最中だったか。」

 

 そこに現れたのは生徒会長シンボリルドルフだった。

 

「こんばんは、生徒会長さん、今丁度フレンチプレスでコーヒーを淹れる所だったんですが、生徒会長さんも飲まれますか?お茶請けもありますし。」

 

「ではご相伴に預からせてもらおう、蒼真君あと一人足しても良いかな?」

 

「どうぞ」

 

 こうなれば何人増えようが一緒だ淹れてしまえば飯を食う時間ができる、本気で腹が減っている。

 

「君もどうだい?マルゼンスキー。」

 

シンボリルドルフが近くに居たトレーニング上がりのウマ娘に声をかけた。

 

「あら、ルドルフとユキノちゃんにアルダンちゃんとトレーナーさんって珍しいメンバーね。」

 

「いま、管理人をされてる蒼真君がコーヒーを淹れてくれるところでね、ご相伴に預からせてもらっているところさ。」

 

「あら、フレンチプレスだなんてお洒落なのを使うのね、豆は何使ってるの?」

 

「イエメン、アールマッカのシナモンローストで焙煎日は本日です。」

 

「アールマッカって、私の行きつけの喫茶店でもなかなか、お目にかかれないやつじゃない。」

 

「仲介業者を通さず、大手の商社が買っていくのもあって余り出回らない豆ですから、後は製法が独特であまり良くない状態の豆が多く交じるので豆の選別に時間が掛かるし、その上で扱いが難しくて味を安定させにくい面倒くさい豆ですね、焙煎する側としては結構楽しいですが。」

 

 

「要するに安定した品質のものが手に入りにくいから、マスターが納得したときにしか出さないってことね。」

 

 

「ええ、品質の良い生豆となると商社を探すところから始まりますからね、ただ、老舗になってくると、自家焙煎に強く安価な豆をブレンドして美味しく淹れる技術に長けていて希少豆より優れた味を出せますから、希少豆に拘らない純喫茶さんが多いです。」

 

 

 流の実家は商社でもあり、現地のスタッフがルートを開拓し農家から直接買い付けて仕入れているので、こういった高級な生豆を市場より安く手に入れることが出来る、あと社長である祖父は孫に甘い。

 

 シンボリルドルフはなにか思い当たる事があったようで

 

「蒼真君、もしかして君の実家は喫茶店と聞いたが母体は蒼真貿易という商社では?」

 

 流は更に二人分挽いた豆をフレンチプレスに入れてから答えた

 

「ええ、蒼真貿易は祖父の会社ですけど、実家は蒼真貿易直営の自家焙煎珈琲と紅茶が売りの喫茶店ですよ。」

 

六人分の豆を入れたフレンチプレスに一気にお湯を注いでかき混ぜてなじませていく、コレで4分置く。

 

シンボリルドルフは言葉に触れられたくないような感覚があった。

 

「父が蒼真貿易の豆を贔屓にしているからお礼を言いたかったんだが、もしかして触れられたくない話題だったかい?」

 

「いえ、単純に空腹で辛いだけです、ご贔屓にしていただき有難うございます。家族とは別に険悪でもなく、好きなことをやらせてもらって家業に入らずキックボクシングの為に上京しても、焙煎の腕を落とさないようにと生豆を送ってくれますからね。」

 

腹減って思考力と語彙力が落ちてるだけだなんかダラっとしてきた。

 

「夕食を食べようと思ったときにメジロアルダンさんが来られて、食事の間待っていてもらうための時間つぶしにコーヒーでも飲んでもらおうと思いまして、ええ空腹でボーっとするんです。」

 

「それは食べている間、アルダンには待っていてもらっても良かったんじゃないか?」

 

「いえ、それは出来ません。私に用件があって来ている方を私の都合で待たせるのであれば筋を通さないと。」

 

「なんと表現していいか分からないが、難儀な性格だな君は。」

 

「性分ですので。」

 

 妙に目の据わった流のことを見てこういう人の事を面倒くさいというのかとメジロアルダンは思った。

 

