ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
「マジですの!?じゃあ、あのローリングエルボーを防いだシーンはどうやって防いだか答えてくださいまし!本当なら答えられますわ。」
カワカミプリンセスが凄く驚いた顔で質問をしてきたが流は即答で
「ガードしながら前に突っ込んでカウンターで肘打ちして強引に止めた後、そのまま投げて転がしました。」
「正解ですわ、では次の質問は最初の入場で横嶋さんのエア日本刀でエア斬撃パフォーマンスをしたときに貴方はどう答えましたの?」
「尊敬するベテラン選手ですからね、押忍!と叫んでしっかり受けました。」
「正解ですわ、では次は・・・」
10個ほどの質問に全て答えると流はマジモンだと認められた。
「本当に本物ですのね!あの試合を戦ってみてどうでしたの!?」
「一番怖い試合の一つでしたね、いくら蹴っても殴っても、倒れないし、肉を切らせて骨を断つを言葉通りに実行して相打ち狙いで顔面に肘を振ってくるんですから。」
流はひと呼吸おき。
「ただここで引く戦い方をしたらプロとしてやっていけなくなると思いましたから、ずっと真正面で打ち合い続けました、正直もうやりたくないというか、今やっても勝てる自信はありませんね。」
「あの選手二人が無言で殴り合うシーンの心理描写が今補完されましたわ!御本人も相当お強いんですのね!」
「ええ、私と試合したときは既に40半ばで既に全盛期は過ぎていて衰えは隠せていませんでしたが、それでもベテランの勝負勘と打たれ強さと根性という言葉では表せない精神力で滅茶苦茶強かったですね。現に私は勝てませんでしたし、あの人50過ぎた今も現役ですから。」
その言葉にその場にいる全員が驚いた。
「たまにおるんよねぇ、幾つになっても自分の中の獣と共に在り続けることを望んで戦い続ける人が、お兄さんも多分そっち側じゃろ?」
「どうでしょうね?案外スパッと止める気もするのですが、なんだかんだ言ってダラダラと40過ぎまで現役やりそうな気もするんですよ、一回本気になっちまうと中々離れられないんですよキックって。」
「好きだねえ、父ちゃんも新人王で引退だったけど、ジム立ち上げて選手指導しながら、練習もしてるもんねえ。」
「ボクシングの全日本新人王を取るとA級取得で8回戦の日本ランキング10位だから相当ですね。」
ワンダーアキュートはため息を付きながら
「本当はそうなんだけどねえ、俺は新人王どまりだから大した事ないって言うんだよ、父ちゃん。」
「謙遜しなくてもいいとは思いますが、そこはその方の価値観があるのでなんとも言えないですが。」
「それでもボクシングに詳しくないとわからないからねえ。」
流とワンダーアキュートが業界にいないとわからない話をしていると
「引き分けたってことはリマッチしたりしましたの?」
「その話もあったんですが、当時高校生だった私の身体が大きくなった影響でフェザー級に留まる事が出来なくなってしまってライト級に上げた事で試合は流れてしまったのですが。」
流はグレープフルーツジュースを絞りながらひと呼吸置いて
「その1年後位に様々なジャンルでアスリートを育成し輩出してきたあの名門一族出身の選手とある新興団体でライト級タイトルマッチをする事になったのですが、相手側のセコンドとして横嶋さんが現れた時はびっくりしましたね。」
何故か、カワカミプリンセスの隣にいるドゥラメンテが驚いていた。
「試合はどうなりましたの?」
「横嶋さんが作戦立ててたのか、至近距離での肘の打ち合いで上をいかれて、何ヶ所もザックリやられましたねメインイベントだったので中々ストップ掛かりませんでしたが。」
自分の顔を指差して、軽く答えた流をみてドゥラメンテが物凄くバツの悪そうな顔をしていた。
「どうしました?」
「もしかしてなのですが、管理人さんと戦った選手って燈兄・・・いえ、鬼丸燈ってリングネームでは有りませんでしたか?」
「ええ、燈は本名で鬼丸はジムの名前でしたっけ?名字は知りませんが彼の事を燈兄って呼ぶって事は彼のお知り合いですか?」
「はい、私の従兄です」
