ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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なんか勢いで書いていたら長くなりました。


20.黒歴史はコーヒーより苦いけど、共通の趣味があると話題が弾むよね

「オオカミってカフェに何したの?ジムかん。」

 

「何もしてねえよ。何年か前、俺が高校の頃に一緒に豆の焙煎しただけだよ。」

 

「えー・・・それだけ?絶対何か隠してるよね?ジムかん。」

 

「何も隠してねえよ、昔から狼って言われてたからそう名乗っただけだ。」

 

 マンハッタンカフェにオオカミと呼ばれたせいで素に戻ってしまった流はトウカイテイオーの問いにぶっきらぼうに答えた。

 

 何故テイオーが普通に話せているかというと、素の流は口調こそぶっきらぼうだが声色は穏やかで、顔の険も取れて目つきこそ鋭いが幾分顔つきが柔らかくなっているからで、流が怒っていないことがわかるからだ。

 

 流も驚いてつい素に戻ってしまっただけで別に怒っているわけではない。

 

 ちなみにマンハッタンカフェとは数年前に、一度会っただけで、商店街の裏通りの知人の焼肉屋の軒先と七輪を借りてコーヒー豆の手焙煎をやっていたときに、迷い込んできた彼女の相手をするついでに手焙煎を教えたあと、明るいところまで送ってやっただけで何も問題はない。

 

 流は適当に会話を打ち切って話をもどすことにした。

 

「話もどすが、マンハッタンカフェと、もう一名は・・・あーまだ名前聞いてなかったな。」

 

「サクラローレルです。よろしくお願いします、オオカミさんと呼べば良いですか?」

 

「俺は・・・いや失礼・・・ちょっと深呼吸させてもらっていいですか」

 

 初対面の相手にぶっきらぼうに接するわけにはいかないので、呼吸を整え気を落ち着かせる。

 

「私はジムの管理人の蒼間といいます、普通に管理人とでも呼んで頂ければ。」

 

 流はミルを軽く掃除しながら、マンハッタンカフェの方を見た。

 

「貴方が・・・・管理人さんだったんですね。あの・・・先程のこと怒ってますか?」

 

 ちょっと気まずそうに聞いてきたのであえて素の口調で答えることにした。

 

 

「いや、別に怒るような事では無いし、むしろよく覚えてるなと感心したよ、それに思い出せずに変なリアクションを取ったのは俺の方だからお互い様だろ。」

 

 この程度のことで怒るようなことはないので軽くフォローしてから、豆をミルに入れて、ハンドルをザリザリと挽いていく。

 

「で、マンハッタンカフェさん、貴女がユキノビジンさんが言ってた、カフェさんでいいのか?」

 

「はい・・・あっています・・・貴方がユキノさんに豆を・・・その節はありがとうございます。」

 

流は逆さにしたエアロプレスに挽いた豆を淹れていく

 

「初日に彼女のトレーナーに連れられて一緒に来た時に、セレベス・カロシをエアロプレスで淹れてやったら相部屋のカフェさんがとても詳しいと話してたし、彼女もお気に召したようだったし、カフェさんならうまく淹れられると思ったから、そのままお土産にしたんだけど、どうだった?」

 

 表情の変化に乏しい流の顔がほんの少しだけ不安そうになっているのがわかったので、マンハッタンカフェは笑いそうになった。

 

「そんなに不安そうにしなくても大丈夫です。キャニスター越しに中を見たときから・・・豆の選別から焙煎まで・・・すごく丁寧な仕事をされていて・・・独特のチョコレートのような甘い香り・・・苦味とコクの強いフレンチローストなのに・・・口当たりがとても柔らかくて・・・ほのかに残る甘い余韻がすばらしく・・・とても美味しかったです、カフェオレとして寮の皆さんに少し・・・おすそ分けしたところ・・・大好評でした。」

 