 4分が経過すると、流はフレンチプレスをゆっくりと押し下げると、見ている者総てが言葉を失う程流れるような美しい所作で、6人全員の紙コップに寸分も狂いもなく均等に珈琲を注ぎ終えた。

 

 その所作は一流のバリスタそのものだ。

 

 ただ、ここが喫茶店のカウンターではなく、ジムの受付で流がジャージというギャップのせいかシュールではあった。

 

「最初の一口は、そのまま飲んで頂いてその後は、お好みでジャムか蜂蜜でも入れて頂ければ、最後までおいしく飲めますよ。」

 

 正直に言えば、今回淹れた珈琲には流はあまり自信が持てていない。

 その理由は、焙煎後のハンドピックを終えていなかったのと、焙煎直後の豆は味がうるさいとしか表現できないくらい尖りだすので焙煎後で3日くらいがベストで、その点は高い温度とフレンチプレスによるコーヒーオイルの旨味でごまかしてはいるが。

 

「あら、珈琲なのに苦くない…?」

 

一口目を味わって最初に感想をのべたのはメジロアルダン。

 

「オレンジやクランベリーティーのような香りと甘味の後にレモンティーのような酸味がきたり、例えるなら香ばしさのある柑橘系のフルーツティーみたいな不思議な味ですね。」

 

 コーヒー愛好家みたいな味の表現をするなあ、ウマ娘は味覚も鋭いとは聞くがと言うよりはこの表現は教養の賜物か。

 

「ジャムかはちみつを入れるとより甘みと酸味も引き立つようになります。」

次いで東郷トレーナーが感想を言ってきた。

 

「なんというか、コーヒーというよりは新酒のワインのような、独特ですね。」

 

「この豆は本来は中煎りで出すのが一番良いバランスで、確りとしたワインのような味わいになるのですが、メジロアルダンさんが紅茶派ということで、先程焙煎していた浅煎りを用意しました。」

 

 そろそろ面倒くさいと思い飯を食いに行こうとしたところシンボリルドルフが話しかけてきた

「スイーツのイベントのときには、こういった珈琲を出してくれるのかい?」

 

「いえ、普通の一般品のブレンドです、【珍味佳肴】と豪華にはいきませんが、私がブレンドしたものはこういった特級の珈琲にも劣りませんし、特級品は趣味で焙煎したもので良ければ用意しておきます。」

 

 概ね美味しいという評価で落ち着いているようなので、安心した。

 

 ユキノビジンはジャムとクッキーを食べながら満足そうに飲んでいるのでよし。

 

「正直コーヒーの味も匂いもはわからないし粉っぽいけど美味いっすね。」

 

「お口にあったようで何よりです、少し食事してきますので。」

 

 高槻の事はスルーして管理人室へ入って電子レンジに入れたままの弁当を温め直した。

 

 ホカホカの焼き鳥とタレの匂いがあわさり、空きっ腹と唾液腺を刺激してくる。

 

 ウマ娘盛りというだけあってとんでもない量だ、モモ、ハツ、つくね、砂肝、ねぎまなどの、ジャンボ焼き鳥の串20本とタレのしっかり染み込んだご飯が1キロと凄まじい量だ。

まず焼き鳥の串をすべて外して飯にのせる、そして一気にかきこむ。

 

 なんか上手く表現できる言葉がないがとにかく美味い、甘いタレが肉の味を引き立てて、ご飯によく絡むので箸が進む。

 

 トレセン学園の弁当は本当に凄い、コレがウマ娘の軽い夜食程度で終わるのだから。

 

 凄まじい利権もあるんだろうが、彼女達が大切にされているのもわかるし、自らもその恩恵を受けているのだ学園には感謝しなければ。

 

 10分程度で全て喰い終えた後、冷蔵庫から真空キャニスターに淹れたセレベス・カロシの豆を取り出してから管理人室から出た。

 

 喰いすぎたせいか体が重い。

 

