ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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長くなりました


24.それなりに実績があったなら経験者には名前を知られている事もある(旧題、狂狼と白狼

トーセンジョーダン一行が中山レース場へ向かった後。

 流は不機嫌な顔でロイヤルビタージュースを飲みながら、新入生向けのジムのオリエンテーションの資料を作りつつ、マンハッタンカフェに焙煎を手伝わせていた。

 

「さっきから・・・機嫌が悪そうですが・・・写真の事・・・怒っていますか?」

 

「怒っているように見えるのなら、そうだろうな、次はケニアを中深煎り、マンデリンを深煎りでやっとけ。」

 

 マンハッタンカフェの問にぶっきらぼうに答えつつ流は作業を続ける。

 

 実際、流は写真の件は、期待させといてやっぱやめたとかされると腹が立つという、気持ちはわかるので怒っていないし、むしろカフェに対しては愚痴を聞かせてすまないと思っているし、焙煎を手伝ってもらっているのでむしろ感謝しているぐらいだ。

 

 何故、こうピリピリしているのかと言えば、トーセンジョーダンの事である。

 

 自分が指導に関わった相手だ、トーセンジョーダンの皐月賞の勝利は疑ってはいないが、競技なので絶対はないしむしろ怪我のほうが心配であり、本人には伝えていないがレースの結果なんかどうでもいいから、無事に帰って来てほしいというのが本音だ。

 

 流も別競技の指導者として、プロ、アマ、ジュニアとたくさん選手の指導をしてきたが未だに慣れるものではない、選手が競技を終えて無事帰ってくるまでは落ち着かないものだ。

 

 やはり落ち着かないので、気晴らしにシャドーでもしようかと考えたが、さっきぶっきらぼうな対応をしてしまったマンハッタンカフェのフォローが先だと考え給湯室に入ると、マンハッタンカフェがサクラローレルと一緒にコンピューター式の方の焙煎機を触っていた。

 

「エスプレッソのブレンド、自分でつくるとしたらどんなのがいいかな?」

 

「フランスやイタリアのエスプレッソは・・・苦味やコクにロブスタと言われる種類の豆を使うのですが・・・カロシを使ってみるのも・・・面白いと思います。」

 

「最初は、エスプレッソでも2種類から3種類のブレンドをおすすめします、2種類でも配合比率や焙煎度で味が組み合わせがかなり変わりますからね、エスプレッソにおける苦味やコクが着地点なら、カフェの言う通りカロシを使ってみるのも良いと思います。」

 

「管理人さん、お邪魔してますカフェちゃんに入れてもらったんですけど大丈夫ですか?」

 

「どうぞどうぞ、サクラローレルさんにはイベントもお手伝いしてもらいますし。」

 

「ありがとうございます、ええと・・・ブレンドのおすすめの比率とかってありますか?」

 

「そうですね、2種類でしたらベースを6割アクセントを4割で3種類でしたらベース5割、つなぎを3割、アクセントを2割位の割合ですね、ベースにするならバランスの取れたブラジル、コロンビア、グアテマラあたりがお勧めです、エスプレッソならベースを中煎りから中深煎りにしてアクセントに当たる部分は深煎りと考えればOKです。」

 

 ブレンドというのは基本的なポイントを抑え作りたい味をイメージできるなら、簡単に楽しむことが出来るが、サクラローレルにブレンドを教えているのは、造詣が深くこだわりも強いマンハッタンカフェだ。

 その上でここには沢山の種類の生豆があり、焙煎から自由に行う事ができるのだ

 

 

「地獄へようこそ、サクラローレルさん。」

 

 

「・・・どういう意味ですか?それは。」

 

 

「カフェは焙煎もブレンドも徹底するからな、つきあうサクラローレルさんは苦労するだろうなって。」

 

 

「流さん相手じゃあるまいし・・・そこ迄やることは・・・ありません。」

 

「俺相手ならやるのか。いきなりロブスタの代わりにカロシを使おうって考えるって事は魔改造エスプレッソブレンドを作る気満々じゃねえか。」

 

「もう・・・さっきの事を怒っているからって・・・皮肉った言い方をしなくても良いじゃないですか。」

 

あ、そっぽ向かれた拗ねかけてる。

 

 態度が悪かったのをすまなかったと言いに来たのに怒らせたら元の木阿弥だ。

 

「さっきの事に関しては俺が見せると言っておいて、話題が逸れたのを良いことにはぐらかそうとした俺が全面的に悪い、すまなかった。」

 

流は素直に謝った。

 

