ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
マンハッタンカフェは流とマックイーンをカウンターの前に連れてくると、マックイーンの話をゆっくり聞いていた。
「それは・・・流さんが悪いです・・・殴られても仕方ありません。私が言われたらなら・・・一時間は口を聞きませんね」
一時間程度で良いんですの?とメジロマックイーンは突っ込みたかったが、黙っておいた
「俺はフィジカルトレーナーとして間違ったことは言っていないと思うんだが。」
カウンターの前でバーベルのプレートを載せられた状態で正座させられながらも抗議してくる流に対してマンハッタンカフェは淡々と返す。
「流さんは黙ってそこで正座していてください・・・火に油を注ぐだけですから。」
正座させられている流をいつの間に現れたのか【お友達】が見下ろしながら指さしてゲラゲラ笑っているのを流は気配で察した。
流は【お友達】の方へ視線を向けると。
「次からジムの入り口に盛り塩しておくか?」
流の発言に対し【お友達】は『お、やんのか?やんのか?』と言わんばかりに圧を向けながら流の頭上をぐるぐる回りながら、シャドーボクシングをやりだした。
「流さんは・・・黙ってて下さいと言いましたよね?アナタも・・・煽ったらダメ」
メジロマックイーンは何もないはずの天井の空間に何かを挟んで流とマンハッタンカフェが会話をしているのを見て、ちょっと怖くなった。
「そこに何方か、いらっしゃいますの?」
「今ここに・・・お友達が居ます。さっきも外で管理人さんがマックイーンさんと・・・お話をしていると教えてくれました。」
マンハッタンカフェのお友達については、メジロマックイーンも聞いていた。彼女にしか見ることができず、彼女にしか声の聞こえない存在、最初は思い込みとかイマジナリーフレンドの類だと思っていたが、彼女の周りで起こる妙な現象の噂を聞いていると、もしかしたら、本当に居るのかもしれない程度に思っていたが、目の前の管理人も【お友達】が本当に存在しているように、接しているのだ。
「管理人さんにも、お友達さんが見えているのでしょうか?」
マジロマックイーンの質問に流はマンハッタンカフェに、話していいかと目配せすると、OKされたので口を開いた。
「私は見えませんし、声も聞こえませんよ。ただ気配だけは、はっきりとわかりますから、ジェスチャーである程度は意思疎通できますので。」
「何で姿が見えないのに、ジェスチャーが理解出来ますの?」
流は聞かれたことには可能な限り、正確に答えたいタイプであるが、例えを探すのに苦労した。
「例えるなら、エコロケーションって知っていますか?」
「ええ、イルカやコウモリが超音波の反響音で空間を把握している、反響定位の事ですよね?」
「ええよくご存知で彼らは音の反響で物体の形を認識をするのですが、それに近い形で私はお友達の気配から動きを察知して把握している形です。」
「簡単におっしゃってますが、それって出来る物ですの?」
「カフェみたいに、ああいった存在の姿が見えたり声が聞こえたりするのは、先天的なものでしょうが、私の場合はキックボクシングの練習や試合を長年やっているうちに後天的に身についていましたね。メジロマックイーンさんもレース中に後方を確認しなくても、誰が仕掛けてくるのかとか直感でわかりますよね、それと似たようなもんです。」
「ええ、言ってる事は何となくですがわかりましたわ。」
「私の場合は中学時代に色々あって地元の中高生の不良グループとと争っていたので、背後や暗がりから襲撃されないようにしつつ、時には先制攻撃を仕掛けて他者の気配を察知し逃走することを繰り返していたので、能力が必然的に身についたというのが大きいですね。」
「サラッと物騒な事を言っていますけど、それ犯罪行為ですわよね!?」
「まあ通報されなければ、事件は事件になりませんし、仮に捕まっても単なるガキの喧嘩扱いで終わって大した罪にはなりませんから、現に相手側も面子を優先しましたからね。」
「なんでそんな事になりましたの?」
「学校のちょいワルグループに虐められているクラスメイトを助けたら、そいつらに逆恨みされまして恨むという気もおこせないぐらい徹底的に叩きのめせば良かったのですが。」