 管理人室から出てきた流にシンボリルドルフとマルゼンスキーはコーヒーごちそうさまとだけ流に伝えるとそのまま更衣室へ向かっていった。ユキノビジンと高槻はもう少しトレーニングを続けるらしい。

 

「お待たせ致しました、トレーニングの相談でしたね。」

 

「ええ、脚に負担を掛けずに鍛える方法をいくつか教えていただきたくて。」

 

「結構ありますよ、自重とか体幹とか、何ならケトルベルとか」

 

「それが硝子と呼ばれる程に繊細でレースに耐えられないかもしれない脚でもですか?」

んガラス?グラスジョーみたいなもんか?

 

「変な話骨粗鬆症のような骨が脆いとかそういうのでは無いのでしょう?」

 

「そういったものではなく、ただ…」

 

 詳しく聞いてみると、元々身体が丈夫ではなく入退院を繰り返していて、さらに脚が熱を持ちやすい。

 

 脚というとまあ、腰骨、股関節、膝、足首、脚、つま先と骨と関節が多い、その周りの筋肉の問題もあるので、対処が難しい。

 

 割とやべー問題だよなと思ってしまう。

 

「後は、普段の練習とトレーニングのメニューを見せて頂いても?」

 

「ええ、東郷トレーナーお願いします。」

 

  東郷トレーナーがこちらにメニューの入ったタブレットを渡してきた。

 

 その内容は、完璧だった、メジロアルダンのその日の体調を想定した複数の練習パターンを作ってある彼女に対する覚悟ガンギマリすぎるだろ。

 

「練習プランに関しては手の加えようが無いぐらい完璧ですね、さすがメジロのトレーナーですね。」

 

 メガネ越しに東郷トレーナーがドヤってるのがわかった。

 

「ただトレーニングに関して决めかねていると、メジロライアンさんのトレーナーの目黒に聞けば良いのでは?」

 

「最初にコンタクトを取ったのですが、レースに挑むなら同じメジロだろうが敵だと突っぱねられました。」

 

 目黒先輩なら当然の判断だ。圧はあるが気の良い先輩だが、勝負なら親兄弟でも容赦しないし、とことん冷淡になれる、その辺はトレセン学園が勝負事に関して緩過ぎるというか、教育機関でもあるから仕方がない面もあるが。

 

「その後で、俺と同格の知識のある中立の奴がジムに居るだろうとも仰っていました。」

 

 東郷トレーナーが目黒先輩に断られた話をメジロアルダンが補足した。

 

「珍しくフォローしてくれたんですね、あの人が。」

 

 勝負事に対し冷淡ではあるが、冷酷な人間ではないというか、面倒見は良い。

 

「先ずは、足の裏からチェックしていきますので裸足になってください。」

 

 流はタブレットに足裏の測定器を接続すると、メジロアルダンの足裏の測定器に立ってもらう、初対面のときから気づいていたが歩幅は狭いが歩き方にしろ立ち方にしろ完璧すぎる。

 

 姿勢に関して確りと訓練したモデルのゴールドシチーでさえ、自然体でいるときは多少の重心のズレはある。メジロアルダンの姿勢は不自然な位ズレがなかった。

 

 確かに重心さえ安定していれば、負担はかかりにくいが、無意識に脚を庇っているからこそ、この姿勢なのだと感じた。

 

 測定器が測定した足の状態は両足ともに少しだけアーチのない扁平足になりつつあった。足元を目視して解ったこともある、流は確認する。

 

「メジロアルダンさんは、入退院が多かったですよね?入院中はベッドで過ごす期間が結構長かったでしょう?」

 

「はい、先日退院したばかりです。」

 

「硝子の脚を根本から治すのは医者じゃないから難しいですが、足への負担を軽減する事は出来ると思います。」

 

 流はホワイトボードで平べったい足の図を書いた。

 