  コーヒーの味を表現するのに何故こんな言い回しかというと、コーヒーには1000以上の化学物質が含まれその複雑な組み合わせが抽出され幅広い味わいを作り出す。品種はもちろん、コーヒーが育った土地の土壌や気候、精製方法や焙煎方法、さらには抽出方法や飲む時の温度などで、感じられる風味は大きく左右されるので大まかにわかりやすいようにこういった言い回しで表現する。

 こういった味をわかりやすく表現する為の表もスペシャルティコーヒー協会で作られている。

 

「そうか、良かった。いくら焙煎の出来には自信があっても個人個人で味の感じ方が違うから、口に合うかってのは不安なんだよ。」

 

「ただ・・・気になったのが・・・いくらチョコレートを付け合わせに用いたとしても・・・深煎りでマンデリンよりも強い苦味があるあの豆は・・・ユキノさんの様にブラックコーヒーを飲み慣れていない方には少々苦すぎると思うのですが・・・どんな魔法を使ったのですか?」

 

 技術に対して興味津々なのか表情は変わっていないが耳をピコピコさせているマンハッタンカフェを見て、そういえば昔、手焙煎を一緒にやったときもこんな感じだったなあと思いつつ、周りみると、スペシャルウィークはなんか食ってて、メジロマックイーンとトウカイテイオー、マヤノトップガンは珍しいものを見るような目で流を見ている。

 

 サクラローレルはなんか楽しんでる。

 

「魔法というよりは単純に知識と経験だよ。豆の挽き具合と湯量と温度と抽出時間で濃度を調節したんだ。エアロプレスは、その辺の調整がハンドドリップよりも簡単だからな。その上で金属フィルターを使ってしっかりコーヒーオイルまで抽出してやれば、油をキャッチするペーパーに比べて口当たりは強くなるが、甘味が増して飲みやすくなるし、さらにチョコとコーヒーが調和している間に飲みきれるようにコーヒーの量も調節してある。」

 

「それはもう・・・立派な魔法だと思いますが。」

 

「そうか?エアロプレスは手順をきっちり覚えればいいし、ハンドドリップと比べると失敗が少ないから、そこまで難しくないよ。」

 

「そうですか・・・エアロプレスも是非試してみたいですね。」

 

「それ以上に大事なのは相手に対する気遣いと優しさだよ、カフェさんはバリスタとしてそれを俺以上に持ってる。」

 

「それは・・・褒めすぎです。でも・・・そういうことなら管理人さんも・・・」

 

「俺のはただの仕事だよ、色々仕込まれた経験から喜ぶやり方を見出してやってるだけさ。だが俺の知っている限りカフェさんはユキノビジンさんや寮長さん、他の娘にも喜んでもらえるように、あれこれ考えてやってるだろ、それとくらべたら俺は大したことはしていない。」

 

流はポットからケトルに湯を注ぎながら答えた。

 

「でも・・・あの時私が・・・お友達に連れられて・・・あの場所に迷い込んだ時に・・・声をかけて焙煎を教えてくれたり・・・友達を作るきっかけになればいいとレシピのノートを頂いたり・・・商店街の明るいところまで案内してくれたりと・・・とても優しくしてくれたのは・・・・お仕事だったんですか?」

 

マンハッタンカフェの問いに流は照れくさそうに答えた。

 

「・・・さあな、ただあそこで豆を焙煎してた時の俺は完全なオフだった。それで察してくれ。」

 

「ふふっ・・・やっぱり・・・気遣いのできる優しい方じゃないですか・・・」

 

 マンハッタンカフェに笑われたことで、流は手に持っていたケトルを落としそうになった。

 

「察しろと言っただろうが・・・」

 

「ええ・・・察しています。」

 

「んで【お友達】は増えたか?」

 

「はい・・・皆さん変わり者ですが。」

 

「そうか、良かったな、俺もカフェと呼ばせてもらおうか、俺も【お友達】だしな。」

 

 

「ええ・・・ご自由に」

 

 

 流はケトルからエアロプレスに先程より多めのお湯を注いで撹拌し、充分にコーヒーとお湯が合わさったのを確認すると、プランジャーを押し込んで抽出していく、抽出を終えるとシェイカーに氷とチョコシロップと少量の牛乳を入れて一気にシェイクしていき、カップに注ぎスペシャルウィークと同じ様に刻んだチョコを乗せた物を、マヤノトップガンに差し出した。