ちょっと引いているメジロマックイーンとマンハッタンカフェをよそに【お友達】は話をワクワクしながら聞いている。
「そのうちの一人のご兄弟に地元の不良グループの幹部クラスが居て、報復として狙われるようになって2ヶ月程抗争のような状態が続きました。」
「狙われていたのなら・・・警察に相談したらよかったのでは・・・」
マンハッタンカフェの至極当然の言い分に流は
「カフェの言う通りそれが一番なんだけど、当時の俺は荒れていて喧嘩の相手をさがしていたし逆に色んな技術や戦術が試せる上に、抵抗できない弱いやつを選んで暴力を振るうような奴は何されても文句は言えないだろって感覚でこっちから襲ってたし。」
「この争いはどういう形で終わりましたの?」
「最終的には事態を重く見た私の地元の先輩が地元の顔役をされてる方に相談に行ってその方が間に入って、私と相手グループのボスを自宅に呼んで俺の顔に免じて手打ちにしてくれと仲介に入り、お互いの事情を話して和解しました。」
「何というか、任侠映画の世界のようなお話が実際にありますのね・・・」
「似たようなものですが、顔役の方はヤクザではなく情に厚い演歌歌手さんですから、大分話題がズレましたが、つまり暴力は全てを解決してくれるという事です。」
「そこでそう繋げますの!?」
「更につなげるとしたら、先程言った事も意図があってのことですから。」
「あんなコンプライアンスの欠片もない発言に別の意図がありまして?」
それに関してはメジロマックイーンは当然まだ怒っている。
「反応を確かめたかったんですよ、私と会話する時に最初は結構緊張されていましたし、あれでメジロマックイーンさんの反応次第で、指導方法を決めようと考えていたので、予想の範囲内とはいえボディーブローは強烈でしたが・・・先程の
発言は申し訳ありませんでした。」
流はメジロマックイーンに対し頭を下げて謝罪した。正座をさせられている状態なので座礼というよりは土下座だった。
【お友達】がマンハッタンカフェに、何か言っているようだったが、こういった状況では【お友達】のジェスチャーはわからないし、声は元々聞こえないので、何を言っているのかはわからなかった。
「そういうことは言っちゃ・・・ダメ」
それでもお友達と会話するマンハッタンカフェの言葉で何を言っているかは予想はついた。
大方、形ばかりで絶対反省してねえぞコイツ、みたいなことを言われているんだろうなと流は思った。
「意図はわかりましたし、謝罪も受け入れますから頭を上げてください。」
メジロマックイーンは穏やかな口調で流の謝罪を受け入れた。
流はカウンター前で正座させられたまま
「最初の減量の話に戻りましょうか、その前にお茶菓子でも用意しましょうか、カフェ、給湯室の冷蔵庫にボネとシベリアが入っているからメジロマックイーンさんに出してあげて、あとコーヒーはカフェのおまかせで。」
マンハッタンカフェは減量の相談に来た相手に菓子を出して良いのだろうかと思いながらも、流の言葉に従った。
「ボネはこの前頂いたので・・・わかるのですが・・・シベリアというのは聞いたことがありませんね・・・どんなお菓子なのでしょうか?」
「ああ、羊羹をカステラで挟み込んだ菓子だよ、実家でたまに作ってたのを再現した。見ればすぐにわかる。」
シベリアがどんなものか流から聞いたマンハッタンカフェは給湯室へ入っていった。
「カステラで羊羹を!?そんな暴力的なスイーツがこの世に存在しますの!?」
「甘味の少なかった昔は流行ったらしいのですが、如何せん手間がかかる菓子ですから、だんだんと作るパン屋さんやお菓子屋さんも減っていって今では一部のメーカーさんとパン屋さんが文化保存として残しているぐらいです。」
「管理人さんのご実家では作られていたのですね。」
「母の趣味でカステラから羊羹まですべて手作りでやるので、予約制かつ10食限定でしたが私が作ったのは母のやり方をそのまま再現した物ですから、味は保証します。」
そこへマンハッタンカフェが、ボネとシベリアを乗せた皿を持ってきてくれた。
どちらもかなり大きく、シベリアは厚いカステラを更に分厚い羊羹で挟み込んだ巨大な円形のホールケーキのようだった。メジロマックイーンはもう食事の体制に入っている
「2つとも・・・かなり大きいので驚きました。」