「これがメジロアルダンさんの足の状態です、本来アーチがあるのですが、体調のためあまり歩く事が無かったのか歩いたときに衝撃を分散するアーチとアーチを支え分散された衝撃を受け止めるクッションである足裏の筋肉が、ほとんど無い状態です、それで脚の骨や関節に負荷がかかりやすいのが、原因の一つかと」

 

「それって、改善出来ることなのでしょうか?」

 

 メジロアルダンが不安そうに聞いてくる。

 

「勿論、裸足でゆっくり歩いたりタオルギャザーで足の裏の筋肉を戻していけば、ある程度は改善されていきますし、トレーニング方法も提供できますので、暫くの間は走るための練習は足の裏を鍛えるために、ダートコースが良いと思います。」

 

 流はこれをベースにすると、トーセンジョーダンに現在行っているトレーニングメニューを東郷トレーナーとメジロアルダンに見せた。

 

 東郷トレーナーは自分の持つデータと照らし合わせながら、プランの修正を行いつつも。

「主治医と私で考えたアルダンお嬢様のトレーニングプランとくらべてもかなり強いですね。」

 

 はっきり言ってしまえば病院とかで行われているリハビリ系のトレーニングプランは強度が弱い。

 

 メジロアルダンはアスリートであり勝たせるなら、回復ではなく強化になるのは必然、レースに耐えられない脚なら限界はあるにしろ耐えられるようにしてしまえばいい。

 

 筋肉を補強して関節周りの負荷を下げていくのが一番の方法だが、筋肥大と筋肉の強化がそうヒトと変わらないのに、神経系の出力だけが飛び抜けているウマ娘相手だから慎重にやる必要はあるがなんとかなる。

 

「東郷トレーナーがメジロアルダンさんのトレーナーで居たいという覚悟に合わせるならこの強度になります。それに東郷トレーナーが居る限り、ガラスが割れる事はありませんよ。」

 

 流自身も俺が付いているから問題ないと思っている。

 

「ええ、私もそう信じています。」

 

  東郷トレーナーを褒められたのが嬉しかったのか、バレバレではあるがメジロアルダンが悟られない程度にはドヤってる、似たもの同士だな。

 

 メニューの密度に反してトレーニングの強度に対し慎重だったのは、最初からメジロアルダン自身が脚が壊れるのは覚悟の上でレースに挑むつもりだったのに対し、東郷トレーナーが示したのは壊さず共に歩む覚悟か。

 

「ただ今日は時間が遅いのと、もう少し確認したい事もあるので、始めるのは明日以降に施設利用の予約でも入れていただければ、その都度対応いたしますので、その前に一つぐらいは足のケア方法を紹介いたしますね。」

 

 丁度そこへトレーニングを終えて着替えたユキノビジンとそのトレーナーの高槻が来たので呼び止めた。

 

「高槻、ちょっと良いか?お前とユキノビジンさんにちょっと手伝って貰いたいことがあるんだけどいいか?」

 

「蒼真さんが俺らに頼み事とはめずらしいけど良いっよ。」

 

「OK助かる。後ユキノビジンさんにはこれを。」

 

 流はコーヒー豆の入った真空キャニスターをユキノビジンに手渡した。

 

「またカロシだねありがどでがんす、カフェさんまだ喜びますよ。」

 

「どういたしまして、手伝って貰うことのお礼の先払いです。」

 

 手伝って貰うというか教えるだけのような気がしてきた

 

「訂正、手伝って貰うじゃなくて、教えるだなこれ。」

 

「教えるって言うと?」

 

「ああ、足裏のケア方法、昼間も何人かに説明したんだけど意外と役に立つ。」

 

 流はタブレットを開き自分で作った足裏のほぐし方の動画を全員に見せた。

 

「レース前やレース後にやっておくだけでも効果はあると思います。」

 

高槻も東郷トレーナーも早速担当にやっているのを見ていて気づいたのは、高槻はあぐらを書いてその上にユキノビジンの足を置きながら処置しているが東郷はひざまづく様な姿勢で脚を保持して処置している、人間性の違いが出ている。