 

「お待たせしました。冷やしカフェラテチョコシロップマシエスプレッソマシマシ牛乳スクナメです。」

 

「何でマヤのコーヒーの名前は何処かのラーメン屋の注文みたいなの!?可愛くない!ウマバの注文みたいなおしゃれなのにしてよ!」

 

「アドリブで作ったアレンジコーヒーって良い名前が思いつかないことってよくあるんですよね。ウマバの注文もラーメン屋のアレも何か呪文みたいですし、似たようなもんでしょう。」

 

 スペシャルウィークとのアレンジコーヒーの名前の落差にブー垂れてくるマヤノトップガン相手に流は悪びれもせずに返した。

 

「もー!ちゃんと考えてよ!」

 

「じゃあ、カフェモカダークシェケラートって名前で勘弁してください。」

 

 まだ不満そうだけど、さっきよりマシかもだと納得はしてくれたので次に誰のを作るかと考えながら、ブレンドの入ったキャニスターを再び開封するとコーヒーとは思えない程にチョコレートや蜂蜜とキャラメルの混じった甘い匂いが周囲に広がった。

 

「この香りは・・・カロシと何か他の豆とのブレンド・・・でしょうか?強いチョコレート臭はカロシとしてこのキャラメルと蜂蜜が・・・溶け合うような・・・どこか懐かしさのある・・・甘い香りは?」

 

 マンハッタンカフェがすっと、耳をピコピコさせながら、キャニスターを覗こうと顔を近づけてきたので、流はさり気なく自身の体から遠ざけるようにキャニスターをマンハッタンカフェの顔の前に動かしていった。

 

「ご明察。一つはフレンチローストで焙煎したセレベス・カロシ、もう一つはハイローストで焙煎したブラジル・キャラメラード、そこへほんの少しミディアムローストのイルガチェフェを加えたんだ。」

 

「焙煎は・・・管理人さんがされたのですか?」

 

「ああ、最近焙煎機を通販してな、コンピューター式のタブレット連動型のスマートボックスRと大坊コーヒー監修のガスバーナ付きの手回しロースターを買ったんだ、ジムにおいてあるから暇なときにでもに焙煎しにくるかい?」

 

「はい・・・その時は・・・ぜひお願いします。」

 

「で、このブレンドなんだが、どんな菓子があうと思う?」

 

「そうですね・・・深煎り中心のブレンドですので・・・苦味とのペアリングを考えるなら同じ・・・ユキノさんの焼いたクッキーやチョコケーキ・・・カステラのような・・・味がしっかりとした洋菓子類を選びますね。」

 

 ユキノビジンの作ったクッキーが真っ先に出てくるとは仲いいなあと流は思った。一度モカ原種、アールマッカに合わせた事があるが中々のものだった。

 

「正解、よく勉強しているだけあっていい答えだ。カフェさんはもう立派なバリスタだな。、深煎りのコーヒーにさっきの洋菓子が合うのは間違いないんだが、好奇心で他にもあるんじゃないかと色々試したら一番このブレンドに合っているのは和菓子でね、それも饅頭や羊羹とかの餡子だったよ。」

 

「確かに・・・餡子類の優しい甘みは・・・珈琲の味を引き立ててくれるでしょうね。」

 

「コーヒーの付け合せに和菓子のイメージはあんまりないからな、ユキノビジンさんなら和菓子系も詳しそうだが。」

 

 あくまでイメージであり、詳しいかどうかは流も知らない。

 

「ユキノさんは・・・コーヒーに合わせたアレンジしたクッキーですね。作っている姿も見たことは・・・なかったですね。」

 

流はしばし考える。

 

「なら、一緒に作ってみたらどうだい?例えばだが、アレンジコーヒーで餡子をいれたコーヒーしることかに合わせたやつとか、二人でレシピを考えながらいろいろやってみるのもなかなか面白いと思うぞ。」

 

