ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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ノリと勢いだけで書いています。


37.状況は変わらないけど水面下で動くこともあるよね。

「さて、焙煎するか」

 

 流は夜明け前から、コンピュータ式焙煎機をフル稼働させていた。

 

 マンハッタンカフェがファン感謝祭で喫茶店をやると言うので、そのブレンド用の豆を焙煎しているところだった。

 

 ブラジルとコロンビアとインドネシアとブレンド用の豆をそれぞれ分けて焙煎しているのは、豆の大きさが均一でないので、最初からブレンドすると焙煎にムラが出やすいからだ。

 

 頼まれたからには仕事はしっかりとやる、そこはコーヒーに関わるものとしての矜持ではある。

 

 隠れ家的な場所になるので1.5キロも作れば充分と思った。

 

 後はストレートコーヒーを数種類焙煎しておけばいい、カフェの好みに合わせたものをだが。

 

そのついでに夜から水につけておいたもち米をゆっくりと蒸して、横で塩を少々と砂糖をたっぷりと入れたココナッツミルクをとろみがつくまでゆっくりと煮ておく。

 

もち米が蒸し終わったのを確認するととろみの付いたココナッツミルクと混ぜてまた蒸らしておく

 

 後はジムをあけて、清掃にくるカワカミプリンセスとドゥラメンテを待つだけだ。

 

 清掃と言っても皆きれいに使うので掃除機をかけてもらう事と器材に亀裂が入っていないかを確認してもらう位だ。

 

ネジのチェックや見落としの最終確認はは流がやればいい。

 

(あれ、これ俺余計に仕事が増えてねえか?)

 

そんなことを考えながら焙煎を終えると開ける時間になったので掃除用具を出してからジムを開ける。

 

 ジムの鍵を開けて10分ぐらいすると、ドゥラメンテとカワカミプリンセスがやってきた。

 

流は軽く挨拶を済ませ道具を手渡すと説明をはじめた

 

「じゃあ一通り掃除機をかけたら、マシンを拭いて頂ければ十分ですその時に、マシンに大きな傷がないかだけ見て頂ければ十分です。」

 

二人はうなづくと掃除を始めた。

 

流はその間にマキネッタ用に粒度を細かくセットしたコマンダンテの受け皿に2人分のコーヒー豆を入れてサクサクと挽いていく。

 

 最高級の金属の刃を持つこのドイツ製のミルコマンダンテは手動のミルながら、業務用の最高級グラインダーと変わらぬ性能がある。

 その金属の刃で正確に豆を裁断することで、粉の粒の大きさが安定しているので、雑味や渋みの原因になる微粉の量が少なくなり、よりクリアな味が出せるようになるのだ。

 挽いた粉をボイラーに水を入れたマキネッタと呼ばれる直火式のエスプレッソメーカーに詰めておく、マシンで淹れたものと圧力が弱くクレマもできないがまた違った美味しさがある。

 

 なにげにエスプレッソ専門店の多いタイではマキネッタで淹れたコーヒーの専門店もあるくらいで流がタイに行くときは必ずそこでコーヒーを飲んでいる。

 

ドゥラメンテとカワカミプリンセスが清掃を終える頃に合わせて、湯を沸かし始めるとすぐ沸騰し始めた湯がバスケットを通りエスプレッソ液が抽出された。

 

その抽出液を素早く練乳を溶かしたホットミルクを入れたカップに移し素早くかき混ぜた。

 

それを2杯分作り終えると同時に二人が清掃を終えて戻ってきた。

 

流は二人に甘くしたエスプレッソと白いドライフルーツを差し出した。

 

「朝のお手伝いの報酬です。」

 

「これはなんですの?白い小さなみかんみたいな形をしてますけど?」

 

「フルーツの女王と呼ばれるマンゴスチンの果肉をフリーズドライにしたものです。」

 

「果肉の色はライチに似ていますね。」

 

「ええ、似たような味ですが、マンゴスチンの方が甘みが強いですね。」

 

ドゥラメンテが1つ口に含むと。

 

「これは・・・美味しい。」

 

「フルーツの女王と呼ばれていますからね、カワカミプリンセスさんもどうぞ。」

 

 その一言を聞いてカワカミプリンセスも一つ口に運んだ直後手が止まらなくなっていた。

 

