ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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ノリと勢いで書いています。


31.5(4)エスプレッソは抽出は早いが慣れないと準備に時間がかかる。

流は手元にある道具の確認をしなおすと説明をやり直した

 

 

「まずは、ドーシングだな、ワンショット20gだな、気持ち多めにとって秤に載せてから20gになるように調整するといい。」

 

 マンハッタンカフェが、グラインダーにホルダーをセットし目分量でバスケットに注いでから秤にのせると1.2グラム程多かった。

 

「ほぼ初めて使うグラインダーとホルダーでそこまで出来るのはやっぱ上手いなカフェは、そこにあるマドラースプーンで削ってやればいい。」

 

『はい』機嫌良くと答えた彼女の距離がいつもより近い様な感じがするが後部エリアがミニバーのような一人用のカウンターになっているから狭いのが大きいのだがそれにしても近いので緊張感がでかい。

 

「続いてレベリング、これはちゃんとディストリビューターとニードル(粉を平にする道具)を使ってちゃんと整えたほうがいい。」

 

「特に粉とかは溢れていませんし、流さんのように、叩いて粉を落としてから・・・そのままタンピングするのは駄目・・・でしょうか?」

 

「駄目だ、経験が足りない内は道具を使って粉の偏りをなくさないと、タンピングした時に密度に偏りが出て、味が安定しなくなる。俺と同じようにやるのは基本が正確に出来てからだ。」

 

常に首元に刀を突きつけられているようなこの状況でも、技術を伝えるのに妥協する訳にはいかない。

 

「ちょっと気持ちが・・・急ぎすぎましたね、できるだけ早くお手伝いできるようになりたかったのですが。」

 

「急がなくて良い、カフェは元々ドリップメインだから沢山抽出よりもゆっくり丁寧な作業って方が性にあってるだろ、バールやチェーン店でたくさん出すんじゃなくて喫茶店でエスプレッソを提供するというなら、ゆったりとした場で丁寧な作業を見せられるってのは、特別な一杯を演出する意味では重要になる、拙速は巧遅に勝るとも言うがコーヒーに関してならそうとも限らない。」

 

「なるほど・・・私がユキノさんにコーヒーを淹れるときのような感じで・・・粉を整えればいいってことですね。」

 

「ま、そういうことだよ。最初はニードルで粉をかき混ぜてその後に、ディストリビューターを使って平らにすれば良い。そこからタンピングだ。」

 

マンハッタンカフェはホルダーをスタンドに置くとエスプレッソニードルでゆっくりと粉をかき混ぜてから左右に軽くふってからディストリビューターで粉を平らに整えた。

 

「こっから仕上げのタンピングなんだが本当は適正な圧力を確認するのは体重計とかで数値を計るのが一番いいんだが、ここには無いか。」

 

 キッチンカーの中にそんな物があるわけがないし、プロのバリスタはだいたい何百もこなすので適正な圧力は感覚で覚えるようになる。ヒト相手の指導の経験はあるがウマ娘相手は未経験だ。彼女たちの膂力は滅茶苦茶に強いホルダーの故障もそうだが、タンピングの圧力が強すぎてマシンが故障しかねない、そこで流は少し考えた。感覚を覚えてもらうのに思いついた方法は一つだけだった。

 

「悪いな・・・狭いから我慢してくれ。」

 

 流は後ろから密着するような形でマンハッタンカフェのタンパーとホルダーを持つ手に自身の手を添えた、離れた場所から見れば後ろから抱きしめているようにも見えるような形だった。

 

「えっと・・・これは?」

 

 

 彼女の両手が妙に熱いのと、尻尾で尻や足を叩かれるのが地味に痛かった、後何故かわからないが相当に力んでるのがわかる

 

「嫌なのは分かるがちょっと力抜いてくれ、こっちも教えきれん、ウマ娘は全体的に力が強すぎるから、適切な圧を感覚で覚えてもらわないといけないんだよ。」

 

 踏み台があろうと、流の方が多少背が高く顔が近い、耳元で普通に声をかけるとうるさいだろうと、ゆっくり囁くようにしたら、耳が動いたあと小さく頷いてから力が抜けたのがわかったのでホルダーをスタンドにセットしてからタンパーを乗せゆっくり、しっかりと圧を掛けていき、タンピングを終えるとそのままマシンにホルダーをセット、腕の力こそ抜けていたとは言え、他の部分はガチガチに力んでいたのが伝わっていたので感覚を理解して貰えたかどうかは不安だった。