 

 当のウマ娘はというと、ユキノビジンは普通にしていたが、メジロアルダンは足の筋肉が固まっているのか多少痛そうにしていた。

 

 足の裏の筋肉が少ない状態でたっていたら、足のアーチも崩れるし崩れたままで周りの筋肉も固まるのでそれをほぐしていくので痛くなる。

 

 終わった後は二人とも足の感覚が変わったようだった。

 

「朝起きたときや、練習前後、入浴後、就寝にやるのがお薦めです。」

 

 そんな感じで、明日の予約も組んでおわろうとした所、東郷トレーナーが。

 

「蒼真様、話は全く変わりますが裂星會って空手道場を知っていますか?」

 

 なんで格闘技絡みの話を知ってんだ?メジロ絡みで伝わったのか?聞かれたので答える

 

 「裂星會っていうと結構強い空手道場で、アマキックで賞を何度も貰ってるし最近はプロも出始めたイケイケの道場ですね、私もアマで何度か試合させてもらいましたが。」

 

「東郷一真という選手を覚えていますか?」

 

 流はいきなりこんなこと聞かれるとは思わなかったが、名字が同じだが兄弟かなにかか?

 

「覚えていますよ東郷選手はプロ転向前の最後のアマチュアトーナメントの決勝の相手でしたから、普通に強かったですよ。」

 

「そうですか…蒼真様、不躾なお願いで申し訳ないのですが、私と戦って貰えないでしょうか?」

 

 いきなりの東郷の発言に周りが驚いている

 

 唐突だなあ初対面での殺気はこれか、高槻じゃあるまいし、不躾とかそういうのはどうでも良いが、理由を聞かないと。

 

「彼の仇討ちか何かですか?差し支えなければ理由をお聞きしたいのですが。」

 

「奴は私の兄で、あの男は私の手で倒したかったそれだけの話です。」

「あー、見かけは正統派スポーツマンでしたけどなにか裏でやらかしてそうなタイプですよね、彼。」

 

「ええ、あの男は最低最悪のゴミクズ野郎です。」

 

なんとなく察してきた。

 

「もしかして試合の後に、彼に八つ当たりで殴られていた男の子ですか?」

 

 やっぱりそうだ。見苦しい真似をしていたので、再起不能になるまで叩きのめしたんだった。偶然ってあるものだとあなた。

 

「ええ、あの時はありがとうございました。だからこそ貴方と戦いたいんです、私が奴より強くなったと証明するために。」

 

 色々あったんだろうなあ、興味も無いし問うつもりもない。こちらとしては応えるだけというと、弁当を喰ったばかりで動きづらいし、利き腕の爪は何枚かはがれているから、ハンデとしては丁度良いとおもった。

 

「わかりました。私としては別に今からでも構いませんよ。では演武場へ行きましょうか」

 

 高槻は俺のリベンジのときは断った癖にと不満そうにしているが、ユキノビジンとメジロアルダンは突然の決闘の成立と言う状況についていけていない。

 

「野良レースと同じですよ、東郷トレーナーさんは私とやり合わないと前に進めないようですし復讐相手を私に奪われた彼にはその権利があります、なるべく怪我はさせませんからのでご安心ください。」

 

自分で言っておいてただの喧嘩をレースと一緒にするのはどうかと思ったが、語彙的に思いつかない。

 

「俺のワガママに巻き込んでゴメン、今回だけは頼むよ、アルダン。」

 

 東郷トレーナーの素の頼みを聞いてメジロアルダンはため息をついた。

 

「理解りました。貴方の望むままに、怪我はしないでください。」

 

「なんとかして止められねんだが?トレーナーさん」

 

「むりだね、蒼真さんに思うところもあったんだろうし、ああ見えて喧嘩っ早いからね」

 

 高槻は本当に面倒くさそうにてをあげて

 

「あー、俺が立会人しますね、ユキっぺとアルダンさんは見ます?二人のタイマン。」

 