「それは・・・楽しそうですね・・・でも何故、コーヒーしるこなんですか?」

 

「それはな、羊羹とコーヒーが合うんなら、いっその事ブラックコーヒーに餡子入れておしるこにしてみようかなと思ってやってみたら、思いのほかぴったりでな・・・すげえ悔しかったから、その悔しさを君にも味わって欲しいと思って。」

 

「よっぽど・・・悔しかったんですね。私もそうですが、コーヒーといえば・・・洋菓子のイメージが強いですから。」

 

「ああ、コーヒーしるこをベースにしたアレンジコーヒーを数種類ぐらい作ってしまうぐらいにはな・・・」

 

 憂いのある顔で流が妙なことを言い出すのでマンハッタンカフェは笑ってしまう。

 

「なんですかそれ・・・悔しいといいながら・・・結局楽しんでいる・・・じゃないですか」

 

「まあな、美味いと思ったら発展させたくなるからな、バリスタの性だよ。」

 

スケールの上に上蓋とハンドルを外したミルを置いた時だった。

 

「おしるこ!!コーヒーでもおしるこがつくれますの!?」

 

 さっきまでトウカイテイオー達と談笑しながらチョコやらを喰っていたのに何か急にスイッチがはいったメジロマックイーンがグイグイ来た。

 

「あんこにコーヒーをかけて混ぜるだけですから、ご希望であれば。」

 

「本当ですのね!白玉あんこがあったので取ってきますわ!」

 

メジロマックイーンはデザートエリアに向っていった。

 

流はミルに上蓋をはめ直すと先程と同じ様にマンハッタンカフェがミルを見ている

 

「さっきから気になっているのですが管理人さんの使っているミルって・・・ドイツ製のコマンダンテのC40の最新型ですよね?」

 

「そうだよ、挽いてみるか?」

 

 そのまま持っていたミルをマンハッタンカフェに手渡すとなんの抵抗もなく回るハンドルにマンハッタンカフェは感嘆した。

 

「これは・・・豆が吸い込まれる様に・・・挽かれていきますね、豆をすり潰すのではなく・・・斬ることで挽いていくのは知っていましたが・・・ただ私の手には少し大きめですね。」

 

「自分で淹れる分には普通の手挽きのミルのあの抵抗感と、ザリザリって音も中々にいいし、微粉や粒度のブレが織りなす昔ながらの珈琲の味も俺は大好きなんだが、相手に淹れることを考えると、フレンチプレスからエスプレッソまで行ける挽き幅を持って業務用と変わらない制度と安定性を持つこいつに落ち着くんだ。」

 

ミルを受け取ると新しく準備したエアロプレスに入れて準備しておく。

 

「確かにしっかりとした良いミルで挽くのが一番ですが・・・アンティークミルで珈琲をゆっくりと挽いていく・・・あの時間は何者にも代えがたい時間ですね・・・ただ最近はミルの調子が悪くて、古いので仕方ないですが。」

 

「話聞く限り相当大事にしてんだな、プレゼントか何かか?」

 

「はい・・・父と母から入学祝いに貰った大切なミルです。」

 

なるほどそりゃあ大事だと思った。

 

「そうか、焙煎しに来るときにミルも持ってきな、オーバーホールしてやるよ。大抵のやつなら直せるし、今日の午後の適当な時間にでも持ってくると良い。」

 

「良いんですか?」

 

「いいよ、生徒がモチベーションを保てるように務めるのも仕事のうちさ。」

 

「やっぱり・・・仕事ですか?」

 

「仕事だよ。んでそれまで代替品なんだが・・・これでいいか?」

 

 流はキャリングケースからコマンダンテX25と書かれたダンボールをとりだしてマンハッタンカフェに押し付けた。

 

「予備の奴で使わないからやるよ。」

 

「・・・えっ?」

 

「えっ?アンティークの卓上ミルは、携帯が面倒くさいから簡単に携帯できる奴があると便利だろ?俺のコマンドミルの新型で軽量高強度で耐水性能抜群の樹脂製だから、外でも安心で小型化してあるから、カフェの手にもフィットするぞ、性能も変わんねえし。」