「こういうのはデカいほうが作りやすいからな、カフェも半分食べるといい。」
「半分でも・・・私には少し多めに・・・感じますね。」
「そうか?なら相部屋のユキノビジンさんにも分けてやりゃあ良い。俺が、んでメジロマックイーンさんも許してくれたことだし、そろそろ足を崩していいか?限界に近いんだよ・・・。」
メジロマックイーンに謝罪した後も律儀に正座を続けていた。流は流石に仏頂面も崩れて辛そうな表情を浮かべていた。
マンハッタンカフェは、【お友達】と二言三言、言葉を交わすと
「【お友達】がプレートをもう二・・・三枚追加しようぜと・・・言ってますが・・・冗談だと思いますので・・・もう姿勢を崩されてください。」
流はプレートを退かし、足を崩した後すぐに立ち上がって正面のカウンターを支えにしつつ屈伸を行い、血流を妨げられていた足に無理やり血を流し込む。
「【お友達】は俺に恨みでもあんのか?」
「恨みとか・・・そういうのではなく、怖がらないどころか・・・気配で位置を察知して、ある程度コミュニケーションを取ろうとするどころか・・・実際に取って見せる人なんて、普通は居ませんから・・・彼女から見ても興味深いんだと思います。」
「じゃあ、ロイヤルビタージュースを部屋に来た時にお供え物として振る舞おうとしたことを恨んでるわけじゃないんだな。」
「それは流石に・・・恨まれるまでは、行くとはおもえませんが・・・根には持つと思います。」
「贅沢だな、味はクソ不味いんだが結構好きだし、高いんだぞあれ。」
「同じ高いなら・・・私ならスペシャリティコーヒーを出してもらう方が・・・嬉しいですね。」
先程サクラローレルと一緒に焙煎した豆を自前のアンティークミルにセットしながらユックリ挽いていった
「なら、【お友達】みたいに今度トレーナー寮の俺の部屋でも来るか?ここに持って来ていない品評会クラスの良い豆を出してやるぞ。」
流は学園のジムの管理人室で寝泊まりして入るが、職員としてはもちろんフィジカルトレーナーでもあるので、オブザーバー扱いでトレーナー寮の一室を貸与されているが、寮としては使っておらず、使わない衣類や実家から送られてきた希少豆の保管場所を兼ねたサンプルロースターを用いた焙煎の研究エリアとなっている、流はたまに量に来ては、一人で珈琲をゆっくり愉しむ事を続けていた。
「ジムだけでなく、トレーナー寮にも・・・お部屋があるんですね・・・。」
「管理人でもあるけど、一応、フィジカルトレーナーという教官だからな、トレーナー寮が与えられているんだ、
豆置き場兼コーヒーの研究室としてしか使ってねえけど。」
「お部屋があるなら・・・たまにはそちらの方で休んだ方がと思いますが・・・それで・・・ここには出してない豆って・・・例えば・・・どういった種類のものがあるのでしょうか?」
「ここの方が寮より広くて快適だからな、豆は珍しいと言えば、エチオピア・アベラシェ・ナチュラルだな。」
その瞬間マンハッタンカフェのミルを引く手がとまった。
「その豆は・・・去年の品評会でトップを取った内の一つですよね・・・よく手に入れられましたね。」
「生豆ならそんな高くないし、10 キロ単位でならCOE(品評会上位)クラスでも買付は難しくないからな、実家に頼めば大体の豆は手に入るよ」
「それは・・・流さんのご実家が珈琲や紅茶関係の商社をされているからだと思います。」
「あら、管理人さんのご実家はコーヒーや紅茶の商社さんをされてますの?ということは紅茶にも詳しかったりしますの?」
メジロマックイーンはコーヒーの事はよくわからないが良い豆を仕入れるコネと造詣の深さから、紅茶にも通じるか気になって流に質問した。
「紅茶に関しては殆ど知識はありませんね、紅茶について学んでいたのは姉と妹でしたので、時間を頂ければ実家から仕入れて用意することはできますよ。」
「良いんですの?」
「まあ、コーヒーばかり出してるのも不公平ですし、ノウハウのない私が淹れるとしたら、コーヒーの応用でマキネッタを用いての高圧抽出で無理やり濃く出しますので、ラテにするか何かで割るベースにはなるとは思いますが。」
「これはまた、ワイルドな方法を用いますのね。」
「タイでの行きつけのコーヒー屋がこのやり方で紅茶を淹れていたので良く覚えていたんです。」