二人共声を揃えて『遠慮しておきます。』とだけだった。

 

 流と高槻と東郷トレーナーは演武場に場所を移した。

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 トレセン学園の板張りの演武場はウマ娘の脚力に耐えられるように作られているため、コンクリートの上にコンパネでも乗せたように堅い、投げられでもしたら死ぬなと高槻は思った。

 

 立会人として見るなら、実戦空手だけでなくトレセン学園と提携している警備会社CSSで高槻と同じようにSP用の格闘技術を叩きこまれた東郷の方が有利だが、蒼真の奴はブランクが有るがあるとは言え格闘技におけるプロ・アマ通して100戦以上の試合経験と路上で喧嘩の数つまり実戦経験の数が段違いな上に、蒼真はウマ娘や高槻を除いた同僚には紳士的な口調で接しているが、狂狼と呼ばれていた程の度を超した戦闘中毒で攻撃に躊躇がなく、過去に蒼真とやり合ったとき高槻も腕と膝を外されたことがある。

 

 互いに互いを殺傷することができる武器を持った二匹の獣のぶつかり合い、ギャラリーとしては楽しみなところはあるが、立会人としては複雑だった。

 

 道場の真ん中で、蒼真と東郷は互いに5歩ほど離れた所で向かい合うと、蒼真は右足前の後重心のキックボクシングとムエタイを合わせたような拳を握らないサウスポー構えで膝でリズムを取る。

 

 一方東郷は左足前の軍隊で使われるような構えで蒼真に近づいていき、蒼真の右足より外に踏み込むように飛び込みながら、左の指を伸ばした状態で目を狙うようなジャブを放つ、蒼真は右手を内側に通すように外に弾いて軌道を逸らし難なく捌き、腕を戻すことなく肘の角度と下半身のバネを用いて顎にスマッシュ気味の左掌底を放ち、体勢を崩しながらも避けた東郷の右腿に打ち下ろすようなモロにローキックを叩き込んだ。

 

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 掌底を避けることを意識しすぎた為に、右足の力が抜けていたところにモロにもらった為、東郷の脚の中で何かが破裂するような感触があったというか筋肉の一部が断裂したのが理解った直後、右腕を思い切り木製バットで殴られたような衝撃が走った、蒼真の左ミドルキックだった。

 痺れるような痛みと衝撃に耐えながら、無理矢理右ストレートからの戻す勢いを使っての左フックを返すもバックステップで距離を外され、左脚に体重が乗った所へ内股に左のローキックを貰ってしまった。そのまま崩れ落ちそうになるが耐える。その直後に側頭部に……東郷の意識はそこで絶たれた。

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 渾身の左ハイキックを東郷に叩き込み、数秒ほど残心の構えを取り立ち上がれないことを確認すると流は構えをといた。

 

 左ミドルからの肘で仕留めるつもりだったが、東郷トレーナーが右肘でカウンターを狙っているのが読めたので即ハイキックに切り替えたのが、功を奏した。

 

「実質ローとミドルだけで仕留められたんじゃないですか?」

 

「いや、初っ端からフィンガージャブで目を狙ってきたし、速攻で勝負かけないとこっちが危険だったよ、ミドルの返しのフックは掠めたし、弁当食ったばかりで体も重かったし時間かけてたら俺が終わってた。」

 

 ぶっちゃけ警戒している人間に目突きなんてそうそう当たるもんじゃないというか、顔面は意外と小さいしその中でも小さい目標である眼球にピンポイントで指先を当てるのは至難の業だ。

 

 ただ当たらなくても警戒して入って来れなくなるし、直接眼球でなくても目の周りに入れば効果はあるので護身としての効果は高い。

 

「急所狙いじゃなくて、格闘技をされていた方がやりにくかったってことですか?」

 

「そりゃ、駆け引きが増えるからな、ああいうやり方だとどうしても、一撃狙いの速攻勝負になるから選択肢も狭まるから読みやすくなる。」

 