「マジかよ・・・あいつの従妹かそっくりという訳じゃないが、確かに似てんなあ。」
思わず素が出たがすぐにもとに戻した。
「なぜそんな気まずそうな顔で私を見るんですか?」
「管理人さんの顔の傷の原因が私の従兄とわかったら、申し訳なくなってしまって。」
「そこはルールに則った試合だから恨んではいませんよ、勝ったのは私ですし、私も彼の顔を斬っていますし、鼻の骨を折ったのでお互い様です。」
さらっと言う流に更に困惑するドゥラメンテ、その顔は脅えに近いものがあった。
「その上で顎の骨折、肋骨、拳と脛に亀裂骨折が見つかった上に斬られた顔が傷口感染起こして、高熱出したときは流石に死ぬかと思いましたね。」
直後横から。スネを軽くこづかれたので小突いてきたマンハッタンカフェを見た。
「流さん・・・ドゥラメンテさんとカワカミさんが怖がっています。」
「いや、ちゃんと治って復帰してんだから、問題ないだろ。」
「そうじゃなくて・・・生々しすぎるんです。」
「カワカミプリンセスさんは、バトル物とか好きそうだから問題ないだろ?」
流はマンハッタンカフェに返答してからカワカミプリンセスの方を見ると彼女は戸惑う様に
「私、アニメのバトルシーンは大好きですが、実際に人様が殴り合ったりする姿を見るのはスポーツでもちょっと・・・。」
お転婆ウマ娘だが思ったより普通の感性だなと流は思った。
というより流自身がその辺りがぶっ飛んでいるという認識はあるし自覚していた。
ドゥラメンテの方は言語化しづらいというか、どう表現したら良いのかわかりづらい感情に襲われていた。
自分の従兄と死闘を繰り広げた人物が目の前にいるのは良い、ただあれだけの傷を負わせた従兄が負けた理由がわからなかったのと、管理人から聞いた話が生々しくて純粋に怖かった。
「燈兄…いえ、従兄は強かったですか?」
「ええ強かったですよ、最強の一族に相応しいくらい。出血も多く最終ラウンドでダウンを取り返せていなかったら、確実に負けていたでしょう。」
流の評価に少しドヤってるのがわかった。
「それでも勝ったのは私ですが。」
それを聞いて落ち込むのがわかった、ドゥラメンテというウマ娘は表情に乏しいが内面は感情豊からしい。
「あの一族は大半の競技の上位に常にいるからこそ、全体として最強っていうのは間違いないですが、個として見るのなら最強であれど無敵でも無敗でもありませんから。」
流に言いたい放題言われて流石に凹んでいるのが見て取れた。
「私の勝因は彼が私と試合する為に、無理な減量していた事と燈の奴とは小学生からの付き合いで、一緒に練習していて互いの手の内がわかっていたからですね。」
凹ませるのも良くないと思ったのでフォローするように答える
「小学生の頃からというと、燈兄と元から知り合いだったんですか?」
「ええ、アマチュア大会や合同練習会で一緒になることが多くて毎年タイ合宿にも一緒に行ってましたよ、ただ…燈の奴はプロデビューまで、あの一族ってのは隠していました。一族と扱われるのが嫌だったみたいで、何かあったんですか?」
「燈兄は、小さい頃は体が弱く病気がちで、、自分の事を僕は一族の出来損ないだと言っていました。」
「身体が弱いってことは本人から聞いていましたがあいつ、一族からハブられてたりしてたんですか?」
「いえ、燈兄は優しく温かい人柄で一族の皆から好かれていましたから、そういった事はありません。」
だからこそ、身体が弱く一族にアスリートとして貢献できない自分は一族のできそこないと言って一族の一人であることを自分にも隠していたのかと流は思った。
実際の理由は当時の流がウマ娘に対する敵意が強かったことで、友人関係が拗れることを恐れて流に話さなかったと言うのが大きいのだが流はそれを知らない。
流は、燈がある日突然キックボクシングを始めると言い出し、一族の知識やアスリートたちの協力を用いて身体を鍛えだしたということをドゥラメンテから説明を受けた。
「話していないんですね奴は、キックをはじめた理由については。」
「はい、祖父は知っているようですが、祖父も燈兄も二人だけの秘密だと教えてくれなかったので、ただ祖父と燈兄が二人で出かけたときになにかきっかけがあったぐらいしか知りません。」