「詫びと言っちゃなんだが、ここにトパジオ以外の希少種をまとめた注文リストがあるんだが・・・」

 

「そう何度も・・・物で釣れると・・・」

 

と言いながら尻尾は素直だ

 

「そりゃそうだな、近くに置いとくから、気が向いたら言ってくれ。」

 

 少し時間がかかると判断して流は一度給湯室を出た。

ちなみに、サクラローレルはこの状況を見ながら楽しんでいた。

 

 タブレットで予めリストアップしたものの中から一番グレードの高い、大坊珈琲店のネル一式とドリップポッドを注文した。

 

どうにもこうにも落ち着かないのでシャドーボクシングをすることにしていた。

 

 流はカウンター前のスペースに出ると軽くストレッチしてからぴょんぴょんと飛び跳ねて心拍数を上げて全身に血液と酸素を送り込み体を温めていく。

 

 いつものように後ろ重心のサウスポーに構えると、全身を大きく使い左のミドルキックを蹴りぬきそのまま、左ストレートからの右フック、左ストレートと繋ぎ、左を全身で戻す反動を利用して、体重を乗せた左肘打ち右膝蹴りへと繋いでいった。

 

右前蹴り、左ミドル、ワンツーと一つ一つの動きを意識しながら放って最後に左膝から左肘を放ち終えると。

 

「おぉ、見事な蹴りとコンビネーションだねぇ、キックボクシングかと思ったけど肘を振っている所を見るとムエタイかぇ?」

 

パチパチと拍手しながら、年寄りくさいおっとりした口調の狼を思わせる髪型ウマ娘が話しかけてきた。

 

「どうも、キックボクシングですね、肘あり、今で言うムエタイルールが主戦場です。」

 

そのウマ娘は流の顔をまじまじと見つめる。

 

「その顔結構派手に斬られてるねぇ、その傷だと何回か止められたでしょ。」

 

「ええTKO負けでそのまま会場の医務室で麻酔抜きで縫われたときはきつかったですね、初めて派手に斬られた時は16になったばかりですから、アドレナリンが出てるとはいえ泣かずに我慢するのが精一杯でしたよ。」

 

「痛かったろうに、よく泣かずに我慢できたねぇ、えらいえらい。」

 

 お年寄りのような口調のウマ娘は、穏やかな口調で流の頭をポフポフと数回撫でてほめると、何かを思いだそうと流の顔を見つめてくる。

 

「お兄さんの顔、どっかで見たことあるんだけどねぇ・・・どこだったかねぇ?」

 

「私は、学園職員でジムの管理人ですから、他の場所で私の事を見たのかもしれませんね。」

 

「いんや、もっと前に学園以外の場所だから・・・あぁ、お兄さん後楽園ホールで天ちゃんと肘有りルールで試合して勝った、【狂狼】こと蒼真 流選手だね。」

 

 

流は団体に所属していた時の自分の通称を知っているウマ娘がいることに驚いた。その上で一瞬、天ちゃんが誰のことか分からなかったが、過去に試合した天河の事だとわかった。

 

「確かに狂狼と呼ばれたことはありますが、天河の事を知っているんですか?」

 

「もちろんだよ、天ちゃんとは幼馴染でねぇ、子供の頃はうちのボクシングジムに所属していて中学2年でU-15ボクシングの55kg王者だったんだよ、キックに移ったときもうちのジムに出稽古に来てずっとボクシングの練習をしていたねぇ。」

 

「なるほど、初めて彼とやったときは肘なしルールだったのですが、あの時、彼のボクシングテクニックはそちらのジムで教わったからなんですね、二戦目はわざわざ肘有りで私を指名してきたりと、面白いやつでしたね。」

 

「天ちゃんはデビュー戦の時は相手に自分に有利なルールで受けてもらって勝っただけだから、勝った気しないってずっと言ってたからねえ。」

 

流はふと挨拶が遅れていたことに気がついた。

 

「挨拶が遅れて申し訳ない、私はジムの管理人で一応フィジカルトレーナーも務めさせていただいている、蒼真と言います。」

 

 流の挨拶を受けてお年寄りのような口調のウマ娘は自らも自己紹介した

 

「ああ、ごめんねぇ、あたしもお兄さんと話すのが楽しくて名乗るのを忘れてたよ、あたしはワンダーアキュートっていうの、よろしくねぇ。」

 

ワンダーアキュートは流の前で軽くシャドーをしてみせた。パンチの精度もスピードも流以上だ、A級ボクサーやランカーと遜色ないパンチの技術だ

 

「あたしも父ちゃんから、ボクシングを教わっててねえ、前は天ちゃんと練習して天ちゃんのミットを持ったりもしたんだよ。」

 