「そんじゃ、アンタと再戦するときは力技よりも連打を組み合わせて纏めた方が効果的ってわけだな。」

 

 と後ろから、銀髪ロン毛のウマ娘が会話に割り込んできた。

「どうも、ゴルシの姐さんご無沙汰してます。」

 

 高槻は任侠映画で見られるような膝を曲げてのそこに両手を付いての敬礼で銀髪ロン毛のウマ娘に頭を下げた。

 

「よう高槻、ちゃんとアタシがあげた、学○漫画のひみつシリーズはちゃんと読んでるか?」

 

「ええ!この世界が300人委員会やイルミナティの支配によって成り立っている事をあのひみつシリーズで知ることができました!」

 

「おー!オメーも世界の真実に辿り着いたか!」

 

 いや、そんなの載ってねえよと突っ込む気はなかったので流は単刀直入に銀髪のウマ娘に質問することにした。

 

「いつから居ました?」

 

「この前の詫びにゴルシちゃん特製焼きそばを管理人に差し入れに来たら、男3人で演武場に向かってて面白そうだから覗いてた。」

 

「撮りましたか?」

 

「おう!バッチリだぜ!ウマッターかウマスタに上げていい?」

「私は構いませんが、メジロ家に怒られるかと、そこでダウンしている人物はメジロアルダンさんのトレーナーです。」

 

「うわーおめーやべーやつじゃん。」

 

 銀髪のウマ娘が棒読みだが内心引いているのが解った。

 

「それに暴力的な動画、特に脚を攻撃するような映像は、ウマ娘さんの精神衛生上、良くないでしょう貴女も含めて。」

 

 このウマ娘は非常識なことはするが、非良識的な事はしない事は感覚で理解できる。

 

「まあ、そうだなやめとくわ、アレほっといて良いのか?」

 

「喧嘩売ってきた相手を心配してもアレなので。放っておけば起きるでしょ。」

 

「結構ドライだなオメー…」

 

 そこで東郷が起きてきた。

 

「まだ動くなよ、東郷。」

 

「高槻か…俺は何を貰った?」

 

「左ハイキック、また派手に貰ったな。」

 

「完敗か…蒼真様、ありがとうございました。」

 

 東郷は起き上がって、流に感謝の意を伝えた。

 

 流も座礼で返した。

 

「次は野試合じゃなくて、普通に対人しましょうか?」

 

「ええ、その時はお願いします、で私は奴より強かったでしょうか?」

 

「アレは私の左ミドルと左ローキックに反撃できずに、一方的に倒れましたが、貴方は右ストレートと左フックで反撃出来ていますし」

 

そこは合格点だった。

 

「二回目のミドルから肘で仕留めようと思っていたのですが、貴方が踏み込みに合わせての肘を狙っていたのでハイキックに切り替えましたし、最後まで勝負を投げなかった貴方のほうが奴より強いです。」

 

トレーナーみたいな物言いになってしまったが説明は出来た。

 

「そうですか、自分勝手に喧嘩売っておきながら負けてなんですが、スッキリしました。」

 

「んじゃ、そろそろ戻りましょうか、高槻は東郷トレーナーに肩貸してやってくれ。」

 

「ゴルシちゃんもそろそろ帰るぜ、焼きそばは、受付の机に置いてあるからな。」

 

 銀髪のウマ娘はそそくさと帰っていった。

 

 高槻に肩を借りながら左足を引きずるように歩く東郷と一緒にジムに戻ったら、ジムで待っていた二人のウマ娘に、3人共滅茶苦茶叱られた。

 

そりゃあ当然なんだが、いきなり目潰し狙われたのにやりすぎいわれるのは、ちょっと理不尽だなあとは流は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 




Q:この主人公は無双タイプ?

A:流より強い相手は結構居る。
ルビトレは格闘戦で正面から制圧できるが時間制限があると決着はつかない。

ウマ娘はスペックで勝てる。

南阪トレーナーはそもそも戦闘が成立しないレベルで圧倒できる。


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