ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
マンハッタンカフェが給湯室の冷蔵庫から取り出しカウンターに置かれた豆は、コロンビア・ルグマパタ農園産のシドラだった。
シドラとはエクアドルで産まれた新種のコーヒーでレッドブルボン種とティピカ種の交配種と言われ、また自然交配ともコーヒー関連の企業が人工的に交配させた種ともいわれている。
リンゴを思わせる明るくスッキリとした風味もさることながら、味そのものはシェリー酒と称される。
その希少性から値段もかなり高く、店によっては焙煎されたものが100gで一万近い値段で販売されることもある。
そんな希少種を躊躇なく選んだのを見て流は遠慮がないなとおもったが、コネとルートは確保しているのだし、何よりもカフェがこれを淹れたがっているので別に気にすることでもないのと、実家が純喫茶で、日本のドリップコーヒーやエスプレッソのような深煎りを主とした苦いコーヒーを主として育った流には、現在の主流となっているスペシャルティーコーヒー【品種、生産地などが特定可能 で、ユニークな香りや味がある高品質なコーヒー】のような、豆本来の持つ味を活かす名目で浅煎りで酸味を主としたコーヒーはあまり好みではない。
このシドラもスペシャルティーコーヒーの例に漏れず浅煎りで焙煎してあり、流が自分で飲むというよりは数日前に趣味も兼ねてマンハッタンカフェに飲んでもらうため焙煎したもので最高級のトップスペシャルティーに相応しい出来になっている。
「また随分といい豆を選んだな浅煎りを淹れる難易度の高さは知っているだろ。」
スペシャルティーコーヒーの主流である浅煎りのコーヒーは淹れるのが難しく、失敗すると酸っぱかったり、トゲトゲしたりイガイガした不快感が残ることが多いがうまく淹れられるとほとんど苦くなく、紅茶のようにクリアでフルーツのような酸味と甘みの調和した味わいが楽しめる。
「ええ・・・だからこそ選びました、苦いのが苦手なユキノさんやタキオンさん、紅茶派のメジロ家の方々が美味しく飲めるコーヒーを淹れるなら・・・これが良いかなと、流さんが美味しいと言ってくれたら・・・行けそうかなと」
「苦手なやつにコーヒーを勧めるのはあんまり良くないが、苦味よりも酸味と甘みを重視したスペシャルティーコーヒーの入門用として間違っていないな、俺は苦みの強いほうが好みだが。」
「流さんはコーヒーそのものが好きですし良いかなと。」
「まあそりゃそうなんだが、カフェ、俺の好みよりも自分が淹れてみたい奴を選んだろ?」
「ええ・・・それと流さんの評価が聞きたかったので。」
流としてはそりゃあ出されたものはきちんと評価するが、やはり自分好みの味のコーヒーを飲みたいと思うし、そのために缶コーヒーでさえ我慢していた流は少し苛ついていたし、コーヒーの種類が好みでないだけでカフェに当たり散らすわけにもいかないし、彼女との多少関係も変わっているので問題ないと判断してアンガーマネジメントとストレスの軽減として瞬時に思いついた方法として流はマンハッタンカフェを抱きしめた。
「あら・・・いきなりどうしたんですか?」
流の突然のハグに対して冷静に返す。
「ちょっとイラッとしたからアンガーマネジメントとストレス解消だな、大事な相手をハグするとストレスが軽減されるらしいからな。」
「そうですか・・・では、気の済むまでお好きなように。」
マンハッタンカフェは表面上は冷静かつ優位を装っているが、流の予想もつかない行動と言動に、心の中は大パニックだった。
それを悟られるのは、なんとなく嫌なのであくまで自身が優位を保つ事を心がけているが、心拍数や体温が上がっているのが自覚できたが悟られないように努める。
「カフェって見かけは細くて平べったいのにちゃんと肉があると言うか、抱き心地か良いと言うか、よく練習はしてるんだな。」
流の褒めているのかけなしているのか、よくわからない言葉と抱きしめる圧が強くなりよけいに混乱しそうになっていると【お友達】が一切動きに出さず声のみで一言。
『カフェ、拳握って鳩尾に押し込んで捻っても良いんじゃね?こいつ。』
言葉にはされていないが、その必要はないという意志は伝わってきた。彼女も戸惑ってはいるが、優しく抱きしめ返しているのを確認した。
あんまり邪魔も良くないし見ていても別に面白くない。
『わかった。散歩してくるついでに見張っておくよ』
【お友達】は宙を漂いつつ散歩ついでに遠くを見渡していると、ウマ娘ではないヒトの女性、おそらくトレーナーに類する人物がジムに向かっているのを確認したというか数分もすればここにたどり着くだろう。
蒼真の事はどうでもいいとしてもカフェのためにも早く伝えなければならないと【お友達】は思ったので給湯室にむかい、マンハッタンカフェに合図した。
「流さん・・・あの子がお客様が来ると。」
「そうか」
流はマンハッタンカフェから離れると、すぐに手挽きミルのメモリを調整していた。
「カフェ、さっきのシドラなんだけど俺とカフェとお客さんの分で出してみようか、浅煎りの珈琲はどういれている?」
「浅煎りは成分が出にくいので高めの温度でかつ、成分が出すぎないように早めに落ちきるようにするやり方で抽出していますけど・・・どうにも、味が安定しなくて。」
本当にさっきまでのことなど、何もなかったように切り替えて接して来る流に対して思う所がないわけでないが、流の切り替え具合はいつもの事であり後で聞けば良い話なので、マンハッタンカフェも同じように切り替えて接する事に務める。
「コーヒー好きなだけあって、味が安定しないのは例えば技術とかじゃなくてカフェが焙煎度によっての自分のレシピを持ってないからだよ。」
「レシピ・・・ですか?」
「例えば俺のレシピだけど浅煎りのハンドドリップの場合、93度、湯の量は豆1gに対して約16.6倍と考えて、豆14gに対して230g注ぎ2分落ち切り3分前後で抽出出来る粒度にすると失敗しにくい。」
「なるほど・・・豆の量に対してこの湯量だと少し中細より少し細めに挽いたほうが良さそうですね。」
「そういうことだ、あんまり飲みすぎるなよ、元々カフェのために手に入れたもんとは言え最高級品の1つだからな」
「私のために・・ですか?」
「ああ、コマンダンテをやったときそれに見合う豆を用意したら、カフェが喜ぶかなと思ってなあの後、シドラとエスメラルダ・ゲイシャの最高級品を落札した知り合いの商社に頼み込んで生豆を5キロずつ買ったんだよ。」
普段通りの淡々と話す流に
「なるほど・・・私のために」
と一言だけ直後、流の脚に尾が巻き付く感触があった、ちょっと痛いぐらいに。
「おい、そろそろ来るぞ」
「良いじゃないですか・・・向こうからは見えませんし。」
流の抗議もスルーして上機嫌に脚に尻尾を巻き付けてくる距離の近いマンハッタンカフェの対処に流が悩んでいるとベルが鳴って自動ドアが開いた。
「すみません、早朝から失礼します。」
声の主はサクラローレルのトレーナー明石だったがサクラローレル本人は来ていないその理由は流にはわからない。
「いえ、問題ありませんよどうされました?」
「ローレルの脚とトレーニングの事で相談があって」
(続)
次回は久々にちゃんとトレーニングとかの話とかを勧めていきたいと思います。
あとファン感謝祭とかの話もかけるようにしていきたいです。