ワンダーアキュートはファイターのギラギラした目で流をみる

 

「お兄さんのシャドー見てたら、なんかウズウズしてきたよ。お兄さん、蹴りは凄いけどパンチはまだまだだねぇ。」

 

「そこは本職のボクサーさんに比べるとやはり数段落ちますよね。」

 

「それもあるけど、お兄さんは肩甲骨周りがかなり柔らかいから、腰があまり回らなくても肩が確り入る分、それなりに威力はあるだろうけど、腰の回転を使えたら、もっと距離も伸びるし威力も回転力も上がるとおもうよ。」

 

ボクサーのパンチの視点と見識は素晴らしい、自分のパンチの欠点を簡単に指摘してもらえた。

 

「腰の回転を活かすには重心を下げることなんだけど、お兄さんキックだからねぇ、あんまり下げると蹴りが出しにくくなるから、重心の調整が難しいね、あたしがお兄さんのミット持つから、パンチミットを持ってきてくれないかい?」

 

「わかりました。」

 

 流は備品倉庫にあったパンチミットを取り出すとワンダーアキュートに手渡した。

 

 自身はオープンフィンガーのパンチンググローブをつける。

 

 「タイの奴だね、それじゃあ右のジャブから行こうかかね。」

 

 

 ワンダーアキュートは左手を高くあげ、右のジャブを打たせる、このやり方はボクシングでよく見られる、足を使ってジャブを深く打ち込ませるやり方だ、一回二回とジャブを打ち込ませていき、最終的には10連続のジャブを打ち込んでいった。

 

 「ジャブの当たりが浅いよ!もっと深く打ち込まないとストレート伸びないよ!」

 

 続いてワンツーを打ち込んでいく、そしてステップインジャブからのワンツーと続けていく。

 

 体の使い方により流の動きに隙が生じた瞬間、ワンダーアキュートが流の顔面をミットで容赦なく引っ叩く。

 

「ストレートを打つときに左足が動いていない!体が開いてるよ!」

 

 流は直ぐにステップ修正をすると再びワンツーを打ち込んでいく事を延々と繰り返し。

 

 続いてダッキングへと移行する、右のダッキング、左のダッキングからのカウンターの右ボディ、右フック、左ストレートとコンビネーションを叩き込んでいく。

 

 そこから、ハイスピードの四連打からの、右ガード、ストレート、フック、ストレート、左ガード、右フック、左ストレート、右アッパー、左ストレート、右フック、左ストレートとに加えてダッキングやブロッキングなどのディフェンスパターンを交えた早い連打のコンビネーションがインターバルなしのノンストップで続いていき最終的には、ランダムパターンの試合のようなミット打ちになっていた。

 

「セリョー、ジムかんとアキュートは何やってるの?」

 

「ボクシングのミット打ちだなそれも、メイウェザーがやってるようなとんでもなく高度で速い連打を複数組み合わせてる、ただディフェンスがブロッキングとダッキング中心でウィービングをやってないってことは、多分あの男はボクサーじゃないな」

 

「へー何かすごいことやってるんだね。」

 

「凄いというかとんでもねえよ、ミットを持ってるアキュートのレベルもすげえが、管理人の方もスタミナ切らさずに平然と付いていってるなジャージ上下着用で暑いだろうにイカれた体力だな。」

 

「じゃあジムかんって本当に格闘家なんだ。セリョーは軍隊格闘技の教官でしょ?どっちが強いのかな?」

 

「条件次第じゃないか?俺の使う格闘術はあくまで生存のための護身術で最終手段だからな、格闘家と戦うことは想定していない。それに何でもありだったら彼らも何をするかわからないから、結局のところわからんよ。」

 

 トウカイテイオーはスピカで研修中の見習いトレーナーの外国人を連れてジムに来たら、管理人とワンダーアキュートが異様なレベルのミット打ちを延々と続けているのだ。しかもそれが30 分以上ノンストップで続いている。

 

「さあ、ラスト行くよ!ダッキングしてストレート!フック!ストレート!そのままストレート全力!ストレート!ストレート!はい終わり!」

 

 ワンダーアキュートのノンストップデスミットが終わると流は両腕をだらんとさせて肩で息をしていた、その姿は意地でも倒れ込んでたまるかというのが見て取れた。

 

 暑くなったので、ジャージの上を脱ぎ捨てると、ラッシュガード越しに限界まで絞り込まれた鋼の肉体が顕になると同時に一瞬で汗が湯気になる。

 