 

「それでも・・・こんな高額な希少品・・・受け取れませんよっ!」

 

 結構強い力で押し返そうとしてくるマンハッタンカフェの力を受け流すようにして渡そうとする流

 

「いいから遠慮すんなって、これがあればフレンチプレスからエスプレッソまでいけるんだぞ。」

 

「カフェちゃん、遠慮せず貰っても良いんじゃないかな?カフェちゃん登山好きだし、それに挽くのに苦労したエスプレッソが楽に挽けるようになるんだよ。だったらお得じゃない?」

 

 受け取りを渋るマンハッタンカフェを後押ししたのはサクラローレルだった。

 

「ローレルさんエスプレッソは兎も角・・・それを差し引いても、凄く魅力的なミルですが・・・何故私に?」

 

「そりゃ、カフェが道具を大事にして他者を思いやる良いバリスタだからだな、あとな今使っているコマンダンテが思いの外頑丈すぎて、出る幕がなくてな・・・なんというか大事にしてくれそうなカフェに渡したほうが道具も喜ぶからな。」

 

 ローレルの後押しと流が引く気が無いというか、強引な押しに負けたマンハッタンカフェはため息をついた。

 

「ハァ・・・わかりました。ただ・・・貰いっぱなしも良くありませんので・・・ユキノさんから・・・お話を聞いたのですが・・・私もイベントのお手伝いをさせてもらっても・・・良いでしょうか?」

 

「そりゃ有り難いけど、あのマシンは理事長がよく知らずに買った、競技会常連の連中が使うような機種だけど大丈夫か?」

 

「私が得意なのはハンドドリップですが・・・エスプレッソに関しては・・・基礎的な手順はわかっているつもりです。」

 

「私、カフェちゃんからエスプレッソの作り方を習いましたから、ちゃんと出来ると思います。」

 

 流はマンハッタンカフェの珈琲の造詣の深さに感心した。

 

「なるほど、どのような感じで教わりましたか?」

 

「まずはブレンドした珈琲豆の焙煎から初めて・・・・」

 

 流は一瞬【ん?】となったがサクラローレルの話を最後まで聞くことにする。

 

「そのあとミルで極細挽きになるまで何度も繰り返し挽いて・・・。」

 

 流はサクラローレルが教わった方法を最後まで聞いたあと、マンハッタンカフェの事を彼女が白衣の友人を見るようなジト目でみた後笑い出した。

 

 それを見たトウカイテイオーが信じられない物というかスプラッター映画の強烈なシーンを意図せずに見てしまったような目で流を見ていた。

 

「そんなに・・・笑わなくてもいいじゃないですか。」

 

ムッとした表情で見つめてくるマンハッタンカフェに対して

 

「いやー間違いじゃねえけどずいぶん古いと言うか変わった方法でやってるというか、ハンドドリップの知識でエスプレッソを入れるとこうなるのかと思ってな。」

 

「カフェちゃんのやり方と管理人さんのやり方は違うんですか?」

 

 サクラローレル相手なので流は改めて敬語に戻した。

 

「ええ、私はエスプレッソが専門ですから。まず豆は焙煎直後のものでは無く、焙煎から一週間から10日前後の豆を使います。焙煎直後のものは豆の中の炭酸ガスが多すぎて、ガスが湯の通りを邪魔するしクレマが荒くなってスカスカになってしまうし味もよく抽出されない。だから炭酸ガスを抜いて湯の通りを良くしてクレマがスカスカにならないようにするんです。」

 

「なるほど・・・良いクレマを作り安定した抽出をするには・・・数日保管して・・・ある程度ガスを抜いたほうが良くなるんですね。」

 

「そういうことだ。後はブレンドに関してなんだけど、最初から生豆をブレンドして焙煎するんじゃなくて、焙煎した豆をブレンドしたほうが失敗が少ない。豆の適切な焙煎度は種類によって全然違うし、大きさもバラバラだし火の通り方も違うから、適切な焙煎がされた豆をブレンドしたほうが、味は良くなる。」