流は燈からキックボクシングをはじめた理由を聞いているが、燈の奴がドゥラメンテに理由を伝えていないのなら黙っておくことにした。
「それはそれとして、一つ質問してもいいですか?」
「あ、どうぞ。」
「ドゥラメンテさんの歩き方を見て思い出したのですが、その足首の強靭なバネと体幹は一族特有のものですか?」
「はい、この足首を中心とした全身のバネと体幹から生まれる瞬発力こそ、一族が最強と言われる所以です。」
「あいつ、自分を出来損ないと言っておきながらバリバリに一族のギフトをうけているじゃないですか、ということはその弱点もしっかり受け継いでそうですね。」
「弱点ですか?」
「例えば、燈の奴はその足首のバネから発生する瞬発力と体重移動を用いて最短最速で強い打撃を機関銃の放つ事が出来るのですが、それ故に膝や股関節の動きが固くて急な重心の移動に対応する足腰の粘りが弱かったので、ちょいと小細工をさせてもらいました。」
小細工という言葉にドゥラメンテが興味を持ったのがわかった
「中盤まで削って、肘打ちをもらう覚悟で、強引に前に出て首相撲でバランスを崩して膝で削ってから投げてスタミナを奪ってを繰り返したんですよ、結果はこの顔のとおりですが。」
因みに流が燈を首相撲で投げる事ができたのは、条件次第ではウマ娘でも投げられるほどの高い首相撲の技量を持っているからで、燈の体幹はトップクラスのタイ人選手の技かウマ娘の腕力でも無い限り、まず崩せない。
「というわけで、ドゥラメンテさんはストレッチによる柔軟とケトルベルで重心とそれに連なる体幹の筋肉を鍛えてえておくと良いでしょう。」
「なるほど…ストレッチで柔軟性、ケトルベルで体幹の筋肉を鍛えると。」
「なぜ、ドゥラメンテさんのご親戚のストレッチや筋トレの話へ方向転換しましたの?」
よくわからない会話にカワカミプリンセスが突っ込む
「ん?一族の特徴とそれに連なる弱点と対策の話だからそこまでずれてはないと思うぞ、一族の者と戦って勝った人物の意見は為になる。」
軽くメモを取りながら答えるドゥラメンテ。
「それにしたって急転換しすぎじゃありませんこと?」
「カワカミちゃん、強い競技者ってのはぶっ飛んでるもんじゃよ、特にお兄さんは頭のネジが何本外れてるかわからんよ。」
「そうなんですの?」
「私は別にネジは外れてはいないと思うんですがね。」
流は少しムッとした上を見ながら口調で返しつつブツブツ言いながら何かを考えながら
「上半身と骨盤の柔軟性と可動域を上げつつ体幹を強化するならやっぱり・・・」
流は何か結論が出たらしく、ドゥラメンテとカワカミプリンセスの方を向いて
「ドゥラメンテさん、カワカミプリンセスさん、キックボクササイズをやってみませんか?」
唐突な流の提案に二人共驚いていたがよく考えて
「肩甲骨や骨盤の可動域を増やしつつレースとは違う動きをすることで、使っていない筋肉を使えるようになると考えると良いクロストレーニングになるかもしれませんね。」
「プリファイのローリングエルボーの動きを再現できるなら面白そうですわね。」
二人共意外と乗り気だった。
「決まりですね、話題が変わりましてちょっと悩んでいることがあるんですが・・・・」
流は先ほど、試合終わったらタイに合宿に行くから旅行としてカフェも一緒にどうだと、マンハッタンカフェをタイ行きに誘ったことを二人に話した。
「近場のスポットに一緒に行くならまだしも、海外は流石にどうかと思います。」
「それ以前に、お付き合いしてもしていない嫁入り前のレディーを軽々しく旅行に誘うのはだめに決まってますわ。」
ドゥラメンテとカワカミプリンセスの意見を聞いて流も納得したように
「たしかにあまり良くなかったですね。」
流はカウンターのトランセンドに対しものすごい勢いでブラックコーヒーの素晴らしさを説いているマンハッタンカフェに近づいて声をかけた。
「カフェ、突然で悪いが、結婚してくれ」
「へ?」
流の唐突な言葉に周りの空気が固まった。
相変わらず脳みそがバグってる主人公。
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