 脱いだ直後近くで見ていたウマ娘やトレーナーたちの視線が集まったが気にしなかった。

ウマ娘の体温に合わせて室内のエアコンは低めに設定してあるがそれでも暑くてたまらなかった。

 

「熱くなってしまってごめんなさいねえ、教えた事を一瞬で覚えて直していくもんだから、止まらなくなっちゃったよ。」

 

「こちらこそ久々に良い練習が出来ました。一人だとついついセーブしてしまうので、有り難いです。」

 

「技もそうだけど、体の方もしっかり作り込んであるねえ、試合はせんのかい?」 

 

「残念ながら、今は休業中ですね。」

 

「そうかい、また時間があったらミットを持ってあげるよ。」

 

「ありがとうございます、その時はよろしくお願いします。」

 

「あとねえ汗をかいたら、この大根のぽりぽりさんがええんよ。」

 

 ワンダーアキュートはタッパーに入った大根の漬物を一切れ爪楊枝に挿して渡してきた、一口かじるとぬか漬け独特の酸味と塩気が体に染みてたまらなく美味かった。

 

「大根の糠漬けですか、これはとんでもなく美味いですね、お礼がしたいので給湯室の前に来ていただけますか?」

 

「ごめんなさいねえ、あたしこれからトレーナーさんとジムでウェイトトレーニングをするんよ、あたしが約束の時間を間違えて早く来すぎちゃったのよ、そしたらお兄さんがジムでシャドーしてたから声をかけたのよ、終わってからでもいいかい?」

 

「そうでしたか、練習が終わって時間があれば給湯室前にトレーナーさんと来たときにご用意させて頂きます。」

 

「じゃあその時お願いしようね、またねお兄さん」

ワンダーアキュートは後から合流したトレーナーと一緒にスクワットラックの方へ向かっていった。

 

 ワンダーアキュートが去った後、流の足から力が抜けた。ボクシングの練習は腕もそうだが地面を蹴り続けるため脚がパンパンになる、人間としてはかなりの体力を持つ流だがその上を行く驚異的な体力を持つウマ娘の持つ高速ミットに30分以上ノンストップで付いていったのだから、両脚ともに力が入らなくなってしまうのは仕方ない。

 水分補給に給湯室へ向かおうとした直後、よろけたところを大柄な外国人に支えられた。

 

「あんた脚がフラフラじゃないか、平気か?」

 

「コレは失礼、恥ずかしいところを見せてしまいましたね、ただの筋疲労ですからそのうち良くなりますよ。」

 

正直喋るのも億劫だが、表面上は取り繕ってみせる。

 

「あれだけハデなミット打ちをやってんだから疲れるのは当然だろ、地に足がついていないぞあんた。」

 

「そうですね、ちょっと派手にやりすぎました。ところであなたは?スピカのトウカイテイオーさんと一緒にいましたが。」

 

「ああ、俺はセルゲイ、今期から入った新人トレーナーで、今はスピカで沖野トレーナーの頃で選抜レースまで期間限定で見習いをさせてもらってる。」

 

「ジム管理人の蒼真です。今期からということは、私と同じくらいの時期に学園に来られたのですね。」

 

 トレーナーは一部の例外を除きシーズン毎の採用でありURAやNRAとの契約になるが、流は中途採用の学園職員であるが理事長との契約という特殊なもので、施設管理者であり一切の派閥に関与しない中立の教官という事情から理事長が直接雇用する形を取っている。

 

 

「あんたも新米の管理人か、部署は違うが同期ってわけか、よろしく頼むよ。」

 

「よろしくお願いします、しかし随分日本語がお上手ですね。」

 

「親父が海軍で小学生までは横須賀に住んでたってのと、俺も海兵隊で沖縄に居たからな。」

 

 

「退役軍人さんですか、ここでは珍しいですね。」

 

 

「任期満了で除隊後の就職支援プログラムでトレセン学園のセキュリティやってるCSSって会社の格闘インストラクターとして入ったんだが、子供の頃に日本で見たレースの事を忘れられなくて、ここのボスから許可を貰って働きながら一年勉強してトレーナーの採用試験を受けたら見事に合格。晴れて中央のトレーナーさ、とはいえ格闘インストラクターとしての仕事も続けるんだけどな。」

 

「それは良かったですね。担当が付いたら、フィジカル面で必要なことがあったらお手伝い致しますので。」

 

「そりゃ頼もしいな、その時は頼むよ。っとあんた足はもう回復したみたいだな。」

 

セルゲイは流を支えていた手を離した。

 

「少しだけ疲れは残っていますが、もう大丈夫です。ありがとうございました。」

 