「国によって様々な、淹れ方がありますのね。」
「名家の茶会で飲むような高級なもんじゃなく、大衆向けのやり方ですが。」
「でもお茶会でやってみたら、とても面白そうですわ、管理人さん今度マキネッタの使い方を教えてくださいます?」
「その時はお教えしますよ。」
「ええ宜しくお願いいたしますわ。」
次いで流はマンハッタンカフェに話を振る
「で、カフェは寮の方には来るのか?そんときは予定は合わせるぞ?」
「ええ・・・近いうちに。でも・・・悪い狼にはならないくださいね?」
上目遣いで黒歴史を誂うように言ってきたが軽く返す。
「なんねえよ、寧ろ【お友達】みたいに消灯後とか深夜に入ってくるのは勘弁な。」
「え・・・深夜?・・・消灯後?・・・どういうこと・・・?」
マンハッタンカフェがお友達に視線を向けた直後【お友達】から何かが失せていき、全力逃走した。
「すげえな、あの速度で逃げるのか、しかも障害物全透過か。」
流はすげえと、感心した。隣のメジロマックイーンはマンハッタンカフェの貌を見て戦慄した。
なんかカフェがすげえ顔になってるなあ、と思った流は、このままにしとくとお友達とカフェがしばらくギスギスするだろうなあと考えた。
流としてはマンハッタンカフェに黒歴史を弄られた事と【お友達】の煽りに対する軽い意趣返しのつもりだったが、両者というかお友達に対し、思いの外効果的だったようだ。
【お友達】が夜中に管理人室に侵入してきたことは、良くないことではあるが、人では無いし
ただ流としては当事者が怒っていないのに第三者がまた怒り出すというのは気に食わなかった。
ここで拗れるとこちらの気分が悪いので、流は突如マンハッタンカフェの正面に立ちカウンター越しに両手で顔を挟み込むようにしながら、彼女の頬をこねくり回しはじめた。
その顔は心底、面倒くさそうで不機嫌さも現れている。
いきなり顔を手で挟み込んで頬を捏ね繰り回すという流の予想外の行動に、マンハッタンカフェは感情が吹っ飛び困惑するしかなかった。
「つーかさ、俺は怒ってないと言ったろ、解決した話なのに新事実が出てきた程度で、また蒸し返そうとすんなよ。」
顔が近い、傷痕が目立つが、元々切れ味鋭くモデル顔負けの端正な顔立ちの流だ。それが無遠慮に顔を近づけてきたら
「だからといって・・・夜中に勝手にはいるのは・・・」
困惑しながら言い返すと更に遊びだす。
「カフェの言い分はわかるよ、でも俺は許した。そこを曲げられるのは気に食わない、わかるか?」
この光景を横で見ていたメジロマックイーンは流のことをサーカスで人に慣れた肉食獣が、突如牙を剝いたように感じた、流がマジギレ?していると同時にマンハッタンカフェを傷つけるつもりはない事もわかってはいる、ただ下手に話しかけるのは恐いので様子を見ることにした。
給湯室の奥に居たサクラローレルは楽しそうに眺めている。
流としては、お友達を責めるならカフェを監督不行届で責めることになるし、自分が決めた事をこちらに関係ない所で蒸し返されるのが気に入らない。
と言う訳で突拍子もない行動に出たわけで実際に結構キレ気味で、野郎相手だったら面子を潰すのかと殴るか恫喝するぐらいには苛ついていた。
流も多少理不尽な自覚はあるが抑えきれないものは仕方がない。
「わかりました・・・わかりましたから、少し落ち着いてください・・・。」
マンハッタンカフェは気恥ずかしさやら理不尽さやら照れくささのせいで、【お友達】との件は頭から吹っ飛んでいた。
「わかればいい、わかれば・・・だがな・・・」
流は爽やかな微笑を見せた、これが別の状況であれば、見た者すべてを惹きつける優しい笑顔だ。
また面倒くさそうな表情に戻り、顔の険は取れているが、マンハッタンカフェの顔から手を話していないし、若干、捏ね繰り攻撃の強さが増している
「人の黒歴史のセリフを引っ張って、人前でイジってくんじゃねえよ。」
流も過去に自分で言った事とはいえ、人前で言われるのは結構痛い、怒る気は無いがちょっと報復したいというのもあった。
「もう言いませんので・・・許してください。」
「わかった。ただな・・・頬の感触が癖になってきたから、もう少し続けてもいいか?」
冗談で言ったらYESとNOとも何とも言えない微妙な顔をされたので
「冗談だよ、やめだやめだ。そんな顔すんな・・・」
