ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
『ヌゥン!ヘッ!ヘッ!
ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!』
スマホから流れる聴覚が破壊されそうな程に煩いクソデカ目覚ましのアラームの音で流はキッチリ2時間の仮眠から目を覚ました。
「・・・汚え目覚ましだなあ。」
良い目覚ましアプリだと思うが作った奴はだいぶ頭がイカれていると流れは思う。
流は受付から出てスポーツドリンクを取りに給湯室に戻ると、マンハッタンカフェとサクラローレルはまだコンピューター式の焙煎機とサンプルロースターで遊んでいた。
冷房は常にかけているが、焙煎の熱で結構暑く、キャニスターには様々な焙煎度で焙煎された豆が保管されていた
「二人で何バッチ焙煎したんだよ・・・」
バッチとはビール鋳造の単位数だがコーヒーにも使われる。
「温度やモーターの回転速度や・・・メーカーお勧めの焙煎プリセットをカスタムしながらなので・・・15バッチ位ですね。」
タブレットの画面を見ながらマンハッタンカフェは返答した。
「完全に遊んでんじゃねえか・・・。機械が熱でやられるぞ、んで汗を拭け前髪が、デコに張り付いてんぞ。」
そばにあったタオルを濡らしてから、固く絞って冷凍庫で冷やした濡れタオルを首にかけてやると一瞬、驚いてマンハッタンカフェは抗議の目を向けるも意図を理解したのか、タオルで顔と頭を吹き始めた。
近くの急冷器で豆を冷ましていたサクラローレルにもタオルを手渡す。
「ブラジルの中煎りですか、冷却も手慣れてきましたね。」
「ブレンドのベースはこれが良いかなと思って。」
「チョコ感が強めですからベースに最適だと思いますよ、違う焙煎度の同じ豆同士を混ぜるとかも良いと思います、一種類の豆でも焙煎度で味は変わりますから。」
「なるほど、それも良さそうですね、試してみます。」
「是非是非、あと、お二人とも水分を取ってくださいね、ここ暑いですから。」
2人にスポーツドリンクを渡してから流は給湯室を出ると、仮眠で硬くなった身体をほぐすためにストレッチを始めた。
身体の柔軟性は大事だ。特に股関節の可動域が上がれば打撃力は格段に上がる。
レースなら歩幅や安定性が増すし体力の消費も少ないと良いことずくめだ。
首、肩、股関節、足首と入念にやっていき、最後にもう一度股関節を前後左右ともに180°まで開脚して行き胸まで付けていくと、上から声が聞こえた。
こえた。
「管理人さん、男性なのに体がとても柔らかいのですね、もしかしたらテイオー並かもしれませんわ。」
「元々の柔軟性もありますが、長年ストレッチをやっていたら、誰でもこのレベルに近くはなりますよ。」
「そうなんですの?なら私もストレッチをもう少し念入りにやったほうが良さそうですわね。」
「可動域は広がるので走るときもストライドを広げやすくなるし技術の幅も広がる、スタミナは減りにくくなるし重心もぶれにくくなりますし、悪いことはないかと、それで何か御用ですか?メジロマックイーンさん。」
そのままの状態で倒立しながら足を閉じ、両腕で飛び跳ねるようにしてブレイクダンサーのように立ち上がる。流の身体能力に驚きつつもメジロマックイーンが答える。
「減量についての相談と食事とか回復の事で相談に参りました。」
「減量ですか、減量というか調整に近い形でしょうけど、どのくらいの期間と体重幅でやっていますか?」
「大体レースが決まって3ヶ月で6~8kg位ですわ、体質的に体重が増えやすく落ちにくいので長期で節制してもそれぐらい戻ってしまいますの。」
メジロマックイーンの減量の幅は流から見れば期間的にも体重的にも普通といえば普通だ、ただエネルギーの消費と出力がでかいウマ娘というか年頃の女の子がそれを続けるのは精神的にも肉体的にも辛いだろう。
「ああ、私からみたら減量幅も期間も普通ですね。」
「管理人さんからしたら普通ですの!?」
「そりゃあ、私なんかは短い時は1〜2週間の短いスパンで連戦することもありましたからね、だいたいその時は1〜2キロで済ませるのですが、普段は約3キロ、契約体重にもよりますが最大で5キロでしたね。」
「管理人さんはそこまで大幅な減量はされないのですね?」
「私の場合は子供の頃から、やっていて身体の成長に合わせて上げていったのと試合間隔が短い分普段から節制しているので普段の階級ならそこまで苦労はなかったですね、ただそれでも元々の体脂肪が少ない分、何ものこってない所からの残り1kgは本当に過酷でした。」
「階級制競技になるとより減量は過酷ですのね・・・。」
「そこは階級制ですから、他にも私の出稽古先で、試合が決まる度に、毎度毎度20キロ近く落としていたデビューから無敗の30連勝のチャンピオンという化物じみたプロボクサーがいまして」
20キロという数字を聞いてメジロマックイーンは本気で驚いた。
「その方本当に人間ですの!?私達ウマ娘でも短期間でそんなに体重は増えませんし、そんなに一気に落とすことなんて不可能ですわ!」
メジロマックイーンの疑問は最もだと思うが、実際にいるのだから仕方ない。
「その方は体が大きいのに、普段からどころか試合が決まっても、暴飲暴食を繰り返したり、減量期にも関わらず、ランニング中の水分補給で1.5リットルのコーラを何本も一気飲みしたりしていたりと減量のきつさに関しては半分自業自得ですね。」