 

流はブレンドの入ったキャニスターを二人に見せた。

 

「これは俺が自作したブレンドだけど、これは一種ずつ焙煎してからブレンドしたよ、カフェが生豆からブレンドして焙煎できるのは、それだけ練習しているからそれに見合う技術があるのと、ハンドピックで豆の大きさを揃える事を手間を惜しまずやっているからだよ。それをな、焙煎経験の少ないサクラローレルさんにさせるのは難しいと思うし、カフェテリアの売店のエスプレッソ用のブレンドでも良かったと思うぞ。」

 

「ローレルさんに・・・焙煎とブレンドを楽しんでもらいたかったのですが・・・勇み足が過ぎましたね。」

 

「でも、私はカフェちゃんに焙煎からエスプレッソの作り方教えてもらって楽しかったよ、焙煎も覚えられたしお父さん好みの味も作れるようになったし。」

 

「どっちかというとカフェが得意なのは、ハンドドリップだろ。それに理想のエスプレッソの再現のサポートも出来て成功しているんだからいいだろ。」

 

少し凹み気味のマンハッタンカフェをフォローしつつ、流は話を戻すことにした。

 

「次は挽き方にについてだけど、極細挽きになるまで豆を挽くにも限度があるし時間がかかるし豆が熱を持って劣化するわ、粒度もまちまちでタンピングしてもチャネリング(味のばらつき)がおこるわで碌なことがないというか、手挽きで何度もやるのは機械式より直火式のマキネッタ向きのやり方で、機械式のエスプレッソマシンでやるなら、業務用の電動ミルを置いとかなきゃいけないよなこれ。」

 

「これからは豆を挽く時、カフェちゃんが管理人さんから貰ったミルがあるから安心だね。」

 

 

「まあ、良いミルでも手挽きはそれなりに時間はかかるから、理事長にエスプレッソ用の電動ミルを買ってくれるように頼んでキッチンに置くか?」

 

「それは・・・職権乱用でたづなさんに怒られませんか?」

 

「さっき理事長室行った時、エチオピアの良い珈琲を淹れたら喜んでたから大丈夫だろ、駄目だったら適当に自前で買っとくよ」

 

「えぇ・・・」

 

「話は戻るけど、イベントを手伝ってくれる件はありがとな、ちょっと一人でやるにはきつそうだったから、カフェのような腕のいいバリスタが居てくれると助かるよ。よろしく頼む」

 

「はい・・・ご期待に添えるよう頑張ります。」

 

「管理人さん、私もお手伝いしてもいいですか?エスプレッソをもっと知りたいから。」

 

直後サクラローレルも手伝いをも申し出てくれた。

 

「あ、はい、人手が多いのは助かります。」

 

流石に予想外だったので、流は変なリアクションをとってしまった。

 

直後メジロマックイーンが戻ってきた。丼に盛られた白玉あんこを持って。

 

「マックイーン!流石に持ってきすぎだって!」

 

「一日だけならチートデイでなんとかなるって専門家の管理人さんが仰っていたので問題ありませんわ!」

 

 流は流石に限度があるだろと突っ込みたかったが、チートデーについて言及したのは流自身なのでツッコむにツッコめなかった。

 

「では管理人さん、この白玉あんこでコーヒーしるこをつくってくださいまし!」

 

暴走してるなと思いつつもそれは口に出さない。

 

「理解りました、お作りしましょう、量が多い分少し時間が掛かりますが・・・カフェ、俺が抽出している間に豆挽いてくれね?」

 

 流はエアロプレスに湯を注ぎながら、豆を入れたミルを少し引き気味のマンハッタンカフェに手渡した。

 

「良いのですか・・・?マックイーンさんは・・・減量中のはずでしたよね?」

 

 突っ込みながらもミルを挽いてくれるマンハッタンカフェに優しさを感じるというか、元々面倒見がいい性格なんだろうなと思ったのと最高級のハンドミルの扱いを楽しんでいるフシもある。

 