「おう、気をつけてな。」 

 

 流はセルゲイと挨拶を交わすと水分を取りに給湯室に入った直後また疲れがぶりかえし、ふらつきながら冷蔵庫のドアをあけると冷気が漂ってきて、体の熱とともに疲労が抜けていくのがわかった、スポーツドリンクの入った500mlのペットボトルを取り出して一気飲みしていると

 

  横からマンハッタンカフェから声をかけられたが、水分補給をすることでワンダーアキュートとのミット打ちによる疲労が抜けていくことに反比例して上がっていくテンションとアドレナリンで昔の近寄るなモードに切り替わりかけていた流は

 

 

「・・・あ?何だよ」

 

 

 と無意識にいつもとは違う、誰彼構わず斬りつける殺気のこもった鋭い目で睨みつけるようにしながら、ドスの利いた声で答えた。

 

 普段と違う流の様子に、驚き戸惑った様子を見せるマンハッタンカフェを見て、流はすぐに元に戻った。

 怖がられるのはまあ仕方ないが、怯えさせてしまうのだめだ。

 

 

「って・・・・やっべ、カフェごめん!疲れすぎてハイになってた・・・ホントごめん。」

 

 

「いえ・・・驚いただけですので、お気になさらず・・・流さん・・・練習でお疲れのようでしたので・・・珈琲を用意したのですが・・・いかがですか?」

 

 

「ああ、ありがとう頂くよ。」

 

 

 マンハッタンカフェからカップを受け取り、そのままゆっくり飲んでいくと濃い甘苦さが舌に伝わっていく。

 

 

「エスプレッソに練乳を溶かしたミルクを淹れたのかタイ式のやり方だな、確かノートに載せてたな」

 

 

「ええ・・・先程・・・ローレルさんと一緒に作ったブレンドで・・・エアロプレスを使った練乳ラテです・・・お口に合えば良いのですが。」

 

 

「にしても意外だな、カフェはブラックコーヒー原理主義というか狂信者だと思っていたんだけどな。」

 

 

「確かに・・・私はブラックコーヒーが好きですが・・・原理主義者でも・・・狂信者でもありません。確かに・・・ユキノさんにもブラックで飲めるようになって欲しいですし・・・皆さんにも・・・ブラックの本当の美味しさを・・・味わっていただきたいのですが。」

 

 

「やっぱり原理主義者だろ・・・。」

 

 

 そういえばさっきからマンハッタンカフェがしょっちゅう視線を反らすようにしていることが気になった。

 

 

「どうした?なんか視線を外したり外さなかったりチラチラと。」

 

 

「その・・・いつも違う格好というか、肌の露出が多くて・・・目のやり場に困るというか・・・」

 

 

 普段は上下ジャージ着用なのが上半身だけとはいえ、薄いラッシュガード越しにバキバキに鍛え上げられた筋肉のラインが顕になり半裸に近い状態になっている。

 

「ああ、久々に派手に動いてジャージを脱いだからな、別に俺は試合人前で脱ぎ慣れてるから恥ずかしくないが、冷やすのもアレだから着とくか」

 

 

 流はジャージを羽織るようにしてきた

 

 

「細いのに・・・ガッチリしていていて・・・絞れていて・・・鍛えこんであるというか・・・」

 

 

「そりゃ、休業中とはいえ引退しているわけじゃないし、ジムの指導者の体がだらしないと説得力ないだろ。」

 

「確かに・・・そうですね。」

 

流は棚から生豆の入った大きなキャニスターを取り出した

 

 

「この豆は・・・?」

 

 

「エルサルバドルのCOE1位、ミレイディ、お勧めは浅煎りから中煎りぐらいだが、カフェが好きなように焙煎して色々試してみると良い。ふぁ・・・久々に体動かしたから眠い・・・寝てくる。」

 

 

「まだ・・・お仕事の時間・・・じゃないんですか?」

 

 

「勤務も休憩も自由だ、問題ない、誰か給湯室の方に来たら適当に飲み物置いとけばなんとかなる。」

 

流はマンハッタンカフェにキャニスターを手渡すと管理人室にもどり、シャワーを浴びて新しいジャージに着替えるとそのまま横になった。

 

 高いボクシング技術を持つウマ娘ワンダーアキュート、CSSで格闘教官を兼務する新米トレーナーセルゲイとの出会い。

 

 そして数時間後のトーセンジョーダンの皐月賞での勝利者がジムの管理人としての流だけではなく、キックボクサーとしての流にも大きな変化をもたらすことになる。

 




UA4万ありがとうございます。

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