 

「今俺がカフェの手ごとタンピングしたぐらいの力が20kg何だが感覚はわかったか?」

 

 離れようとしたら何故か両手首を掴まれてロックされて離れられない以外は上手く行っていると思っていた。

 

「流さん・・・私以外の方に・・・こんな教え方したら・・・駄目ですからね。」

 

「ああ、ウマ娘に教えるときは次から定圧タンパーかオートタンパーを使う事にするよ、ウマ娘の膂力を考えるとそっちの方が効率が良いというのがわかったし、普通はこんな狭い場所で教える事もなかったから確かに非常識なやり方だった、だから手を離してくれ。」

 

「そういう事とは違うのですが・・・・ちゃんと・・・・約束してくれますね?」

 

「ああ、分かったそこは約束するよ。で、今日焙煎していたのは、コスタリカ、カロシ、イルガチェフェ、ケニア辺りか?エスプレッソ用のブレンドだからって、全部深煎りにする必要はねえぞ。」

 

手首の圧が緩んできたので距離をとるとマンハッタンカフェも流の方を向いた

 

「はい・・・でもよく分かりましたね。」

 

「ああ、これでも焙煎士でもあるからな、さっきタンピングを教えたとき、カフェの匂いと一緒に焙煎した豆の匂いがしたからな、カフェの体温は高めみたいだから、匂いが揮発しやすいんだろ、後でシャワーを浴びておくんだな、次は抽しゅ・・・っ!!!!」

 

 靴の先でスネをコツンと蹴られた。砂袋やビール瓶で叩き続けてサンドバックや古タイヤを蹴り込むことで鉄の硬く鍛え上げられたスネでも痛いもんは痛い。

 

「痛えじゃねえか・・・何すんだよ。」

 

「デリカシーのない方は・・・知りません」

 

 流はマンハッタンカフェの方を見るとカウンターの方を向いて耳が絞られていた。

 

「デリカシーって、別に臭いとは言ってないし、後でシャワー浴びたほうが良いって言っただけじゃねえか。」

 

「そこが・・・デリカシーが無いと・・・言っているんです。」

 

マンハッタンカフェの返しに流はため息をつく

 

「俺の人間性にそんなもん求めんなよ。俺じゃなくて、ユキノビジンさんが言ったら、カフェは怒るどころか笑って返しそうだけどな。」

 

「それは・・・ユキノさんと流さんでは対応が違うのは当たり前じゃないですか。」

 

「それもそうだな。」

 

「ハァ・・・もういいですから。抽出について教えて下さい。」

 

 呆れ気味に返すマンハッタンカフェに対し、流は壁ギリギリまで距離を置いてから説明を始めた

 

「そうだな、ホルダーは20gだからな、9気圧で30秒40g抽出を目指すといい、ショットグラスの下に小型スケールを置いて測ってやればいい。」

 

「なるほど・・・時間で流量を測るんですね、どうして距離を取っているんですか?」

 

「そりゃ蹴られたら嫌だからな。」

 

 

「蹴ったりなんてしませんよ・・・流さんが変な事を言わないなら。」

 

そっぽ向いたまま流に答えるマンハッタンカフェ。

 

「そりゃあそうなんだが、俺自身、俺の人間性を信用してないからなあ、最後の手段を取るか・・・悪く思うなよ」

 

流はマンハッタンカフェの首元に手を後ろから抱きしめるように被さる

 

「へっ・・・!?え!?」

 

 ガチで動揺しているマンハッタンカフェをよそに流は自身の行動をムエタイクリンチ、つまり首相撲の応用で後ろから密着することで打撃をある程度防ぎ、大きな力の動きがあれば素早く離脱できる、その上で肩の上に顔を乗せる事で背後への肘を受けるリスクも少ない、安全策として冷静に行っていた。

 

「両手はフリーなんだから、早く抽出始めろよ。」

 

「なんで・・・そんなに冷静なんですか・・・貴方は。」

 

「そりゃなあ、こうしている方が一番安全だからな、後なんか知らんが落ち着く。」

 

「・・・・・」

 