「チートデイの説明をしたら、なんかスイッチ入ったみたいだな・・・もうコレは抑えられねえから作るしかねえし、最悪太ったらジムで減量させるよ」

 

「本当に面倒見が良いんですね・・・管理人さん。」

 

「そりゃあ、客の要望に応えるのがバリスタだからな、こうやって今付き合ってくれているカフェも中々だと思うよ。」

 

 お湯を注ぎ終えすぐに撹拌すると一気に抽出して白玉あんこにぶっかけるも、一投目ではあんこが多すぎておしるこにならない。次いでマンハッタンカフェからミルを受け取り、コーヒーかすを捨て抽出準備を整えたエアロプレスに豆と湯を再投入し抽出を4回ほど繰り返しコーヒーお汁粉を作り上げてメジロマックイーンに手渡した。

 

「あんこの甘さとコーヒーの苦味が合わさって、とっても美味しいですわ!いくらでも入りますわ!」

 

無理な減量も体に毒だが、チートデイにおける暴食もまた健康に良くないなと流は思った。

 

「ジムかん、ボクのコーヒーはまだー?」

 

「少々お待ちを・・・そこのアイスを使いましょう」

 

流はエアロプレスのキャップを圧力バルブ型キャップと特殊フィルターに交換してから豆をエアロプレスにいれて再沸騰させたお湯を淹れてサーバーに高圧抽出するといつの間にかテイオーが持ってきていた大きめのバニラアイスを取り熱々かつ濃厚な珈琲をぶっかけた。

 

 びっくりするトウカイテイオーに対して

 

「バニラアイスのアフォガード風です、冷たいアイスと熱い珈琲をどうぞお楽しみください。」

 

「ありがと、コーヒーとアイスが溶け合ってとろっとしてけっこういけるね。」

 

抽出後のコーヒーかすを捨て終えたら、マックイーンを含めた数名が、下さいって目でアイス持って並んでいた、知らないのも何名かいた。

 

流はもう無言で数名分の豆をミルに突っ込んでザリザリして突っ込んでお湯ぶっ込んでサーバーに抽出してかたっぱしからアイスにぶっかけていった。

 

並んでいたウマ娘がすべて掃けたので流はマンハッタンカフェに向き直る。

 

「んでカフェは何飲む?」

 

「そうですね・・・ハンドドリップコーヒーは出来ますか?」

 

 ある意味、流にとって最悪に難しい注文が来た。

 

「駄目・・・ですか?」

 

不安そうな顔でだめですかと聞かれて駄目だという気もないし、やると言われればやるのが仕事だ。

 

「あー出来なくはないが、あまり得意じゃないから期待はしないでくれよ。サクラローレルさんはどうします?」

 

「カフェちゃんと同じものをお願いします。」

 

「んじゃ二杯分だな。」

 

 本来エスプレッソが専門の流は、ハンドドリップがあまり得意ではない、だから量と時間と圧力の掛け方で抽出を調整できるエアロプレスを好んで扱う、ハンドドリップ器具は持っているが余り使うことがないというか、先程理事長室で淹れたときもエアロプレスを選んだぐらいには。

 

 再びキャリングケースから、保護ケースに入った、ギザギザの歯車のような形の陶器製の一つ穴のドリッパーとスタンド、さらに深煎り焙煎向きと書かれたペーパーフィルターを取り出した。

 

中挽きにミルをセットし直すと、そこから35gの豆をセットし、マンハッタンカフェに手渡した。

 

「少し準備がかかるから、豆を挽くのだけは頼むよ。」

 

マンハッタンカフェは受け取ったミルをゆっくり挽きながら、流の扱うドリッパーを見つめる

 

「得意じゃないと言っておきながら・・・また特殊なドリッパーをお使いですね。」

 

「得意じゃないだけで、下手ってわけじゃないし、それなりに練習はしてるよ。」

 

 流が今使っているドリッパーは20個の深い溝が特徴で、コーヒーの抽出速度がかなり早い作りになっているので、ケトルからの湯量を調節してより精度の高いコントロールが求められるドリッパーだ。