「これはフリーズドライされたものですが、新鮮なのはもっと甘く柔らかいですよ。」

 

「これは、どこの原産のフルーツなんですか?」

 

「東南アジア原産で日本だとタイからの輸入が主で、害虫の問題で生のものは加工しないと輸入出来なかったのですが、最近は生の物も手に入るようになりました。」

 

「今、生の物もありますの?」

 

カワカミプリンセスが期待の眼差しで見つめてくると目に独特の力があると流は感じた

 

「カワカミ、厚意で出してもらっているとはいえ、食べ過ぎだ。」

 

 カワカミプリンセスを窘めているドゥラメンテもかなり期待しているのがわかった。

 

 流は足もとの冷蔵庫からマンゴスチンの赤い実を4つ取り出した。何となく柿のような形をしているようにも見えた。

 

 元々マンハッタンカフェの為に手に入れたものだが、カフェには少し残しておけばいいと流は考えた。

 

両手でマンゴスチンの実を挟んで皮を割ると白い果肉が露わになると、その実をカワカミプリンセスに差し出した

 

「種に気をつけてくださいね、汁が布につくと落ちませんからね。」

 

カワカミプリンセスがフォークで果肉を1つ取り口に含んだ瞬間。

 

「ン~~~~~~~~!!!!!!」

 

よっぽど美味しかったのか言葉になっていない。

 

「ドゥラメンテさんもどうぞ。」

 

実を割ってフォークと一緒に差し出しと

 

「フリーズドライの物よりも数段甘くて濃厚で桃とライチの合わさった甘さと優しい酸味、こんな果物が存在するとは思いませんでした。」

 

「燈の奴はタイに来ると、こればっかり喰ってましたね。」

 

「燈兄はそんな事一言も話してくれませんでした。」

 

 ドゥラメンテはどことなく不機嫌そうだった。

 

「当時は生のものが、日本では輸入出来ず手に入らない状況でしたから、貴女を気遣って話さなかったのかもしれませんね。」

 

「確かに、当時の私なら食べたいと言って私もタイに行くと言って聞かなかったでしょうから。」

 

ドゥラメンテは流の言葉を聞いてを聞いて納得したようだった。

 

「ところで、お二人は朝の練習のスケジュールはどうされるのですか?」

 

「これからコースでカワカミと二人で軽く併走する予定です。」

 

「そうですか、怪我に気をつけて、時間と体力に余裕があればですが午後の清掃前に、良いトレーニング方を説明しましょう。」

 

 トレーニング方と聞いてドゥラメンテがワクワクしているのがわかった。

 

「そろそろ朝の開放時間ですからね、お気をつけて。」

 

コーヒーを飲み終えマンゴスチンを食べ終えた二人を見送ると流はマキネッタの粉を取り軽く水洗いして、流は入り口の方を一瞥して作業を続けながら。

 

「ん。おはよう、カフェ」

 

「どうして気づいたんですか?」

 

「昨日来たときがこの時間だったからな、あと足音。」

 

「時間はわかりますが・・・足音?」

 

「トーセンジョーダンさんほどじゃないが、カフェも爪薄いだろ、リズムは違うけど音の質が似てたからな。」

 

「確かに・・・私の爪は薄いのですが・・・音だけでわかるんですか?」

 

「音だけじゃないな、カフェは体が細いしコーヒー好きだからどうしても爪に栄養や水分が行きづらいんだよな。」

 

コーヒーには利尿作用や代謝率の促進などもあり、水分が抜けやすくなる事によって爪が薄くなったりひび割れやすくなる。

 

「というわけでコーヒーやめようか。」

 

「えっ・・・?」

 

「冗談・・・いや冗談でもないのかな、カフェはもう少し飯食っとけってことだな。ちょっとカウンターで待ってろ」

 

 流は給湯室で冷蔵庫からマンゴーを取りだしてぶつ切りにして皿に乗せてその横に先程作っていた蒸したもち米とココナッツミルクを和えたものを横に添え、出来上がった皿をマンハッタンカフェの前に持っていった。

 

「マンゴーとご飯・・・これは?」

 

「カオニャオ・マムアン。タイでよく食べられるマンゴーともち米のスイーツだな、ガキの頃タイで試合した後によく喰ってた。」

 