「えぇ…減量中にコーラを一気飲みしようだなんて私でも考えませんわ。」
「あんまり体重が落ちないもんだから自転車で様々な場所の献血の場所を探しては血液を抜いてからジムに練習に行き、そのあと夏場にストーブを焚きながらシャドーボクシングやミット打ちをやったりして、最終的にはすべて絞り出して、飲まず喰わずでカラカラになってろくに動けない状態で計量会場に向かっていましたね。」
他競技の選手に対するドン引きするような減量の内容を聞かされメジロマックイーンは困惑した。
「人前に出たら生き返ったように足取りがしっかりしているんです。」
「ああ、でもそれはわかる気がします、私達もファンの前では弱気なところは見せられませんから、でもそんな状態で戦えますの?」
不思議そうにするメジロマックイーンをよそに流は淡々と答えた。
「前日計量ですからね、その後に栄養と水分を補給して身体をリバウンドさせるんです。私がリバウンドするのは精々3キロほどですが。その方は一晩で13キロくらい戻っていましたね。」
「やっぱり、私にはその方が人間であることが信じられませんわ・・・」
「内臓の消化吸収能力が異常に高かったのでしょうとしか・・・。」
「そんな芸当ができるのは、ウマ娘でもオグリキャップさんぐらいですわ。」
「ただ、ウマ娘さんの場合は体重制限はありませんから、減量と言っても脂肪を落としたり調子を整える程度の調整なので、そこまでする必要はありませんけどね。」
「では何故そのような減量の話を?」
「極端な減量の1例として紹介しただけです、今考えたら競技の内容が違いすぎるので参考にはなりませんでしたね。後、私と話す時にまだ緊張されているようでしたのでぶっ飛んだ選手の減量の話でもしてみようかと。」
メジロマックイーンが流と話したのはカフェテリアでの減量の話についてと流の試作したスイーツがゴールドシチーのウマスタに上がったときに、なぜ自分も呼ばなかったのかと抗議しに行ったときぐらいで、オフ時にテンションが上った状態でしか話したことがないので、仕事時の仏頂面で淡々としている流に話しかけるのは気が引けるのは事実だったが、そこに気づいて配慮されるとは思わなかった。
流から見て、メジロマックイーンがそこまで減量をする必要があるとは思えなかったので、考えられる事はメジロマックイーンの基礎代謝がかなり低いから、吸収したカロリーを運動エネルギーとして処理しきれず結果的に体が脂肪として蓄えてしまい、結果ボクサー並みに減量する必要が出てくる。
本来1〜2キロの調整程度の減量で十分なはずだ。
なら、食事調整よりも、基礎代謝を上げるのが一番良い、それに必要なのは筋肉だ。
160センチ程のメジロマックイーンの体は骨格に反して筋肉量が少ない感じだ、そう言えばカフェも小柄でかなり細かったなと思った。
「減量がきついなら、すこし増量していきましょうか。」
メジロマックイーンはびっくりした。
「減量の相談をしに来たのに、増量ですの?」
「減量幅を下げるために筋肉量を増やして基礎代謝を上げるんです。」
「筋肉の量をですか?私はステイヤーですし筋肉をつけすぎるのはあまり良くないのでは?」
メジロマックイーンがよくある質問を返して来たので
「それについてよく質問されますがそこは大丈夫ですよ、筋肥大を目的とした地獄のような筋トレとそれに合わせた大量の食事と恵まれた才能があってビルダーさんのような筋肉になりますし、その上でトレセン学園で最も筋トレに励んでいるメジロライアンさんでもあのレベルですから。」
「そこまで大きくは発達しないってことですの?」
「発達するための栄養とか骨格とか色々ありますし、その上でウマ娘さんの筋肉の発達速度は神経系と筋力に関してはかなり高いのですが、筋肥大に関しては人間の女性とそう変わらないみたいですから、それに・・・・」
マックイーンの体格を見て流は、ひとこと。
「元々起伏に乏しい体型のようですから、多少筋肉をつけたところで外見上の変化はあまり見られないかと。」
「どっせい!!!」
直後、流の水月に、腰の入った強烈な左のボディーブローが炸裂した、人間を凌駕するウマ娘の筋力と瞬発力で放たれた一撃はマックイーンのサイズでさえ、ヘビー級ボクサーのそれを上回る。
その打撃は素人に見られる滅茶苦茶なフォームで力も分散しているが、それでも流の腹筋は同階級であればプロ選手の膝蹴りの連打を受けきるほどに鍛えられているが、それを容易く貫き悶絶させるだけの威力があった。
「信じられませんわ!貴方にはデリカシーという物がありませんの!?」
流は水月を押さえ呼吸困難になりながらも、ダウンしかけるも膝を地面に着くことなく、息を吐ききり強引に呼吸を整えて立ち上がったが、呼吸は荒くその足はダメージで震えている
「・・・フィジカルトレーナーとして見たままを、そのままお伝えしたのですが。」
「余計にタチが悪いですわ!」
そこへいつの間にか焙煎したての豆の入ったキャニスターを持ったマンハッタンカフェが給湯室から出てきて、マジギレしているマックイーンと呼吸が荒く足が震えている流を見比べて、ため息を付くと
「流さん・・・貴方はマックイーンさんに・・何を言ったんですか?」
と呆れ気味に流に問いかけるのだった。
(中編へ続く)
いつも感想ありがとうございます、拙い文章ですがよろしくお願いします。