 

 湯をドリップケトルに移しつつ、湯の温度の確認をし、サーバーに湯を入れ温めていると、マンハッタンカフェがテーブルに猫のワンポイントの入った自前のマグカップを置いたのでそれも温めておく。

 

「準備良すぎんだろ。」

 

「良いものを頂くなら・・・当然です。」

 

 サーバーから湯を捨ててスケールの上に乗せて、ドリッパーをセットして、マンハッタンカフェからミルを受け取ったら、円錐形のペーパーフィルターをドリッパーにセットし、ミルから粉を投入し、平らに整えると、煎りの深い豆にあわせた85℃に調整した湯を投入を始めた。

 

 まず45秒掛けて、100mlの湯をゆっくりと全体を湿らすように投入していく、続いて45秒掛けて100mlを投入、その後30秒ごとに100mlの投入を3回繰り返し、3分30秒立ったところでドリッパーを外しサーバーを回して撹拌した後、抽出を終えた珈琲をマンハッタンカフェとサクラローレルの分のカップに半分ずつ分けていった。

 

「お待たせ、深煎り向けに低い温度でやったから、少し温めだけどな。苦かったら砂糖とミルク入れてくれ」

 

サクラローレルは一口飲んだ後に砂糖とミルクを淹れて美味しそうに飲んでいるけど、マンハッタンカフェはブラックのまま一口ずつ観察しながらゆっくりと飲んでいた。

 

「美味しいですね・・・カロシの苦味がキャラメラードとイルガチェフェの甘みと合わさって・・・口当たりは濃厚ですが、とてもスッキリした余韻です。」

 

「温度を抑えて苦味を減らしたからな、その上で抽出回数と量を用いて味を調整して、濃度を整えた。」

 

「そんなやり方が・・・・あるんですか?」

 

「あるんだよ、それで世界王者を取った人がウマチューブでレシピを公開してるよ、やり方そのものは簡単で、再現性も高いから試してみると良い。」

 

流は今やったやり方として、豆の挽き具合、温度、豆の量、お湯の量とタイミングをと手順を紙に書いて手渡した。

 

「ご丁寧に有難うございます・・・そこまでいしていただかなくてもLANEを交換すれば・・・。」

 

「いや、そりゃ駄目だろ、久々にあっただけの男に簡単にLANE教えたりするのは。」

 

「管理人さんなら教えても・・・問題ないかなと思ったのですが。」

 

「いや、問題だろ基本的に男は悪い狼みたいなもんだし。それに俺は毎日ジムに居るから、用があるならジムに直接来てくれればいいし、必要なら職員用のアドレスに連絡すればよくね?」

 

 職員として大人の対応を見せた流に、何故か周りの視線が突き刺さり、更に別方向というか頭上からも妙な視線が突き刺さってくる、そんな視線は全部無視した。

 

「俺としては別にコーヒー器具の練習したいとか焙煎とか目的でも構わねえわけだし、仕事以外は暇だから自由に使ってくれてかまわんしな、後コレ給湯室の鍵な。」

 

流は周りから見えないようにマンハッタンカフェに給湯室の鍵を手渡した。

 

「良いんですか?・・・・これ」

 

 いきなり給湯室の鍵を渡された事と、自由に入って焙煎していいと言われたりと正直戸惑いを隠せないマンハッタンカフェに流は適当に答えた

 

「駿川さんにバレるとやばいから給湯室は鍵を掛けているけど、カフェはお友達だし、別に良いだろ。俺が居ないときは焙煎道具と生豆は好きに使ってくれ、管理人室は俺の生活スペースだから鍵は渡せないが、入りたいときは俺がいるときだけにしてくれ。」

 

 

 道具をすべて片付けてキャリングケースにしまってから、時計を確認すると、まだ職員の休憩時間が1時間近く先だと確認すると一度ジムに戻って荷物の整理をすることにした。

 

「じゃあ、私はこれで一度ジムに帰ります。」

 

 

流はその場に居たメンバーに挨拶すると、ジムへと戻って行った。

 

 

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