流はマンハッタンカフェの頭を優しく撫でてから手を話した、正直自分でもやりすぎた気がしないでもないが気は済んだ。
マンハッタンカフェは顔を押さえてうつむいていた。
やはり流石にやりすぎたと思い、声をかけようとすると一言
「・・・けだもの」
一言だけでそっぽを向かれた
流石にそのカウンターは強烈だった、自業自得ではあるが。
「それで、管理人さんのご機嫌は治りました?」
今度はメジロマックイーンの機嫌が悪くなりかけていた、目の前に変わり種のスイーツがあるのに、お預け状態にされている事に対しご立腹である。
「ええまあ、強烈なカウンターを貰って凹み気味ですが。」
「なら早くドリンクもお願いします。せっかくのスイーツが室温で温まってしまいますわ!」
「保冷皿使ってるから大丈夫ですよ。」
「保冷剤も限界がありますわよね?早くカフェさんを復活させてドリンクをお願いしますわ!」
ホントこの娘は甘味が絡むと変貌するよなあと流は思いながら、改めてマンハッタンカフェに声をかけた
「悪かった、いくら腹が立っていたとはいえ、やりすぎた。」
「悪かったと思っているなら・・・ちゃんというべき言葉がありますよね?」
「はい、ごめんなさい。」
「はい、よく言えました。」
「詫びと言っては今度シドラのアナエロビックナチュラル(嫌気性発酵と自然乾燥による精製したコーヒー豆で非常にフルーティ)の浅煎りを出してやるよ。」
「もう・・・物で釣ろうとするんですから。」
「良いものは良いものだし、その割には思いっきり、耳に出てんぞ。」
「・・・そういうのは、スルーして頂けると・・・ありがたいです。」
マンハッタンカフェは流と会話しながら、挽き終えた豆をカウンターにおいてあった流が愛用しているエアロプレスを逆さにして豆をセットしお湯を少なめに注いでいった。
流はそれをみて、給湯室の冷蔵庫から練乳とミルクを取り出し、マンハッタンカフェの右隣に立つと、ミルクに溶かした練乳を金属製の氷の入ったグラスに注いでマドラーと一緒にマンハッタンカフェに差し出すと、驚きながらも、グラスにエアロプレスを乗せて抽出を開始した。
「どうして・・・私の作ろうとしている物がわかったのですか?」
抽出を終え練乳がたっぷり入ったラテをメジロマックイーンに差し出しながら質問した
「メジロマックイーンさんは甘党で、その上で深煎り豆の量に反して湯の量が少ないから、さっき俺に出してきた練乳ラテだと判断した。」
流は練乳ラテとほぼ同じタイミングでカウンター上のボネとシベリアを切り終えた。
メジロマックイーンは切り分けられたボネとシベリアを受け取ると、メジロマックイーンは上品に口に運んでいく。
「このボネと言うプリンのようなお菓子は固めのプリンとサクサクとしたメレンゲの食感が面白くて、シベリアの方は羊羹とカステラの甘さがうまくマッチしてまさに和洋折衷ですわ!」
流は自分で出しておいて何だが、減量中の相手にこれだけの甘味を提供するのは不味くねえかとは思った。
次いでメジロマックイーンは、ストローから練乳を用いたラテを少し含んだ。
「ちょっと、苦味のあるミルクチョコみたいな感じですわね、スイーツと相性が抜群ですわ。」
「カフェの淹れたコーヒーの量と、菓子の甘さにに合わせて、練乳とミルクを計算して氷はビアキューブという溶けない氷を使いました。」
「言葉に出さずとも相手の考えや動きに合わせられるのは、以心伝心や一心同体を体現されているようで、素晴らしいですわ。」
「以心伝心とか一心同体というか、他人だからこそ相手を観察して知ろうとしてわかり合おうと努力するんですよ。これは予測が当たっただけですから、逆に信頼のある関係だからこそ本当に大事な事は言葉にしないと伝わらないと思います。」
メジロマックイーンは興味深そうに話を聞いていた。
「ただ、私がそういうのはありえないでしょう、カフェにはもっと他に相応しい方が居るでしょうし・・・っ!」
尻と腿に鞭の様なローキックを貰ったような気がしたが、隣を見てもカフェがミルの掃除をしているだけだった。
怪現象ってやつだろうと考えてスルーすることにした。
「では食べながらで結構ですので、そろそろ本題に入りましょうか、メジロマックイーンさん。」
【後編へ続く】
次回こそはもっと簡潔にまとめられるようにしたいと思います。