「お米とフルーツちょっと変わった組み合わせですね。」

 

「だんごやおはぎと果物をあわせるようなもんだよ、俺らだって和菓子とコーヒー合わせるだろ。」

 

 和菓子とコーヒーはズレているような気がするが、流やマンハッタンカフェのようなコーヒーを好むものにとっては確かにというものだった。

 

 マンハッタンカフェはいただきますと手を合わせてからマンゴーと一緒にもち米を口に含むと、甘いココナッツミルクをたっぷり吸ったもち米の弾力とマンゴーのとろけるような食感が実によく合う。

 

「もち米の弾力と・・・ココナッツミルクの優しい風味がマンゴーの甘さを更に引立ててくれますね。これなら・・・あまり食べられない私でもたくさん食べられそうです。欲を言えば深煎りのコーヒーを合わせて飲みたいです。」

 

「わかった少し待ってろ。」

 

 流は予想していたのか挽いた粉をマキネッタのバスケットに入れてからコーヒーを淹れ、湯で薄めてから彼女に手渡した。

 

「リントン・マンデリンとブラジルショコラのブレンドのアメリカーノ、これなら十分だろ。」

 

「ええ・・・とても素晴らしいコーヒーですこのお菓子によく合います。」

 

 満足そうな顔でコーヒーとスイーツを食べている、マンハッタンカフェを見て流は少し和んだが、すぐに何しに来たのか気になった。

 

「何しに来たんだ?カオニャオマムアンを食べに来たわけじゃないんだろ?俺はこの前缶コーヒー飲んでたらカフェに怒られたし楽しみにしてたから朝からコーヒーを飲んでないんだよな、後で良いから淹れてくれると嬉しいな。」

 

マンハッタンカフェは少しハッとしたような顔をした。

 

「すみません・・・美味しかったのでつい忘れていました。」

 

「そうか、美味しかったのは何より食べ終わったら、淹れてくれりゃあ良い。豆は給湯室に焙煎したのがあるしミルの挽目はハンドドリップ用に調整してあるから自由に使ってくれ。」

 

流はマンハッタンカフェがカオニャオ・マムアンを食べるところゆっくりと眺めていた。

 

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タイ・バンコク早朝

 

 タイ修行中、ジム近くの安宿で寝泊まりしていたニコラ・ベルナールは目覚ましが鳴るほんの少し前にスマートフォンのコール音で起こされることになった。

 

電話をかけてきた相手は自身の所属するMJプロモーションのオーナーでフランスからのビデオ通話だった。

 

「allo?」

 

『やあ!ニコラこんな時間にすまないね。』

 

「もうすぐ走りに行く時間だから問題ないよボス。そっちこそ寝なくて良いのかい?」

 

『6月の日本のZENOでの君の対戦相手が決まった事を伝えておきたくてね、それが終わったら寝るよ。』

 

「決まったのか、どんな相手だい?」

 

『向こうのプロモーター推薦でねナガレ・ソウマという蹴りと肘が強い日本人なんだが・・・私も娘も知っている人物でね。』

 

電話越しにオーナーがちょっと困っているのがわかった。

 

「ボスは知っているのはともかく、モンジューが?」

 

『昔、タイで娘が世話になってね、その礼に彼がタイに練習来るたびに試合をマネージメントさせてもらったし、娘も彼が試合タイに来るのに合わせて旅行の名目で私の出張についてきて彼のオフにレストランの食べ歩きに同行させるぐらいには、彼を気に入ってたが彼が日本に活動拠点を移したのと、娘がパリのトレセンへ入学してからは、連絡はとれていなかったんだけどね。』

 

「それはわかったけど、なんでボスは困っているんだい?」

 

『娘に伝えたら、レースや学業もあるのに私も日本に行くと聞かなくてね。後、ニコラ、モンジューから君にリクエストがあるんだ。』

 

こういうときのリクエストというのは大体予想がつくものだが様式美として確認を取る。

 

「モンジューから?なんだいボス。」

 

『ナガレをぶっ飛ばして私の前に引きずってこいだ。』

 

ほら、予想通りだ。

 

Bien reçu, patron.(了解だボス)ボコボコにしてKOしてやるさ」

 

爽やかに答えるとニコラは通話を切り、着替えて日課のランニングに向かうのだった。

 

 




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