 マンハッタンカフェは流予想外の行動と発言に驚きと気恥ずかしさとさっき言われた言葉が頭の中で繰り返されて軽いパニックになりかけた、流の外見は切れ味鋭い整った顔立ちで一見するとすらっとしているが、かなり鍛え込まれているし、性格はともかく彼女から見て幼い頃に読んだ童話に出てくる人物のようなルックスの男が無自覚にこういう事をしてくるのだから、たまったものではないが深呼吸して精神を無理やり整えることに努めた。

 

『マジで下心なんも無く自分の安全確保って認識なんだから、逆にすげえわこれ。』

 

 力の差を本当に理解したからこそのこのやり方をしているのは【お友達】から見てもわかるが、ぶっ飛んでる上にブレない行動に感心すら覚える。

 

 料理してるスタッフ達はガン無視をかましてる所に【お友達】はプロ意識を感じた。

 

 マンハッタンカフェによる一回目のテスト抽出が始まると、しっかりと抽出されているが、先程流が抽出した物と比べるとややコーヒーが落ちてくるのが遅く、抽出完了まで40秒ほどかかった。

 

「最初にしちゃわるくないな、先ずは自分で飲んで確かめてくれ。」

 

 流は飲みにくいだろうと言う事と、これ以上は攻撃はされないだろうと判断して離れつつマンハッタンカフェがエスプレッソを飲むのを見守る。

 

「十分美味しいのですが・・・少し味にえぐみというか・・・味が強く出すぎているような感じがします。」

 

「じゃあ、挽目が細かすぎたか、少し荒くしてみるといい。」

 

グラインダーのメモリを1メモリほど荒くしてから、一通りの作業を終えて再抽出すると32秒で完了した。

 

「今度は・・・流さんとほぼ同じ味になりましたので・・・うまく出来みたいです。」

 

「2回で完了か、なかなかに速いな、それじゃあもう一杯用意してくれ。」

 

 流は抽出を見ながら、先程作っていた煮立てたスパイス入りミルクを茶こしで濾したものを別の保存容器に移し替えていた。

 

「カフェは確かブラック党で過激派原理主義者だっけ?」

 

「はい・・・そういった物騒な主義を掲げているつもりはありませんが・・・珈琲はブラックが好きです。」

 

「ブラックで飲むのは日本が主体なんだけどな。」

 

「・・・そうなんですか?」

 

「基本的にコーヒーは苦いからな、だから何処の国も砂糖やミルクとか色々入れるんだよ、ブラックこそが豆の個性を引き出すってわけでもないってのもある、エスプレッソなんかは本来ガッツリ砂糖入れるもんだし、ロブスタが主流のベトナムなんかじゃコーヒーは練乳いれたりするし、味の楽しみ方は自由だ。ちなみに俺は甘いカフェラテを生ハムを合わせて飲んだりするからな。」

 

「コーヒーは苦い・・・味の楽しみ方は自由・・・言われてみれば確かにそうですね。」

 

 

 流はカフェラテに生ハムというのを華麗にスルーしたマンハッタンから、抽出されたエスプレッソを受け取ると無駄のない所作でエスプレッソに甘くならない程度に携帯型ミルクフォーマーで泡立てた少量のスパイスミルクを加えていった。

 

「自分でエアロプレスをつかったり純喫茶とかで飲むコーヒーぐらいだからなブラックで飲むのは、缶やペットボトルだと、ラテ系や微糖ばっかりだし、ブラックはあんまり飲まないんだよ。出来たぞチャイカフェマキアートだ。」

 

 すぐに出来上がった即席のマキアートをマンハッタンカフェに差し出した。

 

「美味しい・・・力強い苦味と、ほのかにミルク甘さとスパイスの風味が合わさって・・・なんとも刺激的ですね。」

 

「ありがとな、ブラック好きのカフェでもミルクの量が少ないマキアートなら飲みやすいだろ。」

 

満足そうに飲んでいるのを見て、そこは言うまでもないと判断した。

 

「それでだ。今からやるのは、香辛料の強いインドやネパール料理に合わせたコーヒーなんだが、カフェならどうする?」

 

マンハッタンは少し考えながら

 

 

「そうですね・・・私なら・・・スパイスの刺激や風味に負けない・・・甘めのホットラテを選びますね」

 

「そうだな、この系統は甘いラテが合うし、提供する相手も年頃のウマ娘ばかりだしな、チャイラテで行こうか、最初の一杯はカフェがユキノビジンさんに淹れるといい。」

 

 

(続く)




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